消える農協」はどこだ?JA赤字危険度ランキング2021【ワースト30】2位横浜、1位は?
● 「農中からの奨励金」と「JA共済連からの収入」 減益要因は収益減のダブルパンチ 今回の独自試算のポイントとなる減益要因は大きく二つある。(1)農協が農中から得ていた奨励金、(2)共済契約の獲得に対しJA共済連から支払われていた付加収入――という収益の柱がいずれも大きく減るのだ。 まず奨励金についてだ。農中は奨励金の利率を18年度末から4年連続で、0.05ポイントずつ引き下げる。試算の起点となる19年度はすでに利率が0.75%から0.70%に低下していた。 次に共済連からの付加収入についてだ。19年度は共済事業の粗利に当たる事業総利益も全国平均で前年から4.7%も減っている。 奨励金と付加収入が大きく減少した19年度から農協の金融事業は「厳冬期」に入っているのである。 一つの事例をあげよう。農業界では優良地盤を持つ勝ち組農協として知られるJA兵庫六甲(赤字危険度ランキングのワースト7位)が、金融事業の減益により3億1300万円の赤字に転落する試算結果となった。金融事業の減益は、勝ち組を負け組へ転落させるほどのインパクトがあるのだ。 ついに、農協の大淘汰時代が幕を開けた。読者の皆さんの地域の農協は大減益ショックに耐えられるのか――。地域の農協役員に、経営体力と生き残り策をぜひ問いただしてほしい。 504JAの経営状況を網羅した「JA赤字危険度ランキング完全版」については、特集『JA陥落 農業沸騰』の#1『96農協が赤字転落!JA赤字危険度ランキング2021【ワースト504・完全版】』で詳報している。 減益想定額算出の詳細は以下のとおり。 マイナス金利など金融の事業環境の悪化を踏まえ、各農協の金融事業(信用事業と共済事業)の減益額を試算した。順位は十万円以下も加味している。 〈信用事業総利益の減益想定額〉 農中は、農協が集めた貯金を運用し、運用益を農協に還元する際の「奨励金」の利率を18年度末~21年度末の4回にわたり0.5ポイントずつ下げる。19年度から22年度以降の農協の信用事業総利益の減益額を、「(A)奨励金の利率低下による減益額-(B)系統預け金の増加による増益額」で求めた。 (A)は、「22年度の奨励金対象額(貯金額〈各農協の19年度の貯金額×1.005〉×0.5)※1×0.15%(19、20、21年度末の3回にわたる奨励金の利率マイナス分)」で求めた。 ※1 奨励金(金利優遇対象部分)対象額は原則、貯金額の半分の額であり、農協は奨励金を多く得ようと貯金額の半分以上の運用を都道府県段階の信連や農中に委託する。農中は運用益の還元を抑えるため、奨励金対象額に22年度からキャップを掛ける。その上限額は21年に決定されるが、本シミュレーションでは「各農協の19年度の貯金額×1.005」とした。 (B)は、「19年度から22年度の系統預け金の増額分」※2×22年度の奨励金以外の金利(市中金利を若干上回る金利、本シミュレーションでは0.1%とした)で求めた。 ※2 系統預け金の増額分は、過去のトレンドを基に3パターン(楽観シナリオ=19~22年度の3カ年で1.039倍、中位シナリオ=同1.026倍、悲観シナリオ=同1.013倍)を想定した。 ※3 系統預け金を貸借対照表などで公表していない農協については、系統預け金が大部分を占める「預金」で、預金を公表していない農協については、預金が大部分を占める「現金および預金」の額で試算した。 ※4 全国段階の組織である農林中金と市町村段階の組織である農協との間に、32都道府県で信用農業協同組合連合会(信連)がある。財務基盤の強い一部の信連は、農林中金の奨励金の利率引き下げによる農協経営への影響を緩和する、独自の奨励金などを農協に支払う可能性がある。ダイヤモンド編集部は20年に32信連に対し、激変緩和を行うかどうかを確認したが、明確に回答した信連はなかった。