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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(122)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(122)


 ジョンシムは家族を引き連れて警察へ出向いた。
 ピルトは待合室の長椅子に腰をおろしていた。離れてソンランの前舅も座っている。
 二人とも顔にあざをつくっていた。
 ジョンシムがピルトのそばに駆けつけた。
「あなた、どうしたというのよ」
 ピルトは無言だ。
「父さん・・・」
 シワンも声をかけた。ピルトはシワンを見つめ返した。
 少し離れた場所に前舅が座っているのに気付き、ソンランはうろたえた。
「すみません」
 事情を知らないジョンシムがその男に詫びを入れている。
「申し訳ありません――事情はよくわかりませんが、うちの人のせいですから、深くお詫びします。示談をしてください。どうかお願いします」
 前舅は顔を上げた。彼に見つめられ、ソンランは思わず目を背けた。
 ジョンシムはシワンを見た。
「シワン、どうしたの?」
 やむなくシワンもお詫びを入れる。
「申し訳ありません。どうか示談してください」
 前舅も黙って何も言わない。

 
 ピルトたちは家に引き揚げてきた。何があったのか要領を得ないので、ジョンシムはピルトに文句を並べた。家に帰り着いてからも文句を言った。
「ちゃんと答えてよ。テワンでもあるまいし、その年で喧嘩するにはそれなりの理由があるでしょ」
「些細なことだって」
 ピルトはジョンシムのキンキン声が煩わしそうに答えた。
「話すほどのことじゃない」
「いい年をして何を考えてるの。孫もいるのよ。黙ってればすむことじゃないでしょ」
「うるさい」ピルトは叫んだ。「話したくないんだよ」
 ジョンシムはびっくりして家族を見やった。 
「お前は小言が過ぎるんだ。いい年をした女がなんだ――口やかましいんだよ」
 ピルトは吐き捨てて部屋に引っ込んだ。
「ねえ」ジョンシムはシワンたちを見た。「父さん、どうしちゃったのよ」
 誰も何も言わない。ソンランは悲しい表情で目を落とした。

 ジョンシムはピルトのそばにやってきた。正座して訊ねた。
「あなた、どうしたの?」
「たまには目をつぶれと言ってるんだよ」
「目をつぶるなん・・・わかったわ。言いたくないならそれでいいけど、子供たちの前で怒鳴らないで。嫁が2人も見てるのよ」
「・・・」
 ジョンシムは怒って部屋を出ていった。

「まだいたの」
 シワンたちやクムスンにジョンシムは言った。 
「もう休みなさい。父さんも機嫌が悪いようだし。みんな疲れてるでしょ」
 シワンたちは先に部屋に言った。
「冷たい飲み物でも?」とクムスン。
「いらないわ。あなたも休んで。フィソンは寝た?」
 クムスンがトイレに行った後、ジョンシムは冷蔵庫から水を出した。
マグカップに入れようとした時、テーブルの上の携帯が鳴った。
 ジョンシムは携帯を受けた。
「もしもし・・・クムスンの携帯ですが・・・どなたですか?」

 家人が出たのでジェヒはあわてて携帯を切った。

「もしもし・・・もしもし、どなた?」
 ジョンシムは何度も呼びかけたが、応答はない。
「もしもし・・・」
 今1度呼びかけて返事がないのでジョンシムは携帯を切った。
 クムスンが戻ってくる。
「電話があったんですか?」
「ええ。振動してたから出たのに何も言わず切ったわ。クムスンの電話だと話したのに」
「ああ・・・」
「ク・ジェヒって誰?」
 クムスンは表情が固まる。返事に詰まる。
「男性みたいだけど」
「ええ・・・美容室の人です」
「一緒に働いてる人?」
「はい・・・」
「最近は男性の美容師も多いわよね」
 ジョンシムは水を飲んだ。
「もう休みなさい」


