雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(133)






韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(133)


 二人がやりあっているところにドアが鳴り、ジェヒに呼ばれた医師が入ってきた。
「先生、どうされましたか?」
「追い出せ」ジェヒは言った。
「この部屋で何を?」 
 入ってきた医師は強い口調で訊ねた。
「出てください」
「いいえ、その・・・」
 クムスンはジェヒを見る。
 ジェヒはクムスンを無視する。
「出てくださいよ」
「分かりました。出ます」
 クムスンはやむなく病室を出た。
 クムスンを外に連れ出した医師は病室に戻ってきた。ジェヒは冷蔵庫から飲み物を取り出したところだった。
「先生、まだ安静にしててください。手もあげたままで」
「わかった。自分でするから、もういい」
「それ、私が開けますから早く横に」
 医師はペットボトルの飲み物をジェヒから取ろうとする。
「離せ」ジェヒは言う。「俺がやる」
「・・・」
「もう行ってくれ」
 医師は頷き、病室を出ていった。
 ジェヒは右手とわき腹に挟み、ペットボトルのフタを外そうとする。しかし、思うようにならず床に投げ捨てた。

 ジェヒに面会を拒まれたクムスンは病院の散策路に出てきた。長椅子に腰をおろした。自分の気持ちを整理した。
 このままここを離れたら、それこそもう後戻りはできない。
 クムスンはジェヒの病室に戻ってきた。気持ちを強くしてドアを叩き、病室に入った。
「何だ・・・なぜまた来る?」
「先生・・・」 
 ジェヒは釣っていた右腕を外し、上体を起こした。
「まだ分からないか? お前に会う理由はない。顔も見たくない」
「少しだけ・・・5分だけ、いさせて・・・」
 ジェヒは電話の受話器を握ろうとする。クムスンは受話器に駆け寄る。
「先生、お願い!」
 ジェヒの手は止まる。
「5分だけ、5分だけですから」
 ジェヒは横を向く。
「手を・・・怪我したと・・・」
「そうだ。怪我をした」
「ひどい怪我なの?」
 ジェヒはクムスンを見上げる。
「ああ、大怪我だ。何の関係もないのに知ってどうする?」
「・・・」
「もういいか? 帰れよ――義兄が代わりに来た日、俺はお前を諦めた」
「・・・」
「あの日、俺はお前に――”待つ”と告げるつもりだった」
「・・・」
「婚家の家族と別れられるまで――夢である美容師になるまで――お前を苦しめず待つと・・・その話のはずが――お前は義兄をよこした」
「私は頼まなかったわ」
「バカにしてるのか? なぜ話を一転させる?」
「ごめんなさい」
「”ごめん”? 何がだ」
「・・・」
「今日はなぜ来た? 俺が怪我をして心配したと? 来ても、回復すればまた戻るんだろ? お前の大好きな婚家に。再び付きまとったら次は誰を寄越す? 次は義父でも?」
「・・・」
「お前を見てると――その道のプロだ。だから俺は誘惑された」
 クムスンは涙ぐむ。
「行け。俺はきれいに忘れてやる」
「・・・」
「俺が尽くしたから思い上がったのか? そうだ。そうして生きろ。子供と婚家の家族と一緒に立派に暮らせ」
「・・・」
「もう帰れ――早く」
「・・・」
「行けよ!」
 涙を浮かべ、クムスンはお辞儀をした。重い足取りで病室を出て行った。

 クムスンが出て行った後もジェヒの表情は暗い。言うだけ言ってもジェヒの心には空しさだけが広がっていた。

 ジェヒの病室を出た後、クムスンはしばらくそこから動けなかった。

 クムスンは放心状態でバス停まで歩いた。バスに乗ってからも涙は止まらなかった。
 涙ながらでジョムスンに電話を入れる。
「今日は家にいて、私がフィソンの迎えを行くから――私は元気よ・・・ゆっくり休んで」
 

