韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(158)
「ママ・・・」
クムスンはつぶやくように言った。心の奥でずっと凍り付いていた言葉だった。母親の愛情がそこまで伝わり、溶かしたのだった。
ヨンオクはクムスンを見つめ返す。
「私の・・・母親なのよね」
胸がつまり、ヨンオクは言葉が返せない。
「私のママでしょ? 答えて」
「ええ」
ヨンオクの口もとから白い歯がこぼれる。クムスンの手を強く握った。
「私があなたの母親よ」
「初めて叔母さんから話を聞いた時は――眠れなかった。そして見に行った時、どう思ったか分かる?」
「・・・」
「ああ・・・”きれいな人だ”。”天使みたい”」
「・・・」
「昔から・・・どんな顔してるのか気になってたから――どんな人なのか・・・私と、どこが似てるのか・・・だけど、こんなに若くて美人だとは思わなかったわ。だから・・・間違いだと思った」
「・・・」
「でも本当よね。私は娘なのよね」
「ええ・・・私があなたを産んだわ。私が――私が産んだわ」
「・・・」
「どう謝っても・・・償えないと思う。言い訳にしかならない」
「・・・」
「でも・・・残された人生は私に尽くさせてほしい」
「・・・」
「どう頑張っても――ムダでしょう。犯した罪は・・・許されないはず」
「いいえ。もうそんなことは言わないで。そう謝られるほど――ママを遠く感じてしまう」
「・・・」
「ただ・・・罪悪感しかないように思えて」
「いいえ、そうじゃない。信じて。違うの。今からでも・・・お前と一緒に住みたい」
「・・・」
「欲を言えば――嫁がせたくない。少しでも・・・あなたやフィソンと過ごしたいのよ」
クムスンの目は潤んでくる。
「一週間でも――私が作ってあげた温かい食事を出したい。きれいな服を着せて――その美しい髪の毛をとかしてあげたいとも思う」
ヨンオクの目からは涙が流れ出している。
「帰りが遅い時は――バス停まで迎えに出る。ベッドに横になり――夜通し話もしたい」
クムスンは頬を伝う涙を手で拭った。
「どんなに会いたかったか・・・私は・・・忘れなかった」
「私も会いたかった。中でも――いつが最も会いたかったと思う?」
ヨンオクはにっこりして答える。
「フィソンが産まれた日」
「・・・どうして分かったの?」
「だって、あなたは私の娘だもの」
クムスンの目からは後から後から涙が流れ出る。
クムスンと会って帰宅したヨンオクの気分は晴れやかだった。
ウンジュが食堂に入ってくる。
「ウンジンも来るわ。昨日、ママが怒った効果かもね。よくなったみたい」
「私もそう思ってた――どうぞ。ウンジュも」
「クムスンに会ったのか?」
ウンジュをちらと気にし、ヨンオクは答える。
「ええ。あの娘、ジェヒさんと結婚するそうよ。院長が許してくれたと」
「そうか。よかった」
「クムスンが・・・結婚するのよ、ウンジュ」
「ええ・・・よかったわ」
「・・・」
前方にクムスンを見かけてテワンはクラクションを鳴らす。車を横付けする。
「お義兄さん・・・」
「乗れ」
クムスンはすぐ後部席に乗り込む。
テワンは車を走らせない。
「何か?」
「なぜ、後ろに乗る?」
「・・・」
「クムスンさん、前の席に座れよ」
「このまま出してください」
テワンは黙って車を降りた。後部席のドアを開けた。
「降りて前に座れ」
「・・・」
「いつまで続ける気だ。彼も知ってるのか?」
「知ってます」
「なおさら吹っ切らなきゃ。早く降りろ」
「・・・」
「お前のせいじゃないんだぞ。だけど、罪悪感が残ってるのなら――今日、この車の中に置いていけ」
クムスンはテワンを見る。
「ジョンワンだってきっと喜ぶはずだ」
テワンはクムスンの手を引いた。
クムスンは後部席から降りた。テワンの指示に従い前の席に乗った。
「シートベルトだ」
テワンは運転席に乗り込む。
「出すぞ」
車が走る間、クムスンは助手席でジョンワンのことを思い出していた。
テワンはCM単独出演の契約を結んで帰ってきたのだった。
家族5人でお祝いの乾杯になった。
「テワン、おめでとう」とジョンシム。「ついにCM界のスターね」
ご満悦のジョンシムにピルトは横で言った。
「気持ちは分かるがあんまり先走るんじゃない」
「何おっしゃるの。今日だけは大きな夢を見ていい気分に浸りたいのよ。テワン、嬉しいわ」
「でも、本当の狙いは金だろ。どうぞ」
テワンは白い封筒をジョンシムに差し出す。
「はした金でしょ」
「すごいことを言うな」とピルト。
「新人にしては多いと思う」とシワン。
