韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(97)
ヨンオクは、自分から顔を背けたり背を向けたりするクムスンが気にかかって仕方がない。外に出てきてからも中にいるクムスンの姿を追った。
「ママ、どうしたの?」
「気になるの」
「ナ・クムスン?」
ヨンオクは頷くようにまた店内を見やった。
「旦那さんのことを聞いたから?」
「・・・」
「気にしないでいいわ。ママが思うようなか弱い娘じゃないから。本当は腹黒い人なの」
「・・・」
「子供のことも隠してた」
しかし、ヨンオクにはそんな風に見えないのだった。
「行きましょう。早く乗って」
頷きながらもヨンオクはまだあの娘を気にした。
車に乗るとウンジュが言った。
「食事して行こう。私がおごるわ」
「いいえ。病院に送ってくれる?」
「具合が悪い?」
「うん。少し横になりたいの」
キジョンの部屋にヨンオクの主治医が顔を出す。
「何度も考えたが・・・無理だ」
主治医は怪訝そうにする。
「お前の言うことは正しいと思う。だが、原則通りにいかないこともある」
「・・・」
「俺もこんな自分が嫌だよ。ほんとに嫌だ。ゾッとする。見知らぬ妻の実子に頭を下げて頼み込んだ。人でなしさ――分かってるが、家族を・・・自分の家族を守りたいだけだ。間違ってることは百も承知だよ。だが、仕方がない。今の俺には、原則なんかより家族が大事なんだ。ミノ、妻を助けてくれ。ショック状態になり、危険と隣り合わせの妻を――眺めながら過ごす心情がお前に分かるか。期限が決ってる方がよっぽどマシだ。無事、透析がすむと、次の透析がまた心配になる」
「・・・」
「そうさ・・・俺は罰が当たるだろう。間違いない」
キジョンは主治医を見た。
「ダメか? この通りだ。協力してくれ」
仕事を終えて、シワンはソンランに電話を入れた。
「俺だ。一緒に帰るか?」
「駄目だわ。今日は約束があるの」
「そうか。遅くなる?」
「分からない。後で電話する」
シワンは電話を切った。帰宅しようと車に乗りかけたら携帯が鳴った。
ご無沙汰の友人からだった。
ウンジュは病院の廊下でジェヒと顔を合わせた。
歩み寄ってジェヒは訊ねた。
「一時退院だとか・・・」
「今日だけよ。戻ってきて休んでるわ」
「そうか。大変だな」
「そうでもない。私は行くわね」
ジェヒは呼び止める。
「実は話があるんだけど」
ウンジュはいやな予感がする。
「今、時間はあるか?」
「無理よ。約束があるの」
「そうか・・・いつならいい?」
「さあ・・・私から電話するわ」
「わかった。必ず電話くれよ」
「ええ。じゃあ」
二人は歩きすぎる。
少し歩いてウンジュは立ち止まった。ジェヒを振り返った。ジェヒは振り返りも立ち止まりもせず淡々と歩いて行く。
シワンは友人に呼ばれた場所へやってきた。懐かしい顔ぶれが揃っている。
手を振ってそこへ向かいかけたシワンは別のテーブルにソンランの姿を見かけた。見知らぬ男と一緒だ。しかも親しそうな様子である。
「驚いたわ。早くても来年になると思ってたの」
「真っ先に電話したよ」
「光栄だわ」
シワンは二人のそばにそろそろと歩み寄った。
「現地の状況は?」
シワンはソンランに声をかけた。
「シワンさん」
ソンランは”あれっ?”という顔をする。しかし、後ろめたい表情でもない。
「どうしたの?」
「友人に呼ばれてやってきた」
「そうなの」
シワンの硬い表情に、ソンランは同席の男を紹介しようとする。
「挨拶して――彼はドンソクさん・・・」
すかさず男は立ち上がった。
「初めまして、ハン・ドンソクです」
キビキビした所作で握手を求める。
ソンランをちらと見てシワンは求められるまま手を差し出す。
「ノ・シワンです」
「よろしく。どなたです?」
「私の夫です」
「ご主人? 結婚したのか?」
「うん。少し前にね」
「そうか。連絡くれなかったからな」
「ドイツから来られた?」
「おめでとうございます」
「ええ、どうも」
ソンランは相手を紹介する。
「大学院時代の同期で、ドイツ留学から一時帰国中よ――それで、お友達はどこ?」
「うん、向こうだ」
「ご一緒にどうです?」とハン・ドンソク。
シワンは断り、二人を気にかけながら友人たちのところに向かった。
テワンはクマに電話を入れた。
