日々の寝言~Daily Nonsense~

作曲入門(2)

作曲入門の2回目は、音階についてのまとめ。

なんで作曲するのに音階についての知識が必要か?
というと、第一には、メロディが音階の音を主として
作られていること。第二には、メロディに伴奏をつける、
つまり、ハーモニーをつくるときに、
和音についての知識があると役立つのだが、
それを理解するためには、音階について知っておくほうがよい。

音階とは階段状の音の並びである。
典型的な音階は、長音階「ドレミファソラシ(ド)」である。
これは、全音階(全音的音階, Diatonic Scale)とも呼ばれる。

音の高さはその周波数で決まる。
周波数は連続だから、どんな周波数の音を使っても
よさそうなものだが、実際には、ほとんどの音楽は、
音階の中の音だけを使って作られている。

これは、あたりまえのように思われているが、
よく考えると不思議なことだ。なぜだろう?

これに答えてみようというのが今回の主目的。
元ネタは、ここと、このあたり

まず、ひとつのポイントは、
音階の中の音の関係は、相対的なものである、ということ。
つまり、「ド」となる音は、基本的には、
どんな高さ(周波数)の音でも良い。
構成要素の音の間の周波数の比が本質である。

人間の聴覚は、整数倍の周波数の音を類似音として感じるので、
普通の音階は、ある音からはじまり、その音の二倍の周波数の音
(1オクターブ上の音)で終わる(そしてまたはじまる)列の
繰り返しになっている。なので、
ある音から、その2倍の周波数までの間にある無限個の音のうち、
どれを選んで並べるかで一つの音階が決まる。

普通のピアノで長音階を弾いた場合、
最初の音を 1 とした場合の周波数比は下記のようになっている。

第1音(ド)  1      2の 0乗
第2音(レ)  1.124662... 2の 2/12=1/6乗(2の6乗根)
第3音(ミ)  1.259921... 2の 4/12=1/3乗(2の3乗根)
第4音(ファ) 1.334840... 2の 5/12 乗
第5音(ソ)  1.498307... 2の 7/12 乗
第6音(ラ)  1.681793... 2の 9/12=3/4 乗
第7音(シ)  1.887749... 2の 11/12 乗
第8音(ド)  2      2の 1乗

音階の中での音の位置を表す名前(ドレミファソラシド)を階名と言う。
つまり、ドとは、音階の第1音の名前である。
これに対して、音の絶対的な高さ表す名前は音名と呼ばれ、通常、
CDEFGABC(日本語ではハニホヘトイロハ、ドイツ語ではCDEFGAHC)が使われる。

ただし、ドレミファソラシドは、イタリア語の音名でもあるので、
イタリア語を使う場合にはちょっとややこしいことになる。
たぶんこのせいもあるのだろうが、
音階の中での位置を表すために、I, II, III, IV, V, VI, VII
のようなローマ数字を使うこともある。

さて、上のような周波数比の音が選ばれている理由が問題だが、
それは、第一に、人間の感覚特性による。

聴覚に限らず、人間の感覚にはウェーバー・フェヒナーの法則
という法則が成り立っていて、量の大小をその対数尺度で感じる
ことが知られている。

たとえば、ある音から始めて、その2倍、4倍、8倍、・・・
の物理的パワーを持った音を並べると、
人間の耳には、それぞれ、最初の音の2倍、3倍、4倍
大きく聞こえる。

音の高さについても同様で、隣り合う音の周波数の比が同じときに、
それらの音は均等な音の高さ差で並んでいるように感じる。
比が差として感じられる、というところがポイント。

そこで、ある音から、その2倍の周波数の音までの間に、
両端を含めて M 個の音を並べるときに、
周波数の比が、1、2の1/M乗、2の2/M乗、・・・、2、
となるように並べれば、隣り合う音の比はすべて
2の1/M乗で等しくなるため、音の高さが、
同じ量だけ増えてゆくように感じる。

実際、上の表では、M=12の場合、つまり、8つの音がすべて、
2の n/12乗 (n=0,2,4,5,7,9,11,12)になっていることがわかる。

では、なぜ、M=12 が選ばれたのか?また、
なぜ、12個の音すべてではなく、その中から8個が選ばれたのか?

これは、音の協和性による。
人間の耳は、整数比の音の組み合わせを気持ちよく感じる性質がある。
中でも、2:3 = 1.5 の比が一番気持ち良く感じる。
上の表でみると、これは、第1音ドと第5音ソの関係に
非常に近いことがわかる。

そこで、ある音から始めて、2:3 の関係で音を並べてゆくと
どうなるかを考えてみる。

まず、最初は、1, 1*3/2=1.5 となる。
その次の音は 3/2*3/2 =9/4=2.25 だから、2 を超えてしまう。
そこで、これは周波数を半分にして2までの範囲に引き戻すと、
9/8=1.125 となる。これが、上の表の第2音の周波数比と
ほとんど同じであることに注意。

