韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(108)
「何言ってるのよ」
ジョンシムはテワンの肩を叩いた。
シワンとソンランの様子がおかしいことについてだ。
「だけど、それ以外に考えられない」
シワンはムキになって言った。
「女性問題だよ。兄さんの浮気がバレたのさ。義姉さんの表情は普通じゃなかった。兄さんは小さくなってたし、さっきも見ただろう。俺たちなど気にせず出ていった。兄さんは妙に切羽詰った顔だった。他に考えられないよ。どう見ても女性問題だ」
テワンの弁舌に振り回され、ジョンシムは不安そうにピルトを見た。
「あなた、そんな子じゃないわよ」
ピルトはさっきから別の人間の話をされてるような目を向けていた。
「結婚して間もないのにありえないだろ」
「そうよ。絶対、違うわ。そんなはずない」
「だったら、どういこと?」
「もう、うるさい。あなたじゃあるまいし。でしょ?」
「母さんってば――人のすることは誰にも分からないものさ」
「こいつは――まだ分からないのか」
「何がだよ。だってそうだろ」
「若いのに口ばかり達者だ。もう黙れ。人のことはいいから、自分をしっかりさせろ」
「俺はしっかりやってます」
その時、シワンの声がした。
一人だった。テワンが訊ねた。
「義姉さんは? さっき変な雰囲気だったけど」
「何がだよ」とシワン。「ソンランは会社に行きました。図面の作業があるらしくて・・・遅くなりそうです」
「・・・」
シワンはみなの前には来ず部屋に戻っていく。
「ほら、変だろ」
テワンは二人に言った。
クムスンはジョムスンに訴える。
「おばあちゃんが許可してくれたら手術をうけるはず。お願い、私の望みを叶えて」
クムスンは手を合わせた。
ジョンスンは膝立ちした。クムスン目がけて平手を振り下ろした。平手はスンジャにも遮られ、空を切った。
「お義母さん、クムスンに手をあげたらダメですよ」
クムスンは手を合わせたまま逃げようともしない。
「離せ。離せったら」
ジョムスンは興奮している。
「あんな人でなしのために私を殺す気なの? 私の死ぬ姿が見たいの?」
クムスンは悲しそうな顔で動かない。
「本気で言ってるの?」
ジョムスンはわめく。
「何だって! 手術をするだって?」
「なら、知らない振りをしろというの? 死ぬかもしれないのに」
「そう。知らない振りをすればいい。お前に関係ない人だ」
「なぜ関係ないの? 私の母親なのよ」
「だから何? その母親がお前に何をしてくれた? 何もしてくれなかったじゃないの。結婚や出産の時にもいなかっただろ。それが母親なの?
答えてみなさい」
「・・・」
「お前はあの女が恨めしくないの? どうしたの? お前に恨みや悔しさはないの? あなたはバカじゃない?」
「・・・」
「どうなのよ」
「憎いわ」クムスンは答える。「当然でしょ。本当に憎いわ。すごく憎くて悔しい。小学生の時から、1人で鉛筆を削り、1人で学校に通い、家に帰ると――誰もいない家でいつも1人食事するのも、遠足の時、海苔巻きを作ったことも、初めての生理を自分1人で対処したのも、恥ずかしくて、なかなか下着を買えなかったのも、寂しさと一緒に全部覚えているわ。憎くないはずがないわ」
「じゃあ、なぜすると言うの?」
「それでも死んでほしくない気持ちをどうすればいいのよ、おばあちゃん」
クムスンは泣きながら訴える。
「それでも生きてほしいのよ、おばあちゃん」
「・・・」
「最初は義務感で手術を受けようと思った。でも今は本当に生きてほしい。生かしたいの。私の母親だもの」
ジョムスンの表情も悲痛になっている。
「私がフィソンを産んだように私を産んだ母親なの」
「・・・」
「クムスン」スンジャが言った。「気持ちは分かるわ。でも、母親は移植を受けないわ。だから、こんな話も必要ないの」
「だから、おばあちゃんが説得してください。そしたらするわ」
「何だって?」
ジョムスンはクムスンを睨みつける。
「クムスン」とスンジャ。
「今日、私が手術を説得したけど、受けないと言うの。だから、おばあちゃんから話して。おばあちゃん、お願い!」
「・・・」
「おばあちゃん、ママを助けて」
「信じられない・・・」
ジョムスンは呆れたように首を横に振る。何度も振る。
「まさか、お前に・・・こんな頼みをされるなんて・・・きっと、これは夢なのよ。私がどうやって、お前を育てたと思うの? トンジン市場で震えながら、雨風にさらされても孫娘のことを思い贅沢をさせてやりたくて、ただ、お前が健康に無事に育ってくれと願いながら、今まで生きて来たのに、こんなひどい仕打ちがある? 何てことよ。あの人でなしのために腎臓を提供すると? それで、あなたは母親を生かせるけど、私はどうなるの? お前の身体に傷がつくのを――見守るしかない私の気持ちはどうなるの?」
