ハミルの家

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馬花 99 瞼のアトリエ

2024-10-04 21:06:00 | HAMIRU

アネハは準備した
恋するあの人を奪う
好きだという気持ちは既に伝えたし、
花束をしっかりと購入して交際を申し込む
12本の赤い薔薇を赤子を抱くように抱えた

彼氏に殴られたって



最低だ
不貞だと
不潔だって
言われたって
自分に嘘をつく
なんてしたくない

先日の映画館も彼女はきっと
喜んでくれた筈だ
積年の想いを、今

いつもの公園で夕方に待ち合わせしている
大袈裟だって笑われるかもしれない
俺は40代も半ばだし、
スーツを着込んで


現れたのは



彼女ではなかった
2着のスーツが向き合った

「チャリル」
「あゝ、アネハ悪いな」
「いや」
「聞いたよ、ていうかな」
「すまない」
「・・・
   お前の手紙
 見たよ」
「・・・」
「あいつずっと持ってたみたいだな」
「わるい」
「風呂の中まで」
「え」
「お前のラブレターはびしょ濡れだ」
「・・・」
「諦めろ、俺の女だ」
「殴ってくれ」
「あ」
「頼む」
「何が頼むだよ」
「諦めきれない」
「ふざけるな」
「諦めろ」
「殴ってくれ」
「勇気を持って手紙を書いた。俺がいるのを承  知で勇気を振り絞って告白をした。
 スーツを来て花束を持っている。
 どうするつもりだ」
「お前から奪うつもりだった」
「あいつは妊娠している。
 俺の子だ」
「なに」
「聞いてないだろ」
「なんで」
「なんでって。もう3ヶ月だ。
 お前には言えなかったみたいだ」
「そんな」
「じゃあな」
「そんな。殴れ」
「そういうの面倒くさいんだよ」
「そんな」
「勇気を持った!んだろ」
「・・・・」
「なんか、お前の手紙良かったよ。
 悪かったな。読んじまった。悪い。
 勇気の文字に免じて、チャラだ」

チャリルは立ち去った

1人佇むアネハ
恋の犯行は未遂に終わった
略奪とは
まず、男とケリをつけ。まつ毛が湿る



12本の薔薇が香る
'私と付き合ってください'の花言葉は
行き場を失った

美しい薔薇の姿と香りが
容赦なさを引き立たせる

薔薇を強く、力強く抱きしめた
薔薇が包装に押し付けられて香りが増した
「大丈夫、大丈夫」 
心が堪える

大丈夫、大丈夫


今夜の月が東から上がってきた


強がりは崩れた

君の瞼がアトリエとなって

月が光の涙を工芸した


わ ~messages~ ② イケル

2024-10-03 08:03:00 | HAMIRU

宮前区の自宅
バスに乗った
運転手が終点の溝の口をアナウンスして
停車したバスから降りた

ユーメの住まいに向かう
田園都市線ではなくて南武線の武蔵溝ノ口に向かう

私の実家は少し不便で溝の口駅と宮前平駅または向ヶ丘遊園駅に行くことが可能だけど、どの駅も歩くと30〜40分くらいかかる
一番勝手が良いのは溝の口だから、利用頻度は最も高い
小田急線の方が都合が良い時は、向ヶ丘遊園か登戸を利用する

溝の口に来ると、ハタチになった私は立ち飲み屋街の情緒に惹かれる
しかし一人で行く勇気はないし、今度ユーメが来てくれた時に一緒に行ってみたいと思う

私は実家住まいだから、2人が会うのは専ら一人暮らしのユーメの家だ
関内だから、みなとみらいや中華街も歩いて行けるくらいだし、山下公園で氷川丸を横目に長閑に散歩したりする

ユーメは私と同じ年のハタチの男だから実家の女の家には、宿泊もできるわけなく、寄り付こうとはしない
交際が始まって9ヶ月程になるけど、1度しか東急寄りの川崎市には来ていない

・・・・

武蔵溝ノ口から南武線に乗って京急寄りの川崎市に向かう
川崎駅に到着すると乗換で京浜東北線に向かう
ホームに上がるとshilverにbaby blueの模様を施した車体が具合良く止まっていて、そのまま乗り込んだ
土曜日の15時を回った頃で車内はまばらで席に着くことができた

水色のLINEの電車の長尺のシートの端に座りながら、メッセージアプリを開いた

1通のメッセージが目に留まった
(和食と洋食どっちがいい?)

