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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(131)
ジェヒは痛みに耐えられず、手首を押さえてのた打ち回った。
「ジェヒさん」
ウンジュは叫んだ。ジェヒの手を取った。
「大丈夫? 血が・・・どうしよう。すみません、タクシーを」
「はい」
「大丈夫?」
ジェヒは顔をしかめ、ガラスの破片を抜いた。血がべっとりまつわりついている。流れ出る血を手で押さえながら言う。
「先生に電話して、早く」
すぐ携帯を取り出すウンジュ。
「パパ――私よ。ジェヒさんが大怪我をした。代わるから」
携帯をジェヒの耳に当てる。
「ジェヒです。右手首です。ガラスの破片が刺さって尺骨神経と正中神経に触れたようです――わかりません。切れてはないと思います。至急に縫合手術が必要です。準備をお願いします。すぐ病院に向かいます」
ジェヒたちはすぐ病院に向かった。
「ジェヒさん、どうしよう――私のせいで・・・私のせいで」
「そうじゃない」ジェヒは泣き出しているウンジュをなだめた。「ただの事故だ。大丈夫だ。そんなこと言うんじゃない」
「・・・」
「俺は大丈夫さ。きっと大丈夫だ」ジェヒは自分にも言い聞かせた「大丈夫だ」
報せを聞いてミジャが病院に駆けつけてくる。
ジェヒは手術室に入っていた。ウンジュは入り口に座っていた。
「手術中なの? 手術で治るのよね?」
「すぐ手術室に入ったのでわかりません」
「何があったの。話してみてよ」
「それが・・・よくわかりません。倒れる私を庇おうとし・・・そこにビンが落ちて・・・」
手術室にはキジョンも入り成り行きを見守っている。
そして手術は終わり、ジェヒは病室に運ばれた。
キジョンがミジャに説明する。
「手術は成功でした。処置がよくて、最小限の傷ですみました」
「そうですか」とミジャ。「右手首で心配してました。では大丈夫なんですね?」
「はい・・・大丈夫だと思います」
やや曖昧さを感じさせる言葉のトーンだった。ウンジュは怪訝そうに気ジョンを見た。
「先生、ありがとうございました」
ミジャは素直に嬉しさを表わした。
「お疲れのところをすみませんでした」
「ジェヒが起きたら連絡してください」
「ありがとうございます」ミジャはウンジュを見た。「あなたも行って」
エレベーターをおりて先を行くキジョンをウンジュは呼び止める。
キジョンは振り返る。
「何だ? 行くぞ」
「本当のことを聞かせて。ジェヒさん、本当に大丈夫なの?」
「ああ。問題ないはずだ。行こう」
「話してちょうだい」とウンジュ。「私の制で怪我したの。だから正直に話して」
「・・・ジェヒが手術前に言ってた。”事故だったんだからお前は気にしないように”と」
「だから、本当のことを話してよ」
「縫合手術は成功したが、かなり神経が傷ついている」
「・・・」
「もしかしたら――もしかしたらだ。大学で外科医は無理かもしれない。手術はできないかも」
「・・・!」
「だが、今はどっちともいえない」
「・・・」
「手術は成功したし、リハビリで正常に戻る可能性は高い。絶望的ではないんだよ」
ウンジュは悲しげな顔で先に立って歩き出す。
クムスンのカット入れの練習は続く。
小さく悲鳴があがる。顔をしかめる。注意していてもハサミの先はふいに手指を襲撃する。
クムスンは人差し指を口に入れる。すぐ口から指を出す。
ジェヒの言葉が蘇る。
――舐めるなよ。汚いな。
ジェヒはそう言ってハンカチで指を拭いてくれた。
ソンランが部屋から出てきた。
「お義姉さん・・・」
「寝てなかったのね」
「練習をしてました。お茶でも飲みますか?」
