雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(137)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(137)


 クムスンとフィソンが手を振り合って別れようとしている。
 見られてはいけない。ジョンシムは慌てて物陰に隠れた。そこからまた様子をうかがった。
 相手の男は向こうに歩き去ったが、クムスンは家の方角に歩いてくる。
 ジョンシムは身体が見えないようにしてクムスンらをやり過ごす。
 風船を握ったフィソンの手を取り、楽しそうに帰っていくクムスンを見ながらジョンシムは思案に落ちる。
 

――だから心配なのよ。お二人が早く心配してくれないと。


「ママ」とフィソン。
「何?」
「おじさん、怪我した?」
「おじさん? さっきの?」
「はい」
 クムスンはフィソンの前に身をしゃがめた。
「すごいな~フィソンはおじさんの怪我まで知ってるの?」
「・・・」
「腕を怪我したのよ。それを心配したの?」
「はい」
「大丈夫。心配ないよ。すぐに包帯を取ってよくなるわよ。おじさんも、上の叔父さんも大丈夫よ。だから心配ないわ。ファイト!」
「ファイト!」
「もう1回ファイト!」
「ファイト!」

「ただいま」
 クムスンたちが帰ってきた。
「お義母さん、帰りました。フィソン、挨拶は?」
「ただいま」
「お帰り」
「いい子ね。部屋に行って」
 ジョンシムは背を返したクムスンを見る。
「お義母さん、買い物してきたんですか? 私もしてきたんです。何を買いました?」
 クムスンはジョンシムの買い物袋の中を見る。
「あっ、私もほうれん草とジャガイモを・・・」
 ジョンシムはクムスンをじっと見る。
「・・・どうしたんです?」
「あなた・・・」
「はい、お義母さん・・・」
 ジョンシムはクムスンから目をそらす。
「何でもないわ」
「何です? どうぞ話してください」
「何でもないのよ――これを冷蔵庫に」
「はい」
 買い物したものを冷蔵庫に入れるクムスンを見ながら、さっきの光景がやっぱり気にかかるジョンシムだ。クムスンがこっちを向こうとするとさっと何気ない態度に戻る。
「お義母さん」
 クムスンが切り出す。
「お義姉さんを許してくれませんか?」
「何?」
「1年だけ、子供を引き取れませんか?」
「・・・」
「何よりも、きっと子供に会いたいと思うんです。何年も会わず、やっと機会が訪れたのに」
「だから離婚して、勝手に育てろと言ったのよ」
「お義母さん、それは・・・」
「それは何?」
「・・・」
「あなたって・・・1年だけ? 何年になるか誰にも分からないの。子供を育てたいならシワンを解放するべきでしょ。そんな勝手は通らないわ。ありえると思う?」
「シワンがあなたには尽くしてたのに、何て言い草よ」
「・・・」

 
 ミジャは病院にやってきた。受付で訊ねた。
「すみません。1510号のク先生が不在なんですが」
「ク先生は今日、退院しました」
「退院? もうですか? 主治医の先生に会えますか?」
 ミジャはジェヒの主治医に会った。
「まさか、ご存知なかったと?」
「それで息子は永遠に回復できず――外科医をできないかもと?」
「まだ分かりません。リハビリをしてみないと何ともいえません」
 ミジャは気落ちした。
「こんなことが・・・チャン先生は大丈夫だというから・・・数週間で回復すると思ってたのに――どうしてこんなことに・・・」
 ミジャは帰宅し、ジェヒの部屋にやってくる。
「お帰り。今日、退院したんだ」
「なぜ黙ってたの? 何で話さないのよ」
 ミジャはジェヒのそばに歩み寄る。ジェヒの腕を気にした。
「どうなの? 感覚はある?」
「・・・」
「回復してる感じは?」
「聞いたの? どこで?」
「私をバカにせずに早く話しなさい。どうなの?」
「まだ分からない。リハビリをしないと」
「・・・」
「大丈夫さ。問題ないはずだ。何となくそんな気がする。手術も成功して神経も残ってるんだ」
「何ですって? どうしたら・・・どうして・・・」
「母さん・・・」
 鼻をグスグスさせながらミジャは嘆く。
「どうしてこんな――こんなことが・・・」
「大丈夫だって――ダサイな。最近は泣いてばかりじゃないか」
「ジェヒ、どうしたら? どうすればいいのよ。どうすれば・・・」


