第2部(5)「脱原発」ドイツの失敗 料金上昇 ツケは国民に
民主党政権が打ち出した2030年代の「原発ゼロ」。だが、その裏には「電気料金2倍」との試算が隠されており、実際にはそれ以上の値上げとなる公算が大きい。しかもこれが引き金になり、産業の「真空化」が起きかねない。この脱原発派にとって「不都合な真実」について前回説明した。
だが、実はこれだけでは済まない。「原発ゼロ」の実現には、さらなるコストが見込まれるからだ。
まず「原発ゼロ」をうたうならば全国の原発をそのまま放置することはできない。その解体・廃炉には1基当たり300億~700億円が必要だとされる。
廃炉に伴い、放射性物質に汚染された原子炉の処分場も必要となる。使用済み核燃料の最終処分場の問題も逃れることはできない。これらの処分場設置にもっとも反対するのは、おそらく「原発ゼロ」を唱えた人々ではないだろうか。
電力会社にとって原発ゼロは「死」を意味する。原発と関連施設は、電力会社のバランスシート上で「資産」として大きなウエートを占めるからだ。原発ゼロになれば、これらの資産価値はほぼゼロ。それどころか、廃炉を見込んで減損処理しなければならない。
つまり、政府が「原発ゼロ」を正式に打ち出した瞬間に債務超過に陥る電力会社も出る可能性もあるのだ。そうなると、電力会社はもはや市場での資金調達が困難となり、政府が資本投入しなければならなくなる。もちろん原資は国民の税金となる。
高水準省エネの正体
政府が9月に打ち出した原発ゼロシナリオ「革新的エネルギー・環境戦略」には、もう一つ「不都合な真実」が隠されている。
シナリオのたたき台となった経済産業相名の資料「エネルギー・環境戦略策定に当たっての検討事項について」には、「省エネルギーの課題と克服策」として「経済的負担が重くなってでも相当高水準の省エネを実施する必要がある」と明記されているのだ。
では「高水準の省エネ」の正体とは何か。これも具体的に記されている。
「新車販売に占める次世代自動車の割合7割、うち電気自動車6割」「省エネ性能に劣る設備・機器の販売禁止」「省エネ性能に劣る空調機器の改修義務化」「省エネ性能の劣る住宅・ビルの新規賃貸制限」「中心市街地へのガソリン車乗り入れ禁止」-など。
これら省エネ設備をすべて国産でまかなうならば、あるいは省エネビジネスが景気回復の起爆剤になる可能性もないことはない。
だが、太陽光パネルはすでに中国製などに押されている。電気料金大幅値上げにより、今よりもさらに高コスト体質になった国内産業に外国企業と対等に戦える余力があるかどうかは疑わしい。他国で生産された省エネ設備を導入するならば、「高水準の省エネ」を実現するための負担は企業、そして国民にすべてツケ回される。
しかも資料では、原発ゼロ達成時の日本の貿易収支は毎年9・7兆円の赤字。財政赤字に加え、巨額の貿易赤字を抱えた日本が立ちゆけるはずがない。
脱原発ドイツは…
脱原発論者は「杞憂にすぎない」と言うかもしれないが、実は先例がある。
脱原発を打ち出し、再生可能エネルギーへの転換を進めるドイツだ。一部メディアはこの姿勢を賞賛するが、負の側面はあまり伝えられない。ドイツの電気料金は過去10年間で1・8倍も跳ね上がっているのだ。
ドイツは2000(平成12)年、世界に先駆けて再生可能エネルギーの買い取り制度を導入、制度を当て込んで太陽光発電への参入事業者が相次いだ。事業者に高値で支払われる電力料金は、一般国民の電気料金に上乗せされ、2013年には標準家庭当たりの年間電気料金は現在の920ユーロ(約9万4000円)から990ユーロ(約10万1千円)に跳ね上がる。
慌てたドイツ政府は買い取り価格の段階的な引き下げを実施。10月11日、アルトマイアー環境相はついに将来的に買い取り制度そのものの廃止を表明した。
そもそもドイツは17基の原発を保有する世界9位の「原発大国」だ。2022(平成34)年までに全廃する計画だというが、現在も半数近くが稼働し、電力供給量の2割を担っている。
そのドイツが大量購入しているのは、フランスの原発が供給する電力だ。フランスは「欧州の電力供給国」と化すことが安全保障上も国益に資すると考えており、原発ゼロにする考えは毛頭ない。
政府はこのような事実を知らないのか。知っていて知らぬふりをしているのか。原発再稼働で迷走を続け、「原発ゼロ」政策の推進役を担った枝野幸男経済産業相は10月26日の閣議後記者会見で「原発ゼロによる値上げへの理解は得られると思う」と断言した。
その枝野氏が「お手本」とするドイツでは、脱原発の電気料金上昇が低所得者層の生活と産業界を直撃しており、買取制度のあり方が来秋の連邦議会(下院)選挙の争点になるのは確実な情勢となっている。
枝野氏は「原発ゼロ」がもたらす災禍をどう考えているのか。知らないならば、あまりに勉強不足だといえる。知らないふりをしているならばより罪深い。いずれにせよ、エネルギー担当相の資格はない。
民主党政権が目先の人気取りで「原発ゼロ」を推し進めるならば、2030年代の日本の惨状は目に見えている。その頃に政治責任を取る民主党の政治家は何人生き残っているというのか。ツケはすべて国民に回されることになる。
何年も我慢する国民なんていないはずだから。
気付くのが遅いと取り返しがつかなくなるかも。