「いいわ。トイレに行こうと思って」
「・・・」
「ありがとう」
クムスンは引き出しから傷バンドを取り出して指に貼ろうとした。その時、誰かの気配がした。ジョンシムだった。
「お義母さん、起きてたんですか?」
ジョンシムは答えずトイレに向かおうとする。
「お義母さん――今、使用中です」
「誰?」
ソンランが出てきた。
二人は目が合う。
「お義母さん・・・」
「あなたがなぜここに?」
「・・・」
「言ったわよね。あとで荷物だけ取りに来いと」
「お義母さん」
「私を”お義母さん”と呼ばないで。呼ばないで。それ聞くとぞっとするのよ」
「お義母さん・・・」
「何?」
ジョンシムに睨まれ、クムスンはうな垂れる。
ジョンシムはソンランに言う。
「出てって。出てって早く」
「・・・」
「シワンもいるの?」
ジョンシムは部屋に向かう。ソンランが立ちはだかる。
「こんな夜中に私たちはどこへも行けません」
「何?」
「実際に私たちが出ていって、ホテルで気楽に過ごしたらもっと納得できないはずです」
「何を言ってるの? 何が何ですって?」
「そうじゃなくて・・・すみません――シワンさんを許してください」
「お義母さんには欠点だらけの嫁です。本当にすみません。でも私は本当にすべての事実を話そうと思ったんです」
「・・・」
「ご両親にも知る権利があり、それが公平だと思い・・・」
「まったく――本当に呆れて何も言えない。だから、あなたは本当に――自分は間違ってないと?」
「違います。そうじゃなくて・・・本当にすみません。私はお義母さんを失望させ、裏切り、バツイチで子持ちで・・・お義母さんには申し訳ないですが、私は間違ってるとは思いません。それは息子を否定することになります。息子を甥だと言われ、黙っていられないのと同じです。母親としての気持ちです」
「・・・」
「育てられなくても、子供に対し、母親として最低限の良心です。どうかこのとおりです。許してください。心から申し訳なく大罪を犯したと思います。だから、後悔をして胸も痛いです」
ソンランの言葉が身にしみ、クムスンの目に涙がにじむ。
「どうか1度だけ――許してください」
「・・・あの記事を見なかったら、今のあなたを見て胸が痛かったと思うわ。でもよく覚えているの。結婚前の――雑誌のインタビューにとても喜んだのよ。だから確かに覚えてる。あの時、未婚だと言ったわ」
「違います、それは・・・記者の間違いです。未婚とは言ってません。シングルと言いました。独りの女性はシングルです。未婚であれ既婚であれ」
「もういいわ。こんな時も、あなたは私を指導するの?」
「・・・」
「ほんとに・・・許せないわ。私にはどうしてもムリよ」
離れた場所からピルトもこのやりとりを聞いていた。
食事中にスンジャが訊ねた。
「クムスンと何の話を?」
「・・・」
「昨日、外で話したんでしょう?」
「お前に話したことと同じだよ。交際はしてたけど、もう終わったことだと」
「どうして別れたの?」とクマ。
「そんなのわかりきってるわよ」とスンジャ。「差がありすぎて諦めたのよ」
「誰が? クムスンが?」
ジョムスンはスンジャを睨みつける。
「そうでしょ。どうせ結婚はできそうにないし、結ばれないなら早く別れる方がいい。男女の仲は会えば会うほど情が移る。だから傷が大きくなる前によく決断したわ」
ジョムスンは顔をしかめ黙っている。
「残念だわ。その男も甲斐性がないわね。ここまで来たからにはほれ込んでると思ったのに」
ジョムスンを見る。
「そうよ。相手はクムスンを」
スンジャがジョムスンの話の腰を折った。
「好きでも仕方ないわ。差が大きすぎるの。それを譲ってもフィソンもいるのよ。子持ち女と結婚させたい母親がいると? しかも母子家庭の独り息子だって言うのよ。母親はずっと息子に希望を持って生きてきたわ」
