雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(84)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(84)



「このスカートにはこれかな?」
 靴を幾種類も並べ、ジェヒはウンジュにはかせるものを選び始める。
 ウンジュはジェヒから渡されたのを手にする。しかし、表情は冷めている。
 しかし、ジェヒは靴を選ぶのに夢中だった。
「それと赤い色のは・・・これがいい。待てよ・・・サイズが小さいかな? 女物はやっぱり分からないな」
「ジェヒさん」
「何?」
「まず服を着てみる」
「そうだな。着てみろ」
 ウンジュは洋服を持って試着ルームに入った。ほっと息をついた。ジェヒに合わせた分、ストレスもたまった。
「今日だけよ」彼女はつぶやいた。「今日だけ我慢よ。あともう少しよ。今日だけ・・・ウンジュ、今日だけよ」
 また大きく息をつく。

 ウンジュは試着してジェヒの前に出てくる。満足そうな笑顔を見せる。
 そんなウンジュを見ると、ジェヒはジェヒで違和感を覚えた。かえって気持ちは沈んでしまう。
 自分でも分かっていたことだ。魔法やトリックじゃあるまいしウンジュが突然クムスンに成り代わるわけもない。
 ウンジュはジェヒの気持ちを知らない振りで通した。
 ジェヒはウンジュを送ってきた。
 ウンジュは声を弾ませた。
「今夜はきっと眠れないわ」
 ジェヒも笑みを浮かべた。
「夢みたい。本当にありがとう。ジェヒさん」
「何が? 俺こそもらってばかりなのに・・・気に入った?」
「もちろんよ」
「なら、俺も嬉しい。もう遅いから早く入れ」
「ええ――ジェヒさん、またね」
 ウンジュは笑顔で車を降りた。
 車が走り去った後、ウンジュの表情はどんどん沈んでいく。
「ク・ジェヒ。いつか私のものになったら、必ずお返ししてやる。何倍も返してやるから」

 クムスンの帰りを気にして門の前に出てきたテワンは、座り込んでいるクムスンを見て驚いた。
 クムスンはテワンに笑顔を向けた。
「そこで何をしてる?」
「何となく・・・」
 テワンはクムスンの横にしゃがんだ。
「どうした? 何かあったのか?」
「・・・」
「何かあったようだな? だろ? 話してみろ」
「・・・」
「クムスン」
「お義兄さん・・・私を産んだ方が――生きてるんです。だけど、病気を患ってて私の腎臓が必要なんだって」
 テワンは顔色を変えた。
「何だと? じゃあ、お前を捨てておいて、病気だから現れただと?」
「違います。そうじゃなくて、だから・・・その方の夫が現れたんです」
「何だって? 再婚したの?」
 クムスンは頷く。
「まさか、やるなんて言ってないよな?」
「言ってませんよ。ただ、叔母さんに、”お金だけもらおう”って」
「どういうことだ?」
「・・・」
「どういうことなんだよ!」
「えっ?」
 クムスンはハッとした。
「何でもないです」
 否定して立ち上がった。
 テワンも立ち上がった。
「何でもないはないだろ。移植してくれたら金をくれると言ったのか?」
 テワンの追求にクムスンは黙って首を振る。
「違います」
 また首を振る。
「ちゃんと答えろ! 答えないならおばあちゃんに言うぞ」
 クムスンは動揺した。
「それはダメ。絶対にダメです」
「だから早く言えよ」テワンは激昂して言った。「早く言うんだ」
 クムスンは観念した。
「それなら約束して。話だけ聞くって。祖母には絶対言わないと約束して。お義兄さん」

 クムスンから話を聞いたテワンの腸は煮えくり返った。

 部屋に戻ったクムスンは寝ているフィソンのそばに腰をおろした。腕を伸ばし寝ているフィソンを抱き上げた。
「フィソン・・・フィソン・・・ママが帰ったよ。いい子にしてた? ママはね・・・今日はフィソンに会いたかったの。フィソンもママに会いたかった?」
 クムスンはフィソンを強く抱きしめた。

