Entrance for Studies in Finance

Research: GPIFの資金運用問題

年金積立金管理運用独立法人(GPIF government pension investment fund 理事長は三谷隆博氏 元日銀理事)が運用資産の見直しをするかがかねて話題になっている。2006年度に発足。世界最大規模の年金運用機関だが。規模は120兆円というが米カリフォルニア州職員退職年金(カルパース)でさえ運用資産は25兆円。つまり極めて大きい。ただどうもこの話は政治的に過ぎる。その資産の中身は国民年金・厚生年金の保険料(内訳は厚生年金が118兆円 国民年金が10兆円)。厚生労働省からGPIFに運用委託されている。

2013年末の運用資産(128-129兆円とされる)の構成は(実績値)
国内債券55%(71兆円) 国内株式17%(22兆円) 外国債券11%(14兆円) 外国株式15%(20兆円) 短期資産2%(2兆円)となっている。これに対して目安の比率は同じ順で60% 12% 11% 12%である。資産構成の見直しは原則5年に一度。安倍政権が2013年6月にまとめた成長戦略のなかでGPIFの運用見直しが入る。
2013年3月末120.5兆円 構成比は60-14-9-12 国内債ー国内株ー外国債ー外国株 14年3月に日本株に2500億円買い増し 国内債は満期到来の自然減。
2014年3月末126兆5771億円。構成比は53.4-15.9-10.7-15.0 10兆2207億円の黒字 13年3月期の11兆2222億円に次ぐ数字
 外国株式収益率32% 国内株18% 外国債15% 全体では9%
2014年6月末127兆2640兆円。構成比は51.9-16.8-10.8-15.5 4-6月期運用収益は2兆2235億円の黒字

金融経済の専門家8人で構成された運用委員会が、保有資産の構成割合をきめたり運用委託する金融機関を選んでいる。運用権限は理事長にあるとされる。

運用委員会は2014年4月に8人のうち6人が交代。委員長は米沢康博早稲田大学大学院教授が選ばれた。委員長代理には堀江貞之野村総合研究所上席研究員。ちなみに前委員長は植田和男東大教授だったとのこと。
米沢氏は「日本経済の再生にGPIFはもっと貢献できる」株式投資の拡大のほか、インフラや不動産などにも投資対象を広げるように主張しているとのこと。しかしこのように主張のはっきりしている人を委員長に据えるのはいかがなものか。

米沢氏と堀江氏はもともと債券の割合を減らして株式に振り向けることを2013年11月20日に提言した政府の有識者会議(座長は伊藤隆敏東大教授)のメムバー。提言した人が、その責を担うというのはどういうものであろうか。

有識者会議から運用委員会には菅家功連合総合生活開発研究所専務理事も入った。菅家氏はかねて労働界の代表として、政府の各種審議会委員などに名前を連ねている人物。ただ立場としては労働者の年金を守る立場なのでその見識が問われるのだが、すくなくともこのリスク運用問題ではかなり柔軟な立場であるようだ。運用委員の学者を見るとあとは佐藤節也東洋大教授(経歴をみると元日銀マンであるが資金運用あるいは年金問題のプロといえるのかどうか。現在はグローバルコミュニケーションの先生だ。)。清水順子学習院大教授(経歴をみると為替ディーラーの経験もあるが特徴的なのは短期間での金融機関、そして大学の間の移動だ。実務経験のある国際金融論学者といえよう)。そして武田洋子三菱総研チーフエコノミスト(日銀から三菱総研に移ったエコノミストだけど、年金問題あるいは資金運用のプロとはいえない)。こうしてメムバーを見てゆくと、見識のある人を集めているとはいえるが、運用委員会が資産運用のプロ集団で構成されているとは言いにくい。これでいいのだろうか。