ジョムスンは咳払いをした。
サンドがスンジャに言った。
「おい、朝から何てことを言うんだ」
話題はクマのお腹の話になった。
ミジャはジェヒに付き添い、病室で寝ている。
ジェヒのうめき声でミジャは目を開ける。
「ジェヒ、起きたの?」
「・・・」
「よく眠れた? 気分はどう? ずっと寝続けてたから」
ジェヒは上からつるされた右腕を見る。
上体を起こそうとする。右腕の紐を外そうとする。ミジャがそれを手伝う。
ジェヒは左手で右手の感触を確かめる。
「先生を呼んでください」
「チャン先生を? なぜ?」
「呼んでください」
「怪我のことを聞くのね? 大丈夫。手術はうまくいって問題はないって」
「・・・」
ドアが鳴った。キジョンが入ってきた。
「起きたのか。どうだ?」
「母さん、出勤して」
ジェヒはいろいろ憎まれ口も叩いてミジャを病室から追い出そうとする。二人の話を聞かせたくないからだった。
ミジャはキジョンに挨拶して出ていった。
「何だ、今の態度は?」
「お話ください」とジェヒ。「どうなんです? 尺骨神経と正中神経――両方が切れたんですか?」
「いや」
「では?」
「・・・」
「先生――直感はしましたけど、まさかと思って・・・ 今、何の感覚もないんです。本当のことをお話に」
「尺骨神経は切れた。正中神経は少し損傷があるだけだ」
「・・・」
「しかし、手術も成功したし、縫合もうまくいった。経過を待とう。いい結果が出るさ」
「確率は?」
「楽観的だ。手術前は40~50パーセントだったが、手術を終わったあとは60以上を見ている」
「・・・分かりました。1人にしてください」
「ジェヒ。手術は成功したんだ。確率はあくまで確率だし、必ず元通りになるはずだ」
「先生――どうか1人に」
キジョンは出ていった。
絶望に似た感情がジェヒの心を包む。ベッドをおりる。包帯を巻かれた右腕をにらみつけ、ジェヒは大きな声をあげた。二度、三度・・・右手の感触を確かめながら泣いた。
クムスンはフィソンを保育園に連れていく準備をする。
食堂にはソンランがいる。テワンがそこに現れる。
ソンランが声をかけた。
「テワンさん、よく眠れました?」
テワンは黙って水を飲む。
「返事ぐらいしてください」
「俺はそんな気分じゃないので」
ペットボトルの水をしまってテワンは戻っていく。
「保育園に行きましょう」
クムスンがフィソンの手を引いて出てくる。
「お義姉さん」
「クムスンさん、お米は研いだけど、スープは?」
「お料理してるの?」
「反省の意を見せるためにも何でもしないと」
「それなら、私がスープを作りますからフィソンを保育園に」
「そう? それがいいわね」
ソンランはフィソンに訊ねる。
「フィソン。今日は私と行こうか?」
「はい」
「伯母さんは一緒に行きたいな。どう? いいかな?」
フィソンはクムスンに似てちっとも人見知りしない。
「はい」
「じゃあ、一緒に行こう」
ソンランはクムスンを見た。
「息子までいるのに、よくも騙してたなと思ってる? フィソンを見ると思い出さないかと」
「そんなこと・・・」
「いいのよ。私でもそう思うわ。憎たらしい?」
「ほんと、そんなことありません。驚きましたけど・・・すごく驚いたけど、正直、親近感がわきました」
「・・・」
「今まではお義姉さんが賢くて完璧で別世界の人みたいでした。でも私と同じ母親だからちょっと興奮しています」
「ありがとう、クムスンさん。だけど、私が最後まで粘って、最後まで耐え抜いて、最後まで今の関係を維持できるかしら?」
「・・・」
フィソンを送って階段をおりだした時、ソンランの携帯が鳴った。前夫からだった。
ヨンオクがウンジュの部屋に飛び込んできた。
「どうして言わなかったの?」