 シワンとソンランにとって、事態は深刻だった。とりわけ、ソンランは針のむしろに座っている心地だった。
「どうかなりそう・・・こんなのありえないわ」
「そうだな・・・いろいろあるな」
「まるで他人事みたいね」
「何を言ってるんだ」
「そうでしょ。”いろいろあるな”ですって?」
「じゃあ何て言えばいい? ”なぜ、そんなヤツの息子と結婚した?”とでも?」 
「シワン。問題を錯覚しないで。その優柔不断な性格が原因で起きたのよ。最初に話しておけばこんなことは起らなかった」
「ああ。だから? いまさら、どうしろと?」
「どうにも出来ないから言ってるの――もどかしくて腹が立つわ。なぜ、こんなことしたのよ。正直に話せばいいのに。優柔不断で小心者だわ」 
「ああ――俺はそういうヤツだよ」
 ソンランは呆れて息を吐く。
「どこまで非難すれば気がすむんだ? 俺が原因を作ったとはいえ、責め立てれば事が解決するのか?」
「・・・」


 クムスンは寝付けない。
 ジェヒの電話を受けた義母のこと、とっさに美容室の人と言い逃れた気持ちの後ろめたさが彼女の感情を高ぶらせていた。
 クムスンはバスケットを持って部屋を出た。
 するとテーブルにソンランが座って酒を飲んでいる。
「まだ寝てなかったの?」
「はい。眠りが来なくて。お酒ですか?」
「そう――私も寝たいのに眠れなくて。座って。一杯どう? 
「いいですね。じゃあ、1杯だけ」
「この家の嫁同士、こっそりやるのも悪くないわ」
 ソンランの杯を受けてクムスンはぐびっとやる。
「ああ、苦い」
「いい表情だわ」
「お義兄さまは?」
「寝てるわ」
「起こして一緒に飲めばいいのに」
「彼に腹が立って飲むのに一緒に飲みたい?」
 スルメを手にしてクムスンは訊ねる。
「お義兄さまに腹が?」
 クムスンは顔を近づけた。
「どうして? 何かしました?」
「まだ話せないけど――すぐに分かるわ」
「・・・」
「どうであれ、今は結婚を後悔してるの。私は結婚するべきじゃなかった。そんな感じ」
「・・・お義兄さまが重大な失態でも?」
「話すにはちょっと複雑でね。後で・・・。あなたはなぜ?」
「私ですか? なんとなく・・・最近、眠れないの。ひどく暑いからかな」
「寂しそうだわ」
 クムスンはソンランを見た。図星の表情をした。
「私も今日は寂しいの。寂しくて結婚したのに、もっと寂しくなった。あなたも好きな人ができたら、恋愛だけか同居だけがいい」
「・・・」
「というか、韓国ではまだ無理かしら?」
「・・・」
「そうね。偉そうな私も結局こんな姿だわ。あなたは古典的だものね」
「・・・私が古典的ですか?」
「知らなかった? あなたは古式ゆかしいこの家の一員だわ」
「違いますよ。そう言われると気になるわ。私も・・・」
「恋愛してる?」
「いいえ」
 ソンランは笑った。
「シングルだし、いいでしょ。飲みましょ」
 ソンランは酒ビンを握った。

  
 スンジャとテワンのことで意見を交わした後、サンドはクマと連れ立って出かけていった。
 ジョムスンは訊ねた。
「会ったら、どうだって?」
「何を言うんです。その話はやめてください」
「・・・美男子だし、体格もいいし、目も大きくていい人そうだった」
「お義母さん」
「暑いのに熱をあげないの。頭から湯気をださずに落ち着いて聞きなさい」
「・・・」
「ねえ。よく考えてみたら、クマは嘘をつく子じゃないし、何かあったとしたら」
「もう本当に・・・」
「熱をあげないの。クムスンの二の舞になったら?」
「・・・」 
「よく考えなさい。ナ家の血はどうだ? ただ、事を起こすだけですまないだろう」
「お義母さんも本当・・・」
 スンジャは急に吐き気をもよおしだす。
「あら、どうしたんだ。娘が妊娠すると母親がつわりをするのかい・・・?」
「お義母さん」

