*[コラム]
コロナ禍という非常に稀な時期に病院勤務ということで何度か病院で得たコロナ関係の話題を提供してきましたが、コロナそのものに関しては地方病院で得られる知見は所詮後追いのものでしかありません。
ですが、今回は正真正銘「マスコミが絶対に報じない地方病院の最新収入状況」のご紹介。
しかも令和最新版(笑)・・・というのは冗談ですが、令和2年9月現在の最新収入状況を紹介したいと思います。
「10月も中旬になるのに最新版?」
ひょっとするとそう思われるかもしれませんので、病院の収入サイクルについてからまず保険制度に則って簡易に順番にご紹介。
「国民皆保険」と云われる通り、国民(定住外国人含む)は原則として国民健康保険か社会保険に加入しています。
なお保険料を一定期間未払いで保険診療を受けられないのは別の問題(当然診療は受けられるが支払いは全額自費)
国民健康保険であれ、社会保険であれ、病院にかかった際の支払いは原則3割となります(75歳以上の高齢者は収入にもよりますが原則1割)。
そして病院は残りの7割を国保や社保に請求して支払ってもらうのです。
この請求(レセプト請求といいます)の締め切りが毎月10日であるため、日本中の病院――大病院から診療所に至るまで――10日までに前月分の請求を処理することになります。
ちなみに当然この期日を過ぎても翌月以降も請求できますが、その分、病院にお金が入ってくるのが遅れますので特段の事情がない限り、病院はその期日までに処理をしようとします。なお実際にお金が入ってくるのは、翌月の21日・22日前後になりますので、ほぼ二か月後になります。
という訳で、冒頭の話に戻って令和2年9月最新版のご報告になります。
さて前もってお断り。
当然のことながら具体的な数字を書くわけにはいかないので、これから紹介する数字は当院の「昨年度との比較」つまり「前年度比いくら」という表現になります。
更に当院の立地も簡単に説明すると。
①田舎の大病院ではあるが、そこまで田舎ではない。
②コロナを第一次的に扱う感染症指定病院ではない。しかし感染症指定病院が満床になった場合のバックアップ、または軽症患者の受け入れはしている。
③コロナ患者用にベットは春からずっと一定数、空けている。
基礎条件はこんな感じです。
地方(但し過疎地は除く)にある大病院は大概ほぼ似たような条件の筈なので、うちの収入状況が特別ではない筈・・・です。
では、令和2年9月最新版の収入状況の発表(正確に云うと上述の通り、保険者から実際にお金が振込まれてくるのは二か月後になりますので請求が満額認められた場合の想定ではありますが)。
当院の本年度4月から9月の収入はトータル「前年度比マイナス1千万円」。
なおこの数字は純然たる入院・外来の医業収益(収入)のみの前年度比です。
既に県から振込済のコロナの特別補助金も入っていなければ、コロナ患者用の空床補償金も入っていない数字。
病院関係者以外はすぐにはピンと来ないとは思いますが、うちの規模の大病院で半年分の医業収益の合計が「前年度比マイナス1千万円」などというのは誤差も誤差。というかニアピン賞どころかホールインワン賞を貰ってもいいくらいの数字。
つまり何を言いたいかと云えば「このコロナ禍においても当院の収入実績は前年度と殆ど同じ」という驚くべき、というか統計をまとめている自分からすれば、自分の統計処理ミスを疑ってしかるべき信じがたい結果なのです。
この数字、毎月の積み上げ算の数字の結果であり、最新の9月分も今日上司の決裁を通ったので数字のミスはありません。
つまり本当に驚くべきことに、このコロナ禍においても上半期の「純然たる医業収益(収入)」は前年度と変わらないのです、少なくとも現時点では。
どう考えても統計ミスを疑われるかもしれませんが、何度検算しても間違いない結果なのです。
もう少し具体的に数字を見ていきましょう。
自分は2009年度からの病院の医業収益や入院患者数・外来患者数、入院・外来単価に関する継続的な統計データを管理していますが、確かにコロナ第一波に襲われた今年の4月5月の数字はバグレベルで壊滅的な数字が並んでいます。
今後長期の統計グラフを制作する際に縦軸を弄らざるを得ないレベルで酷い数字です。
その4月5月の二か月間の医業収益は「前年度比マイナス約2億円」になります。
ただ収益比で見るとざっとマイナス10%程度です(この数字を正確に出すとうちの収益規模が想定されてしまいますので数値は少しアバウト)。
逆に云うと、入院患者数も外来患者数も壊滅的な数字であるにもかかわらず、マイナス10%程度しか医業収益が減っていないわけで。
この点について少し解説すると、うちの規模の病院の場合、コロナを恐れて受診控えした人も相当数いたものの、そういった患者は比較的軽症者ばかりだった、と推察されます。