ウンジュはヨンオクを振り向く。
「パパに聞いて知ったわ。どうして言わないの?」
「・・・」
ヨンオクはウンジュを抱きしめた。
ウンジュはヨンオクの身体を押し返す。
「もう出勤しないと」
「ウンジュ――自分を責めないで。まだ難しいだろうけど、あくまでも・・・」
「私も事故だと思いたい。でも簡単じゃないわ。本当に難しいのよ。簡単にそう思えないわ。もしジェヒさんが・・・」
「ウンジュ――」
ヨンオクはウンジュの手を握る。
「もう行くわ」
ウンジュは立ち上がった。バッグを握って出ていった。
ウンジュは出勤してミジャのところに顔を出す。
「お休みだと思ってました。ジェヒさんは?」
「起きたとたん、私を追い出したわ。悪い子・・・」
「・・・」
「だから、当分は私が美容室に専念できないの。でも、どうしても行くつもり? 日程を変更できない? 後任が決るまででも」
「分かりました。ジェヒさんが退院するまでは私が勤務します」
「ありがとう。それと念のために言っておくわ。そんなことをしないとは思うけど、もう他人じゃないわけだし、一応、話しておくわね。ジェヒの怪我をクムスンに知らせないで」
「・・・」
「やっと気持ちを整理してクムスンと別れたの。やっと諦めたジェヒを再び刺激しない方がいいと思うの。私も寿命が縮むわ。分かるわね?」
「・・・はい」
シワンとソンランはカフェラウンジで顔を合わせた。
「今朝は早く出勤したな」
「知らない? 昨夜もまたお義母さんに叱られたの。また怒られるのも嫌だったから、フィソンを保育園に送るついでと思って」
「母さんがまた何か?」
「まあ・・・本当にごめんなさい。何度も問題を起こして本当に悪いと思ってるわ。私のせいで苦労ばかりね。またこんなこと・・・どうしたらいい?」
「何だよ、怖いな。どうしたんだ?」
「息子のウジュを1ヶ月だけ預かる話。以前に言ったわよね?」
「ああ。この騒ぎで話せなかっただろ」
「ええ、そうね。さっき前の夫から連絡があったのよ。ウジュの祖母が入院して子供を預かれないらしいの。それにウジュの父親が北京から地方に1年行くことになって――だから私に1年間、ウジュを頼みたいらしいの」
「だと、つまり――1ヶ月じゃなくて1年間ということ?」
ソンランは頷く。
「新学校も始まるからできるだけ早くと・・・」
「ちょっと待って、だからそれは・・・この前の話では――お前が再婚したから必ずではないと言ってただろ」
「そうだったけど・・・祖母が入院して事情が変わったし、父親も当分は面倒を見られない状況だからと」
「・・・」
「でも、私は預かりたい」
「・・・」
クムスンはジョンシムに食事を取らせるため食膳を部屋に運んだ。食事するよう促した。
「本当に食べたくないのよ」
「でも少しでも食べないと――昨夜も召し上がらず、今朝また全然食べないし、このままでは病気になってしまいます」
「そうだよ。早く起きてみろ。クムスンがお前のため、仕事まで休んだんだ」
「そうなの?」
「1日休みが取れるので、せっかくだと思って。今日は家事でもしようと思ったんです」
クムスンはせっせと食事の用意に励んだ。
ネギを切って鍋に入れる時、ふとジェヒの声が聞こえた。
一緒に食事した時のことだ。
――あっ、俺はネギは食べないけど。
――どうして? おいしいのに。
――ヌルヌルして嫌だ。
クムスンは思った。
自分から決別を宣言したのに、いったいどうしちゃったんだろう・・・?
道を歩いている時、またジェヒの声が聞こえた。
今度は実際に呼びかけられたように思った。
クムスンは嬉しくなって後ろを振り返った。
しかしどこにもジェヒの姿はなかった。
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