毎朝毎晩、俺は――千代田線の「乃木坂」駅を利用している。なぜって、通勤で。そして、「乃木坂」という地名の由来なんて、考えたこともなかった。なかったんだけど、ひょんなことからその由来を知るに至った。そう、そこにヒラヒラと舞う歴史のベールを1枚めくれば……ひとりの男の名が浮かぶんだ。
乃木希典(のぎまれすけ)――日露戦争を勝利に導いた、陸軍最高の「名将」。
乃木希典(のぎまれすけ)――世俗的欲望を絶ち、自らを徹底的に純化したひとりの「男」。
乃木希典(のぎまれすけ)――軍事的才能に関しては、無能の烙印を押された「演出家」。
乃木希典(のぎまれすけ)――近代随一の国民的英雄であり、「軍神」。
つまりは、明治の世に乃木将軍という軍人さんがいて、生きているときからとても有名だったと。そして、明治天皇が崩御した際に妻と共に後追い自殺して、さらに有名になったと。そしてさらにいつしか――彼の旧邸の周りは、「乃木」が付く地名であふれたいたと……まぁ、そういうわけなんですね。不思議発見!
そして、そんな彼の“清く気高い忠臣の志”が、周りの空間を――まるで原子レベルで励起するかのように――呼応させてか、すぐ近くの六本木トンネルは心霊スポット兼使い勝手のいい撮影ロケーションとして名を馳せ、なかんずく青山霊園では俺はなぜかこの夏の勝負をかけていたってなわけですよ……おっと、話が脱線しちまったぜ。
そして、毎年9月13日は、乃木大将の命日――。
その日は、年に一度2日間だけ、普段入れない旧乃木邸が公開される日。これは、無類の乃木大将好きとしては、行かない手はない。
――驚くほど質素なたたずまいだ。まるで、「おしん」とかが住んでいたような家だ。大きさも、大豪邸というほどではない。現在で例うならば、庶民が「ちょっと背伸びしてがんばっちゃいました」「それでも家を買いました」クラスだ。しかし、おしんの家には「大将が自決したときに着ていた血染めの肌着」なんてあろうはずもなく、その意味においては別宇宙の存在である――と、そう認識を改めざるを得ない。それはきっと……あえて有り体にいうならば、「歴史の重み」ってやつだ。
そうこうするうちに、ところどころに西洋家具で統一されたシーケンスが出てくる。そのなかのひとつが、↑の写真――「洋式トイレ」だったんだ。これを見つけるなり俺は……気に入った。とにかく、気に入った。そのわびさび。微に入り細を穿ちっぷり。洋式といえど、メリケン人のデカ尻の存在を、そのレゾンデートルからして否定するような瀟洒なたたずまい……そのどれをとっても、そう……一流。
嗚呼、一流のトイレで一流の用を足したひ……。
「これは、日本で最初の洋式トイレなんですよ」
誰も聞いちゃいないのに、係りのお兄さんが親切心から教えてくれた。もちろん、もう、俺は大興奮だ。
「マジッすか! マジッすか! すげぇ! すげぇ!」
そしてすかさず、
「便座のフタ、取って開けてみていいすか?」
と聞いた。お兄さんは、本当にいいヒトだった。迷わず、フタを取ろうとしてくれただけで、俺はもう万感が胸に迫った。
「あ。くっついてて、取れないです」
……いいんだよ、取れなくて。それは重要ではない。そもそも人生なんて、取れることと取れないことどっちが多いかっつったら、取れないことの方が多いんだよ。大事なのは、そのときの心意気だ。取れなかったからって、いちいちひがんでいるようじゃぁいけねぇってことよ。え、そう言うあんたはどうなんだって? 俺にそんなこと、本当に聞くのかい? 本当の本当かい? 俺は……そう、パラサイトシングルさ。「14コ年のはなれた弟の成長過程を見守りたいから」ってな言い訳は、お天道さまが許しても、俺の心意気がもうそろそろ許しちゃおかねーぜ? ってなことよ。乃木坂のあたりっていいよね。心霊スポットでもいいから、安い物件ないかなぁ~?
