雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(144)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(144)


 
 クムスンは続けた。
「お金のことは――本当に知りませんでした。信じてください」
「・・・」
「それと――ずっと騙してたわけでは・・・本当なんです。そんなことできません。本当に義姉の問題が解決したらと・・・」
「だから――どうしようと・・・どうするつもりなの? どうしてフィソンまで連れてその人に会ってたの? 何を考えてるの?」
「もし・・・もしも・・・お二人が許してくれるなら・・・してくれるなら結婚したいです」
 黙って聞いていたピルトはクムスンを見た。
「そんな・・・結婚ですって?」
「はい」


 ソンランは買い物をして帰ってきた。リビングは暗い。ソンランが明かりをつけた。
「もう寝てるのかしら?」
 ソンランは義父母の部屋の様子をうかがった。
 何も聞こえない。
 クムスンのした話にショックを受け、ピルトたちは沈み込んでいた。

 ソンランはクムスンの部屋の戸を叩いた。
「クムスンさん、寝てるの?」
 部屋に入ってくる。
「返事がないから寝てるかと思ったわ」
「お義姉さん・・・」
 クムスンは姿勢を正した。 ソンランは腰をおろして訊ねる。
「何かあったの?」
「これ以上黙っていられなくてお話したんです――お話をしたんです」
「何を?」
「結婚したいと――彼と結婚したいと・・・」
「・・・」
「それなのに・・・お二人は何もおっしゃってくれないんです。怒りもせず、怒鳴ってもくれず――だから余計に・・・」
 ソンランはクムスンの手を取った。
「心配しないで――テワンさんが言ってたでしょ。夫がいるのに浮気したわけじゃないでしょ? あなたは若いのよ。いい人に会わないと」


 ジェヒは自分の仕事部屋(ドクタールーム)に顔を出した。自分の椅子に腰をおろし、思案に浸った。
 果たしてここへ無事戻ってこれるのかどうか・・・
 自分も自分だが、それよりさしあたっての問題がある。携帯をポケットから取り出す。
 クムスンへのメールを打ち始める。

――クムスン、大丈夫か。昨日、母さんが婚家に行ったと聞いて心配で仕方がない。お前や家族に謝罪をしに駆けつけたかったけど、余計に苦しめるかと思ってやめた。お前がとても心配だ。

 ジェヒは帰宅した。
 ミジャが出て来て言った。
「包帯はずすだけなのにずいぶん帰りが遅いのね。電話くらいしなさい。どう?」
「・・・」
「どうなの? 悪いの? 深刻なの?」
「なぜ婚家に行ったの? 母さんを理解しようと努力した。でも分からなかった。人には守るべき境目がある」
「・・・」
「母さんには常識や道理はどうでもいいの?」
「・・・手はどうなのかと聞いてるわ」
 ミジャはジェヒを睨む。
「本当に最後まで・・・」
 ジェヒは部屋に入っていった。
 ジェヒとの根競べにミジャは大きくため息をついた。


 クムスンの切り出した”結婚”の言葉が頭を離れず、ピルトは暗い部屋で寝付けずにいる。
 ジョンシムも同じだった。
「もう寝ないと――寝ないのか?」
「・・・」
「じゃあ、俺は先に寝るとする」
 ピルトは横になった。しかし、ジョンシムは身体を起こしたままでいる。
 眠れないのはクムスンも同じだった。暗い部屋でじっと考えに浸っていた。
 クムスンは携帯を手にした。
 ジェヒからメールが届いていた。

――俺だよ。メールは確認できるだろう? 食事はちゃんとしてるか? 息はできているの? 何もできないのがとても苦しいんだ。1人で頑張ってるか? フィソンの母親だから大丈夫だ。とても会いたい。

 クムスンはジェヒの言葉を胸に抱きしめた。


 ピルトがジョンシムを探しにリビングに出てきた。
 キッチンにも顔を出す。 クムスンらは目を見合わせた。
「ジョンシム」
 トイレにも声をかけ、クムスンたちにも訊ねかけてきた。
「ジョンシムを知らないか?」
 ピルトは玄関のドアを開け、庭先も覗く。
 クムスンらはピルトのそばに歩み寄った。
「お部屋にいないんですか?」
「だから捜してる、起きたらいなくて」
「出るのを見てません」
「こんなに早く・・・いつ出かけたんだ」
 ピルトはクムスンを睨んで部屋に引っ込んだ。ジョンシムの携帯に電話を入れた。
 しかし、交換手の声が流れ出て携帯はつながらない。

