NPO法人自立生活センター新発田

毎日のセンターでの様子、思ったこと、感じたことなどを楽しく自由に綴っていきます。皆さん、どうぞよろしくね。

翔奏(しょうそう)

2018年01月09日 13時13分09秒 | 雑感



 あかぎれている 指さきへと
 やすい食器用洗剤が しみてくる
 彼女はだれもこない夜に ひとりでお皿を洗いながら
 うすい唇(くちびる)を 歪(ゆが)めていた
 やすくて古いアパートのなかで
 食品工場(しょくひんこうじょう)の機械(きかい)の一部となった今日を わすれられるまで
 独(ひと)りきりで
 黙々(もくもく)と
 そして 淡々(たんたん)と
 
 
 金髪をさかだてている青年が
 ネオンの きらびやかな偽(いつわ)りの悦(よろこ)びのなかに
 しずんでいる
 くしゃみのかわりに酔客(すいきゃく)をさそっては
 一日の疲れを いやしませんかと
 つかまえた男を 店のなかへと 連れこんでゆく
 仕事がおわって 自分の部屋へもどったときには
 なにを言ったのかもしたのかも そのほとんどを
 わすれている
 最近(さいきん) 洗面台のまえに立つのが 怖くなるときが ある
 それは故郷(こきょう)で幸せにくらしているであろう
 あこがれだった女性(ひと)に似ている娘(こ)のうしろ姿を
 たまたま
 みかけた日なんかは
 とくにで あった
 また 眠れずに


 はげしい部活をおえて帰宅している
 陸(りく)上部(じょうぶ)の 女子高生のうちのひとりが 
 手をふりながら笑顔(えがお)で仲間と わかれてゆく
 さっきまではくだらない話で おおいに盛り上がっていたというのに
 いまでは能面のような顔つきへと変わり
「新(あたら)しくできた」父親との会話のネタを探すことが
 ひどく苦痛になりながら ゆっくりと帰路を 歩いていった
 夜中に「両親」の寝室のまえを通れないことにも ひどく
 不愉快(ふゆかい)に 感じており
 いまでは 大昔(おおむかし)の写真を抱(いだ)きながら眠りについていることなんかは
 この世のなかで誰にも
 しられずに
 そして 人(ひと)知(し)れずまくらを濡らしており 逆に自分で驚いているということにも 
 もちろんしられずに 
 いたのだった
 いつのまにか彼女は 夜が
 嫌(きら)いになっていた
 そんなものは 拒(こば)めないものだというのに
 今宵(こよい)も
 いつも通りに
 まくらを
 まぶたを
 ぎゅっと


 そして


 焦(こ)げついているこの街が
 しゃんと朝露(あさつゆ)にぬれて しっとりと
 潤(うる)おい始(はじ)めていた


 彼らは夜を とめることがまだ できずに いた
 しかし彼ら「を」夜「は」 とめることがもはや できずにいたの だった


 たとえどんなことが 起きていたとしても
 彼らに朝(あさ)陽(ひ)はつねに より添(そ)っていたの だった
 気(き)がつかなくとも


 また


 本物の鳥たちの羽音と声にまざりながら
 みえない聞(き)こえない「鳥」たちの羽音が どこかでたくさん
 彼らの耳(みみ)の奥(おく)へと
 響(ひび)いてきていたの
 だった


 ひどく
 五月蠅(うるさ)かった


 満(み)ち溢(あふ)れていた