雨の記号(rain symbol)

uraKARA8話(4)




uraKARA8話(4)
uraKARA episode 8 (4)


 自分の勝利を読み上げられて、店長の伊知朗は来訪者に深々と頭を下げた。
 大きな拍手とともにどこからか「日本一!」の声もあがった。
 勝利に喜ぶ息子を見て父親はうなだれ、敗北の味を噛みしめた。そんな彼の気持ちを思って横で力なく見つめているギュリだった。
 味対決の緊張から解放され、伊知朗は外に出て前掛けをはたいた。それをたたんでいるところにギュリがやってきた。
「はい、食べてください。お父さんのアナゴ」
 息子は顔をしかめた。
「やめてください」
 ギュリの方を見ようともしない。
「どうして・・・!」
「あの親父ね・・・身体を壊したおふくろをむりやり調理場に立たせて、ずっと、アナゴの仕込みをさせていたんです。そんなもん、食べたいと思うわけないでしょう」
 そう言ってちらとギュリを見た。
「伊知朗さん。それは誤解です」
「何がです?」
「おかあさん、このつめ、とっても大事にしていました」
 伊知朗はギュリを振り返った。まっすぐ見た。
「えっ?」
「お父さん、言っていました。このつめ・・・おかあさんが毎日毎日煮出して、何年もかけてつくった我が家の秘伝の味だって!」
「・・・」
「それを伊知朗さんに伝えるのがお母さんの最後の願いだったって・・・!」
 ギュリの話を聞いて、伊知朗は部屋にいる父親の方を気にかけるようにした。
 ギュリは父親のつくったアナゴ寿司を彼に差し出した。
 伊知朗は皿の上からアナゴ寿司をつまんで口に運んだ。
 母親のつくりあげた秘伝の味が彼の口の中で溶けていった。母親の手作りの味を感じながら、細かく何度もうなずく伊知朗だった。
 彼のその表情に嬉しさを覚えるギュリなのだった。

 伊知朗は帰り支度をすませた。
 見送りにはギュリが一人立った。
「ギュリさん」
 玄関口で伊知朗は頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いいえ」
 ギュリは晴れ晴れとした声を返した。
 そんなギュリを見てためらうように彼は口を開いた。
「あの・・・」
「はい?」
「あの・・・もしよかったら、今度ぜひ、うちの店に食べに来てください。僕、心をこめて握りますんで」
 ギュリは嬉しそうにした。
「はい、喜んで! はい!」
「ほんとですか? やったーっ!」
 伊知朗はガッツポーズを取ったのだが、ギュリはすぐ後ろを振り返って叫んだ。
「お寿司食べに来てだって!」
 伊知朗はきょとんとした顔になった。
「えっ!」
 ギュリの声を聞いてニコルを先頭にみなが飛び出してきた。
「ほんとですか!」
「わーい! わーい! ほんとですか?」
 手を叩きながら伊知朗の前に勢ぞろいした。
「やったーっ!」
 すると笑いながら父親が奥から出てきた。
 父親は息子の前で言った。
「今日は完敗だ。お前のいう通り、いさぎよく俺は」
「親父!」
 息子はその先を制した。父親をしっかり見据えて言った。
「俺に・・・おふくろのアナゴ、教えてくれねえかな」
 ギュリは父親の方を見た。父親もギュリを見た。父親はこの時、ギュリが何かしてくれたことを感じたようである。
 二人は顔をみあわせ、うれしそうにおどけあった。
「あっははは」
 父親は伊知朗を見て言った。
「まったく・・・手間のかかる野郎だよ、お前は! わっははははは! はっはははは」
 息子は照れ臭そうにそれを受けるのだった。
 父と子のその様子を心から喜ぶギュリであった。
 二人は現れた時とは打って変わって仲よく引き上げていった。
 父親は息子と打ち解けた嬉しさを全身で表した。それをギュリに見せながら歌い、去っていった。
「ラーララ、ラララ。ラーララ、ラララ。ワンツースリフォーッ!・・・ドゥイン!」
 ギュリもそれを嬉しさで受け止め、ほっと息をついた。

 そして後ろを振り返ったら誰もいない。
 首をかしげながら戻ってみると、スンヨンやニコルたちは催しの後片づけをやっている。
「何、これ? どういう風の吹き回し?」
 みんな白の割烹着姿だ。
 全員、ギュリの前に駆け寄った。ハラが言った。
「ギュリ姉さん、思ったんだ、私たち・・・」 
 ジヨンが続いた。
「私たちは、もっと姉さんを見習わなきゃーって」
 スンヨンとハラがニコルを囲んだ。
「ねっ、ニコル」
 ニコルは手にお寿司の皿を握っていた。それをギュリに差し出しながら言った。
「はい、これ。ぜんぜん食べてないでしょ?」
 ギュリはニコルを見つめた。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
 ニコルは照れ臭そうにわびた。
「私・・・いつもわがままばっかりで・・・」
「いいのよ」ギュリは頭を振った。「私でよければ何でも言って」
「じゃあ、えーっと・・・」
「うん」
 ニコルはけろりと笑って言った。
「イヌ飼って」
 しかし、ギュリは受け付けない。
「絶対、ダメ!」
「どうして?」
「どうしてって、あなたたちで手一杯なのよ!」
 ジヨンがおどけて言った。
「じゃあ、ネコは?」
「やめてったら、もうっ!」
 ギュリは四人の前から急いで逃げ出そうとする。四人は連なってギュリを追いかけるのだった。
「ねえ、話を聞いてってばーっ!」



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