日々の寝言~Daily Nonsense~

「君たちはどう生きるか」 by 宮崎駿監督

「君たちはどう生きるか」を見てきた。

以下、ネタバレありです。


まず、予告や宣伝がほとんど無くて
知らなかったのだが、本作の内容は、
吉野源三郎さんの本とは、
タイトルが同じという以外、
ほとんど関係が無い。

いつになったら、そっちの話になるのか?
と思って見ていたら、結局、途中で、
吉野さんの本が出てくるだけだった。

うーん・・・

別にいいんだけど、というか、
調べてゆかなかった私が悪いのだけど、
なんだかちょっとモヤモヤする。

 * * *

それはさておき、作品自体は
「君たちはどう生きるか」に
インスパイアされた?宮崎さんが、
ご自身の自伝的要素なども取り込みながら、
エンタテインメント性や、興行のことなどは
もうあまり意識せずに、作りたいものを作った
という感じだった。

逆に言うと、この作品を見ると、
これまでの宮崎さんの作品の中核となる
メッセージが「君たちはどう生きるか」
という問いかけだったのだ、
ということがよくわかる。

そこでのキーワードは「悪意」だ。

ストーリーはあって無きが如きだが、
主人公の牧眞人(真の人)が、
異次元世界に迷い込んで、
少し成長して戻ってくる、という
「不思議の国のアリス」もの。

これは一つの物語の類型で、
ミヒャエル・エンデの
「果てしない物語」もそうだし、
村上春樹さんの作品もそういうものが多い。
地面の下にあるのは、
共同的無意識の世界だ。

また、本作に直接的な影響があった本として
ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』
(田内志文訳、創元推理文庫)が
挙げられている。

その異次元世界での冒険のラストで、
その世界を司る老人から、
「君にこの世界と継いでほしい」と言われるのだが
少年は「僕には『悪意』がある」というようなこと
を言って(その証拠として頭の傷を見せて)断る。

そうこうしているうちに、
世界のバランスを取っていた積み木が崩れて
異次元世界を維持していた巨石が崩壊して
世界は失われるが、主人公たちは、
ギリギリで元の世界に脱出する。

作品は、元の世界で
主人公の一家が新しい生活を
始めようとするところで終わるが、
前と後で具体的に何が変わったかというと、
たとえば、母親の妹にあたる
義母への態度だろうか。

こうした大筋からさらに
異次元世界とは何なのか、とか、
インコの群れは何の比喩なのか、とか
具体的な表現に即したことを考え始めると
ほとんど解釈不能、あるいは、
どうとでも解釈できるようになってくる。

たとえば、地下の異次元世界は、
ナウシカの腐海のように、
魂を浄化してまた送り返してくる
世界のように思える。

そこが崩壊してしまって、
現実世界への影響はないのだろうか?
とも思ったが、どうやら、そういう世界は
たくさんあるようなので、
そのうちの1つが崩壊しても
きっと大勢に影響はないのだろう。

主人公の少年が世界を継ぐことを断る
というのは、ナウシカ(漫画版)が
シュワの墓所を破壊したことを連想させる。

このほかにも、ナウシカの漫画版を
連想させるシーンは多いし、
「千と千尋の神隠し」や「天空の城ラピュタ」、
「もののけ姫」などの作品を思わせる
シーンや設定もたくさんある。

以前に新海誠さんの作品に触れて、
世界を救わない主人公、というようなことを
書いたことがあったが、
思えば、宮崎駿さんの作品では、
主人公は世界を破壊するのが
あたりまえだったのだ。

「悪意」の話にもどると、
人間の存在には「悪意」が
必然的に内在している。

自然的な弱肉強食では生き残れない人間は
協力して知恵を使って生存しなければならない。しかし、
「同じ人間が同じ場所を占めることはできない」(漱石?)
というように、完全に一体化して協力することも
またできない。

この本質的な矛盾とそれに由来する悪意を抱えたまま、
不完全で不安定で不確実な、
「近いうちに火の海になる」世界で
「君たちはどう生きるか」
というのが宮崎駿さんが、これまでの作品を通して
それを見る人々にずっと問い続けていたこと
なのだと思う。

 * * *

背景の絵は異様に美しく、
そこに配されるアニメーションの
人物と乖離しているのが少し気になった。

背景の絵が美しいのは、
昔からではあるのだろうが、
新海誠さんの作品を少し
意識されているのかもしれない。

声優については、
豪華な名前が連なっていたが、
あいみょんは、さすがにちょっと
と思った。

これもまぁ、別にいいんだけど。

米津さんの主題歌「地球儀」は、
もちろん素晴らしかったが、
シン・ウルトラマンのときと同様に、
米津さんの真面目さと、
宮崎さんの不真面目さに
ギャップがあるようにも感じられた。

これもまぁ、しかたがない、というか、
米津さんは、宮崎さんや庵野さんほど、
人間存在の「悪意」に侵されてはいない、
というか、より強く、真摯に
立ち向かおうとしている、
ということなのかもしれない。

で、「君はどう生きるか」となると、
何も生み出さず、つまらないブログを書いて
日常をただやり過ごす、ということになる。

そして、わたしは、そんな今を、
決して憎んではいない。
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