何故それが裏付けられるかと云えば、患者一人当たりの入院料、外来受診料が「過去最高値」を記録したからです。
病院の診療報酬というものは、当然のことながら重症の症例が高くなり、軽症の症例は安くなります。
つまり受診控えした患者の大半は軽症者であり、コロナ禍であろうが「生命の危機に直結する症状」の患者は病院に来ざるを得なかったと推定されるわけです。
なお補足すると一人当たりの入院料の最高記録は5月に、外来受診料の最高記録は4月に記録しているため、入院患者数の最低記録が出たのが5月、外来患者数の最低記録が出たのが4月という数値からの必然の結果です。更に補足すると4月に当院が受け入れたコロナ患者の診療報酬請求が、コロナ患者の保険点数の疑義があったため5月にずれ込んだ影響もありますが。
という次第で4月5月の数字は当院においてもそれなりに酷いものであり、一般にマスゴミが報道するところの「病院の経営危機」というのはこの時期を念頭に置かれたものだと思われます。
が、最初に結論を書いたとおり「今年度の上半期」という長期スパンで見ると、少なくとも当院に関しては数字は既に「医業収益は前年並み」に収束済みなのです。
細かい数字を見ていくと、6月7月8月9月と各月ごとに数字にひどく凸凹ができていて、正直分析がしづらいのですが(前述の通りコロナ関係の請求に関する疑義が出た関係で数字の先送りがあったり、コロナの第二波が当県に来た8月の患者数が前年比でみるとやはり少し減っていたり)、上半期という期間で集計するとをこと医業収益は前年比同等に収束しているのです。
入院患者数、外来患者数の上半期トータル数は前年度比でかなりマイナスなのですが、前述の通りいわゆる「入院単価」「外来単価」が上がったのと、更にコロナ患者を受け入れた場合の診療報酬の更なる加算が加わった結果、当院の場合、既に上半期トータルでみけば、前年比とほぼ同値に収束済み、というのが最新のまごうことなき実態なのです。
勿論最初に述べた「当院の置かれた条件」と似た条件でも当院と似た結果になるとは限りません。
当院の患者の場合、平常時からそれなりに重症患者、もしくは重症に陥る可能性の高い高リスク患者が多く、更にその予備軍の患者も含めて、コロナ渦でも当院に通院を続けざるを得ないわけですが、平時にそれほど重症患者群を抱えていない病院はこのコロナ渦で患者が通院をやめてしまった・・・という可能性がないではありません。
しかし、今回コロナ患者の受け入れをしていたような大規模病院が、コロナ禍以前の段階で既に進んでいた「重症患者を積極的に受け入れることで経営改善を図る」という今日の病院経営のイロハである「当然のこと」をしていないわけがないわけで、やはりコロナがある程度収束している地方の大病院の経営、少なくとも「医業収益」が改善されていないわけがないと思われる当院の最新の数値のわけですが・・・多分マスコミでこの手の分析が出てくるのは数か月先になる筈です・・・というか報道するのかな?
そもそももし経営が改善していても病院側からは積極的に開示なんてしないわけで。
ぶっちゃけ「経営が苦しい」といっていれば補助金の更なる上増しが見込めるわけでして、はい。
実際既に県からの補助金が数億円貰っているんですよね。
本体の本年度補助金の〇億円に加えて、空床補償、受け入れ医療機関協力金、重点医療機関設備整備などが今後も入金されてくるわけで、収入に関してはこの調子で下半期も行くと、恐らくコロナ関係で貰った補助金の分だけ前年比プラスになってしまうという。
勿論このコロナ騒動で支出も増えているわけで、今はそちらは別の課の担当なので具体的数値を聞いていませんが(システム共有しているので調べればすぐ分かるけど)、医薬品や診療材料、衛生材料の類の購入は以前担当していたので数字はある程度想像できるわけで。
後は院内での各種コロナ対策をした整備費と危険手当・残業代を含む人件費ですが・・・既に貰った補助金ほどに費用が掛かったとは到底思えないわけで・・・そうするとまだこの先コロナがどうなるか分かりませんが、ひょっとすると、というか少なくとも自分の推察だと、かなりの高確率で今年度の当院の決算は黒字化するのではないのか、と。
いや、病院経営的には黒字になるのは当然結構なことなのですが・・・費やされた莫大な国費は回りまわって我々の税金なわけで、本当にこれでいいのかなあ、と思わずにはいられないわけでして、はい。
勿論今回報告したのは「現時点」での「当院に限ってかもしれない」話ですので、一応最後にお断り。
もし今回のコラムに関して諸々反応が頂ければ、また次報だったり、各種コロナ関係のお金のあれこれを、守秘義務違反にならない範囲で書きたいと思いますので、よろしくお願いします。
