http://mystery.co.jp/program/defenders/commentary/01.html
より
第6話『公正な裁き』
第6話『公正な裁き』のポイントは、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事際裁判のルールを盾にとったニックの弁護方法です。
刑事裁判の大原則
まず、刑事裁判のスタート地点ともいうべき大原則は、被告人の有罪を立証する責任は検察にあり、被告人(弁護人)は自ら無罪を証明する義務を負っていないということです。
検察は、公判で、起訴事実を合理的疑いの余地なく証明する義務を負っています。この証明を、「合理的疑いを超えた証明」(Proof beyond a reasonable doubt)といいます。逆に言えば、検察の立証に「合理的疑い」が残るときには、「被告人の利益に」、つまり被告人は無罪となるわけです。
「合理的疑い」とは?
この定義は明確ではなく争いもありますが、一般的には、起訴事実の真実性について揺るぎない確信(an abiding conviction of the truth of the charge)が持てない状態などと説明されています。
少し分かりにくいかもしれません。こう置き換えてみましょう。
民事裁判(※1)の場合には、「証拠の優越」(Preponderance of Evidence)というルールが採られ、絶対に確実だといえる状態を100%だとした場合、片方の言い分が51%以上信用できるという状態にさえなれば、その事実が認められます。つまり、原告・被告のどちらの言い分がより信用できるのか、ということです。
これに対して、刑事裁判(※2)の場合には、検察官の言い分の確実性がおそらく90%かそれ以上にならないと、有罪とはなりません。(※3)つまり、検察側のストーリーと弁護側のストーリーのどちらが信用できるか、という単純な話ではないのです。(※4)
※1.私人(法人も含む)の間に生じた紛争を法律的に解決する裁判。
※2.犯罪者に刑罰を適用する裁判。
※3.あくまで一つの目安にすぎません。90%といっても、人によって違いますし、普遍的な科学的な基準として設定することは不可能です。
※4.このルールは、基本的に日本でも採用されています。
今回のケース
ここで、今回のケースを思い出してみましょう。
まず、事案の概要は、違法ギャンブルの賭け金取り立てのため銃を持ってバーに乗り込んだ男2人が、居合わせた警官に強盗と間違われ、男のうち1人が射殺、警官も撃たれる事件に発展します。警官を撃った男は逃亡し、捕まったのは車で待っていた少年ジム。ジムは逃走用運転手だったとして、強盗罪、恐喝罪などに問われます。
この場合、ジム自身が銃を使った取り立て行為や、警官への射撃等に実際加担していなくても、ジムが仲間の男2人と共謀をし、それに基づいて仲間が犯行を行ったのであれば、たとえジムが外で逃走用運転手の役割を果たしたのみであったとしても、共犯として犯罪が成立してしまいます。
ですが、ジムがもし仲間の男2人が銃を使った違法な取り立てをするということを知らなかったとしたらどうでしょう?
この場合、ジムは何ら犯罪の共謀などしていないことになり、ジムに犯罪は成立しないことになります。
検察官と弁護人の攻防
この前提に立って、検察官の主張とジムの弁護人を務めるニックの主張とを見ていきましょう。
検察官の主張
まず、検察官の主張をシンプルに考えると、以下のようなロジックになります。
[1]ジムは、仲間の男2人が銃を持ち違法な取り立てに行くことを知っていた。
[2]したがって、ジムは恐喝罪・強盗罪等の全てに加担した。
[3]よって、ジムにはこれらの犯罪につき共犯が成立する。
ニックの主張
これに対して、ニックは、検察官の主張に対して、次のように反論します。
[1]そもそも、ジムの仲間たちは、ただ単に金を貸して取り返しにきたにすぎないのではないか。銃など出していないのではないか。
[2]仮にジムの仲間たちが強盗まがいの違法な取り立てを行ったとしても、ジムは、単に合法的なローンの回収をするものだと信じており、重罪に関与するとは知らずに単に車で友達を送っただけなのではないか。
[3]このようなアナザーストーリーが成り立ちうる以上、検察官の証明は不十分である。
「疑わしきは被告人の利益に」のルールを盾にとった弁護方法
確かに、このようなニックの主張するアナザーストーリーは証明できません。
ですが、ストーリーの中でニックが「幸運なことに、証明する責任は検察側にある」と主張するように、ニックとしては、検察官の主張するストーリーに対して疑いを投げかければ足りるのです。
ニックの主張するようなアナザーストーリーが成り立ちうるということは、検察官の主張に揺るぎない確信が持てない、つまり合理的な疑いが残るのではないか、ということです。
このように、「疑わしきは被告人の利益に」のルールのもとでは、今回のように証拠が乏しいケースにおいては、アナザーストーリーも成り立ちうるということを主張することによって無罪を勝ち取ることも可能なのです。
最終的には、今回のケースは別の理由から司法取引によって解決しましたが、ニックの弁護の方法は、民事裁判とは異なる刑事裁判ならではの特徴が出ていたといえるでしょう。
より
第6話『公正な裁き』
第6話『公正な裁き』のポイントは、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事際裁判のルールを盾にとったニックの弁護方法です。
刑事裁判の大原則
まず、刑事裁判のスタート地点ともいうべき大原則は、被告人の有罪を立証する責任は検察にあり、被告人(弁護人)は自ら無罪を証明する義務を負っていないということです。
検察は、公判で、起訴事実を合理的疑いの余地なく証明する義務を負っています。この証明を、「合理的疑いを超えた証明」(Proof beyond a reasonable doubt)といいます。逆に言えば、検察の立証に「合理的疑い」が残るときには、「被告人の利益に」、つまり被告人は無罪となるわけです。
「合理的疑い」とは?