 ピルトが部屋に入ってくる。ジョンシムは身体を起こした。
「どこか悪いのか?」
「違うわ」
「なら、食事に出かけよう。美味いの食べよう」
「嫌よ。そんな気分じゃない」
「気分転換に出かけるんだよ」
「気分転換どころじゃ・・・何よ。何か話でも? あの子たちを許せとでも?」
「まだムリな時期か? 俺は一週間くらいだったけどお前も一週間経ったぞ」
「・・・」
「仕方ないさ。考えるほど情けないし、他でもないシワンが裏切ったけれど、もう結婚したし反対もできないだろ」
「だから絶縁すると言ってるの。私に許せと言ったらあなたとも絶縁よ」
「・・・分かった。許せと言ったか? 絶対に一生、許すのはやめよう。俺たちにはテワンしかいないさ」
 そこにクムスンの声がした。続いてフィソンの声がした。
「ただいま」
 ドアが開く。
「お義父さん、お義母さん、フィソンが帰ってきましたよ」
「フィソン、おいで」とジョンシム。
 ジョンシムに手を引かれ、抱かれる。
「おばあちゃんにはフィソンだけよ」
「おい、クムスンもいるぞ」とピルト。「クムスンも・・・早かったな」
「はい・・・」
「早いから夕食をお願い」とジョンシム。「指一つ動かす気力がないの」
「はい、お義母さん――早く元気にならないと。何か食べたいものはありますか?」
「そうね――今はどれもおなじよ」
「すぐ準備します」
 クムスンは部屋を出た。
 重い身体に鞭打って食事の支度に取りかかった。

 
 スンジャの家はソンランの離婚歴の話で盛り上がった。
「9歳の子供がいるんだって。私も驚いたわ」とクマ。
「何てことよ――長男夫婦は両親を騙してたの?」
「そうじゃない。長男が1人でやったの。結婚できないと思って両親が許可したと偽ったの」
「やあ、長男もしでかしたな」
 サンドまでこの話題に乗る。
「話を聞いただけで私も動悸が走るのに、婚家の両親はどんなに・・・」
「本当だわ。お舅さんたちが哀れで仕方ないわ。かわいそうな人たちね」
 ジョムスンにスンジャも同調する。 
「かわいがってた三男に先立たれただけじゃなく、長男にまで裏切られ、悲痛の叫びが聞こえてくるようだわ」
 家族の話の波長も合って、スンジャは調子に乗った。
「何とも粗末な嫁が来たものね。これ以上はないはずの長男の嫁はバツイチの子持ちで、完璧な末息子の足を引っ張った――あの三男の嫁は・・・」
 ジョムスンと目が合って、スンジャはハッとなった。口の動きが止まった。
「続けてみなさい」とジョムスン。


 シワンはソンランの言葉を反芻していた。

――私には選択の問題じゃない。息子には行くあてがないの。
  
 話そうか、もう少し待つべきか、散々考えた末、ソンランは話す方を選んだ。決意すると急いで事務所から帰宅した。
「お帰りなさい」
 クムスンがソンランの労をねぎらう。
「お義兄さまも少し前に」
「そう。ちょっと待ってね」
 ソンランはピルトたちの部屋の前に立った。ドアを叩き、部屋に入る。
「お義母さん、ただいま帰りました。お義父さま・・・」
「あなた、もう・・・」
「お義母さん・・・」
 ソンランはピルトを見た。
「お二人に話があります」
「何の話だ」
 ピルトは腰をおろした。
「座れ」
「座らないで」とジョンシム。
「居間でお話します。家族みんなに話すべきことなんです」
「何ですって?」
 ノ家の家族は円卓の置かれた居間に集まりだす。
「シワン、早くこい。何をしてる」
 シワンもやってくる。
「さあ、みんなそろった。それで何の話なんだ?」
 シワンの顔色が変わる。まさか? と言わんばかりにソンランを見る。
「話って?」
「何なんだ? 早く話せ」
 ソンランは話し始める。
「シワンさんは、後日、話そうと言ったのですが」
「おい、ソンラン」
 シワンは話を遮ろうとする。
 他の者は怪訝そうにする。
「すみません」
「何だ、続けろ」
「父さん、何でもないんだ」とシワン。「やめろ」
 ソンランは続ける。
「ですが、私は・・・お話するべきだと――お話します」
「何なの? 話を続けて」
「私の息子のことです。実は前夫の事業が傾いて、息子の面倒を見られなくなりました。そして・・・前義父に預けることもできなく――それで私以外に見られる者が現実的にいません」
「だから?」とジョンシム。
「だから――できるのならば・・・私が1年だけ――育てたいのです」
「何?」
 みんな動揺を見せる。
「あなた・・・あなた、もう1度言って。どういうこと?」
「1年間、息子と暮らしたいんです」
「シワン」とピルト。「お前が許可を?」
 シワンは答えられない。
 ジョムスンは口をあんぐりさせている。
「シワン、答えてみろ。許可したのか? 答えるんだ!」
「違います。この人は考えてみようと・・・」
「本当に・・・あまりに呆れて、話ができないわ。何? 息子と一緒に暮らしたい? 1年だけ暮らすと?」
「お義母さん・・・離婚で養育権をとれず、子供を諦めました。5年間待ちました。諦められません」
 ピルト以下、家族たちは言葉を失った。