・・・・

ユーメと付き合う前に、3ヶ月程交際していた男性がいた
彼は36歳で私は19だったからダブルほどに齢は離れていた
彼は商社系の企業に勤めていてエリートの雰囲気を醸し出していた
私のアルバイトの同僚の紹介で知り合った人だった
何度かデートに行き、今このラインが運ぶ方角みなとみらいに行ったりもした
悪い人には感じなかったし、世間的に評価されているタイプの人間だと思った
付き合おう、と決めつけられた未来のような告白をされたが断らなかった

交際が始まると、彼はあるルールを提示した
食事をした時。彼との交際では全てが外食で割と高級なお店に連れて行ってくれた

彼は言った
「俺は女を甘やかさない男だ」

彼は食事代を全額奢るのではなくて、1割を私に支払わせた
彼が会計を済ませるが、そのあと私は彼に1割を支払う
1,000円や2,000円を彼に手渡した

このルール
最初はいいかもしれないと思った
それほど大きな負担にはならないし、毎回奢られるとこちらも気が引ける
一応支払いに加わったという既成事実が、こちら側にも過度の感謝を伝えるという仰々しさを省略させる

彼はある程度の年齢だったから、1割支払わせるというのは、私に気を遣わせすぎないための配慮だったのかもしれないし、
ただでさえ年齢に差があったからこそ、それによる上下関係を少しでも緩和させるための処置だったのかもしれない

二人のルールだった

6回目の食事で私はこのルールが面倒になった
と言うよりも、36歳の商社マンの話しはところどころに自慢が食い込んできて、俺はあの施設の建設に携わったとか、有名企業の社長とゴルフに行ったとか、19の私には煩わしさを感じるようになっていた

それに比例して1割ルールも億劫になった
最初は彼の心配りか交際を長く続けるための秘訣なのかな、と思ったが
1,000円を手渡す時には、

ちいさい男だな、と思ってしまった

「俺ならサファイアが特別価格で手に入る、どうする?1割だけどな」
宝飾品まで1割ルールにするのか
幾らくらいするんだろう
きっとこの男のことだから、見栄を切ってそう安価の宝石などは買わないだろう

10万で1万、20万なら2万、30万なら

19歳の私には結構な痛手だ

「結構です」
この頃には、私の態度も良くないニュアンスの仰々しさを帯びていた

・・・・

会計が11,000円だった
7回目の食事だった

「1,100円な」

野口英世の表情が物憂げに見えた、
100円を取り出す時には、
私の表情も物憂げだったに違いない

コインを彼の手のひらに落としたと同時に
別れを決めた

100円が私の手切金となった

・・・・

そのあとを誘われたが、今日は帰ります、と言い
田園都市線に乗り込んだ

車内である言葉が私に降りてきて
私はメッセージアプリの彼の登録名を

"100円の男"に変更した

・・・・

100円の男の最後のメッセージは
(和食と洋食どっちがいい?)

19の小娘から振られる36の男の心情を
私なりに配慮して

私は勝手に男の前から消えた

それから
2ヶ月ほどして
ユーメと出会った
気楽でいい
割り勘にしたり、その時に応じて
ルールなどない

今日もユーメに抱かれたなら
一緒に
あのラーメン店でコッテリを食べよう


今夜は私の奢りだぜ

 

 

 

to be continued
③100円の男

 

 


わ ~messages~ ① ユーメ

2024-10-01 05:49:00 | HAMIRU
メッセージアプリを閉じた

ゆりかもめがユーメを運ぶ

お台場にいた
小中高とサッカーで心身を鍛えてきたユーメはフットサルチームに所属していた
練習を終えて帰宅の路を辿っていた

ゆりかもめから新橋で降車する
東海道線で横浜まで行って、京浜東北線で関内で下車する
そこから10分弱歩いたところにユーメが暮らすアパートがある

軽い振動を右の太腿が受信して、メッセージアプリを開く

「チッ、なんだよ」
(わかったよ、おやすみ)

