チャン・イーモウ監督が総合演出の指揮をとり、
規模は小さいながらも
とても美しくまとまっていた。
NHK+ で見返しながら、その演出と
使われている表現技術について振り返ってみた。
※技術についてはあまり情報が出ておらず、
想像で書いている部分が多いので、
間違っていたらご容赦いただきたい。
まず、度肝を抜かれるのは、
フィールド全体に敷き詰められている HD の LED スクリーン。
その広さは 11,600平方メートルだとか。
LEDスクリーンは技術としては、
たとえば 2017年の紅白などでも使われているが、
フィールド全体というのはかなりのスケールだ。
氷をイメージさせる青色が美しく、
開会式全体のベースカラーになっている。
立体的に浮かび上がっているように見える文字は
錯覚を利用したものだろう。
カウントダウンは 24 「雨水」(2月18日頃から)から始まり、
それにあわせて二十四節気が順に紹介されてゆく。
今回の冬のオリンピックは第24回でもあり、
そこにもかけてあるのだろう。
特に技術的な新しさはないが、
映像自体が本当に美しく、
いきなり魅了される。
その中で、中国の風物や暮らし、
そして競技もまた紹介される。
壁紙に欲しいような映像ばかりだ。
カウントダウンの最後は立春。
そして、フィールドでの
長い LEDライトを使ったショーに
自然につながってゆく。
リアルな人+LEDライトと、
床面の映像の組合せ、融合がとても印象的な
効果を生んでいる。
浮き上がってくる月や、羽ばたいている蝶などにも
錯覚を利用した立体的な映像が使われていて、
巨大なスクリーンが存分に効果を発揮している。
左側に表れる顔の輪郭から、
ふっと息が吹かれると、
長い LEDライトがたんぽぽの綿毛に変わって舞い上がる。
ここで、フィールド奥の垂直なスクリーンにも映像が映る。
この垂直と水平のスクリーンの組合せは
この後も効果的に使われるのだが、
同じアイデアは、昨年夏に横浜で行われた
Perfume の LIVE Polygon Wave でも使われていた。
さらに、飛び上がった綿毛は花火となって
夜空を彩る。このリアルと映像が融合した演出は
ほんとうに見事だ。
習近平首席らの入場と、
天才少年(だろう)が吹くトランペットに伴奏された
中国国旗の掲揚の後、第二章が始まる。
垂直スクリーンを、空から一滴の墨が降りてくる。
ここでも垂直と水平の同期がしっかりと取られて、
強い立体感を生み出している。
それが大きな水の流れに変わり、
フィールド全体に溢れ出す。
「黄河の水、天上より来る」だそうだ。
フィールドの中央に、巨大な透明な直方体の構造物が
せりあがってくる。これは映像ではなくリアルなものだ。
巨大な氷のように透明に見えるのだが、
おそらく、周囲に LED を貼ってそこに映像を映している
のではないかと思う。
その氷の中に、鮮やかな線で過去の冬のオリンピックが
映し出される。これも、そう見えるのであって、
実際には外側に映像を映しているのではないか、と思ったのだが、
NHK の中継では「文字や絵を描いているのは 24本のレーザー光線」
と言っていた。
フィールドのスクリーンに
アイスホッケーの選手が立体的に描かれて
(これはもしかしたら実体かもしれない)、
仮想のパックを一斉に打ち込むと、
直方体の氷が砕けて、スクリーンが下がってゆき、
中から、氷でできたようなオリンピックの五輪が現れる。
ここでも、リアルな五輪の動きと映像が同期しているために、
氷の中から現れるように見える仕掛けだ。
透明感のある五輪の中には
小さな光がチラチラとしている。
この後、五輪に色が灯るのかと思ったが、
透明な氷のままだった。
ここまで、約 18分間が前半で、この後、
やはり映像で美しく装飾されたゲートが開いて、
各国選手の入場となる。
テンポの良い演出だ。
選手が入場する間は、
選手が歩く通路の両側に中国の風景の
これも美しい映像が映し出されていた。
選手が観客席に着席していたのは、
観客数を制限したコロナ禍ならではの演出かもしれないが、
良いアイデアだと思う。
選手の入場が終わると、後半に入る。
各国の名前を表示していた雪の結晶の形の
プレートを使ったダンスがあり、
やがて、フィールドに置かれたプレートが映像に変わって、
巨大な円を描き、中央に集まって大きな雪の結晶を作る。
その雪の結晶が、地球を背景として、
宇宙空間を浮遊するようにフィールドを回ってゆく。
ここも実体はなく、映像だと思うのだが。
そして、オーロラが輝く地球を背景に、
大きな雪の結晶が立ち上がってくるのだが、
おそらく、ここでは実体と入れ替わっていると思われる。
しかし、どうやっているのかはよくわからない。
世界の日常と連動させた競技紹介の映像。
これも素敵なアイデアだ。
最後の、転んでも立ち上がる姿に、
NHK のアナウンサーが素敵な言葉で反応する。
「スポーツには人生が凝縮されている。
諦めない、続ける、信じる、立ち上がる、
そんな場面を心の糧にしてゆきたい」
北京オリンピック委員会と
バッハ会長の長い挨拶の後、
習近平首席による開会宣言とともに
盛大な花火があがる。
そして、後半の第2章。
多様な人々が一列に歩いてゆく後に、
日常の画像が拡がってゆく。
これも広大なスクリーンを存分に活かした演出。
この後しばらくは、おそらく、
カメラでの人の動きのトラッキングにあわせて映像を表示する、
ライブモーションキャプチャが多用されていると思われる。
そして、その映像にあわせて「一起向未来」(共に未来へ)という
大会のスローガンが立体的に描かれる。
ここでちょっと不思議なのは、さっき立ち上がった
巨大な雪の結晶が見当たらなくなっていることだ。
開会宣言の後の花火の間に、一時的に移動させたのだろうか?
