NTTドコモはタタグループ傘下のタタテレサービシーズTTSLの保有株(持分約26%)売却の方針を発表した(タタGに保有株すべてを売却方針)。2600億円を出資。海外事業の中核とされていたが実は大失敗。14年3月期に500億円程度の損失を計上。事業は赤字基調だった。
他方 第一三共は2014年4月7日 ラグバシーラボラトリーズを同国最大手のサンファーマシューテカルインダストリーズによる吸収合併に合意。2008年に行われた3700億円をかけての買収は失敗に終わった。
同社はインドで生産した後発薬を日本に輸入する計画をたてたが、実現に至らなかった。買収合意直後に主力の2インド工場で品質問題が発覚米FDA食品医薬品局から輸出禁止措置を受けた。その後 原薬を米国に輸出して最終製品にする計画としたが、今度は原薬工場ほか1工場が禁輸対象となり、米国への後発薬輸出構想が崩壊した。
2014年4月7日 ラグバシーラボラトリーズを同国最大手のサンファーマシューテカルインダストリーズによる吸収合併に合意。5000億円かけての買収は失敗に終わった。
第一三共は2005年に第一と三共が合併して誕生。ラグバシーは三共側が主導して招いた混乱だった。買収合意直後に生じたFDAの禁輸措置を重視せず、買収を強行。その後も役員などを派遣しながら根本的対策を怠った。巨額の買収にもかかわらずラグバシーの実体をあまり把握せず買収を強行したのではないかとか、買収後の把握にも根本的な誤りがあった可能性は高い。主導した旧三共の責任は重大だ。
買収後の株価下落による評価損、品質問題による米政府との和解金など損失計上は約4500億円。買収金額に加えそれに匹敵する損失を計上。時間の浪費と合わせ第一三共が失ったものはあまりに大きい。歴史に残る買収失敗劇といえる。なぜこうした失敗が起きたかを検証する必要があろう。
第一三共のランバクシー買収(2008年10月)
第一三共がインド製薬大手のランバクシーRanbaxyを2008年10月に買収した。2008年10月に行ったTOBで20%の株式を取得。2008年内に創業家からも株式取得、それに第三者割当増資をあわせ58.1%を取得。買収総額は2000億ルピー。円換算はルピーのレート次第だが3700億円(5000億円とされることもある)。大型案件の一つである。
Ranbaxyはインド製薬の最大手。ジェネリック医薬品で世界8位とされる。
背景には新興国の経済成長の高さがある。ランバクシーはその新興国に営業拠点を多数もっている。最近、先進国でも医療費抑制の切り札として注目されている後発薬に強い。従来、先進国に偏っていた第一三共の営業網を、この買収で新興国にシフトする狙いがあるとされた。しかし実際の第一三共の狙いはアメリカ市場だった。そのアメリカから禁輸措置を受けたことで、第一三共は窮地に追い込まれた。
NTTドコモのTTSL買収(2008年11月公式発表 実施は2009年3月)
2008年11月12日に、NTTドコモはインドのタタ財閥系の携帯電話会社タタテレサービシーズTTSLに、26%2640億円出資することを明らかにした(その後2009年3月実施2,610億円)。TTSLは2930万人(08/09末)の加入者を抱えるインドで6位の携帯電話会社。インドの携帯電話市場はすでに3億人の加入者がいるが、人口普及率では3割弱で今後も高い成長率が見込めるとの判断があるとした。
NTTドコモは2008年4月にマレーシアのUモバイルに出資(16.5%)、またフィリッピン長距離電話への出資を拡大(14.1%1512億円)。2008年6月16日にはバンクラデシュ3位のTMIバングラデシュに30%375億円出資している。
海外進出の背景には、海外大手(英国ボーダフォン、スペインテレフォニカ、ドイツテレコム)などが積極的な海外展開で収益を伸ばしていることへの対抗を急ぐ必要があったとみられる。実はインドについては2007年5月ハチソンエッサー(インド4位の携帯電話会社)をボーダフォンが109億ドルで買収するのに、対抗買収を検討したものの資金的に対抗できなかった経緯がある。この結果、ドコモはハチソンとの間で結んだi-modeの技術供与の契約を解消することになり、インド市場でのi-mode展開のチャンスを失ったのであった。TTSLへの出資には、それだけに関係者の面子がかかっていた。
