雨の記号(rain symbol)

斉藤投手の最後のストレート

 今年の高校野球は実に面白かった。優勝候補が次々倒れていく中、早実高校と駒大苫小牧は強さをアピールしながら勝ち上がっていった。
 で、この両校が決勝でぶつかったわけだが、斉藤君フィーバーに見られるように、早実高の優勝で幕を閉じた。
 打撃戦の試合が続く中、斉藤投手は安定したピッチングを見せた。このような安定感は、遠くは法政二校の柴田、浪商の尾崎、作新学院の八木沢、銚子商業の土屋、近くは横浜高校の松阪大輔投手を彷彿とさせる。つまり、斉藤投手も彼らのレベルと並んだということであろう。
 今、僕の頭の中には、最後のバッターに投じた彼のインハイのストレートがある。速い球だった。三振を取りにいく時、彼は早い球を投げた。甲子園にはいろいろの好投手がやってきたが、ストライクを取る速球と三振を取る速球をこれほど投げ分けた投手を思い浮かべることができない。
 プロにはいた。金田投手がそうだったし、江夏投手がそうだった。これは相手を手玉に取るだけの度胸があったから出来たことである。
 これを斉藤投手はトーナメント戦の甲子園でやっていたのである。
 斉藤投手が甲子園で投げた最後の球について、あるコメンテーターが解説していた。あそこで彼の投げたストレートが野球のすばらしさとすがすがしさを残した、あれがスライダーだったり、フォークだったりしたなら、これほどの感動は呼ばなかった、と。
 さて、斉藤投手の投げた最後のストレートだが、最後のバッターは三振、それもストレートで、の思いで投げたのであろうか。
 僕はそこに興味を覚える。これからの野球人生に大きな影響を及ぼすと思われるからである。
 松坂大輔投手は、最後に確かスライダーを投げたのだったと思う。あの時はノーヒットノーランがかかっていた。彼にとって最高の決め球がスライダーだったからだろう。
 斉藤投手にとっては、はたしてどうだったのであろう。あれがファールチップだったとして、次もやっぱり彼はストレートを投げたのであったろうか。
 ひと言いわせていただけば、そのコメンテーターの言葉を僕は信用していない。受ける表現ではあろうが、勝つための最善の投球は、勝負に徹し、いちばん打ち取りやすい球を投げるということだ。たとえ、スライダーで大きなレフトフライに打ち取っていようと、優勝投手としての彼の価値はいささかも変わらないのである。
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