(その4より)
翌・日曜日、雲一つない快晴。 昨夜は余り眠れなかった。
「おはようハルヒ」
「おはようキョン、眠そうね」
「ああ、でも気分は悪くないぞ。 あと上着返せ」
「あ、ゴメン。 昨日着たままウチの中入ったからね、取って来る」
「……やっぱ良いや、今貰っても荷物になる。 それより行くぞ」
何時もの様に坂を登る。 ハルヒと登るのも今日で最後か、それとも……と頭の片隅で考えていると校門に着いていた。
「やあキョン」
「……佐々木か、どうした?」
「『どうした』とは心外だな、キミのステージを見に来たのさ」
「おはよう佐々木さん、ライブは午後からよ」
「こちらこそ、おはよう。 ありがとう涼宮さん、そう言えば怪我は大丈夫かしら」
「おかげ様で完治したわ。 ライブ楽しみにしててね!」
「それまでは文化祭を楽しむとするよ。 あ、キョン、案内は良いよ。 キミはこれから最後の練習でもするだろうから、僕の事は気にしないでくれたまえ、では失礼するよ」
「おう、わざわざアリガトな」 ひとまず部室に向かう。
「佐々木さん、呼んだの?」
「いいや、そもそも土日どっちでやるとも言ってない。 国木田から聞いたんだろ」
「そう」
「……気になるのか」
「……べ、別に」
部室に着く、他の4人は既に来ていた。 お、今日は『罰金』は無しだ。 今日のスケジュールは
~11:00 ダンス練習(部室)
~13:00 バンド練習(軽音部部室)
~14:00 自由時間
~15:00 合同練習(軽音部部室)
~16:00 本番 ってな具合だ。
セットリストは
<SOS団> ・Night Wave
・Only The Love Survive
・Virgin Emotion (全てaccessカバー)
ボーカル:キョン ベース:古泉 ギター:長門
ドラムス:朝倉 キーボード:ハルヒ タンバリン:朝比奈
<ENOZ> ・God Knows...
・Lost My Music
・First Good-Bye
ボーカル:榎本 ベース:財前 ギター:中西 ドラムス:岡島
<S-ENOZ> ・見つけてHAPPY LIFE
ボーカル:朝比奈 ウクレレ:ハルヒ・長門 ベース:古泉・財前
ギター:榎本・中西 キーボード:朝倉 ドラムス:岡島 タンバリン:キョン
・パラレルDAYS
ボーカル&ギター:ハルヒ・榎本 ベース:古泉・財前 ギター:長門・中西
ドラムス:岡島 キーボード:朝倉 タンバリン:キョン・朝比奈
・ハレ晴れユカイ(EDバージョン)
ダンス&ボーカル:ハルヒ・朝比奈・長門 ダンス:キョン・古泉
ギター:榎本・中西 ベース:財前 ドラムス:岡島 キーボード:朝倉
全9曲・約1時間のライブだ。
昨日と同様、部室でダンス練習を始める。 俺や古泉は踊るだけだからまだ良いが、ハルヒを中心に長門や朝比奈さんは歌いながら踊るのだから大変だ。 その次のバンド練習、本番前だけあって緊張感溢れる。 最後に一通り演奏、後は俺さえミスしなければ大丈夫だろう。
あっと言う間に昼休憩に。 昼食は6人揃って鶴屋さんのクラスがやっている『焼きそば屋』へ。 去年の入れ喰いに味をしめたのか、朝比奈さんを欠いても長い列が出来るのは鶴屋さんの力か。
「おっ、いらっしゃい! 本番前の腹ごしらえかいっ。 めがっさサービスするにょろよ!」と言って特盛りにしてくれた。 重ね重ね、お世話になります。
「ライブ前には閉店するにょろ、全員でみくるの応援っさ!」
最後は軽音部部室で全体練習。 9曲、本番同様に演奏する。
やはりENOZの方が長く活動してるだけあって上手いと、改めて思う。
――ついに本番。 ステージ上では吹奏楽部の演奏が終了。 幕が下がり片付けが始まっていた。 舞台袖で最後の円陣。 さあ行くぞ! 文化祭のラストを盛り上げて行こうぜ!!