 朝刊を手にしたピルトの前にソンランが出てきて立った。
「お義父さま――本当に申し訳ありません」
「どいてくれ。中に入る」
「お義父さま」
「母さんに知られないよう――俺は努力してるんだ。わかるか? どいてくれ」
 ソンランはうつむき、横にのけた。

 ジョンシムが入ってきて雑巾で部屋を拭きだした。
「どうしたんです? 今日は出勤しないのですか?」
 ピルトは振り返る。
「実は――仕事を辞めようかと思って」
 ジョンシムは驚く。
「なぜ辞めるの?」
「ただ働きたくない。暑いせいか、ひどくつらくて・・・」
「あなたったら・・・最近、どうしたのよ」
「まったく」
「まったくじゃないわ。何を偉そうに。その年で喧嘩して警察には捕まるし、起きたら、突然、会社を辞めようだなんて、いったい何なの?」
「お前の言うとおり、もう年だから休息も必要だ」
「なら、なぜ働きたいだなんて言うのよ」
「・・・」
「言わなければいいのに、働きたいというからソンランが探したんじゃないの。まだ2ヶ月も経ってないわ」
「あの時はそうだったが、実際、働いてみたら――毎日暑いし」
「ありえない話だわ」
「お前は・・・」
「返す言葉があるの? そんなに簡単に辞めたら、ソンランの立場はどうなるの? あの子の立場を考えないの?」
「・・・」
「最近、いったいどうしたのよ。あなた、何かあるでしょ?」
「何があるってんだ」
 ピルトは立ち上がった。
「わかったよ」
 洋服ダンスから上着を取り出した。
「行くよ。出勤だ」
 部屋を出ていった。



「病院に行きます」
 ジェヒはミジャに出掛けの挨拶をする。
「送ろうか?」
「・・・」
「母さん」
 ミジャはジェヒを無視して出かける支度を続ける。
「じゃあ、先に行きます」
 ジェヒが出て行った後、ミジャは愚痴った。
「憎らしい子!」

 ジェヒはコーヒーを飲みながらクムスンが出勤してくるのを待った。
 クムスンはようやく現れる。ジェヒを見て立ち止まる。
 ジェヒを無視してクムスンは通り過ぎようとする。ジェヒが取ろうとする腕を振り切った。
「もうやめて。先生と話すことはないわ」
「・・・」
「もう会わないと言ったはずよ。電話もかけないで。昨日も義母が出て困った」
「一方的に会わないといえば終わるのか?」
「ええ。もう終わりよ」
 ジェヒは行こうとするクムスンの腕を取った。
 クムスンは激しく抗う。
「もうやめてください!」
「・・・」
「お願いです。これから出勤なの」
 背を向けて歩き出す。
 ジェヒはその背に向かって叫ぶ。
「分かった。家の前で待ってる。あとで話そう」  

 クムスンが出勤した後、後を追うようにミジャも入ってくる。
「クムスン。冷たい緑茶を頼むわ」
 そう言いつけて部屋に向かった。
 クムスンはミジャの部屋にやってくる。緑茶を机上に置く。
「私との約束は守ってる?」
「はい」
「息子が憎いからと、あなたを憎まない努力をしてるわ。幸いにも――しばし自身の境遇を忘れたものの、すぐに気付いたから評価する」
「・・・」
「約束はまもって――そうすれば・・・美容師になれるよう協力する。わかった?」
「・・・」
「意地を張らずに答えて」
「・・・」
「こんなとき母親は――意地を張ったらダメ。分かったわね」
「はい」
「いいわ。行って」