コロナ禍という非常に稀な時期に病院勤務ということで何度か病院で得たコロナ関係の話題を提供してきましたが、コロナそのものに関しては地方病院で得られる知見は所詮後追いのものでしかありません。
ですが、今回は正真正銘「マスコミが絶対に報じない地方病院の最新収入状況」のご紹介。
しかも令和最新版(笑)・・・というのは冗談ですが、令和2年9月現在の最新収入状況を紹介したいと思います。
「10月も中旬になるのに最新版?」
ひょっとするとそう思われるかもしれませんので、病院の収入サイクルについてからまず保険制度に則って簡易に順番にご紹介。
「国民皆保険」と云われる通り、国民(定住外国人含む)は原則として国民健康保険か社会保険に加入しています。
なお保険料を一定期間未払いで保険診療を受けられないのは別の問題(当然診療は受けられるが支払いは全額自費)
国民健康保険であれ、社会保険であれ、病院にかかった際の支払いは原則3割となります(75歳以上の高齢者は収入にもよりますが原則1割)。
そして病院は残りの7割を国保や社保に請求して支払ってもらうのです。
この請求(レセプト請求といいます)の締め切りが毎月10日であるため、日本中の病院――大病院から診療所に至るまで――10日までに前月分の請求を処理することになります。
ちなみに当然この期日を過ぎても翌月以降も請求できますが、その分、病院にお金が入ってくるのが遅れますので特段の事情がない限り、病院はその期日までに処理をしようとします。なお実際にお金が入ってくるのは、翌月の21日・22日前後になりますので、ほぼ二か月後になります。
という訳で、冒頭の話に戻って令和2年9月最新版のご報告になります。
さて前もってお断り。
当然のことながら具体的な数字を書くわけにはいかないので、これから紹介する数字は当院の「昨年度との比較」つまり「前年度比いくら」という表現になります。
更に当院の立地も簡単に説明すると。
①田舎の大病院ではあるが、そこまで田舎ではない。
②コロナを第一次的に扱う感染症指定病院ではない。しかし感染症指定病院が満床になった場合のバックアップ、または軽症患者の受け入れはしている。
③コロナ患者用にベットは春からずっと一定数、空けている。
基礎条件はこんな感じです。
地方(但し過疎地は除く)にある大病院は大概ほぼ似たような条件の筈なので、うちの収入状況が特別ではない筈・・・です。
では、令和2年9月最新版の収入状況の発表(正確に云うと上述の通り、保険者から実際にお金が振込まれてくるのは二か月後になりますので請求が満額認められた場合の想定ではありますが)。
当院の本年度4月から9月の収入はトータル「前年度比マイナス1千万円」。
なおこの数字は純然たる入院・外来の医業収益(収入)のみの前年度比です。
既に県から振込済のコロナの特別補助金も入っていなければ、コロナ患者用の空床補償金も入っていない数字。
病院関係者以外はすぐにはピンと来ないとは思いますが、うちの規模の大病院で半年分の医業収益の合計が「前年度比マイナス1千万円」などというのは誤差も誤差。というかニアピン賞どころかホールインワン賞を貰ってもいいくらいの数字。
つまり何を言いたいかと云えば「このコロナ禍においても当院の収入実績は前年度と殆ど同じ」という驚くべき、というか統計をまとめている自分からすれば、自分の統計処理ミスを疑ってしかるべき信じがたい結果なのです。
この数字、毎月の積み上げ算の数字の結果であり、最新の9月分も今日上司の決裁を通ったので数字のミスはありません。
つまり本当に驚くべきことに、このコロナ禍においても上半期の「純然たる医業収益(収入)」は前年度と変わらないのです、少なくとも現時点では。
どう考えても統計ミスを疑われるかもしれませんが、何度検算しても間違いない結果なのです。
もう少し具体的に数字を見ていきましょう。
自分は2009年度からの病院の医業収益や入院患者数・外来患者数、入院・外来単価に関する継続的な統計データを管理していますが、確かにコロナ第一波に襲われた今年の4月5月の数字はバグレベルで壊滅的な数字が並んでいます。
今後長期の統計グラフを制作する際に縦軸を弄らざるを得ないレベルで酷い数字です。
その4月5月の二か月間の医業収益は「前年度比マイナス約2億円」になります。
ただ収益比で見るとざっとマイナス10%程度です(この数字を正確に出すとうちの収益規模が想定されてしまいますので数値は少しアバウト)。
逆に云うと、入院患者数も外来患者数も壊滅的な数字であるにもかかわらず、マイナス10%程度しか医業収益が減っていないわけで。
この点について少し解説すると、うちの規模の病院の場合、コロナを恐れて受診控えした人も相当数いたものの、そういった患者は比較的軽症者ばかりだった、と推察されます。