 ソンランから”離婚しよう”と告げられたシワンは苦悩していた。
 シワンを苦しめているのは、その子がソンランの子供である前に、自分の遺伝子を継承しない他人の子種だという現実だった。両親を説得する以前に排他の感情を愛情に置き換えることができないのだった。

――離婚しよう。離婚しましょう。

 ソンランにとってもそれは同じだった。シワンと息子のどちらかを優位に置きたい感情などほんとはない。二者択一などできない。気持ちの中はそうだった。それを許さない状況が彼女に無謀な決断を強いた。いずれ、このことが自分に悔恨を残す。
 言い出しておきながらそれを受け入れるシワンであってほしくない。
 ソンランはただただ矛盾の苛立ちと苦悶の中にいた。
 携帯が鳴った。母からだった。束の間、ソンランは明るい笑顔を取り戻す。
「母さん――変わりない? 最近、忙しくて――もちろんよ。えっ! 送らなくてもいいのに・・・母さんたちが食べれば・・・ええ。分かったわ。そう伝えておきますから」
 
 ソンランは急いで帰宅した。
 宅配便はちょうど届いたばかりだった。
 受け取ったクムスンが言った。
「お義姉さん、これが届きました」
「知ってるわ」
 ソンランは義父母の前に贈り物の品を出した。
「チャンゲサン?」とピルト。
「ええ。開けてみてください。母の話では30年以上の人参だそうです」
「30年以上?」
 ピルトは箱のふたを取った。人参を手にした。
「やあー、こんな高価なものを・・・」
「以前からお二人に贈りたかったそうで、偶然に手に入れたそうです」
「そうか・・・気持ちは嬉しいんだが・・・」
 ジョンシムが横から手を出し、品物にふたをした。
「返しなさい。必要ないわ」
「・・・」
「こんな状況で贈る理由は分からないけど・・・」
「お義母さん――これは両親の純粋な好意です。両親は何も知りません」
「”純粋な好意”? ”純粋な好意”?だと? あなたの両親も全部、知ってたんでしょ? それで”純粋な好意”ですって?」 
「・・・」
「あなたのお父さん、校長先生だったわね? なのに、こんなことをするの? 親の心はみんな同じなのに、私なら死んでもこんなことできないわ」 
 横からピルトが言う。
「もうやめなさい」
「何をやめるの」
「・・・」
「何食わぬ顔で、この家にも来て。こんなものを送って――遠慮もないし、良心もないのかしら」  
「お義母さん・・・」
「何?」
「遠慮がないのは私です。両親は詳しいことは知りません。両親は問題のある私を迎えてくれたことを感謝し、申し訳なく思っています。それで贈ったもので・・・」
「だから、お返ししなさい。300年ものでもいらないわ」
 ジョンシムは円卓の上の箱を突き飛ばした。人参は床に落ちてこぼれた。
「・・・」
「それから・・・私の話は考えてみた?」
「母さん」
 帰ってきてさっきから話を聞いていたシワンが横から声をかけた。
 ソンランの隣にきた。
「ただいま」
 腰をおろす。
「どうするつもり?」
「母さん」とシワン。
「離婚します」とソンラン。
「ソンラン」
「従います。これ以上、苦しめません」
「ソンラン――!」
「昨晩、離婚しようと話したわ。沈黙で同意したんじゃ?」
「・・・」
「そう。よく考えたわ」
「・・・」
「そうね。離婚して子供と一緒に暮らしなさい」
「母さん、どうか・・・」
「はい」とソンラン。「そうします。お義母さん、お義父さま、すみませんでした。本当に申し訳ありません。平和な家庭に私が来たことで――お二人にひどい苦痛を与えました。本当にすみません」
 お詫びを並べるとソンランは立ち上がった。そこにいたたまれなくなったようだった。
「私はまだ会社に仕事が残ってて・・・失礼します」
「お義姉さん」
「ソンラン」
 クムスンやシワンが呼び止めようとする中、ソンランは黙って家を出て行った。
「クムスンさん、頼むよ」とシワン。
 クムスンはソンランの後を追おうとする。
「ここにいなさい。どこに行くのよ」
「お義母さん」
「いなさいったら」
 ためらいつつ、クムスンはソンランを追いかける。