 洗い物の仕事をしてる時、ウンジュがやってきた。
「ジェヒとは会ってるの?」
「いいえ。会ってないわ」
「ここでずっと働くの?」
「はい」
「気にならない? あなたに感謝しない理由。ママに腎臓をくれたのに」
「いいえ。感謝は求めてません」
「そう。父に私に話すなと頼んだのは――どうして?」
「気まずいから」
「そうね。頭が痛いわね。急に私たちが姉妹のようになったわ。そしてジェヒさんが、あなたが好きだと? 運命のいたずらかしら? 私が唯一愛した男がジェヒさんだったのよ」
「・・・」
「知ってる?」
「・・・」
「私の実母が死んで1年で父が再婚したの。家族はママは初婚だと思った」
「・・・」
「あなたも捨てられたのよね。もしかして――私たちが早く会ってれば一緒に親を恨みながら、互いを哀れんでいたかもね。違う?」
「・・・これを早く洗わないと」
「つまらない話だった? いいわ。静かに行くわ。行くけど、私は時々狂うの。昔も妹が出来た時、狂ったことがあるわ。だから、あなたも気をつけて。噛みつくかもしれないから」
 ウンジュは出て行った。

 ジェヒは研修医らの労をねぎらってから私服に着替えた。

 クムスンは飲み物を持ってユン室長のところへやってきた。
「テストが受かったので教えてください」
 室長は笑みを返した。クムスンにとって、室長といる時が最もくつろげて充実できる時間だった。
「本当に1度で受かったわね。よくやったわ」
「一生懸命、練習したと言ったはずです」
「院長とは何かあったの? 急にテストを受けるなと言うし」
「・・・」
「いいわ、これ以上聞かない。今日から1日30分の教育と5時間の練習よ。どう、できる?」
「もちろんです。ありがとうございます」
「5時間の練習は甘くないわよ」
「つらくても後悔しません。意地でも、早く美容師になりたいんです」


「お帰り」
 ウンジュはヨンオクの言葉に黙って二階へ上がっていった。
 キジョンも帰ってきた。
「ウンジュが帰って来ただろ」
「ええ。部屋に上がったわ」
「相変わらずか?」
「そうみたい」
「・・・」

 キジョンはワインを持ってウンジュの部屋へやってきた。
「どうだ・・・?」
「いらないわ」
 キジョンは自分の分のグラスを握って腰をおろした。
「考えてみると――お前には悪い父親だった」
「・・・」
「俺は・・・お前の母親をあまり愛してなかった。再婚をしたことで、幼いお前のつらさを知りながらも、忙しいからと気にも留めなかった」
「急にどうしたの?」
「俺が――なぜジェヒを反対したか分かるか? 母親のようにと思った。お前の母親が俺を思う気持ちが大きかった。そして俺は――お前の母親に何の愛情も示せないまま、ほとんどの時間を病院で過ごした。だから――俺の背を見つめるだけの短く不幸な結婚生活だった」
「・・・」
「俺がそれを後悔した時は――お前の母親はもう・・・病気は深刻で、間もなく死んだ」
「・・・」
「本当に・・・悲痛な思いだった。だからお前だけは――俺とは違い、懐が広くて、お前を深く愛してくれる温かい男を望んだ」
「・・・」
「それから――もう1つ詫びないとな」

 家に近づいた時、クムスンは朝方ジェヒの言っていた言葉をふいに思い出した。
 前方を見るとジェヒの車が止まっている。
 このまま行こうか避けようか迷っているとテワンの声がした。
「帰りか?」
 走りよってくる。
「オーディションを受けるよ」
「本当? よかったですね。何のドラマ?」
「短編で脇役なんだけどな」
「でもオーディションを受けられるのは凄いわ。行きましょう」
「そうさ。受けられるのが重要だよな」
 テワンはゴキゲンだ。しかし、クムスンはそうじゃない。ジェヒとテワンのいるこの場をどうしのげばいいのか不安でならない。

 ジェヒはサイドミラーでクムスンがテワンと歩いてくるのを目に収める。
テワンがいようと構わない。
 クムスンらの声が聞こえだす。
「どういう役なの?」
「主人公の友達。主人公も無職で一緒に暮らしてるんだ」
 クムスンはジェヒの動向を気にしながらテワンの話に合わせている。
「俺には最高の当たり役だろ。シーンもセリフも多いんだぞ。最初のセリフがな・・・」
 ジェヒはドアを開いて車をおりた。二人の前に立った。
「遅かったな。ずっと帰りを待ってたんだ」
 テワンはクムスンを見た。
 クムスンはジェヒを見た。





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