「元気か――仕事は?」
「明日から」
「なら、今夜会おうか?」
仕事を終え、ジェヒは車に乗り込んだ。ジェヒの車をウンジュはマークしていた。ジェヒの車が駐車場を走り出ていくとウンジュも車のエンジンをかけた。尾行を開始した。
ジェヒの車を尾行しているうちウンジュの表情は次第に悲観的になってくる。ジェヒの車は美容室に向かっているようだったからだ。
その通り、ジェヒの車は美容室の前に横付けされた。
店の中ではクムスンが一人、暗い表情で椅子に座っていた。
ちょうどよかった、とばかりジェヒは車をおりた。店の中に入っていった。
クムスンは帰ろうとしていた。
「やあ」
ジェヒは手をあげた。
「・・・」
「挨拶ぐらいしろ」
「・・・」
「夕食はまだだろ。ごちそうするよ。行こう」
クムスンは暗い表情と投げやりな口調で言った。
「・・・夕食はけっこうですから、2000万貸して」
そのままジェヒの横を通り過ぎようとする。
「叔父さんの示談のためか?」
「・・・」
「図星か」
「少なくないか? もっと高額だったはずだが」
クムスンは振り返った。厳しい顔になった。
「どこまで聞いて、どこまで知ってるのよ」
「・・・」
「話してよ。どこまで知ってるのか話しなさい。他人の話を盗み聞きするなんて悪いヤツ!」
「・・・」
ウンジュは店の前に車を近づけた。そこから店内に目をやった。
やっぱりだった。向き合っている二人を見てウンジュは落ち込んだ。
やがて、店の明かりは消えた。
店を出てきたクムスンはジェヒを無視する勢いで通りをそそくさ歩き出していく。ジェヒはその後に続いた。
二人は屋台の店に立ち寄った。ジェヒだけが酒を口に持っていった。
「もっとあるなら話してください」
「さっきので全部だ。他にはない」
「・・・」
「本当だよ。ないさ。示談金と移植の話を聞いたのさ。だからって別に恥ずかしがることはない。まあ、俺だとしても聞かれたら恥ずかしいが」
「・・・」
「口外してないから安心しろ」
ジェヒはグラスを握った。
「乾杯」
「・・・」
「少し飲めよ。酒の力を借りるのも悪くない」
「・・・」
「手の立場がないだろ。乾杯してくれよ。話をバラすぞ」
クムスンはジェヒを睨みつける。
「気まずいから一人飲むよ」
少し飲んでジェヒは言った。
「しかし、お前って鈍いんだな。母親が死んだなんて嘘を本気にしてたとは」
「・・・」
「俺は気付いたぞ。俺にY染色体をくれた人がどこかで生きてる」
「・・・」
「まさか・・・”Y染色体”云々の部分が理解できないわけじゃないだろ?
一般的には父親と呼ばれる人だ。俺も父親がいないよ。死んだんじゃなくて、いない。婚外子さ」
「・・・」
「いわゆる不倫の種で――ひどい言い方すれば妾の子だな。朝鮮時代だったら”庶子”と呼ばれた。父や兄がいても――堂々と名乗れない”ホン・ギルトン”さ。”ホン・ギルトン”――知ってるだろう? 俺も母親や叔母に父親は死んだと言われた。でも、変なんだよ。父親の話をする時の表情などに――死者への思いがないのさ。生きてる誰かを憎み、嫌うような――そんな雰囲気・・・親戚に会えないのが決定的だよな。父親が死んでも、親戚はいるはずだろ。普通なら俺のところに会いにくるはずが――誰も来ないんだ。おかしいと思うだろ? それで気付いたよ。ああ、俺はホン・ギルトンで――母は不適切な関係をしたと」
「・・・」
「だから、俺の前では怒ったり恥ずかしがったりするな。俺も同類だ」
「・・・」
自分のことをみんなクムスンに話して、ジェヒは気持ちもすっきりしたようだった。
「さあ、改めて乾杯を」
「・・・」
「おい、白菜。お前、ほんと頑固だな。俺ならもう許してるぞ」
屋台にいる二人を見て、ジェヒの楽しそうな顔を見て、ウンジュは絶望的な気分だった。
クムスンはバス停のところへやってきた。
しかし、ジェヒはそこにもついてきた。
「まだ尾行するつもり?」
「ああ」
「やめてください。ただでさえ、複雑なの。頭が破裂しそう」
「確かに。俺でも破裂してるはずさ。だから、ひと言だけ発すればいい」
「”許すわ”と」
クムスンはジェヒを見た。
「すると・・・妹さんの話は嘘だったわけ?」
「・・・そうだ」
「よくもあんな嘘を」
「気があるのがバレちゃうだろ」
クムスンはジェヒをじっと見る。
「許してくれるな」