 スンジャは朝一番で銀行に駆け込んだ。
 小切手を持ってキジョンの部屋を訪ねた。キジョンの前に差し出した「すみません。お返しします。不本意にも――混乱させ、ご協力できずすみませんでした。夫が監獄に行くのも運命だと受け入れます。かわいそうなクムスンを2度と苦しめないと結論を出しました。もうこの件でお会いしません。すみません、さようなら」
「あの・・・」
 話をしようとするキジョンを振り切ってスンジャは部屋を出ていった。

 クムスンは身体を起こす。朝を感じているが、身体は重たい。しかし、何とか起き上がってリビングに出る。
 ジョンシムが起きて朝食の支度を始めている。
「昨日は何をしてたの?」
「・・・」
「何も言わず早朝から家を出て一日中連絡もない。携帯もオフだし、家で心配する人のことを考えないの?」
「すみません」
「なぜ、電話をしないの?」
「すみませんでした。それ、私がやります」
「いいから、ごま油をとって」
 クムスンは棚からごま油を取り出す。
「それで、朝からどこへ行ってたの?」
 クムスンは答えられないでいる。
「答えなさいよ」
「・・・」
「沈黙は金というけど、私はそんなの嫌いよ。どこにいたのよ」
「・・・」
「何よ。話しなさいって言ってるでしょ」
 テワンが顔を出して言った。
「そんなに詮索しなくてもいいだろ。姑だからと言っても、プライバシーくらいは守らないと」
「入れて」とジョンシム。
 トイレから戻る時、シワンもクムスンに声かけて部屋に入った。
 ソンランは出かける支度を始めている。
「もう行くのか?」
「今週は忙しいのよ。じゃあ、お先に」
「いつまでそうするんだ?」とシワン。「それだけ答えろ」
「なぜ私に聞くの?」
「他に誰に聞くんだ? 星に聞こうか?」
 ソンランは吹き出した。呆れて行こうとする。
 シワンは呼び止めようとする。しかし、ソンランは出ていった。

 ソンランはピルトとジョンシムに声をかけた。
「お義父さま、お義母さま、今週は仕事が詰まってるんです」
「そうか」とピルト。「それなら行かないと」
「お義母さま、先に行きます」

 一人で足取りも重く出勤していくクムスンにテワンが声をかける。
「乗れよ。送ってくから」
 クムスンは遠慮するが、テワンは引き下がらない。クムスンはテワンに送ってもらった。
「昨夜は眠れたのか?」
「はい・・・」
「眠れるわけないだろ。俺でも眠れなかったんだ」
「お義兄さん、約束しましたよね? 2人だけの秘密ですからね」
「・・・」
「返事してください。ちゃんと答えて、誰にも言わないって。誰にも絶対言わないでよ。おばあちゃんたちやお義父さまたちにもよ。約束しましたよ」
「わかった。わかったよ」
「・・・」
「代わりに変なこと考えるなよ。それは絶対ダメだ」
「・・・」
「変なこと考えてないよな?」
「考えてないわ」
「ならいい。考えもするな。叔父さんもそんな金で示談などしたくないだろ? まともな人間なら嫌がるはずだ。叔父さんのためにだってならない。わかったか?」
「わかったわ」
「少し寝ろ。起こしてやるから」
 しかし、クムスンは寝ようとしない。
 バックミラーを見てテワンは訊ねる。
「何歳の時、別れたんだ?」
「分かりません。とても幼い頃です。気がついた時にはママはいなかった・・・」
「”ママ”? 別れたのは赤ちゃんの時だな。それでママの資格があるのか? きちんと育ててこそママだろ?」
「それくらい私にも分かるわ」
 この時、クムスンの携帯が鳴った。
 クムスンは携帯に出なかった。

 ちっとも電話に出ないクムスンのことをジョムスンはぼやく。
 クマは部屋から飛び出してくる。興奮して声が上ずっている。
「おばあちゃん、私、就職がきまりそうよ」
「あら、本当なの」
「先輩の働く会社で留学するからと私を推薦してくれたの。面接を受けたんだけど受かりそうなの」
「まあ、これだから人は生きてたら何とかなるものなのよ。すべてが上手くいかないし、死にそうだったけど、こんな時、クマが就職できるなんて。これで少しは楽に寝れそうだわ」
「そうよおばあちゃん、私も夢のようよ。頑張って準備したけど、競争率も高いし、優秀な人ばかりだったから期待してなかったの」


