Manabus Column

路地裏から尾根道を行く

坂の上の雲

2011-05-02 | Weblog

司馬遼太郎の『坂の上の雲』をやっと読み終わった。

全部で8巻からなり、いやあ長かった。

 

江戸幕府が倒れ、全てが改革期であった明治時代、その中の日露戦争と向き合っていた人々の話だ。

日本はヨーロッパに追い付こうととにかく色々な真似をし、いつかは同レベルの国になろうと翻弄したいた。

その当時、国際的に国力と言えば何と言っても軍事力であったが為、日本もかつてない程の軍事力を持つ為に、税金の半分は全て軍事費に回された。

しかし、それでも国民は文句も言わず、貧しい生活を余儀なくされたが、あまり苦しいとかは思っていなかったみたいだ。

 

とにかく、希望だけは有った。

陸軍へ行った兄の秋山好古、海軍に入隊した弟の秋山真之、そしてその友達の正岡子規の3人もそうであったろう。

一応その3人がメインキャストだが、この物語は全体を通すと実に色々な人物が出てくる。

そう言ったジャンルを超えた沢山の人達の目線で、日露戦争と言うものが語られている。

 

特に面白かったのは、ロシアからアフリカの喜望峰を回り遥々日本にやってくる、バルチック艦隊のエピソードが読んでいて引きこまれてしまった。

ロシアからぐるっと船で回ってくるのだからこれはその航海だけでも大変である。

その辛さを、その艦隊で働いている若い造船技師が本国の妻に手紙に書いているが、司令長官ロジェストウェンスキーの極度な傲慢さについても書き綴った。

えーと、名前を何と言ったけな?とにかく彼は真面目で有能で、最後には戦死してしまうのだけど、敵味方関係なく素晴らしい人物であった事は確かだ。

 

ロシア軍の真黒に塗られた40隻にもなる艦隊は、傍から見て実に驚異的だが、中身を覗くとそこには人間身が溢れ出て、その司令長官の下で働いていた水兵達の苦労も良く分かる。

この時代のロシアは、貴族の力が強く、一般市民は皆その家来という感じだったのだ。

一人の皇帝の権力の為に(極東の土地が欲しいなという我儘)、彼らは戦争に引っ張り出されたのだ。

 

その点日本は逆で、なんとしても敵の戦略から日本を守らねばならぬと、国民自身の意識が言わば戦争を始めさせたと言ってよかった。

旅順では6万人という兵士が無残にも敵の攻撃に散っていったが、文句も言わずに敵地に突入する様は、武士道と言うかその勇敢さはちょっと今の現代人では考えられない。

もちろん、戦争という人間を殺してしまう行為は良いことではない。

しかし、この時代に生きた日本人は、誰もがある種の希望の様なものに向かって生きていたんじゃないか。

いや、希望もそうだが、本来持っている日本人特有の忠誠心とか誠意とかそう言ったものが、やはり今の時代に比べればかなり大きかったのだと思う。

だからではないが、それと同時にその明治時代の事柄全てが愛おしくなってくる。

 

この本を読んでいる最中に、東日本大地震が起きた。

その時の、日本人の我慢強さや規律正しさは海外の評価を得たが、まさしくそれらは元々日本人が持っている物なのでは無かろうか。

 

だからこそ、寡黙な東郷平八郎や乃木希典が今なお愛されるのだろう。

 

 

兎にも角にも司馬遼太郎を読むと思うことだが、まあ良くこれだけ調べ上げたものだ。

取材は基本的には一人で行っているらしい(そうしないと、一つ一つのエピソードに情が入らないと)。

そして、調べ上げたことをまとめて本にするのもこれまた一苦労だろう。

因みに調べたり準備するのが5年、執筆が5年かかり、「坂の上の雲」は合計10年して出来あがったそうだ。

 

そうしたものが読めると言うのは、これはもう有難いと言うか、やはり読むべき本なのだろう。

すべて読み終わってから、この世界観から離れてしまうのがちょっと寂しくもある。

 


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