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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(156)
ジョンシムは指先でジョンワンの頬を撫でながら言った。
「クムスンを送り出してあげよう――クムスンがあの人と別れたと言うの・・・嫌でしょう? ああ、もう・・・あの娘ったら何てバカなのかしら・・・ジョンワン――フィソンも一緒に手放すわよ。どこにいても・・・あなたの息子なんだもの。苗字が変わっても――フィソンの成長がいちばん大事なんだからね」
ジョンシムは声を詰まらせ、泣き出す。
「優しい私の・・・ジョンワン・・・ひとりで心細いでしょ。ごめんね。ごめんなさい。母さんが悪いの――長生きし過ぎて・・・ひとりぽっちにさせて・・・ごめんね」
ジョンシムはジョンワンの前で泣き続けた。
サンドはジョムスンの前にヘルスメーターを差し出す。
「何なの?」
「体重計だ」
「なぜ買ったの?」とスンジャ。
「お前の体重管理をするためさ。高度肥満だからこれは必須だろ」
「そのとおりよ」とジョムスン。「どんどん太っていくなあと思ってたとこよ。すさまじい速度で膨れてるでしょ」
「大丈夫なのに――安静にしろとか言われて動けないからですよ」
「辛そうにするのが悪い。とにかく量ってみて」
量る量らないでジョムスンとスンジャが押し問答を始める。サンドは母親に加勢した。
「ほら、量ってみろ」
自宅に帰り着き、門を開けようとしたクムスンに後ろから声がかかる。
「すみません、いいですか」
クムスンは振り返った。見覚えのある娘が立っている。いや、知っている娘だ。
「クムスンさんですか?」
前に歩み出てクムスンはにこやかに笑う。姉らしいしぐさを見せて頷く。
「ええ。私がクムスンよ」
「・・・」
「ウンジンでしょ。会えて、嬉しいわ」
ジョンシムがフィソンを迎えにやってくると、すでにピルトがフィソンの手を引き階段をおりてくるところだった。
声をかける。
「お前も来たか」
ジョンシムは駆け寄ってフィソンの手を取った。
「今日もいい子にしてた?」
「どこに行ってたんだ」とピルト。
「そういうあなたこそ――どこに行ってたの」
「電球を買いに出ただけだ。お前は?」
「私はそのへんを歩き回ってたわ――行きましょう」
公園の滑り台でフィソンを遊ばせ、二人はベンチに腰をおろした。
「あなた、クムスンの破局をどう思ってる?」
ピルトはジョンシムを見る。
「もし――私たちのせいだったらどうする?」
「そう言ってたのか?」
「いいえ・・・そうじゃないけど、何となくわかるのよ」
「・・・」
「ジョンワンの納骨堂へ行ってきたの」
「ひとりでどうやって?」
「バスと電車を乗り継いだわよ」
「どうりで遅かったわけだ。行くなら俺も誘えよ、まったく・・・」
「あなた――ジョンワンも言ってた。フィソンと一緒に嫁がせろと――手遅れになると相手が逃げちゃうから」
「・・・」
「ほんとよ、末息子がそう言ってた――写真を見れば私には分かるの」
「・・・」
「私たちなんかただの年寄りに過ぎないわ。これからはもっと老いていって・・・そのうち出来ることも限られてくる」
「・・・」
「それに母親は――子供とは離れられない。覚えてない? テワンを実家に預けた時、私がどうなったか」
「・・・」
「たった1年だったけど、正気じゃなかった――離れちゃダメよ。いけないわ」
「・・・」
ジョンシムはため息をつき、心を決めたとばかりに言った。
「笑顔で嫁がせよう――クムスンとフィソンのために」
「・・・」
「将来のある若者のことを考えなきゃ――年寄りの考えを優先しても意味ないわ。違う?」
「・・・」
「もし死んだ後、ジョンワンに会って――このことで責められたらどうする?」
「・・・」
「ジョンワンは心に残ってる。それでいいのよ。フィソンの苗字なんか関係ない。私たちにとって大事なのは・・・フィソンが無事に成長することよ。違う?」
「・・・」
「思わない?」
「・・・」
「答えて」
「・・・」