 テワンに送られてクムスンは美容院に着いた。
 テワンに礼を言ってクムスンは車をおりた。
 クムスンは助手席からテワンを見つめた。

(絶対に誰にも言わないでよ)

 そう念を押したかったが、口にできなかった。
 クムスンの不安を払いのけるようにテワンの車は走り去った。

 クムスンの後ろにウンジュの車が横付けされた。
 ウンジュと目が合うとクムスンは硬い表情のまま頭を下げた。

 店で朝の掃除を始めたクムスンは昨日の母親の姿を思い浮かべた。手が止まりかけたところに院長が顔を出した。
 院長はスタッフに活を入れる。
 クムスンは横に立つウンジュをぼんやりと見つめた。気持ちを切り替え、掃除を続けようとしたら、院長から声がかかった。
「昨日、体調が悪くて早退したでしょ? 大丈夫?」
「はい」
「早退したの? 早退するほど具合が悪いの?」
「風邪なんです」
「丈夫そうなのに意外と弱いのね」
 
「女は子供を産むと貧弱になるのよ」ウンジュの強い言葉にミジャがクムスンをかばった。「だから、出産後のケアが大事なの。クムスン。産後の管理をしてないでしょ?」
「・・・」
「まだ悪いの?」とウンジュ。「顔色が悪いわよ」
「いいえ、大丈夫です」
「なら、カートの掃除を。汚れがひどいわよ。掃除はいつしたの?」
「一昨日です。昨日、私が早退したので・・・」
「だから、汚れてるのよ。まずカートの掃除からやって。店のイメージが悪くなる」
 ミジャは”この二人、なぜか相性悪いわね”の表情になっている。
 言うだけいうと、ウンジュは院長を促した。

 スンジャから押し返された小切手を前にキジョンは途方に暮れている。

 スンジャはキジョンに会った後、その足で美容室にやってきた。クムスンを外に呼び出した。
「あのお金を返してきたわ」
「・・・」
「朝一番でお金をおろして返したの。それを知らせたくてここに来たのよ」
「・・・」
「だから、もう心配しないで。悩まなくていいの。何も聞いてないと思って忘れるのよクムスン」
「・・・」
「そう簡単にはできないけど・・・ごめんね。本当にごめんね。私がどうかしてたわ」 
「・・・」
「死んでも言ってはいけない話だったのに、病気の叔父さんが監獄に行くと思ったらつい・・・でも考えてみたら、叔父さんが知ったらどんなに怒るか知れない。私を殺そうとするわ。離婚して2度と私に会わないわね。あの時はそれも考えられなくて。それに――電話をしたすぐ後にお金を振り込んだみたいで・・・あんな大金を今まで見たことない」
「・・・」
「違うわ。これも全部言い訳だわ。私があまりにも申し訳なくて・・・」
 スンジャはクムスンの手を取った。
「本当に申し訳ないんだけど、叔父さんのことを思ってのことだし、1度だけ私を許してくれない?」
「・・・」
「私が・・・本当に死んでも話すまいと思ったけど、叔父さんが胆石症で痛がるから、気が動転して・・・チャン先生に話を聞いてからとても苦しかったの。悩みすぎて急性胃痙攣を起こすし――」
「ええ、分かります」
「ありがとう、クムスン。そう言ってくれて。叔父さんは心配ないの。長くて1~2年だし、大したことじゃない。人様のお金を使ったんだから当然よね? そうでしょ?」
 うつむいたままのクムスンを見てスンジャは言った。
「私は行くから、あなたも店に戻って」
「・・・」
「ほら、早く」
「・・・」
「なら、私が行くからね」

 ピルトはジョンシムにソンランの会社を見に行こうと切りだした。
 ジョンシムは嫌がったが、何とか説得してフィソンともどもソンランの会社に向かった。
 
 ヨンオクはまた身体の変調を覚えだしている。

 韓国病院にやってきたテワンは案内所でチャン・キジョンの居場所を訊ねた。
「先生は研究室です」
「研究室? 研究室は何階ですか?」
 




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