何故それが裏付けられるかと云えば、患者一人当たりの入院料、外来受診料が「過去最高値」を記録したからです。
病院の診療報酬というものは、当然のことながら重症の症例が高くなり、軽症の症例は安くなります。
つまり受診控えした患者の大半は軽症者であり、コロナ禍であろうが「生命の危機に直結する症状」の患者は病院に来ざるを得なかったと推定されるわけです。
なお補足すると一人当たりの入院料の最高記録は5月に、外来受診料の最高記録は4月に記録しているため、入院患者数の最低記録が出たのが5月、外来患者数の最低記録が出たのが4月という数値からの必然の結果です。更に補足すると4月に当院が受け入れたコロナ患者の診療報酬請求が、コロナ患者の保険点数の疑義があったため5月にずれ込んだ影響もありますが。
という次第で4月5月の数字は当院においてもそれなりに酷いものであり、一般にマスゴミが報道するところの「病院の経営危機」というのはこの時期を念頭に置かれたものだと思われます。
が、最初に結論を書いたとおり「今年度の上半期」という長期スパンで見ると、少なくとも当院に関しては数字は既に「医業収益は前年並み」に収束済みなのです。
細かい数字を見ていくと、6月7月8月9月と各月ごとに数字にひどく凸凹ができていて、正直分析がしづらいのですが(前述の通りコロナ関係の請求に関する疑義が出た関係で数字の先送りがあったり、コロナの第二波が当県に来た8月の患者数が前年比でみるとやはり少し減っていたり)、上半期という期間で集計するとをこと医業収益は前年比同等に収束しているのです。
入院患者数、外来患者数の上半期トータル数は前年度比でかなりマイナスなのですが、前述の通りいわゆる「入院単価」「外来単価」が上がったのと、更にコロナ患者を受け入れた場合の診療報酬の更なる加算が加わった結果、当院の場合、既に上半期トータルでみけば、前年比とほぼ同値に収束済み、というのが最新のまごうことなき実態なのです。
勿論最初に述べた「当院の置かれた条件」と似た条件でも当院と似た結果になるとは限りません。
当院の患者の場合、平常時からそれなりに重症患者、もしくは重症に陥る可能性の高い高リスク患者が多く、更にその予備軍の患者も含めて、コロナ渦でも当院に通院を続けざるを得ないわけですが、平時にそれほど重症患者群を抱えていない病院はこのコロナ渦で患者が通院をやめてしまった・・・という可能性がないではありません。
しかし、今回コロナ患者の受け入れをしていたような大規模病院が、コロナ禍以前の段階で既に進んでいた「重症患者を積極的に受け入れることで経営改善を図る」という今日の病院経営のイロハである「当然のこと」をしていないわけがないわけで、やはりコロナがある程度収束している地方の大病院の経営、少なくとも「医業収益」が改善されていないわけがないと思われる当院の最新の数値のわけですが・・・多分マスコミでこの手の分析が出てくるのは数か月先になる筈です・・・というか報道するのかな?
そもそももし経営が改善していても病院側からは積極的に開示なんてしないわけで。
ぶっちゃけ「経営が苦しい」といっていれば補助金の更なる上増しが見込めるわけでして、はい。
実際既に県からの補助金が数億円貰っているんですよね。
本体の本年度補助金の〇億円に加えて、空床補償、受け入れ医療機関協力金、重点医療機関設備整備などが今後も入金されてくるわけで、収入に関してはこの調子で下半期も行くと、恐らくコロナ関係で貰った補助金の分だけ前年比プラスになってしまうという。
勿論このコロナ騒動で支出も増えているわけで、今はそちらは別の課の担当なので具体的数値を聞いていませんが(システム共有しているので調べればすぐ分かるけど)、医薬品や診療材料、衛生材料の類の購入は以前担当していたので数字はある程度想像できるわけで。
後は院内での各種コロナ対策をした整備費と危険手当・残業代を含む人件費ですが・・・既に貰った補助金ほどに費用が掛かったとは到底思えないわけで・・・そうするとまだこの先コロナがどうなるか分かりませんが、ひょっとすると、というか少なくとも自分の推察だと、かなりの高確率で今年度の当院の決算は黒字化するのではないのか、と。
いや、病院経営的には黒字になるのは当然結構なことなのですが・・・費やされた莫大な国費は回りまわって我々の税金なわけで、本当にこれでいいのかなあ、と思わずにはいられないわけでして、はい。
勿論今回報告したのは「現時点」での「当院に限ってかもしれない」話ですので、一応最後にお断り。
もし今回のコラムに関して諸々反応が頂ければ、また次報だったり、各種コロナ関係のお金のあれこれを、守秘義務違反にならない範囲で書きたいと思いますので、よろしくお願いします。