「そうだ――帰って来る時、あなたに感心したの。ジョンワンを火葬にしたことよ。こういう時のことを考えたのね。お墓に埋めたら暗くなるじゃない。賢明だったわ」
「・・・」
「火葬にしたこと」
「・・・」
「こうして――いつも賢明な、あなた。今回もそうでしょ」
ピルトは滑り台で無邪気に遊ぶフィソンへ目をやった。
ジョンシムは笑みでピルトを説得し続けた。
コーヒーショップでクムスンはウンジンと対した。
ジュースを飲みながら黙りこくっているウンジンにクムスンは言った。
「気まずい?」
ウンジンは顔を上げる。
「ええ、少し・・・」
「お母さんに似てないでしょ。驚いた?」
「・・・」
「私も母を見て――ああ、こんな顔かと思った。そして、似てる箇所を探したのよ」
「・・・ほんとに子供がいるの?」
「いるよ。なぜ?」
「そう見えないから。まだ未婚の人みたい」
「そりゃそうよ。まだ若いんだもの。こう見えても23歳よ。花のような20歳に3歳だけ加えた23歳」
クムスンの人懐っこくザックバランな性格に、ウンジンはみるみる打ち解け、笑顔になった。
「嬉しいわ。よく来てくれた。とても会いたかったの」
「ほんとに? 私のことが憎くないの?」
「私がどうして?」
「ママの過ちは大きいと思うから――家族全員が憎いかもしれないと・・・」
クムスンは黙った。そう思ったこともあったからだ。
「ごめんなさい。私とママだけが楽な人生を過ごして」
「・・・」
「もうひとつ・・・私が幼すぎたからあなたに移植させて――ごめんなさい」
「それを言いにやってきたの?」
「はい」
「ありがとう。会いに来てくれたし――そうやって正直に話してくれたから」
「・・・」
「それに、こんなかわいいあなたが私の妹なのもうれしい――あっ、フィソンの写真を見せたげようか?」
クムスンはカバンから写真を取り出す。
何度かけてもつながらないジェヒから電話がかかった。
「ジェヒ、何? ああ――話すべきかと思って、今夜、6時のバスで帰るそうよ」
「だから?」
「いいえ・・・ただ知らせただけよ。じゃあ、切るわ」
ジェヒは携帯を置いた。
父親がこの地を去ると知ってジェヒの心は揺れた。会いはしたが、きちんと向き合ったわけではない。
これでいいのかどうかをジェヒは迷った。
携帯を握る。今から行けば間に合う時間だ。
ジェヒは食堂に行った。ミジャが見せた新聞を見た。
――席を立とうとすると机の上のメスが見えた。内科医がメスを持つ訳を聞くと――妙なことを言い始めた。もし出会えたらあげたいのだ、と。
「これを自分に・・・?」
ジェヒは釜山行きのバス乗り場にやってきた。
父親を見つけ、彼の前に立った。
「君は・・・」
「はい。私がオ・ミジャの息子です」
キム・イルは意外そうな顔になる。
二人は黙って見つめ合う。
「では・・・先日、会った時、知ってたのか?」
「はい」
「そうか」
「記事によると、島にいらっしゃるとか・・・大変なのでは?」
「大変だ」キム・イルは笑った。「手伝うか?」
「・・・」
当惑しているジェヒに彼は笑った。思い出したようにカバンを開ける。そこから何か取り出す。
「会えたら渡そうと思って持ち歩いてたんだ。メスをやろう。きっと回復して握れる日がくるだろう」
ジェヒは差し出された小箱を左手で受け取った。
「どうも」
「感謝するのは俺だ。見送りに来てくれて」
運転手の声が聞こえた。
「出発します」
「時間です」ジェヒは言う。
「ああ、行かないと」
キム・イルはカバンを握る。
「待ってください――いつでも島に来てくれ。露天風呂がある」
「・・・」
「おじさん、出ますよ」
「今、行きます――そこで風呂に入ろう。背中を流してやるから」
「・・・」
「ははっ、とんでもない話だったか。君が気に入った」
キム・イルは笑顔を浮かべた。
「それじゃ」
バスに乗り込もうとするキムに向かってジェヒは呼びかけた。
「父さん」
キムは振り返る。
「気をつけて――父さん」
キムはカバンを置いた。ジェヒの前に戻るなり抱きしめる。
「ジェヒ。ありがとう、ジェヒよ」
キムは目に涙を浮かべた。
「僕の方こそ――30年もの間・・・言いたかった。父さん」