「言ってみただけなのにみんなして何よ――おめでとう。これなら多い方だわ――クムスンは黙ってるけど嬉しくないの?」
「違います。言葉が出ないんです。とても嬉しくて――それに何よりいいと思うのは――私が家を出た後もテレビで会えることです」
ジョンシムとピルトは微笑を向け合う。
「お義父さま・・・お義母さん・・・感謝してます。それに申し訳ありません」
「何を言い出すのよ」
「・・・」
「それでも、嫁がないとは絶対に言わないのね」
「・・・」
ピルトは含み笑いする。シワンもテワンも笑い出す。
「やっぱり、結婚はしたいです。すみません」
「まいったな、もう」とジョンシム。「泣かせないでよ。涙が出そうになるでしょ」
「お義母さん・・・お義父さん・・・そこで、私――考えたんです。フィソンが・・・フィソンが第一ですから、彼を父親だと思わせるのが――1番です。「・・・」
「すみません。成長するまで――そうします」
「ああ、だからそう言っただろ。すんだ話だ」
クムスンは涙を流す。
「クムスン・・・もう泣かなくていい。気持ちは分かる」
「でも私は――フィソンが高校を出たらすべてを話します。本当の――父親が誰なのか、どんな人だったか――誠実で・・・温かい人だったこと、すべて話します。ただ――お義母さん・・・お義父さま・・・私を娘にしてください。お二人に会えないなんて想像も出来ません」
ピルトはクムスンを見る。
「そしたら・・・フィソンをここに連れてこられます。どう考えても――あの子を連れてくる方法はそれしかないと思うのです」
「・・・」
「お義母さん・・・お義父さま・・・お願いします。ジョンワンの分まで孝行する約束です。それを守らせてください」
「・・・」
「お義母さん・・・私に娘になれと言ったでしょ。社交辞令でした? お義父さま・・・」
ジョンシムはピルトを見た。
「あなた・・・どうするのよ。老い先短いから娘なんかごめんなのに・・・」
「お義母さん・・・」
「そう思うのならもちろん俺も・・・」
「お義父さま・・・」
「まったく・・・もううちにかかわっちゃダメよ。彼が嫌がると思うわ」
「お義母さん・・・お義母さんもフィソンと会わずには生きられないでしょ。私もお二人とは離れられません」
「クムスン、気持ちはわかるが・・・」
「お義父さま・・・この3年間、ずっと頼ってきたんです。じつの父親だったらどんなにいいだろうって、何度思ったか・・・」
ピルトは苦笑した。
「ひどいことを言ったのに、それでも変わらんのか?」
クムスンは首を横に振った。
「そんな覚えはないんですけど」
ピルトは呆れたように笑った。
「こっちへ来なさい」とジョンシム。
クムスンはジョンシムの腕の中に身体を預けた。
「何て、バカな娘なの・・・」
ジョンシムをクムスンを抱きしめる。
「すべて忘れて生きなさい。私の娘・・・」
「お義母さん・・・」
クムスンはジョンシムの腕の中でまた涙を流した。
ソンランはシワンに言った。
「間違っていたわ。ウジュに会いに北京へ行くべきだった」
「だけど、あいつが話したのは、心をひらいた証拠だ。俺が思うに、ウジュは打ち解けてきてる」
「そうかしら――客観的になれないからよく分からない」
「ソンラン――ウジュじゃなくお前の方が問題だ。子供への罪悪感であたふたしてるだろ。ウジュは子供なんだぞ。母親らしくしろ」
ソンランは1人で考え込んだ。
夜中、雷が鳴った。
ウジュはベッドに上がることができない。雷が怖くておしっこをもらしてしまったのだ。
悩んだあげく、ウジュは布団を引っ張って洗濯場に向かった。親に知られないようにそっとだ。明かりの消えたリビングに母親がいたのにはもちろん気付かなかった。
ソンランは何事かとウジュの後に従った。
洗濯場兼風呂場に入っていくとウジュはバツの悪い顔になった。
「オネショしたのね」
「・・・」
「大丈夫よ。まだ幼いんだから。ママも小5まではしてたんだから」
「僕は違います。入学して初めてです」
「・・・そうなの? だけど、この洗濯機に布団は入らないわよ」
「どうすればいい?」
「洗うしかないでしょ。ほら、まくって」
「裾をまくるの。自分で洗わなきゃ」
ソンランは風呂の浴槽で布団を洗うことにし、ウジュにも手伝わせた。お湯に洗剤を入れ、足で踏んで洗うのだ。
「こうして、力を入れて踏むのよ」
ソンランが先に足で踏んで見本を示す。一緒にはしゃいで踏んでいるうち、ウジュはソンランに打ち解けてきた。
我に返って黙ったウジュの頭をソンランは撫でた。
ソンランはウジュのベッドに新しい布団を敷いてやった。
「これでいい。ほかに何かある?」