今回のTTSL買収でNTTドコモの手元資金超過額はほぼカラになる。つまり手元資金超過額の範囲で、つまり借金を負わない企業買収をNTTドコモは行った。これは同時期に起こったパナソニックの三洋電機買収でのパナソニックの買収金額の設定のしかたとよく似ている。
ドコモの海外展開が大胆さに欠ける背景には1998年から2001年にかけて欧米通信大手に総額1兆9000億円の投資を行いながら失敗。1兆1000億円の損失を出した経験が指摘されている(大会社に部分出資をしたことが敗因とされる)
。しかしアジア市場の急速な成長と、決済機能、ネット接続機能などでの技術的優位性、国際ローミング(相互接続)による互恵協力などが、NTTドコモの海外展開に再び機会を与えた。そしてNTTドコモは失敗した。
NTTグループの企業買収(2008年1月ー2011年6月)
2008年1月 | NTTデータ | 独アイインテリジェンス | 約200億円買収 |
2008年8月 | NTTデータ | 独サークエント | 350億円弱買収 |
2009年3月 | NTTドコモ | タタテレサービシズ | 2610億円出資 |
2010年7月 | NTTデータ | 米インテリグループ | 160億円買収 |
2010年10月 | NTTHD | 南アフリア デイメンションデータ(ヨハネスブルグ 欧州・中東・アフリカに約6000社の顧客 49ケ国2拠点 買収では日立と争う 新興国のシステム需要を取り込むことが可能に NTTコミュニケーションズと連携の予定 NTT自体を通信会社から情報システム会社に転換させる効果) | 2860億円買収 |
2010年12月末連結子会社化 | NTTデータ | 米キーン(マサチューセッツ州 米国 欧州アジア インド) 非上場 法人向け情報システム構築 運用受託など売り上げの9割は米国 | 14億ドル(1100億円)買収 米シティGの 投資会社などから買取 米国に本格進出 グローバル成長目指す インドに大規模な開発拠点あり |
2011年4月(買収完了予定5月末) | NTTデータ(NTT Data Europeを通じて現金で取得) | イタリア バリューチーム(ミラノ市 情報システム会社 欧州・南米・トルコ) | 2億5000万ユーロ(300億円)弱で買収 |
2011年6月 | NTTコム | 豪フロントラインシステムズ(シドニー 情報システム会社 顧客は豪州) | 約100億円 |
安定した収益のある企業に投資 顧客基盤営業拠点などを買収により獲得するため全額出資など経営権取得が目指されており、かつての企業買収での失敗の経験が生きているとされる。
ムンバイでのテロ(2008年11月27日)
2008年11月27日、ムンバイで死者125人。負傷者327人という大きなテロ事件が起きた。武装組織が一時高級ホテルなど10か所以上を占拠し人質を取り、治安部隊と銃撃戦となった模様。
この事件はインドシフトを図る日本企業に現地社会の不安定さを改めて見せつける効果があった。
インド政府はテロ集団とパキスタンとの関係を言明。インド―パキスタンの緊張が今後高まるとみられる。これは日本企業のインドシフトにとって障害であることは間違いない。背景にはインド社会の中での経済格差拡大への不満の高まりが指摘される。
日本企業は海外進出にあたり、現地社会の緊張緩和、格差縮小にも心を砕いた事業展開や努力を心がけるべきだろう。
なおムンバイでは2006年7月11日にも8か所で同時に列車が爆破されるテロ事件が発生し、死者200人を出す惨事となっている。
originally appeared in December 3, 2008
corrected in May 6, 2014
2011年のインド経済
2008年のインド 政治と経済
タタ自動車の低価格自動車戦略と農民の反乱
back to the top
ビジネスモデル 企業戦略論 地域研究