 ジョンシムは早朝の人ごみの中を歩いていた。街中を抜け、河沿いの通りを歩いた。


「結婚? 本当か?」
 ソンランの報告にシワンは驚いた。
「ええ。結婚は当然の話だと思ってたけど」
「・・・」
 ソンランは腕を組んだ。
「彼女の性格で恋愛だけすると思った? 3年も一緒に暮らしてまだ分からない?」
「・・・」
「本当にショックなのね――ショックなのが私はショックだわ。一生、彼女と暮らすつもりだったの?」
「そんなんじゃない」
「ならいいけど・・・」
「・・・」
 ソンランもベッドの縁に腰をおろした。
「でも――強引な拘束じゃないと合理化してるんじゃない? 行き場がないのを知ってて、抑えつけなくてもどこにも行けないと分かってた。違う? だからショックなのでは?」
「・・・」
「違うならいいのよ――シャワーを浴びる」
 ソンランは腰をあげる。
「今日は一緒に家を探せるわよね?」
「もちろん一緒に行くよ。一緒に出よう」
「ありがとう」
 シワンはテワンの部屋に行った。
 ベッドに寝そべっていたテワンは身体を起こした。
「お前は聞いたか?」
「何を?」
「クムスンさんが結婚したいと言ったそうだ」
「何かと思ったらそれで母さんが早朝に家出したのか」
「知ってたのか?」
「何となく・・・」
「いつから?」
「少し前だ」
「なぜ知ってる?」
「偶然に何度か・・・説明は難しいんだ」
「何をしてる人で年齢は? 知ってるのか?」
「はっきりは分からないがそんなに若くないと思う。兄さんくらい? それに医師だ」
「未婚か? それともバツイチ?」
「おそらく、未婚だよ」
「・・・」
「気分悪いだろ?」
「・・・」
「どっちであれ、俺も複雑な心境だった」
「・・・」
「だけど、仕方ないだろ。ジョンワンは死んでいないんだし――あいつには悪いが」
 テワンは頭に手をやった。

 ピルトはもう一度、ジョンシムに電話を入れた。
 やっぱり電源はオフだ。
 ピルトは上着を手にして部屋を出た。
 クムスンとソンランは食事の支度をしていた。
 クムスンが訊ねた。
「お出かけですか? 食事の用意が出来ました」
「今から出かけるけど、母さんが来たら、すぐ連絡しろ」
 ソンランに言いつける。
「お義父さま、でも――食事をなさってからお出かけください」
「いや、いい」
「行ってらっしゃい」
 クムスンを一度も見ず、ピルトは車で出かけていった。

 河面に浮かぶ舟を眺めてジョンシムは座っていた。

 ピルトはジョンワンの墓所へやってきた。遺影と対面して涙を流した。


「どうして電話に出ないのよ」
 ジョムスンはクムスンに電話がつながらず苛立った。
「すぐには出ませんよ。10分前もダメだったでしょ」とスンジャ。
「心配だからよ。電話がつながらなければどんな状況なんだか心配するのは当然でしょ」
「うまくいきますから心配いりません。クムスンは頑張って生きてきたんです。フィソンのために夫もなく婚家に入り、つらい同居生活をしました。真夜中に子供をおぶい、あの細い身体で青汁配達をしました。本当に苦労をした子です。幸せになりますよ」
「珍しくまともなことを言ってるけど、急にそんな風だと言葉が出なくなるわ」
「お義母さん――私は口に出さないだけで心の中でそう思ってたんです。言わなくても当然です」
「口だけは確かに達者よね。妊娠もしたしいいことよ。それなら心持ちのいい子が生まれるわ」
「そうです。胎教としてもこれからはすべてを肯定的に、そして美しく見るつもりです」
「ああ、いい心がけだわ。で、なぜ急に編み物を?」
「胎教としてです。指を多く動かすと賢い子になるそうです」
 そこにサンドとクマが帰ってきた。
「言われた物を買ってきたけど、かぼちゃはなかったわ」とクマ。
 サンドはスンジャのために、アーモンド、くるみ、松の実、干しブドウなど胎教食品を買ってきた。
「何ですって?」と呆れ顔のジョムスン。
「だから探し回ってたのね」と笑うクマ。
「ほら、これを一つ食べてみろ」
 とサンド。

 買い物をすませてヨンオクは帰ってきた。
 インターホンを押した後、こちらに向けて歩いて来るミジャに気付いた。
 ヨンオクは頭を下げた。
「挨拶はけっこうです」とミジャ。「ジェヒが包帯を取ったわ」
「・・・具合はどうですか?」
「聞くまでもないのでは? 今年の専門医試験は無理よ。他の人だったら訴訟を起こすと思うわ。今までの親交から我慢するの」
「すみません・・・本当に申し訳ありません」
「申し訳ないならクムスンを説得して。先週はうちに来たんです。許可してくれと――どうお思いです? いくら学んでないからとこれは図々しすぎるでしょ?」
「・・・」
「いいえ。それ以上に――子持ちなのも驚くけど、いくら血縁でなくてもウンジュの交際してた男だわ。いくら好きでも事実を知れば別れるわ」
「私が勧めたんです」
 ミジャはウンジュを見る。
「私がジェヒさんの怪我を知らせました」
「何ですって?」
「院長の立場は分かります。彼には釣り合わないわ。だけど――母の前でクムスンを侮辱するのは困ります」
「あなた」
「わかります。私もずっとジェヒさんが好きでした。でも彼は彼女を選択したんです。仕方ないんです」
「ジェヒの手の怪我は誰のせいだと? よくも私の前でそんなことを・・・」 
「・・・」
「まったく――あきれてしまうわ」
「・・・」