この定義は明確ではなく争いもありますが、一般的には、起訴事実の真実性について揺るぎない確信(an abiding conviction of the truth of the charge)が持てない状態などと説明されています。
少し分かりにくいかもしれません。こう置き換えてみましょう。
民事裁判(※1)の場合には、「証拠の優越」(Preponderance of Evidence)というルールが採られ、絶対に確実だといえる状態を100%だとした場合、片方の言い分が51%以上信用できるという状態にさえなれば、その事実が認められます。つまり、原告・被告のどちらの言い分がより信用できるのか、ということです。
これに対して、刑事裁判(※2)の場合には、検察官の言い分の確実性がおそらく90%かそれ以上にならないと、有罪とはなりません。(※3)つまり、検察側のストーリーと弁護側のストーリーのどちらが信用できるか、という単純な話ではないのです。(※4)
※1.私人(法人も含む)の間に生じた紛争を法律的に解決する裁判。
※2.犯罪者に刑罰を適用する裁判。
※3.あくまで一つの目安にすぎません。90%といっても、人によって違いますし、普遍的な科学的な基準として設定することは不可能です。
※4.このルールは、基本的に日本でも採用されています。
今回のケース
ここで、今回のケースを思い出してみましょう。
まず、事案の概要は、違法ギャンブルの賭け金取り立てのため銃を持ってバーに乗り込んだ男2人が、居合わせた警官に強盗と間違われ、男のうち1人が射殺、警官も撃たれる事件に発展します。警官を撃った男は逃亡し、捕まったのは車で待っていた少年ジム。ジムは逃走用運転手だったとして、強盗罪、恐喝罪などに問われます。
この場合、ジム自身が銃を使った取り立て行為や、警官への射撃等に実際加担していなくても、ジムが仲間の男2人と共謀をし、それに基づいて仲間が犯行を行ったのであれば、たとえジムが外で逃走用運転手の役割を果たしたのみであったとしても、共犯として犯罪が成立してしまいます。
ですが、ジムがもし仲間の男2人が銃を使った違法な取り立てをするということを知らなかったとしたらどうでしょう?
この場合、ジムは何ら犯罪の共謀などしていないことになり、ジムに犯罪は成立しないことになります。
検察官と弁護人の攻防
この前提に立って、検察官の主張とジムの弁護人を務めるニックの主張とを見ていきましょう。
検察官の主張
まず、検察官の主張をシンプルに考えると、以下のようなロジックになります。
[1]ジムは、仲間の男2人が銃を持ち違法な取り立てに行くことを知っていた。
[2]したがって、ジムは恐喝罪・強盗罪等の全てに加担した。
[3]よって、ジムにはこれらの犯罪につき共犯が成立する。
ニックの主張
これに対して、ニックは、検察官の主張に対して、次のように反論します。
[1]そもそも、ジムの仲間たちは、ただ単に金を貸して取り返しにきたにすぎないのではないか。銃など出していないのではないか。
[2]仮にジムの仲間たちが強盗まがいの違法な取り立てを行ったとしても、ジムは、単に合法的なローンの回収をするものだと信じており、重罪に関与するとは知らずに単に車で友達を送っただけなのではないか。
[3]このようなアナザーストーリーが成り立ちうる以上、検察官の証明は不十分である。
「疑わしきは被告人の利益に」のルールを盾にとった弁護方法
確かに、このようなニックの主張するアナザーストーリーは証明できません。
ですが、ストーリーの中でニックが「幸運なことに、証明する責任は検察側にある」と主張するように、ニックとしては、検察官の主張するストーリーに対して疑いを投げかければ足りるのです。
ニックの主張するようなアナザーストーリーが成り立ちうるということは、検察官の主張に揺るぎない確信が持てない、つまり合理的な疑いが残るのではないか、ということです。
このように、「疑わしきは被告人の利益に」のルールのもとでは、今回のように証拠が乏しいケースにおいては、アナザーストーリーも成り立ちうるということを主張することによって無罪を勝ち取ることも可能なのです。
最終的には、今回のケースは別の理由から司法取引によって解決しましたが、ニックの弁護の方法は、民事裁判とは異なる刑事裁判ならではの特徴が出ていたといえるでしょう。
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