「お義姉さん、待って」 
クムスンが出てきて引きとめようとする。しかし、ソンランの車はクムスンの前を走り去った。
 クムスンは部屋に戻る。テワンが言った。
「何か言えよ。本当に離婚するの?」
「そうだ。テワン、正直に話してみろ」
 シワンは正座した。
「父さん、母さん――許してください。愛してるんです。ソンランと離婚はできません」
「・・・」
「本当に愛しています。離婚はできません」
「だから? だからどうするの? まさか、ソンランの子供を育てると?」
「はい」
「正気なの?」
「すみません――すみません、母さん。最初から俺のせいです。ソンランは最初から結婚にも反対でした。バツイチの子持ちを迎える親はいないと俺を避けていた」
「・・・」
「それなのに嘘をついて結婚したんです。父さんたちには親不孝行だと――裏切りだと分かっていたけど、どうしてもソンランと結婚したかったんです」
「・・・」
「なのに今さら・・・離婚はできません。承知の上で結婚したんです。1年です。1年だけ面倒を見て・・・」
「そんなの分からないわ。それに、なぜあなたが育てるの? 自分の子供もいないのに」
「子供は産めばいいですよ」
 おそるおそるクムスン。
「生意気な口を――あなたは黙ってなさい」
「・・・」
「子供は産むよ」とシワン。「子供はすぐに作ります。どうかお願いです」
「ダメよ。死んでも許さない」
「母さん」
「なら、私と縁を切ってでもその子を育てる気なの?」
「母さん」
「あなたは黙ってて。答えて」
「母さん」
「答えなさい」
「――はい」


 ジョムスンはスンジャに言った。
「ブドウって何だろうか? 果物は娘って言うけど、でもブドウの形からして息子じゃないの?」
 スンジャは後ろを気にした。
「お義母さん、聞こえますよ。決心が固まるまでは秘密にしてくださいよ」
「秘密も何もないわ」
「この年で産めと?」
「当たり前じゃない。出来た子を産まないの?」
「お義母さん」
「この年というけど、産めるから妊娠したの」
「借金がいくらあるか分かりますか?」
「だから何?」
「仕事も辞めることになるのに生活はどうするんですか。夫とクマの給料は借金返済に充ててるし」 
「心配ないわ。私がまたナムルをいくらでも売るわ」
「それくらいの稼ぎじゃ生活はできません」
「黙りなさい。妊娠したら産むのよ」
 ジョムスンの大声にスンジャは両手を振った。
「お義母さん!」
「だから変なことは考えないで」
「私の年をご存知で?」
「知ってるわ。46歳」
「50歳にもなってないわ。この前、テレビで50歳で産む人もいたし」
「分かりました。慎重に考えますから――でも、当分は秘密にしてください」
 話が一段落するとスンジャはポケットから紙切れを取り出し、ジョムスンに差し出した。
「ヨンオクさんの電話番号です」
「・・・」
「必要だと思って――余計なことでした?」
「いいえ、よこして」
 サンドがシャワーから上がり、クマも帰ってきた。
 ジョムスンは紙切れを持って部屋にきた。
 しばらく思案した末、思い切って電話をかけた。


 チャン家は家を飛び出したウンジンを心配していた。
 そこにヨンオクの携帯が鳴った。
「私よ。誰かわかる?」
「はい、お義母さん。少しお待ちを」
 ヨンオクは立ち止まり、席を外した。
「大丈夫です。お話ください――お義母さん」
「聞こえてるよ。実は・・・一度会いたくて、電話をしたんだ。いつならいい?
話があるわ。家には来ないで外で会おう」


 クムスンが水ポットとマグカップを持って部屋に入ってくる。
「お布団敷きましょうか?」
「大丈夫。行っていいよ」
 ピルトが答える。
 シワンの決断にショックを受けたジョンシムはクムスンにもソッポを向いたままだ。
 クムスンは、お休みの挨拶をして出て行こうとする。
 ジョンシムから声がかかって、クムスンは振り返る。
「はい、お義母さん・・・」
「今日の昼・・・」
 クムスンは緊張する。
「いいわ、行って」
 クムスンは無言で出て行った。
「クムスンに何かあったのか?」
「何でもないわ」
「・・・」