そのままニュースアプリを立ち上げて、スポーツ関連の見出しをスクロールしていく

・・・・
SEXしたかったな
・・・・

ゆりかもめが新橋に到着して下車した
暗闇の中を行き交うスーツ姿を横目にしながら、烏森口の改札へ向かう
来年に迫った就職活動が脳裏をよぎり、フットサルで高揚した気分を湿らす

改札を通り京浜東北線へ向かった
東海道線の方が早く帰宅できるだろうが、彼女と会えないなら急ぐこともないから
乗換がない京浜東北線を選んだ

ホームに上がり視界が水色を捉えるのを待つ
程よく2,3分したころに、シルバーとスカイブルー の車両の足音がホームに轟き、停車した
この時間だし座ることができるほど空いてはいなかったから、乗り込んだ反対側のドアにもたれかかるように立った

頭をからっぽにして
車窓から見える景色を眺める
いつもの景色は代わり映えはしないが、落ち着くし、生活の一部だった
来年にはその車窓の風景にはネクタイをしている俺が移るんだろう
この変わり映えしない平穏の景色をリクルートブラックスーツが湿らしてしまうのだろうか
現実から逃げるように、目を瞑る


目を閉じながら、ハタチの欲望を乾かす
関内のユーメのアパートで彼女を抱いて、その後あのラーメン店まで散歩してコッテリを食べて、
彼女と手を繋いで家路を辿る
帰宅して風呂に入って、トコに着く
明日の学校は起きた都合で考える
ベッドの中で彼女の胸や太ももを弄りながら、心地良さの中でグッスリと夢を見る

そんなプランだったのに
彼女が今日来る筈だったのに

・・・・

関内駅に着いて田舎の親が借りてくれたアパートに向かって歩く
メッセージアプリを開いて
彼女にメッセージを送る
(いつ会える?)

やはり
SEXに会いたくて事を急いた
SEXの日取りをはっきりさせたかった
それによってマスタベーションのスケジュールを組まないといけない

前回試しに1週間我慢したら、

めちゃくちゃきもちかった

・・・・

メッセージを受け取ったイケルは
(土曜日会えるよ)

・・・・

4日後か

FullSizeRender

どうすればいいか
するのか、しないのか
右手の誘惑に悩み苦しむ
20歳の10月が始まった





to be continued
②イケル





馬花 98 MOTHER

2024-09-30 01:17:00 | HAMIRU

おじゃまします

面目躍如、誇らしげな表情でウサポが子供たちを引き入れた

娘がいる
この両腕の届く位置にいるのは、
赤子の時、
3ヶ月で手放してしまった
10年の月日が経っていた



あのヒトリボッチの男に娘を託した
私が執りなした決定なのに
なのに
アイツを恨んでしまった

私はいつも、うまくいかない


ミコルENからは
ミコルの他に
4天王からイシス
20団員の1人プルマ
そして
ミコルの左腕ロオド



右腕にはHANAがいるが
ツッパリスタイルで子供たちが怖がるといけないので遠慮してもらった
コワモテの見かけによらずスーパーが好きで、新鮮な野菜や鮮魚を見たりすることが趣味だった
しかし、いつもじゃがりこを買ってくる



「い、いはっしゃい」
声が震えた
いつも毅然とした態度のミコルが動揺した

四天王の中でも、あらゆる面において能力最上位のイシスがフォローする
「どうぞこちらへ」

3人の子供たちはリビングへ招かれた
「うわぁ」
お淑やかを決め込んでいたアユラが、本当の声を発した
そこは、ヨーロッパ調の家具、とりわけ北欧ブランドで揃えられたような煌びやかな世界だった
「うわぁ」
アユラのあとにユーリが続いた、声はユーリが視線した大きなスタンド鏡に反響して部屋を包むようだった
ルチカは注意深く部屋の中を見回した