ステージ後方、客席から向かって左にドラムセット・右に体育館備品のピアノ、客席に向けたEOS(キーボード)をL字配置。
その横にKX-5(ショルダーキーボード)を置く。 ステージの前方には左からギター・センターマイク・ベースと並ぶ。
……会場が暗くなる。 幕が降りている間にそれぞれの立ち位置に向かう。
照明が落ち幕が上がる。 そしてスポットライトの光だけがキーボードのハルヒに当たり、静寂が会場を支配する――
演奏開始!!
と同時に眩暈がする程に彩られた照明がステージ上を交差し、オーディエンスの歓声が沸きあがる。 舞台照明は鶴屋さんに任せたのだが、やってくれましたね。 流石です。
朝倉アレンジの『NIGHT WAVE』は原曲より若干スピードを速め、ダンサフルに仕上げている。
ハルヒと朝比奈さんは曲に合わせ左手を左右に振ってオーディエンスを煽る。 長門のギターも動きが激しい気がする。 そして古泉が中央のマイクスタンドに近寄って来る――今日は『顔が近い』とは言わないぞ、肩に腕を回してやれ。
しかし、クールな筈の古泉にしては激しく動いている。 練習では大人しく演奏してると思っていたが……仮面の下は『熱い奴』だったのか、こいつは? 朝倉のドラムもリズミカルさはそのままにパワフルさを増している。 『委員長キャラ』の面影は無いな。 それにつられるかの様にオーディエンスも盛り上がって居るみたいだ。
初めは照明の眩しさに幻惑していた俺の目も慣れてきて、観客の反応が手に取る位解って来た――なのに不思議と緊張しない、歌詞もスムーズに出て来る。 これもハルヒパワー? それとも昨夜の『おまじない』が効いているのか。
その勢いのまま2曲目『ONLY THE LOVE SURVIVE』へ移る。 こちらは原曲に沿ったアレンジのまま。 ハルヒはKX-5を持ってステージ上を駆け回る。
曲の途中、ハルヒ・俺・古泉とセンターマイクに寄る。 3人顔が近い。
……ハルヒと目が合う、今までに無い笑顔だ。 あの閉鎖空間での憂いなど微塵も無い笑顔~神様、いや『天使の笑顔』か。
ナチュラル・ハイだな、俺。
でもステージ上の俺達が、この会場を盛り上げているのは間違いない。 ENOZのメンバーには失礼かも知れないが、観客の盛り上がりは去年と同等、いや、それ以上かも知れない。 会場が一体となっているのは空気で感じ取れる。
そこで、ふと冷静になる。
本当に良かったのか? ボーカル、俺で(苦笑)
いつの間にか曲が終わり、MC・メンバー紹介になる。 曲が終わっても歓声が止まない。 いかん、急に緊張して来た。
「あ~、その~、何て言うか……すまん!」
シーン
静まり返る体育館。 やっちまったか、俺。
「こら、バカキョン! 何言ってるの!?」 会場大爆笑。
「うるさいハルヒ。 頭が真っ白になっちまったんだ。 大体、今更だが何で俺がボーカルなんだ。 古泉で良かっただろ、ビジュアル的にも。 なあ古泉」
キャー!! 古泉のファン連中の歓声。 やっぱ奴は人気あるな、忌々しい。
「え、いや、貴方のボーカルも中々でしたよ」
「黙れ、お世辞はいらん。 つー訳で、メンバー紹介。 ベース:古泉一樹!」 (10秒程のベースソロ)
「正直、クールな奴だと思って居たが、中々楽しそうだったな」
「ええ、会場の熱気に押され柄にも無く盛り上がってしまいましたよ」
「たまには良いんじゃないか? 続いてギター:長門有希!」
「…………」
「長門、お前も楽しそうだったな」
「……それなりに」 おおーっ! と会場から野郎共の歓声。 そりゃそうだ、滅多に聞けない長門の肉声だ。 有難く聞けよ。
「そうか、良かったな。 続いて北高のアイドル・朝比奈みくる先輩!」
「ふぇ、は、はいっ!」 返事はいいです。
「今年は受験なので、あまり一緒に練習出来ませんでしたが、今日は一緒にここに立てて嬉しいです」
「あ、ありがとうキョン君。 良い思い出になりますぅ」
『みっくる~!』と一斉に歓声。 野郎だけかと思ったら鶴屋さん、貴方の声が一番聞こえましたよ。
「さてお次はドラムス:朝倉涼子!」 (約10秒間のドラムソロ)
「やっほ~♪ キョン君、楽しいわよ!」
「……まだ何も聞いてないぞ」
「あーキョン君、相変わらず私に冷たいのね」
ブ~ブ~! 会場からブーイングの嵐。 ええい、五月蝿い。
「あ、でもな朝倉、感謝してるんだぞ、こう見えても。 カナダから帰って来たばかりなのに急にバンドに引きずりこんで。 しかも2学期から委員長を任され大変だって言うのに。 まあ、その、ありがとよ」
「うふ。 良いわよ、キョン君♪」 AAランク+の笑顔に観客も一斉に盛り上がる。
「そして我らがSOS団団長・キーボード:涼宮ハルヒ!」 (10秒程のキーボードソロ)
「……聞いてくれ、実はな、ハルヒは元々ドラムスのパートだったんだ。 でも練習に力入り過ぎてしまって左腕骨折してしまった。 でも、朝倉が声を掛けてくれてキーボードと交代して貰ったんだ」
「…………」
「なあ、ハルヒ。 一人で突っ走って無茶するな。 SOS団はお前だけじゃない。 俺も居る……全員揃ってこそのSOS団だ。 どうせ突っ走るなら全員引っ張ってくれよ、団長!」
お~! ヒュ~ヒュ~! 一斉に歓声が上がる。 しかし『ヒュ~ヒュ~』って何だ。 何か変な事言ったか、俺?
