ある方が仕事中にタクシーに乗った時の話です。
運転手さんは、よく話すおじいちゃんだったといいます。
世間話に始まり、不意に人生についての話題になった時のことです。
運転手さんには、奥さんがいました。
ある日、突然「腰が痛い」といい出し、病院へ。すると膵臓がんと診断されてしまいます。それから1週間で、あっという間に他界・・・運転手さんは「何もできなかった」と当時を振り返ります。
うなずきながら話を聞いていると、運転手さんが質問をします。
その時、何を思ったと思う?
妻が亡くなる時に何を思ったのか? 想像ができません。「短い人生だったな、とかですか」と答えると、運転手さんは笑いながら、こう答えました。
まあ、短かったなーとは思ったの。
だけど、1番は死ぬ直前に妻との思い出が走馬灯のように蘇ってきたことだよ。いままでは忘れてしまっていたことも全部ね。出会ったころから結婚して、一緒に苦労してきて、死ぬ直前までの思い出が一気に駆け巡ってきたんだ。
結婚したてのころのご飯は本当にヒドかった。何も考えずに残したりもしたよ。妻はそれを泣きながらこっそり食べていた。
けど、そのご飯が恋しくてねぇ。いまなら「おかわりはあるか?」と、涙を流しながら喜んで食べる。
「いってらっしゃい」って送り出してくれて、「おかえりなさい」って笑みで迎えてくれて、洗濯やご飯の支度、掃除とか・・・当たり前のことが当たり前じゃなくなった時に、私は空っぽでね。
亡くなる直前に「まだ逝くんじゃない」って伝えたんだよ。
運転手さんの「まだ逝かないでくれ」という言葉。それに対し、妻はこう答えたといいます。
大丈夫ですから。先にあっちの家で、ご飯も洗濯も済ましてお風呂も沸かしておきますから。ちゃんとやり残したことがないように。
それが私から、あなたへの仕事です。ちゃんと仕事をして帰ってきてくださいね。
そして、運転手さんは人生の先輩として、こんなアドバイスを贈ってくれたそうです。
今、あんたに大切な人がいるかどうかは分からないけど、当たり前だと思ったらいかん。毎日、恋しいと思って過ごしなさい。当たり前になると、人は臆病になるから。
そして、タクシーは目的地に到着。料金メーターは1200円になっていましたが、タクシー代は600円。
若いあなたには、おっちゃんの意思を継いで生きてもらいたいから、ワリカンだよ。
実は、奥さんがひょっこり乗って来るんじゃないか…そんな期待をしながらタクシーの運転手をしているという、おじいちゃん。
当たり前になってはいけないんです。感謝です。突然人生は変わる事があるのです。