原発は成熟したベースロード電源 IPCC報告に思う 長辻象平
地球温暖化対策を軸にした世界と日本の原発の位置づけに、大きなズレが目立ち始めているように思われる。
ドイツのベルリンでの総会で13日にまとまった国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会の報告書の内容に照らしての印象だ。
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二酸化炭素に代表される温室効果ガス(GHG)の削減策を検討した報告書は、実効性の高い3本柱として「再生可能エネルギー」「原子力エネルギー」「CCSを伴う火力発電」を挙げている。
これらの低炭素エネルギーの比率を2050年までに今の3~4倍に高めると、今世紀末の気温上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えられる可能性が高いとしているのだ。
2度未満の上昇だと悪影響の度合いが受容可能な範囲に収まるので、国際的な合意を得た目標値となっている。
CCSは、火力発電所から排出される燃焼ガス中の二酸化炭素(C)を捕獲(C)し、地中深くに貯留(S)する技術のことだ。
地球環境への取り組みでノーベル平和賞を受賞したIPCCが原子力発電を、福島事故を理由に排除することなく、温暖化対策の柱の一つとして大きなウエートを置いていることは注目に値するだろう。
さて日本。11日にようやく閣議決定した「エネルギー基本計画」での原子力発電の扱いはどうだろう。
一応は民主党時代の原発ゼロ政策を転換し、「重要なベースロード電源」との位置づけを与えはしたものの、一方では原発依存度を「可能な限り低減させる」と書いているなど、後退的な表現を含む内容だ。
それに比べてIPCC第3作業部会による原子力エネルギーの位置づけは明確だ。
「各種の障壁とリスクが存在する」としながらも「成熟した低GHG排出のベースロード電源」としている。
IPCCの報告書の表現は、総会への全出席国によって一言一句まで吟味されている。原子力を「成熟したベースロード電源」とする見方は、世界的な支持の裏付けがあると見るべきだろう。
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12月にはペルーのリマで、国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)が開催される。
2020年からの世界のGHG排出削減の新たな国際枠組み作りに向けて、大詰めの協議が進む。
15年3月末までに、各国は20年以降の削減目標値を国連に提示する流れだ。原発保有国は、原子力発電によるGHG排出削減を織り込んだ数値を表明するのに対し、日本はそれがままならない。
京都議定書で日本は不利な立場に置かれたが、ポスト京都の次期枠組みでも、すでに前車の轍(てつ)を踏みつつある。
削減しなければ、今世紀末に世界の平均気温は産業革命前に比べて3・7~4・8度高くなるとIPCCは警告している。
気温上昇がIPCCの予測通りに進むかどうかは不明だが、排出削減の国際交渉が進むことは間違いない。GHG削減交渉が南北問題を含めて現代世界の秩序形成に深く組み込まれているためだ。
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気象庁によると、この冬の東日本と沖縄方面は寒気に覆われることが多かった。近年、東日本の冬は寒くなっていて3年連続の「寒冬」だ。関東甲信越地方は記録的な大雪にも見舞われた。北米も寒波に凍えた。
今夏は南米・ペルー沖の海水温が高くなって世界の気候に影響を及ぼすエルニーニョ現象の起きる可能性が高い。この現象発生時の日本は、冷夏になりやすい。
そのうえ世界の平均気温は、この15年ほど横ばいになっている。その間、GHGの排出は急増しているにもかかわらずだ。
エルニーニョの発生は5年ぶりだ。これが出現すると平均気温が上方にジャンプするという説もあるそうだが、詳しいことは分かっていない。
今年末のCOP20の交渉は日本の運命を左右するものになるはずだ。GHGの無理な削減や電気代の高騰は、製造業の海外移転に拍車をかける。
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