 シワンたちは外に出た。シワンは言った。
「お前、正気か?」
「正気よ」
「ソンラン! 俺をバカにしてるのか? 父さんや母さん、家族を軽んじてるのか?」
「・・・」
「俺はお前をどうしても理解できない」
「・・・」
「言っただろ。考えてみようと。俺が拒絶したか? ダメだと言ったか?」
「いいえ」
「なら、何の真似なんだ。これは一方的な暴力だ 人を殴るだけが暴力か?」
「・・・」
「何の準備もなしに、一時的な充足にまかせて話すのが、動揺してる両親にどれだけ暴力的なことか。それを考えてみたか?」
 ソンランは叫び返した。
「私には選択の問題じゃないのよ。息子のことなの。息子の養育のことよ」
「・・・」
「あなたに両親が大切なほどに、私には息子が大切よ。両親でなく子供なの」
「なら、なぜ俺と結婚した? 結婚前に――ある程度、予測してたんだろ? ひと言もなかった。予測どころか息子のことも――1度も話さないから、母性の強さは意外だった。それに――お前が母親であることも忘れていた。なのになぜ今さら――息子なんだ? なぜ落胆させる」
「育てられない息子の話を平気で話せる母親がいると?」
「・・・」
「悪いヤツ・・・"落胆”? あなたが私に息子の話をしたことが? 9歳のウジュだと話しても、1度でも息子の名前を口にしたことが?」

 ピルトもジョンシムも部屋で放心状態だった。二人は互いに口をきくこともなく座っていた。

 帰宅したキジョンはヨンオクに訊ねた。
「クムスンにジェヒの怪我の話を?」
「いいえ。クムスンが病院に?」
「ああ。ジェヒの病室の前にいた」
「そうですか」
 ウンジュの部屋にキジョンが顔を出した。
 ウンジュは背を返した。
「寝てるのよ」
「ウンジュ。自分を責めるな。ジェヒは大丈夫だ。お前が自責しないよう手術前に頼まれた」
 ウンジュは身体を起こす。
「本当にジェヒさんが?」
「でなきゃ、なぜ俺が?」
「・・・」
「お前だろ? クムスンさんに話しただろ?」
「・・・」
「よくやった。ありがとう。潔く俺とママのために、ジェヒをクムスンさんに譲ったお前が、本当に誇らしくて――ありがたく――すまない」
「・・・」
「ごめんな、ウンジュ」

 ヨンオクは電話をかけた。しかし、電話はつながらない。


 ミジャがジェヒのもとにやってきた。ジェヒはそっぽを向く。
 そばに寄ると背を返す。
「寝るから帰って」
「あなた本当に・・・」 
 ジェヒは寝たフリをする。

 クムスンは解熱剤を飲んで寝床につく。
 フィソンの身体をなで寝返りを打つ。そしてジェヒのことを考える。

――次は誰を寄越す? 次は義父でも? お前を見てると――その道のプロだ。だから俺は誘惑された。行け。子供と婚家の家族と一緒に、立派に暮らせ。

 クムスンは身体を起こした。悔しさと悲しさ、ジェヒを思って泣いた。
 クムスンは額縁に眠るジョンワンを見た。ジョンワンを思ってまた泣いた。

 夜中に電話が鳴った。ジョムスンは起き上がった。
「こんな時間に誰よ。礼儀知らずな・・・」
 電話に出る。
「もしもし・・・夜中のこんな時間に電話なんかして、あとでかけなさい」
 しかし、受話器から流れ出てきたのはクムスンの声だ。
「おばあちゃん・・・」
「クムスン・・・?」
 ジョムスンはすぐ外に飛び出した。
 クムスンが家の前までやってきていた。
「おばあちゃん・・・」
「まあ、何て顔なのよ」
 ジョムスンはクムスンの横に腰をおろした。顔に触れた。
「熱があるわね。どうしたの?」
「風邪を引いたみたい。昨日から熱が下がらないの」
「なら家で寝てないで、どうして夜中にここへ? 何があったの?」
「おばあちゃん・・・」
「ああ、どうした?」
「おばあちゃん――私ね。先生と交際してもいい?」
「えっ?」
「私――先生を忘れられないの」
「・・・」
「私ね。会わなければ大丈夫と思ったの。プロポーズされた日、院長にあまりにひどく叩かれて、正気に戻って――会わなければ、すぐに忘れると思った。私にはフィソンもいて、私を受け入れてくれた婚家の家族もいるし、まだあの方たちに背を向けるのは――考えられないし、早く堂々とした母親になるのに、先生に会わなければ大丈夫だと思ったの」
「・・・」
「おばあちゃん――私、元に戻れないの。忘れられると思ったの。先生に会う前のように。どんなに頑張っても忘れられないの」 





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