「いいえ・・・」
「じゃあ、遅いから寝て」
ソンランが部屋を出ていこうとしたら、再び雷が鳴り出した。ウジュは思わずソンランの懐に飛び込んだ。
「怖いよ、ママ」
この時、ソンランは思い出した。
この子が小さい時、こんなことがあった。
ソンランは膝立ちになり、ウジュを強く抱きしめた。
「大丈夫よ。怖くなんかない」
ウジュを見て言う。
「大人ぶっといて相変わらずね。昔も雷が苦手だった」
ソンランはウジュを抱いてベッドに運んだ。ウジュはソンランを離さなかった。
「じゃあ、問題ね――最初に光ってから音が鳴る理由は?」
「あれ? 何だったっけな・・・」
「知らない?」
「ちょっと待って――知ってたのに・・・何だっけ」
「知らないのね。教えてあげようか?」
「いいよ。分かるから――何だっけ?」
ソンランは愉快そうに笑う。
「知らないのね」
朝早くノ家のインターホーンが鳴った。
「誰かしら・・・」とジョンシム。
テワンが応接に出た。
「どなた?」
門を開けると顔を見せたのはジェヒだった。
「朝から何の用です?」
「食事をいただきに」
テワンは呆れた。
「突拍子もない奴だな。ともかく、入れば」
テワンは先に戻っていく。ジェヒは舌打ちする。
「相変わらずタメ口か――俺の方が年上だってのに」
「食事しに来たって」
テワンが家族に説明する。
クムスンは呆気に取られ、言葉もない。
ピルトがジェヒを促した。
「それじゃあ、座って」
「クムスン、食器を」とジョンシム。
一礼してジェヒは円卓の前に腰をおろす。
「フィソン――よく眠れた?」
「はい」
ピルトとジョンシムは黙って顔を見合す。
「実はいい考えを思いついたもので――お二人に無理を言いにお伺いした次第です」
「・・・」
「お願いします。彼女が娘になれば、僕は娘婿ですから――フィソンに合わせられます」
「・・・」
「それと――こうします。当分、僕が父親としてフィソンを育てます。ですが大学に入学するときには――ジョンワンさんのことなどを話したいと思います」
食器を取りにいったクムスンはジェヒの話に足を止める。
「その話はクムスンから聞いたよ」とピルト。「2人で相談したのか?」
「いいえ。クムスンさんに相談したことはありません」
「・・・」
「じゃあ、彼女も同じことを言ったんですか?」
「2人は考えが同じなのね」とジョンシム。「縁があるようだわ――どうしたの。早く来て座りなさい」
「ということは」とテワン。「彼は俺の妹婿だよな。クムスンさんはタメ口でいいのか」
「今までも・・・そうだけど」
「何だと? 目下のくせに」
「・・・です」とジェヒ。
「じゃあ、呼称については分かるよな」
ジェヒの横で心配そうにするクムスン。
「はい」とジェヒ。
「何だ? 呼んでみろ」
「お義兄さん・・・」
ピルトはおかしそうに下を向き、ジョンシムはやりとりを微笑ましい表情で眺めている。
「まさか本当に言うとはな――意外と適応性がある。しかし、まだ父が認めてないんだ」
ジェヒはピルトに切望した。
「どうかお許しをください」
「どうかな」とピルト。「とりあえずメシにしよう。食いっぷりを見て考えるよ」
「はい。わかりました。ありがとうございます。ではいただきます」
「スープを分けてあげて」とジョンシム。
「はい」
ジェヒはクムスンを制した。
「一緒に食べますから」
クムスンは意外そうに言う。
「先生は他人とは食べないでしょ」
「そんなことない。食えるよ」
ジェヒは鍋にスプーンを伸ばした。スープをすくって口にした。
「お母さんの手作りはうまいです」
ジョンシムは笑って答えた。
「クムスンが作ったのよ」
食事を終えジェヒは玄関を出てくる。クムスンも出勤スタイルで出てくる。
ジェヒは不機嫌な顔をクムスンに向けた。
「全然、フォローしなかったな」
クムスンはクムスンで不機嫌だ。クマの恋人にいいようにあしらわれたことが不満でならない。
「年下に対して”お義兄さん”って何なのよ」
「おい、感じ悪いぞ」
「プライドゼロね」
先にたって歩き出す。
「白菜、待てって」
「早く来てよ。カットのテストなの」
ジェヒは愚痴を並べた。
「まったく、身を削ってるのも知らないで・・・」
クムスンはカットの試験に臨んだ。
「髪の分け方に加えてはさみの使い方、時間内に乾かせるか、そして全体的なスタイル、以上、4つで採点されて80点以上が求められます。いいわね。まずはグラデュエーション次はレイヤーよ。準備――スタート」
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