僕の職場はツバメがたくさん巣を作る。目立つ場所は(汚いから)と巣を落とす場合もあるが、邪魔にならない場所はツバメに巣を作らせ、雛をかえらせてやる。雛が口をあけてえさを待つ姿はかわいらしくて、われわれのちょっとした癒しスポットになったりしている。
今、かえった雛が巣立ち、辺りを元気に飛び回っている。といっても、どれが親でどれがこどもかはわからないのだが、何十羽の数のツバメが飛び回っている。
いずれ、どこかに行くことになるが、それまでは辺りを飛び回って地理を頭に叩き込んでいるのかもしれない。
先日、職場の中庭に外敵が侵入してきた。カラスである。中庭の庇の下にはツバメたちの巣が幾つかある。今は巣立ってしまっているから、巣は空っぽなのだが、カラスが中庭に侵入してきたとたん、ツバメたちがあっちこっちから集結してきた。何とか追い出そうと、チッチキ、チッチキ、うるさく鳴き喚きだした。
センターの三階の廊下を歩き回っていた僕はこのことに気付いた。いくら窓を閉め切っていても、あのくらいの騒がしさとくれば、目を向けない方がおかしい。
ツバメは矩形の立方体の空間を鳴き喚きながらせわしく飛び回っている。これは何の騒ぎだ、と僕は思った。最初、カラスの侵入に気付かなかったからである。ところがよく見ると、食堂のベランダの欄干にそいつがとまって、中庭のようすをうかがっているではないか。ツバメは仲間で連携して彼を追い出しにかかっているようだが、平然としたものである。
こりゃあいかんな、と僕は思った。カラスがセンターの中庭にまで入ってくるのはあまりないはずだが、人なれしてきたのか、こっちが無関心を決め込んでいるからか、この頃は時にここまで入り込んでくるようになっているからである。
僕は手元に何も持たないので手帳を取り出した。そしてカラスの方に近づいていって窓ガラスを開けようとした。するとそいつはさるもので、僕への警戒は怠っていなかったらしい。僕が窓に手をかけたとたん、さっと飛び立って反対側の欄干にいって止まったのである。普通ならこれで僕もそこを離れるところだが、ツバメたちの力になってやろうと、またそいつのところに近づいていった。今度は窓に手をかけるまでいかない。僕がその窓に達するまでにまた飛び立って、さっきの欄干のところに行って止まったのである。僕がこれを二往復したところで、カラスは中庭に見切りをつけて飛び去った。これが傑作だが、飛び去る直前、そいつは僕をギロッと睨み付けたように思われた。
カラスが飛び去ると、ツバメたちはまたたくうちに解散してしまった。最後の一羽は、僕に挨拶したのかどうかは知らないが、下の方から弓のように切り返してセンターの上空に飛び去った。