運用見直しの背景にあるのは年金財政の破たんだ。年金給付が毎年増えるので(2006年度で38兆円 2012年度は45兆円強)、積立金を取り崩すに至っている。取り崩しは2009年度に始まり2014年度まで8年連続で毎年行われている(09年度4兆円 2010年度と2011年度6兆円強 2012年度8兆8000億円)。このため運用資産規模が2010年3月peakに2012年9月まで減少している(12年11月から運用が改善 厚生年金と国民年金の積立金 13年3月末時価ベース残高126兆269億円)。それだけに今後も6兆円程度の取り崩しを前提に、それでもバランスする運用が必要、つまり運用で資産を増やすことが必要という主張は説得力がある。もしそうでなければ国債売却などで市場にマイナスの影響を与えると。その結果は、GPIFが市場から資金を引き揚げる存在になり、市場金利の上昇要因をもたらす可能性がある。だとすればこの運用方法の改善は急を要するのである。

ただ政府の意向を受けながらGPIFの方向転換も始まっていた。2013年6月7日には運用の目安の数字が次のように変更された。国内債券67%から60%(+-8%)。国内株式11%から12%(+-6%)。外国債券8%から11%(+-5%)。外国株式9%から12%(+-5%)。短期資産5%はかわらず。長期的運用利回り(想定)は3.34%から3.42%。

GPIFの想定利回り(運用利回り目標)1.7%に対して、国債利回りが下がりすぎている。2014年3月から2014年5月にかけてでは国債の流通利回りは0.6%程度。年金制度を維持する上では年金の給付の抑制(受給年齢の引き上げ)、負担の拡大(納付期間の延長)などと並行して運用の改革が必要だと指摘されている。しかしリスクの拡大を懸念する意見も少なくない。
なお年金積立金の自主運用を始めた2001年度から2012年度までの平均利回りは2.2%どまり。
GPIF設立後の限定すると2006年度から2012年度までで平均1.5%.
過去最高は2012年度の9.5%(収益は11兆2222億円).2013年度も大きな利益がでたとされる。最低は2008年度のマイナス6.8%(損失は9兆3000億円).これまでの慎重な運用の範囲でも大きな損失が出ている。運用方法を変化させて損失について責任を取るのは誰なのだろうか。

基本ポートフォリオの資産構成に占める国内株式の中心値は12%だが、株式相場の回復で3月末段階で国内株式の比率はすでに16%にまで上昇している。そこで見直しの比率は20%となるとする観測がもっともである。
直接に生ずる買い需要は3.6兆円程度。ただそれだけでなく、国家公務員共済(7.7兆円 国内債券比率が74%と高い)、地方公務員共済(17兆円)、私立学校教職員共済(3.6兆円)このほか国立大学法人など公的なお金を預かる190の法人がGPIFの比率見直しに追随する可能性が大きいとされる。13年度までこれらの運用利回り目標1.6%.これが1.7%に引き上げられ、内外の株式比率を上げることが課題とされている(2014年3月31日の関係省庁検討会)。比率に変更は2015年度からとされる。しかし株式比率引き上げには慎重論も根強い。運用に対する政治的介入を懸念する声もある。

これに対する反論は、国債も金利変動による価格下落リスクがあること。日銀による量的質的緩和で国債金利を上げることなく、売却可能ないまこそ、資産組み換えのチャンスだというもの(伊藤隆敏氏 日本経済新聞2014年4月24日)。

2014年3月6日に開かれた社会保障審議会専門委員会で示された年金積立金の長期的想定利回りは3.0%(低成長の場合)から6.0%(高成長の場合)。標準シナリオは4.2%。一見すると1.7%と全く別の数値にみえるが4.2%という数値は物価や賃金の上昇を含んだ名目利回りで先ほどの1.7%に対応するもの。2001年度から2012年度までの平均利回りは2.2%で決して高い数値ではない(玉置伸介氏 日本経済新聞2014年4月25日)。

ただ運用の実態を聞いていると改善の可能性はあるようだ。2013年度までは国内株式といっても8割は東証株価指数に連動するように運用している(個別銘柄枠は2割)。いわゆるpassive運用である。一部の1700銘柄にまんべんなく投資するやりかた。・・・・このやり方は面倒なことを避けているのでわからないではないが改善の可能性はある。
これを自己資本利益率の高い銘柄を中心に銘柄を選ぶ新しい株価指数(JPX日経インデックス400)を参考に投資を見直すとしている。

original in June 13, 2014
revised in Sept.13, 2014

金融システム論 
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