(よく来たわね)
うまく声が出ない
ミコルは明らかな己の変調に焦りを感じた

「どうぞこちらへ」
イシスが場を取り持って、3人掛けのダークブラウンのソファへと誘う
大所帯のミコルENにはレトロ感を醸し出す木目のテーブルを中心に3人掛けのソファが4つ置かれている

子供たちがソファを背にして、左からユーリ、アユラ、ルチカの順番に座る
対面のソファに左からミコル、イシス、プルマが座った

ミコルの前にはルチカ
アユラの前にイシス
ユーリの前にはプルマ

ミコルは避けた
あの娘の正面に腰を据えてしまっては、私の尻は大量のボンドを罰ゲームで仕掛けられたようにベッタリとソファと一体になって、全ての行動を奪ってしまうだろう

ミコルが平常心を失っている様を自然と察知して
左腕のロオドがウサポの耳と耳の間を撫でた
「よくやりましたね」
「シッシ^_^」
早くミコルに褒めてもらいたい

プロタゴ軍団 20名
四天王 4名
ロオドとHANA
ミコル
もう一人ヨーロッパに修行中の人間が1人いる
計28名
世界の片隅の存在の者たちは皆がフォロー仕合い


生きている


・・・・

心情察知能力
プルマが震えている
心、とりわけその場にいる最も上位の者の心の状況が連動して出てしまう
プラマはそんな能力があって、この場ではミコルの心が伝わる
ミコルは緊張を必死で隠し取り繕うが、プルマが震えてしまう
ミコルENの民はプルマの様子を確認して、ミコルを知る



喜びも隠せない

・・・・

「ウサポの友達でしたね」
イシス
「うん、私のクラスに転校してきて。ね、ウサポ!」
「うん、アユラちゃん!」
上機嫌に跳ねた
「そちらのお嬢さんは」
「こっちはユーリで4年生、こっちがルチカ5年生」
真ん中に座っている2人が言葉を交差する
「そうですか。ウサポから聞いておりますが、皆さんハミルENのお子さんということで」
「そうそう、私たちはみんな生まれた時から一緒だから」
アユラが落ち着いてきて、少しばかりの余裕が生まれた。質問を返す
「みんなは?」
「うん、そうですね。私たちはみんなバラバラでしてね。そちらのミコルさんが我々を救ってくださってね」
「ふーん、そうなんだ」
ミコルがまだ落ち着かぬ面持ちで、左の口角を引き攣り上げた


「救うって」
言葉が刺す
「えっ」
ミコルは虚を突かれた
「えぇ救うっていうのは、我々は寂しい存在だったんですよ。それを1つにしてくれたんですよ。1人ずつが集まれば集合体になって寂しさは解消されるのは当然なんですけど。言うのは簡単で。実際にそれを実行する人間が必要なんです。我々には、なんて言いますかね、指導力とか推進力とか言いますかな、持ち合わせてないから可能ではないんです。
可能かつ事を為せる人物と出会えるかと言う」
イシスが落ちかけた我々を掬い上げた女の解釈を講じた
「優しさだろ」

えっ

「根底にあるのは優しさだ。リーダーシップとか主導力なんか言うのは二の次の筈だ。企業とか組織ならそういう資質が問われるだろうけど、此処が築こうとしているのは家族だから、優しさであり、MOTHERの器で皆が乗れる受け皿になること」

この子

ミコルは正面座る、少年を見つめた

少しこの子は危険かも知れない

・・・・

1年と半年が経った
令和6年に暦が移り
街は少しばかり樹木の葉が色を変えて
枯れ葉の趣きと長袖の腕まくりが散見される
季節は移り変わり

ルチカ!
アユラが追いかける

6年生になったルチカが
振り返る

あゝ、アユラか


もうすぐ中学生だ

・・・・

「親なんていらないし
 私を捨てた。
 ハミルENのみんながいるし
 私は幸せ
 妹のユリリが私の唯一の
 家族だし」


あの日
  流れ流れ着いた
   会話でユーリは話した


        ミコルは微笑を浮かべ、訊いた


    プルマの涙が止まることはなかった


        ・・・・・

 


        ひさかたに


        再会したり


        このははは


        葉は枯れようとも


        涙は枯れぬ