 シワンはソンランのところに押しかけた。事務所のドアを叩いてソンランを呼んだ。
 しかし中から返事はない。
 シワンは携帯で電話をかけた。ソンランの携帯はオフだった。 
 再び、事務所のドアを叩く。
「ソンラン! ソンラン!」

 ソンランは事務所にいた。
「ソンラン! ソンラン!」
 シワンの声が外から繰り返し聞こえ続ける。
 シワンに会いたい気持ちを彼女は必死でこらえた。


 クムスンの携帯が鳴る。メールだった。

――クムスン。フィソンは元気? 俺は先に寝るよ。おやすみ。夢で会おうな。

 フィソンを抱いたジェヒを思い浮かべる。すごく愛情に溢れた笑顔だった。 クムスンの顔も自然とほころぶ。
 その目が写真のジョンワンの笑顔にぶつかる。
 クムスンから笑顔が消える。
 クムスンは部屋を抜け出した。いつもの高台に出かけた。そこからソウルの街並みを見下ろした。
 遠くに向かって叫んだ。涙ながら出叫んだ。
「ジョンワン――! ジョンワン――! ジョンワン――! ごめんなさい――! ジョンワン、ごめんなさい――! ごめんなさい――! ジョンワン、ごめんなさい――!」

 
 クムスンは海苔巻きを作っていってジェヒに食べさした。
「どう?」
「得意だという割にはあまりおいしくない」
「・・・」
「まあ普通の海苔巻きの味だな」
 クムスンはムッとした顔で海苔巻きの入れ物にふたをする。
 ジェヒはあわてて言い直す。
「いいや、おいしい。おいしいよ」
 クムスンはジェヒを睨みつける。
「本当だって最高だ」
 クムスンは話を聞かない。ぜんぶしまおうとする。
 ジェヒは何とかひとつ奪い取って口に放り込む。
「いや、ほんと。今まで食べた中で一番だ。最高だ。最高の味だよ」
「・・・」
「だけど、人には好みがあるんだよ。指摘されて発展もするんだ」
「食べ物にケチをつけるのは我慢できないのよ。一生懸命、作った食べ物をあとで指摘するならまだしも」
「分かったよ」
「前から知ってたけどあなたは性格が悪い。だから結婚もできないの」
「人は俺をイケメンだという」
「・・・それは外見の話で今は性格を言ってるんです」
「分かった。もう言わない。だから早くくれよ。腹減ってるんだ」
 ジェヒをジロっと見て、クムスンは海苔巻きを自分の口に運ぶ。
「おい、何だよ」
 拗ねているジェヒに、クムスンはムスっとした表情のまま、海苔巻きを箸でつまんで口元に運んでやる。ジェヒは機嫌をなおし、子供のように大きな口をあけて海苔巻きを頬張った。
 食べ物が口中にある状態でジェヒは言う。
「フィソンはお前によく似てた。本当にかわいかった。初見で好きになった」
「当然だわ。私の息子なのよ」
 クムスンはお茶缶を差し出す。
「飲みながら食べて」
「フィソンは俺のことを話さない?」
「・・・」
「まだ、そんな時期じゃないか?」
「”おじさん、怪我した?”だって。怪我を心配してたわ」
「そうか? はっはは、俺を気に入ってくれたの?」
「そうみたいです」
「イケメン同士は通じるな。さすがフィソンだ」
 クムスンは呆れつつ、海苔巻きをまたひとつジェヒの口に押し込んでやる。
「お前はいいな」
「・・・」
「イケメン2人と暮らせて」
「・・・?」
 ジェヒはポケットから小箱を取り出す。中には指環が入っていた。それを手に取り、クムスンに見せる。
「噛まなくていいよ。本物だよ。サイズも合わせた。手を出した」
「・・・」
「出してみろ。また断ったら捨てるぞ」
「いいですよ」
 クムスンは素直に応じ、左手を差し出す。
「はめて」
 ジェヒは肩膝立てて求愛の姿勢を取る。クムスンは失笑する。
「笑うんじゃない」
 指環はクムスンの左薬指に収まった。
「結婚しよう」
 クムスンを見てジェヒは言った。クムスンはまっすぐジェヒを見つめ返す。
「答えてくれ」
 クムスンにはもう偽りも衒いもない。
「いいですよ。結婚しましょう」
 二人はにっこり微笑み合った。




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