ジョムスンは胸を叩いた。
「どうなるの? 私はどうでもいいの? 母親が無事ならそれでいいの?」
クムスンはジョムスンの話を聞きながら泣いている。
「そう、分かった。分かったわ。お前がそう思うなら――私が死んでやる。私が死ぬのを見たいのなら、舌を噛んで死んでやる。その後にお前の好きにすればいい。好きにしろ」
それだけ言ってジョムスンは立ち上がった。部屋に引っ込んだ。
「おばあちゃん・・・」
クムスンは立ち上がろうとする。
スンジャがそれを制した。
「クムスン。今日のところは帰りなさい」
クムスンは泣きながら言った。
「叔母さん――ほんとに死ぬかもしれないの」
立ち上がってジョムスンのいる部屋に向かう。スンジャはもう止めない。
ジョムスンは布団の中に入り、座っていた。クムスンが入ってくると顔を背けた。
クムスンはジョムスンのそばに座った。
「帰って。もう何も話すことはないわ。行きなさい」
「おばあちゃん・・・おばあちゃんはどれくらい生きられる? 10年? 15年?」
「・・・」
「おばあちゃんは、一生、私を見守ってくれるの? フィソンが結婚するまで、おばあちゃんはずっと私たちを見守れるの?」
ジョムスンは顔をクムスンの方に向けた。
「ムリでしょ? 死ななくても、老いて何もできないじゃない。そうなった時、私たちには誰がいるの? 誰もいないわ。父親や兄弟もいないのに、死んだ母親が生きてたのに、1つなくても腎臓1つで私にも母親ができるのに、それを止めようというの? だったら、おばあちゃんが一生、母親代わりをしてくれる? お金もないでしょ? 気力だってもうないでしょ? 年老いて、これからもう――どうなるかも分からない。私――反対されてもやる。結局、おばあちゃんは母親じゃないのよ」
ジョムスンは悲しそうにクムスンを見る。
「私も母親がほしいのよ。それをなぜ、おばあちゃんが止めるの? 母親がくれた私の身体なのよ」
「この子は」ジョムスンは悔しそうな声になった。「こんな悪い子に育てた覚えはないわ」
腕を振り上げ、クムスンの身体を叩いた。また叩いた。
「この親不孝者が! この子は! この子は!」
何度も叩いた。
しかし、クムスンはそこを動かない。抵抗せず、叩かれるままにしている。
スンジャが部屋に飛び込んできてジョムスンを制した。
「叔母さん、いいの、そのままで。もっと叩かれたいの。いいんです。こうして叩かれた方が私も楽です」
ジョムスンは赤みのさした目でクムスンを見る。
「おばあちゃん」
クムスンはひたすら懇願した。
「私が望むことよ。私が望んですることなの。親不孝だと分かっていてもそうしたいの。おばあちゃんを傷つけるこんな自分が嫌だけど、おばあちゃんに申し訳ないけど――おばあちゃん・・・私が望んでるの。私の母親なのよ」
「・・・」
「私を”私の子”と呼ぶ私のママなの」
「・・・」
「ママが”私の子”と呼んだの。だけど――振り返れなくて・・・振り返れなかったけど・・・おばあちゃん、許可してください。私の頼みは何でも聞いてくれるでしょ。おばあちゃん・・・!」
「・・・」
ジョムスンはいつしかクムスンをまっすぐ見て座っている。
クムスンはフィソンに身体を揺さぶられて起きた。
クムスンはフィソンの足を握った。
「フィソン、起きたの? いつ起きたの?」
「ママ」
「ママはここよ。さあ、キスして」
フィソンからキスを受けてクムスンは起き上がる。
「最近、遊んであげられないから、怒ってる?」
「大丈夫だよ」
「大丈夫? あらまあ、あなた本当に親孝行者だわ」
二人で母子の遊びをしているところにドアが鳴った。
「いいか?」
ピルトが部屋に入ってきた。
「昨日も遅かったし、まだ寝てればいい」
「私を待ってたんですか?」
「当然だ。嫁が帰らなければ待たないとな」
クムスンは笑う。
ピルトはジョムスンのことを訊ねた。
「少しは落ち着いたか?」
「いいえ――お義父さま、実はお願いがあります」
「・・・」
「私に移植をさせてください」
「・・・」
「そうしたいんです。そうしてあげたくて」
「クムスン――」
「透析ショックで昨日も集中治療室に入ったんです。特殊な体質らしくて、透析も大変らしいのです。身体の調子も悪くて、手遅れになる前に何とかしないと――許可してください。時期を逃がしたら死ぬかもしれません」
ピルトはクムスンを見、困った表情になった。
「腎臓は1つだけでも問題はありません。他人にも移植するのに私を産んだ人です。許可してください。本当にしたいんです」
「・・・」
「私も分かります。私のために反対してくださること」