東京大会と同じく、ジョン・レノンのイマジン!が流れる中、
フィールド全体に(ローラー)スケートで滑る人と映像の融合が
繰り広げられる。ここもライブモーションキャプチャを使っていそう。
フィールドで、オリンピックのモットー
「より速く、より高く、より強く、共に」が描かれている間に、
さりげなく、スキーのジャンプの選手を象ったオブジェが
空中を浮遊してゆくのだが、これはワイヤで釣っているのか、
それともドローン??
軌道的にはワイヤのようにも思われるが・・・
オリンピックの旗の掲揚。
大きなフィールドを横切って旗を運ぶ間も
人の動きと映像が同期している。
選手宣誓の後、選手育成の様子を描く
とてもかわいい映像。
こういうところも手を抜いていない。
そして、最終章は、垂直スクリーンを
降りしきる雪から始まる。
大きな雪の結晶が立ち上がり、
その回りを、平和の象徴である鳩の形の明かりを持った子供が走る。
ここも、ライブモーションキャプチャが使われていると思うが、
そうだとすると、かなりの数の子供をしっかりトラッキングして
その足元に光の粒を表示していることになる※。
やがて子供たちは集まり、
雪の結晶の周りにハートが描かれる。
かなり感動的・・・
そして、聖火が入場して、リレーされ、そして、驚くことには、
91 の参加国の名前が描かれたプレートが組み合わせられた
大きな雪の結晶の中央に、トーチが立てられて、小さな聖火が灯る。
トーチの小さな炎をそのまま聖火にする、
というアイデアが斬新なだけでなく、
いろいろな意味を読み取ることができる
聖火点灯は見事なものだ。
聖火を内包した雪の結晶が宙を昇ってゆき、
最後の盛大な花火によって開会式が締めくくられる。
全体で2時間と少し。
前回の夏の五輪のときは4時間くらいと言われいたので
だいぶ短く、簡素になっている。
その演出は、しっかりとした流れがあり
全体のテーマやストーリーが明確だった。
そして、「中国文化」が前面に出ることはなく、
地球全体を感じさせるものであり、
中国の成熟を感じさせるものだった。
少なくとも表面的には・・・
技術としては、意外なことに、
ロボットやドローンはほとんどフィーチャーされず、
一言でいえば、リアルとバーチャル(映像)の融合が素晴らしかったと思う。
それによって手品のような世界が繰り広げられた。
美術手帖の記事によると、
この部分を担当したのは、"Blackbow"
という中国のメディアアート集団らしい。
2010年に3人で始まった Blackbow は、既に 100人を超える規模に成長し、
中国国内でイベントや観光地の装飾を手掛けるとともに、
メディアアートの博物館を作ったりしている。
平昌五輪の閉会式での北京五輪紹介「北京8分」も手掛けていて、
そこでは既に、今回の開会式と同じようなイメージが表現されている。
記事では、チームラボと対比させられているが、
Perfume のライブなどを手掛けている
ライゾマティックスとも近いと思う。
実際、真鍋大渡さんとは交流があるらしい。
さてさて、閉会式も楽しみだ。
ちなみに、ロボット技術については、
メディアセンターやホテルなどで存分に披露しているらしい。
以下は、朝日新聞デジタルの動画。
料理に掃除、ホテルの消毒まで…ロボットが活躍する北京五輪の会場
追記:
※やはりライブ・モーションキャプチャが使われていたようだ。
それに関するブログ記事があった。
北京冬季五輪の開会式。「雪花」の演出を陰で支えたAIoTテクノロジー
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