走り出すバスの中からキムはジェヒに向かって手を振った。
帰宅したジェヒをミジャは待っていた。
「早かったね。約束があるはずじゃ」
「ああ。どこへ?」
「ターミナルだ」
「行ったのね」
「ああ、見送ってきたよ」
「・・・」
「あの人が父親で悪くないと思った。たぶん・・・何度か会えば好きになるかも」
「・・・」
「あの人だから母さんが愛したんだなと思った」
「・・・」
「初めて言うけど・・・ありがとう。産んでくれて。それに育ててくれて」
「・・・」
「これからは――自分の幸せを考えてよ。母さんの幸せが俺の幸せ何だから」
ジェヒはミジャに歩み寄った。抱きしめた。
「着替えるよ」
ジェヒは部屋に入っていった。
今まで育ててもらったことをジェヒに感謝されたミジャは涙が止まらなかった。
クムスンは洗面所兼シャワー室の掃除に励んでいる。
そこにジョンシムから声がかかった。
「はい。ここにいます」
クムスンはリビングに出た。
ピルトたちがフィソンを連れて帰ってきたのだった。
「掃除してたのか」
「はい」
「食事はまだでしょ」
「ええ。作って待ってました」
「作ったの? おすしを買ってきたのに」
食堂のテーブルを見てジョンシムは驚く。
「まあ、たくさん作ったわね。いつ作ったの?」
「多くありませんよ」
「食べる人が少ないのに」
「食欲の秋だからか食べたくなったんです。でもおすしを先に食べなきゃ・・・用意しますので着替えてください。お義父さん、フィソンをお願いします」
最後はフィソンに言った。
「フィソン――手を洗ってから着替えさせてもらってね」
「はい」
張り切りの過ぎるクムスンを見て、ピルトやジョンシムはむしろ痛々しさのようなものを感じるのだった。
夜中、ピルトは部屋を抜け出した。クムスンの部屋を覗こうとしたら、もぬけになったシワンの部屋から明かりが漏れている。ピルトはそっとドアを開けた。
クムスンはカットの練習を放り出し、部屋の隅に座り込んでいた。食事時に見せた顔とは打って変わり、暗い表情でぼんやりした目を前方に向けている。涙は頬を伝い、顎から首筋にまで達している。
やがて我に返ったように立ち上がる。ハサミと櫛を握ってカットの練習を始める。
そんなクムスンにピルトは声もかけられない。
そっと背を返し、買い物に出た。飲み物を買って帰ってくると今度はジェヒが家の前までやってきて立っていた。
家族の見ている前では量りたくない。スンジャはひとりの時にヘルスメーターを持ち出した。
「銭湯にいってないから何キロになってるやら・・・かなり増えてるはずだわ。食べて寝てるばかりだったから」
そして量りに乗ってみてスンジャは仰天した。
「人間の体重じゃないわ。私は何なの」
家族との食事でスンジャは食欲がなかった。
サンドが訊ねた。
「どうかしたのか? 元気がないぞ」
「何でもないわ。ただ、食欲がなくて」
ジョムスンが訊ねた。
「どれくらいだったの?」
キジョンはヨンオクに提案した。
「手術する前に――クムスンさんを招待してはどうだろう?」
「ウンジュは大丈夫かしら?」
「俺が話してみる」
ヨンオクは頷く。
「彼女の引越しの方はどうなった?」
「いい加減に変な気遣いはやめて。いつまで、クムスンさん、クムスンさんと呼ぶつもりなの?」
ウンジュが入ってきた。
「食事よ」
ヨンオクを見て言った。
「ウンジンを叱ってよ。昨日も遅かったの」
「わかった。そのつもりでいたの」
「行きましょう」
頷いてキジョンは席を立つ。
ジェヒが食堂にやってくる。
ミジャは訊ねた。
「昨夜はどこへ行ってたの?」
「知ってたの?」
「クムスンに会ったのね」
ジェヒは黙って食事に手をつける。
「子供はフィソンだっけ? フィソンを見たいわ」
ジェヒは手を止めた。顔を上げた。
「連れて来なさい」
「困ったな」ジェヒは苦笑いを浮かべる。「大きな決断をしてくれたのに・・・手遅れだよ」
「どういうこと?」
「別れたんだ」
ジェヒはそう答えご飯を口に運んだ。
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