ピルトはクムスンを見た。
「お前の気持ちは分かった。なら、こうしよう。まずは2人で医者に会って、移植について聞いてみよう。本当に健康に問題はないのか。後遺症はないのか聞いてから決めよう」
「はい、ありがとうございます」
「それと、お義母さんには言わないで置こう。医者に会ってからまた話そう。病院に行ってから決めるけど、最後にもう一度聞くよ」
「・・・」
「本当に移植をしてあげたいの?」
「・・・」
「仕方なくではなくて、無視できないからでなく、本当にしてあげたい?」
「はい、お義父さん」
シワンとソンランの険悪な状態は続いている。
ソンランはシワンと話すのがいやで携帯をオフにしておいた。
するとシワンは会社にかけてきた。
出ようか出るまいかソンランは迷う。
シワンの可能性が高いが、取引先からかもしれない。
念のためシワンの携帯を調べる。通話中だ。
仕事にまで影響が出て、ソンランの苛立ちは募るばかりだ。
ソンランはどの電話にも出ようとしない。
シワンもまた苛立ちを募らせている。
クムスンとやりあい、厳しいことも言われ、ジョムスンはショックで寝込んでしまった。
横になったジョムスンは、クムスンの言った言葉を何度も振り返り続けた。
スンジャとクマはクムスンのことを話題にした。クムスンがおばあちゃんに厳しいこと言ったのは、手術を許可してもらうため、との意見では一致したが、あんなにきつい性格の子だとは思わなかった、とスンジャは言った。
ノ家の朝食が始まった。
ジョンシムがソンランのことを訊ねた。
「もう出かけてんですよ」
「もう? いつ? 見てないけど」
「父さんたちが寝てる時に、着替えだけして行った。まだ、図面作業が終わらないらしい。今日は締め切りらしくて」
「ほんとに?」テワンが訊ねた。「戻らなかったんじゃなくて?」
「そんなわけないだろう。すぐに着替えていったんだ。すみません、父さん。大変な仕事らしくて俺が許したんだ」
「わかった」ピルトは頷いた。「それなら仕方ないが、今度からは事前に話せ」
歯を磨きながらジェヒは思い出し笑いする。
――先生。私がおんぶしようか? 得意なのに。あなたがもう少し小さかったらいいのに。
サンダルを履かせてやったら、彼女、戸惑っていた。
ジェヒの思い出し笑いは歯磨きが終わってからも続いた。
クムスンとピルトはヨンオクの主治医の部屋を訪ねた。
「待ってたんだ。チャンから話はうかがってます」
席につくとピルトが切り出した。
「今日は移植手術について、詳しく聞きたくてやってきました。腎臓は1つでも生活に問題はないと聞きますが、実際のところはどうなのか、健康に問題はないか、後遺症はないのか、お教えください」
「まずは移植後の健康上の問題ですが、結論からいうと大丈夫です。腎臓は1つになると、もう一方の機能が強化されていきます。だから、手術前が100%だったと仮定すると――もう片方の機能が強くなって手術後は50%ではなく80~90%までに回復します」
「・・・」
「次に不安になるのは、後日、母親のように腎臓の病気の心配だと思います。腎不全は遺伝ではありません。両親が腎不全だとしても子供が発病することはないです。もし無気力さを感じるなら、医学的な問題ではなく心理的な問題が大きいです」
ピルトはクムスンをほっとした顔で見た。
クムスンはピルトに連れられて立派な料亭に入った。
「この店の雰囲気はどうだ?」
「私も好きです」
「今日は肉を食べよう」
仲居がやってきた。
「生肉3人前をお願いします」
「3人前ですか、お義父さん」
「今日はたくさん食べよう。ベルトを緩めてさ。お願いします」
仲居は部屋を出ていった。
「母親には会ってみたのか?」
「1度だけ――少しだけです」
「心から許せるのか?」
「分かりません。ある時は恨めしく、憎たらしくもなったけど、倒れたと聞いたら、心が痛くなるし、心配になって会いたくもなります」
「それでも移植したいか?」
「はい。いつになったら完全に許せるか、悪い感情が消え去るか分かりませんが――それでも生きていたらいいなと思います。ジョンワンさんのように人が死ぬことは――もう会えないことだから。いくら会いたくても言いたいことがあっても、もう何もできないから」
「・・・」
「すみません。ジョンワンさんの話をして・・・」
「いいや、いいんだ」
「私は健康を守ります。約束します。もともと酒もタバコもしないし、実際に手術しなくてもそれらは悪いものだから」
「そうだな・・・俺も医者の話を聞いて気持ちが楽になったよ。分かったよ。そうすればいい」
「お義父さん」
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