雨の記号(rain symbol)

ときわ荘のぼんくら談義⑩

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  KARAの解散⑩



「椅子に座ったギュリはちょっと目にどこにでもいる30歳くらいの女性にしか見えなかった。活動が活発だった頃は、あのスリムなハラに及ばないまでも、遜色のない容姿と可愛さを誇っていたギュリだった。だが、顔はともかく姿は別人になっていた。契約期間も終わりに近づき、肩の荷がおりてそうなっていったのかも知れないな。その心境は分かる。写真見ているうちそう思えたりした。人気グループとしてずっと先頭切って走り続けてきたんだ。こんな機会が訪れれば誰だってのんびり羽を伸ばしたいって思うだろう。美味しいもの食べたり、仲のいい友達を呼んでくつろぎながら、ゆったり気分を心行くまで味わうんだ。最高だよ、それはもう…たくさんのファンを得て、声援を浴びて東京ドーム公演を実現できたんだ。しかもK-POPガールズとして、少女時代より先にこれを果たした。大したものだ。まさに伝説だよ。東京ドームが存在し続けるかぎりいつまでもこれが語り草になるからね。ギュリたちは過ぎ去った時間のひとコマひとコマをゆっくり思い返せる今、自分たちの果たした業績の大きさにあらためて驚いているんではないだろうか。
自分たちはやってのけたんだ、ってね……と思ったところで過ぎた時間は戻らない。我に返ればそれらは過ぎ去った夢だ。あの夢の続きをどんな風に追えばいいのか…契約更新が近づく間、彼女たちは考え続けていただろうね。あの続きを今のKARAで追うのは無理なのか。あの日あの時の時間に戻れないなら、あの日あの時のメンバーに戻る方法はないのか、と…そんな思案に見舞われて彼女らは連絡を取りあったりしたこともあるんではなかろうか。5人になった時の自分たちについて、彼女たちが思いを向けないはずはないだろうね。そのパワーについては彼女たち自身が東京ドームで体感しているんだから。しかし、現状はメンバーそれぞれが散り散りに引き裂かれた状況だ。一番落ち込んだのはリーダーをやっていたギュリだろうね。そのしわ寄せがギュリのあの姿なのかもしれない。くだんの写真は企画事務所を立ち上げた彼女の近況を伝えるものだったが、やっぱりあんな写真を撮らせちゃいけないと思うな」
 クラヤは口をあけたビール瓶を手にした。ボンタはグラスを握って近づける。ビールを注ぎ終えてクラヤは言った。
「仕事がオフの時は歌手だって女優だってだらけたり太ったりはするだろうよ。写真撮らせちゃいけないってそこにどんな問題があるというんだ」
「ファンたちにとって彼女は今もまだアイドルだからさ」
 ボンタはきっぱり言った。





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