「ば、バッカじゃないの? 何言ってるのよ!」 何故ハルヒの顔が赤いのか、誰か教えてくれ。
「うっさいわね。 そうよ、全員揃ってこそのSOS団よ。 皆、あたしにこれかもついて来なさい! そして、この演奏を聴いてくれている皆、どうもありがと。 最後まで飛ばして行くわよ! それではラストナンバー、『VIRGIN EMOTION』!!」
――俺の紹介してねーよ。 まあ良いか、どうせ『全校生徒の認識』じゃあ俺は「キョン」以外の何者でも無いだろうからな。
やれやれ。
おっと、前奏が終わってしまう、歌わねば。
ハルヒはKX-5を置きEOSの前に戻って演奏している。
途中のピアノソロでは体育館備品のグランドピアノを奏でる……思わず息を呑んだ。
スポットライトを浴びてグランドピアノを奏でるハルヒに見とれてしまった――そんな俺を察した古泉が肘で俺に合図する
「「VIRGIN EMOTION!!」」
それから演奏終了までは、まさに『突っ走った』感じ。 今までの成果の全てを吐き出す、そんな言葉が当てはまるようだ。
「皆、聴いてくれて有り難う! 続いてはENOZのライブです!!」
ふ~っ、疲れが一気にでたよ。 舞台袖でENOZメンバーとすれ違う。
「お疲れさん、凄く良かったよ」
「これなら『S-ENOZ』も成功間違い無しね」
「キョン君、とっても良かったよ」
「あ、ありがとうございます。 頑張って下さい、では後程」
始めは舞台袖からENOZの演奏を見るつもりだった俺だが
「いかん、トイレ行ってくる。 ついでに何か飲んで来る」
「早く戻って来なさいよ。 あ、後あたしにも何か買ってきて!」 へいへい、ここでもパシリですか。
緊張の糸を一気に解いて、さて、何を買ってやるかな……スポーツドリンクでも買ってやるか。 演奏の後だし。
急いで舞台袖に戻る。 お、もう『LOST MY MUSIC』まで終わってるぞ。
「おいハルヒ、これで良いか」
「ん、ありがとキョン」 汗もかいてるしスポーツドリンクで正解か。
「あんたも同じのね」
「ああ、そうだが。 それがどうした?」
「別に、だったらあたしの分買ってこなくても、あんたの分少し貰うだけで良かったわね」 そうかい。
今年のENOZの演奏は、さすがオリジナルメンバーだけあって息もぴったり。
レベルの高い演奏でオーディエンスも盛り上がる。 ENOZのメンバー紹介が終わり『FIRST GOOD-BYE』が始まる。
この曲が終わったら『S-ENOZ』始動だ。 まあ今度は俺がボーカルじゃないから気楽だな……最後のダンス以外は、な。
ENOZの演奏が終わり、榎本さんのMCが始まる。
「これで私達のステージは終わりです。 聴いてくれてありがとう!! 去年、この4人でステージに立てなかったのは残念だったけど、今年は完全燃焼出来ました……でも、今年このステージに立てたのは、去年私や(中西)貴子が出れなかった代わりにステージに立ってくれて、『ENOZ』を全校に広めてくれた涼宮さん・長門さんのおかげ。 だから、その恩返しがしたかった。 一緒にステージに立ちたかった。 その夢が、今、叶います――」
「「「「『SOS団』と『ENOZ』のジョイント『S-ENOZ』!!」」」」
うお~っ! 体育館に響き渡る大歓声。
「さあ、行くわよ!!」 ハルヒの号令で舞台袖から出る。
ステージ後方、客席から見て左から ドラムス:岡島 キーボード:朝倉、その隣に俺。
前方、同じく左から ギター:榎本・中西 右にベース:古泉・財前 センターマイクには『SOS団・3人娘』