そんなわけで、最後に乃木神社でお参りして、乃木大将の絵本「いのち燃ゆる」を買って、帰りましたとさ。
乃木希典(のぎまれすけ)――日露戦争を勝利に導いた、陸軍最高の「名将」。
乃木希典(のぎまれすけ)――世俗的欲望を絶ち、自らを徹底的に純化したひとりの「男」。
乃木希典(のぎまれすけ)――軍事的才能に関しては、無能の烙印を押された「演出家」。
乃木希典(のぎまれすけ)――近代随一の国民的英雄であり、「軍神」。
つまりは、明治の世に乃木将軍という軍人さんがいて、生きているときからとても有名だったと。そして、明治天皇が崩御した際に妻と共に後追い自殺して、さらに有名になったと。そしてさらにいつしか――彼の旧邸の周りは、「乃木」が付く地名であふれたいたと……まぁ、そういうわけなんですね。不思議発見!
そして、そんな彼の“清く気高い忠臣の志”が、周りの空間を――まるで原子レベルで励起するかのように――呼応させてか、すぐ近くの六本木トンネルは心霊スポット兼使い勝手のいい撮影ロケーションとして名を馳せ、なかんずく青山霊園では俺はなぜかこの夏の勝負をかけていたってなわけですよ……おっと、話が脱線しちまったぜ。
そして、毎年9月13日は、乃木大将の命日――。
その日は、年に一度2日間だけ、普段入れない旧乃木邸が公開される日。これは、無類の乃木大将好きとしては、行かない手はない。
――驚くほど質素なたたずまいだ。まるで、「おしん」とかが住んでいたような家だ。大きさも、大豪邸というほどではない。現在で例うならば、庶民が「ちょっと背伸びしてがんばっちゃいました」「それでも家を買いました」クラスだ。しかし、おしんの家には「大将が自決したときに着ていた血染めの肌着」なんてあろうはずもなく、その意味においては別宇宙の存在である――と、そう認識を改めざるを得ない。それはきっと……あえて有り体にいうならば、「歴史の重み」ってやつだ。
そうこうするうちに、ところどころに西洋家具で統一されたシーケンスが出てくる。そのなかのひとつが、↑の写真――「洋式トイレ」だったんだ。これを見つけるなり俺は……気に入った。とにかく、気に入った。そのわびさび。微に入り細を穿ちっぷり。洋式といえど、メリケン人のデカ尻の存在を、そのレゾンデートルからして否定するような瀟洒なたたずまい……そのどれをとっても、そう……一流。
嗚呼、一流のトイレで一流の用を足したひ……。
「これは、日本で最初の洋式トイレなんですよ」
誰も聞いちゃいないのに、係りのお兄さんが親切心から教えてくれた。もちろん、もう、俺は大興奮だ。
「マジッすか! マジッすか! すげぇ! すげぇ!」
そしてすかさず、
「便座のフタ、取って開けてみていいすか?」
と聞いた。お兄さんは、本当にいいヒトだった。迷わず、フタを取ろうとしてくれただけで、俺はもう万感が胸に迫った。
「あ。くっついてて、取れないです」
……いいんだよ、取れなくて。それは重要ではない。そもそも人生なんて、取れることと取れないことどっちが多いかっつったら、取れないことの方が多いんだよ。大事なのは、そのときの心意気だ。取れなかったからって、いちいちひがんでいるようじゃぁいけねぇってことよ。え、そう言うあんたはどうなんだって? 俺にそんなこと、本当に聞くのかい? 本当の本当かい? 俺は……そう、パラサイトシングルさ。「14コ年のはなれた弟の成長過程を見守りたいから」ってな言い訳は、お天道さまが許しても、俺の心意気がもうそろそろ許しちゃおかねーぜ? ってなことよ。乃木坂のあたりっていいよね。心霊スポットでもいいから、安い物件ないかなぁ~?
そんなわけで、最後に乃木神社でお参りして、乃木大将の絵本「いのち燃ゆる」を買って、帰りましたとさ。