クムスンは答えた。
「分かりました」
ジェヒは微笑んだ。
「ありがとう――金の件は?」
「何でもありません」
「示談金か?」
「違います」
「必要だったら貸してやるぞ」
「けっこうです」
「示談金は用意できたのか? 力になれることはないか?」
「ありません」
「解決したのか。俺じゃダメなのか?」
「両方です」
「・・・よかったな。まさか、妙なことを考えてないよな」
「・・・」
「絶対にダメだ。信じてるぞ」
さっきからクムスンはずっと腕を組んでいる。ジェヒに対し、以前の白菜に戻ったのだ。クムスンは突っ張って言った。
「その話はやめて」
クムスンの許しを得て、ジェヒも気分はよかった。
「わかった。その気持ちはわかる――白菜」
クムスンは振り向く。
「ただ、呼んだだけだ」
「・・・」
クムスンは呆れ、ジェヒはニコニコ笑い続ける。
ヨンオクは考え続けている。
美容室のナ・クムスン――あの子の様子は何だか変だ。ずっと変だ。
同じ名前というだけで 、こんなに気になるものだろうか。
娘は地方の大学に通っているという。 あの子に出会ったせいか、実感が乏しくてならない。
ほんとかどうなのか確かめてみなければ・・・。
ヨンオクは出かける支度をしてタクシーに乗った。
スンジャとジョムスンの住んでいる家に向かった。
スンジャが帰ってくる。
部屋では呆けたようにジョムスンが座っている。
「戻りました。夕食は?」
「喉を通ると思う?」
「・・・」
「どう考えても――あなたはあの女より悪い。私に相談もなくお金を受け
とって――示談金に使うとは相談したら反対されるでしょ。サンドさんは私の夫でもあるんです」
「・・・」
「だから謝ったでしょ」
「あの家に怒鳴りこんで――今さら娘を訪ねるなと顔を引っかきたい。でも、お金のせいで我慢してるんだから、美徳だからじゃなく――返済できないから我慢してるの」
「お義母さんの性格は分かってます」
「なのに私の顔をちゃんと見て食事したり、安眠できたりしてきたもんだ。お金を受け取って示談金に使うなんて誰のお金なのよ」
「私もつらかったし、悩みましたよ。平気で受け取るわけがありません」
「・・・」
「すみません。でも食事はしてください」
「いいよ。こみ上げる怒りを抑えるだけで大変なのに――食事なんかできないわ」
「少しは食べなきゃ――すぐ用意します」
スンジャは居間に出ていった。
クマはカフェラウンジでテワンが現れるのを待った。
そこにメールが入った。
――クマ、悪いが急な撮影で今日は無理そうだ。明日電話する。
クマはすぐ電話した。しかしつながらない。
ピルトたちはフィソンを挟んで子守している。
「お前、何か話でもあるのか?」
「ないけど、あなたの方が気分も優れないようだわ。帰ってからずっと静かでしょ」
「お前みたいにおしゃべりじゃない」
「工事現場を見たせい?」
「複雑な気分だな。まだあと10年は働けるのに――こんなところであおがなきゃならんとは」
ジョンシムは団扇を取り上げた。
「だったらいいわ」
「何だ、返してくれよ」
「私もそんな姿は見たくないの。私が子守をするから友達と会いなさいよ。お酒でも飲めが少しは気分も紛れるでしょ」
「いいよ。どうしてこんな夜に」
「お酒は夜に飲むものでしょ。悪酔いしやすいんだから――昼から飲んじゃダメよ」
ピルトは笑った。
「それ、どこで聞いた? ただ、口にしただけだよ。貸せ」
団扇を取り戻す。フィソンに風を送り始める。
「慣れていかないとな・・・秋になれば葉が赤く色づき、そのうち散る。それが自然の摂理というものだ」
「何か習ったらどう? 今まで忙しくて――趣味などの時間が作れなかったでしょ。子守は保育園に任せて――習い事でも探して」
そこにソンランの声が響いた。
「ソンランだ。俺もそれ考えていたところだ」
ドアが鳴る。
「入っていいぞ」
ソンランが顔を見せる。
「ただいま帰りました」
「シワンは帰ってるわ」
ヨンオクはスンジャの家の前に立った。義母には顔を合わせられない。誰かが出てくるのを待った。
そこに向かって帰ってきたのはクムスンだった。クムスンは玄関先に立って中をうかがうヨンオクに気付いた。慌てて車の陰に身を潜めた。
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