1月11日午後1時。「九州住民ネットワーク」「がれき問題を考える北九州」「風ふくおかの会」など反原発団体の代表ら7人が、福岡市中央区の西日本鉄道本社に押しかけた。
目的は抗議。1月8日付の朝日新聞西部版が「九州の経営トップ語る 『政権の政策 すべて期待』『経済の再生 原発が必要』」との見出しで報じた記事がきっかけだった。福岡商工会議所の新年祝賀会を報じただけの記事だったが、問題にしたのは西日本鉄道代表取締役社長、竹島和幸の以下の発言だった。
《安倍首相は原発の再稼働に前向きな姿勢を示している。九州電力の貫正義会長は「国益を守るためにも、すぐ(首相や政権が)交代することがないように望む」と述べ、西日本鉄道の竹島和幸社長も「経済再生のため、ぜひとも再稼働が必要だ」と強調した》
西鉄本社会議室に通された7人は、応対した西鉄広報室の中堅・若手社員2人に辛辣な批判を浴びせかけた。
「今も16万人が苦しむ福島の現実に向き合い、人として最低限のモラルが守られることを望みます」
「原子力規制委員会が(再稼働を)ダメと言っているのに誠に不謹慎で由々しき問題。九州の住民と被災者、全国の住民に謝罪するよう要求します」
「余計なこと言わないで黙っていればいいじゃない。向こう(九州電力)の話なんだから」
「安全審査の基準も決まっていないのにこんな発言できるはずがない。してはいけないんですよ。あんたの役割は社長に(抗議を)伝えて、社長が何て言ったかを(私たちに)伝えることなんです」
「(抗議は)今日限りでないから継続的にお願いしたい。また来ますから…」
要するに、九州で大きな影響力を持つ西鉄の社長が、原発再稼働を求めるような発言をしたことは「誠にけしからん」ということなのだ。身をすくめる社員2人を、7人は時折笑みを浮かべながら1時間にわたって吊るし上げた。
反原発団体が賛同を呼びかけ、デモや集会を行うのは一向に構わない。憲法21条(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由)で保障された当然の権利だからだ。
だが、意に沿わぬ意見を言う人に圧力をかけ、徹底的に押さえ込む。これを言論封殺と言わずして何というのか。市民団体の拠り所である憲法21条を自ら踏みにじる行為だといえる。
ただ、竹島はこんな抗議を気にもかけず、その後も原発再稼働を訴え続ける。2月9日付の産経新聞のインタビューでも「電気料金再値上げを避けるためにも(原発の)安全確認をした上で早期の再稼働をすべきです」と断じた。
もし竹島が反原発団体の糾弾を恐れ、発言を封印していたらどうなっていたか。九州財界がすべて沈黙し、九州電力が孤立する。「これが狙いだったのではないか…」。そう勘ぐられても仕方あるまい。
テント村は合法なのか
福岡市中央区渡辺通の九州電力本社前。午前10時ごろ、中年男性が慣れた手つきでテントを組み立て始めた。周りに透明シートを張り、「九電よ、原発をやめ日本、アジア、世界の星になろう!」と書いた大きな垂れ幕を掲げる。その後は中に籠もり、夕方にはテントを片づける。
平成23年3月の福島原発事故を受け、翌4月から九電への抗議活動の一環としてほぼ毎日続ける。通行中のサラリーマンにとってもありふれた日常の風景となっているが、そもそも一般公道、しかも本社玄関前にこのようなテントを立てることが許されるのか。
実は、このテントには福岡県警が道路交通法に基づく道路使用許可を出している。県警の担当者に問い合わせたが、誰が許可を申請したかについては「個人情報なので詳細は言えない」と口をつぐむ。
県警は道路使用許可に際し、「危険防止」「安全と円滑な交通」などの観点から、テントの規模や設営時間▽ビラ配りの際に人につきまとわない▽テントが飛ばないように固定する-などを条件にしたという。
ところが、平成24年10月23日、テントが強風にあおられて車道にはみ出し、走行中の西鉄バスに接触する事故が起きた。バスは前面の方向指示器が破損し現場に1時間停車した。
幸い乗客35人にけがはなく物損事故の扱いになったが、これは「道路の危険防止」や「安全で円滑な交通を妨げない」などの条件に違反する。そもそもテントが「安全で円滑な交通を妨げない」のかどうかも疑問が残るが、県警が道路使用許可を取り消すことはなかった。
県警に理由を質すと、担当者は「事故は事故として法に則って適切に処理したはずです。私は事故を担当しているわけではありませんし、道路使用許可とは直接関係ありませんので…」と言葉を濁した。
では、原発賛成派が、反対派のテントの横に「再稼働を求めるテントを立てたい」として道路使用許可を申請した場合、県警は許可するのだろうか。担当者は「申請書に不備がなければ認める」と説明するが、はなはだ疑わしい。
ただ、この問題は福岡県警だけの問題ではない。そもそも経済産業省前のテント村を警視庁が許可した時点で全国にテント村が乱立する事態は容易に想像できた。果たしてテント村が「言論、表現の自由」に該当するのだろうか。
なぜ公聴会は反対一色?
経産省が1月31日と2月1日の2日間にわたり、福岡合同庁舎(福岡市博多区)で開催した九電の電気料金値上げに関する公聴会では、九電社長、瓜生道明が標的となった。
「原発ゼロが国民の意思なのにそれに応えない。安易な値上げを許してはいけません」
「原発のない社会の実現こそが多くの国民の願い。値上げの真の理由は再稼働に備えて原発に莫大(ばくだい)な維持管理費を投入していることだ。それを電気料金値上げという形で原発に反対する多くの利用者に押しつけている!」
2日間の意見陳述人は会社員や主婦ら34人。このうち31人が料金値上げにも原発再稼働にも明確に反対した。このうち1人は西鉄本社に抗議に訪れた女性。玄海原発停止を国や九電に求める訴訟の弁護団の一員もいた。
果たして公聴会が国民の意見を反映しているのか。
1月26、27両日に実施した産経新聞とFNNの合同世論調査では「安全性が確認された原発の再稼働」について賛成45.9%、反対44.3%と拮抗(きっこう)した。他の報道機関による1月以降の世論調査も同じような結果が出ており、公聴会の陳述人の賛否の割合と大きく乖離(かいり)する。
経産省の担当者は「陳述人はあくまで自由応募であり、今回の公聴会は応募した全員が陳述人になった」と説明するが、なぜこれほど原発反対一色となったのか。電力業界関係者はこう打ち明ける。
「平成24年夏に経産省が全国各地で開いた『将来のエネルギーを考える意見聴取会』で中部電力社員が原発再稼働を求めて猛批判を浴びた。九電の『やらせメール』騒動もあり、電力会社や原発容認派はすっかり萎縮しちゃったんです」
一部メディアと反原発団体による“言論封殺”は極めて巧妙に進んでいるようにみえる。経産省は公聴会での陳述人の意見をまとめ、有識者による「電気料金審査専門委員会」に提出したが、これを「民意の反映」と受け取るのは早計だといえる。(敬称略)
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