 ジェヒは粘り強くリハビリに励む。自分のためにクムスンのために右手を温め続ける。
 
 
 家族からいくら冷たい目を向けられても、クムスンはいつものように家事をこなし、掃除に励んだ。フローリング床を雑巾がけしている時、テワンが二階から降りてきた。
「お義兄さん、何か必要で?」 
「けっこうです」
 テワンは冷蔵庫の方に向かおうとする。
「お義兄さん」
「・・・」
「お義兄さん――以前のように気楽に話してください」
「・・・」
「ダメですか?」
「話したんでしょう? 結婚すると・・・なら礼儀を守らないと」
「・・・」


 ジェヒはフィソンの保育園にやってきた。
「何の用ですか?」
 保母(保育士)さんが訊ねた。
「こんにちは。フィソンに会いに」
「フィソンですか。分かりました」
 ジェヒは部屋に通してもらった。
「フィソン」
 フィソンはすぐジェヒのそばに駆け寄る。
「俺を覚えてたか?」
 フィソンはペコリと挨拶する。
「こんにちは」 
「あはっは――俺を覚えていたんだな。ああ、当然だな。もうすぐ父親になるんだ」
「・・・」
「どうした?」
 ジェヒは手元を見る。
「ああ、手? 変わったか?」
「はい」
「もうよくなった。痛くない――フィソン。そんな意味で俺たち強く抱き合ってみる? 前は手が届かなかった。どうだ、いいだろ?」
「はい」
 フィソンはジェヒに抱きついた。
「ねえ、フィソン。おじさんが治った記念に”パパ”と言って。”パパ”」
「・・・」
「そうか。ゆっくりでいいさ――フィソン、何していたんだ? 友達と」
「はい」

 ジョンシムはフィソンを迎えにやってきた。
 そして滑り台のところで遊んでいるフィソンとジェヒを見た。
「今度は何して遊ぶ?」
 ジェンシムは急いでフィソンのもとへ歩み寄った。いきなりフィソンの手を握る。
「おいで」
 ジョンシムに気付いてジェヒは丁重に挨拶する。
 ジョンシムはジェヒを睨みつけた。何も言わずフィソンの手を引いてジェヒから離れた。

 
 ジョムスンはクムスンのことが心配でノ家の前までやってきた。
「どうしたら・・・気にせず呼び鈴を押したらいいかな? 理由が分からないから対策も立てられないわ。お金のことで問題が起きたのかしら?」
 そこにジョンシムがフィソンの手を引いて坂道を上がってきた。
「これはお義母さん、お元気でした?」
 ジョムスンはジョンシムのもとに歩み寄る。
 ジョンシムはジョムスンの目を避けるように挨拶を返す。
「お変わりありませんでした? とおりすがりで・・・」
「それじゃ失礼します――行くわよ、フィソン」
 目を合わせないままジョンシムはジョムスンの横を通り過ぎていく。
「あの・・・お義母さん、お義母さん、お義母さん・・・」
 ジョンシムは無視してずんずん行ってしまう。
「あらあら、まあ、それで・・・」
 ジョムスンは門まで二人を追いかける。
「フィソンが大きくなりましたね」
 フィソンの手を取るが、すかさずジョンシムの手が伸びる。
「フィソン、おいで」
 ジョムスンから毟り取るようにフィソンの手を引く。
「あの、お義母さん」
「何の話か存じませんが、今日のところはご勘弁を――入りましょう、フィソン」 
 ピシャリと門は閉まった。
「いったい、どういうことなの・・・」

 ピルトは先に帰ってきていた。
 シワンとテワンに訊ねた。
「連絡もないのか?」
「ありません」
「父さん、あそこへは行って見ましたか?」
 その時、ソンランの声が聞こえた。
「お義母さん、お帰りなさい」
 ピルトらは部屋を出た。
「おお、帰ったか」
「クムスンは?」
「浴室で洗濯をしています――クムスンさん、お義母さんが戻られたわ」
 クムスンはすぐ飛び出してきた。元気な声でジョンシムの帰りを迎えた。
「お帰りなさい」
 ジョンシムは強い口調で言った。
「あなた、すぐ出て行きなさい」
「・・・」
「フィソンを置いて行くの」





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