この操作(3/2倍して、2を超えたら2で割る)を繰り返すと、
1, 3/2=1.5, 9/8=1.125, 27/16=1.6875, 81/64=1.265625,
243/128=1.8984375, という列が得られる。また、逆に、
1オクターブ上の音 2 から始めて2/3 倍すると、4/3=1.3333 を得る。

これらを小さい順に並べ替えると、
1, 1.125, 1.265626,1.33333, 1.5, 1.6875, 1.8984375, 2となる。
この数列の数字を、上の周波数比の列に含まれる数と較べると、
かなり近いことがわかるだろう。

逆に言えば、M=12 とした音階は、
互いに2:3 の周波数比を持つ気持ちよく響く音
(を、2倍までの周波数の範囲内に引き戻して並べたもの)
をたくさん含んでいる。

実際、ドからラまでのすべての音に対して、ドとソ、レとラ、ミとシ、
ファとド、ソとレ、ラとミ、のように、よく響く組み合わせの音がある。
つまり、人間の聴覚がだいたい識別できる範囲で、
気持ちよく響きあう音をできるだけ詰め込んだものになっていると言える。

同じ8つの音を使って、長音階のラにあたる音から並べた音階は
短音階と呼ばれる。この場合、第1音からの周波数の比は、
第1音(ラ) 1
第2音(シ) 2の2/12=1/6乗
第3音(ド) 2の3/12=1/4乗
第4音(レ) 2の5/12乗
第5音(ミ) 2の7/12乗
第6音(ファ) 2の8/12=2/3乗
第7音(ソ) 2の 10/12=5/6乗
第8音(ラ) 2
となる。

音階の第1音をドと呼ぶという定義に従えば、短音階もまた、
「ドレミファソラシド」と呼ばれるべきだが、
それだとかえって混乱するため、短音階の階名は
「ラシドレミファソラ」を使うことが多い。

2の1/12乗の音の高さの差は「半音」、
2の1/6乗の音の高さの差は「全音」と呼ばれる。
たとえば、ドとレの間は全音で、ミとファの間は半音である。

全音、半音という言葉を使うと、長音階の音の間隔は、
ド全レ全ミ半ファ全ソ全ラ全シ半ド、となる。
一方、短音階は、ラ全シ半ド全レ全ミ半ファ全ソ全ラ、である。

ここで重要なのは、第1音と第3音の間の間隔である。
長音階が全音二つ分であるのに対して、
短音階は全音一つと半音一つで短い。
これが長・短という名前の由来ではないかと思われる(自信なし)。
英語では、major scale, minor scale と呼ばれる。

音の並び方の違いだけなのだが、長音階は明るい感じを与え、
短音階は暗い感じであり、これがほぼすべての人に共通なのが、
人間の聴覚の不思議さである。

長音階の第1音(ド)は主音(中心音、基音、トニカ)、
そこから5度上の第5音(ソ)は属音(ドミナント)、
5度下(のオクターブ)の第4音(ファ)は下属音(サブドミナント)
と呼ばれる。また、第7音(シ)は、主音を導くという意味で、
導音と呼ばれる。

理論的には、長音階、短音階以外にも、
12個の音の中でどれを採用するかによって、
いろいろな音階が考えられるはずだ。

典型的なものに、いわゆる「よな抜き音階」がある。
これは、長音階の第4音(ファ)と第7音(シ)を抜いた音階で、
ドレミソラドとなる。素朴な音楽はこれで作られていることが多い。
また、琉球音楽などのように、ドミファソシドの音階もある。
また、1オクターブを12以上の細かい音に分けることも考えられる。
インドやアラブ音楽の音階には、そういうものもあるらしい。

他に、ジャズのブルーノートというのもある。
これは本当はややこしいらしいのだが、
長音階のミとソとシの音を半音下げた音らしい。
これをメロディに入れると、
ちょっと崩れた、ブルージーな感じ、になる。

さて、音階では音の比が重要なので、
音階の中にある音の周波数は、
どれか一つを決めれば他が決まる、という関係にある。

最初に決める一つの音の周波数はいくつであってもよいわけだが、
複数の楽器で合奏するときには、音をあわせておく必要がある。

現代の標準では、440ヘルツの音をラ(A)の音とすることになっている。
このことから、たとえば、ピアノの中央のド(C)の音の周波数は、
その 2の4/3乗分の一、すなわち、2の3/4乗倍の261.6255ヘルツとなる。

通常のピアノの鍵盤は88鍵(黒鍵も含めて)で、ラから始まっている。
一番下のラは A0 のように、音名(A)と何番目(0)の音階の中の
音かをあわせて呼ばれる。A0 の周波数は、440Hz の1/16=27.5Hz である。
その上のドが C1 と呼ばれる。中央のドは4回目のドなので、
C4であり、その次のラが A4 = 440Hz である。
一番上はドで終わっているが、これは C8である。

このように、長音階や短音階は、人間の聴覚にとって
気持ちよく響きあう音をできるだけ詰め込んでいるという意味で、
合理的にできている。だから、広い地域で、長い間に亘って、
使い続けられている、ということのようだ。
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