ウクレレを持った長門が左・ハルヒが右 そして中央に朝比奈さん
「すり~、つ~、わん、はいっ!」
朝比奈さんのカウントで始まり、ハルヒと長門のコーラスが続く。
『見つけてHAPPY LIFE』の演奏だ。 俺は何故かKX-5を持たされている。
「ホーミングモード♪ キョン君それ持って。 あとは手を添えてれば勝手に演奏するから」
マジか、朝倉。 言う通り鍵盤に手を添えると、あら不思議、手が動いてくれる。
「すまんな、朝倉」
「ステージを盛り上げる為よ」
朝比奈さんの歌声は舌っ足らずだが、それが可愛らしさを生んでいると言うか……まあ、何だあれ『萌え』って奴か。
――ルックスのレベルの高い3人娘が1つのマイクで歌っているのは正面から見たかったな。 羨ましいぞ、オーディエンスの野郎共。 ベースを弾きながら時折、古泉と財前さんが互いに何やら耳打ちしてるのが見える。 『同じ楽器を操る』仲間の絆でも生まれたか? 楽しそうにみえるな。
しかしながら、10人編成のロック・バンドとは、これはちょっとしたロックのオーケストラと言うべきか。 これを創り出したのも、ハルヒ、お前なんだよな……ハルヒの力でSOS団が生まれ、ハルヒの努力でENOZが去年、文化祭のステージに立て、そして今ここに10人でステージに居るのは
ハルヒ、お前が居るからこそ、なんだよな。
お前が居るから、ここに皆居るんだ。 俺もだがな。
「あ、あ、あのぅ~、みなさ~ん、聴いてくれてありがとうございましたぁ~」
エンジェル・ヴォイスがマイク越に会場に響く。 『みっくるー!』 これまた野郎共の声援。 朝比奈さん、俺も一緒に叫んでいいですか?
「ひゃ~、つ、次は『パラレルDAYS』ですぅ~」
立ち位置変更、後方は変わらず。 朝倉がグランドピアノに向かい、俺は是また何故かEOSの前。
「ホーミングモード、これにもやっておいたから、任せたわよ♪」 はいよ、朝倉。
ステージ前方は左から ギター:長門・中西&タンバリン:朝比奈 右のベースは変わらず、センターにハルヒ・榎本さんのツインボーカル&ギター
『パラレルDAYS』 演奏開始!
1曲目とはガラっと変わって激しいロック・ナンバー。 観客のテンションもMAXまで達した感じだ。
これぞライブの一体感なんだろう
と思いつつ、客席を見る。 明らかに客数多いよな……全校生徒が見に来たとしても、それより多いだろうか。 学外からも来ているからな。 この中に佐々木も居るのだろうか? 探した所で見つかる筈無いが。
気が付いたら間奏になっていた。 朝倉がグランドピアノから振り向いて来た。 そして耳打ち
「キョン君、それ(KX-5)に持ち替えて」
「何故だ?」
「ラストのコーラスの時、センターに行くのよ」成程ね、
「了解!」 このタイミングで来るとは、考えたな、朝倉。
KX-5に持ち替え演奏を続ける。 そして歌が全て終わる直前・コーラスが始まる前、俺はキーボードステージからセンターマイクに向けて走り――ハルヒと榎本さんの間に割って入る。 お~、驚いてるなハルヒ。 まだコーラス続いてるぞ。
コーラス終了と同時にハルヒを見る。 今度は100Wの笑顔になっている。 最後にハイタッチ!
グランドピアノの朝倉に、お礼代わりに親指を立て合図してやる。 それに対して朝倉は……ウインクに加え『投げキッス』して来やがった!! それは誰に向けてだ!? オーディエンスに向けてだよな、多分。 そう願いたい。
さて、ラスト、参りますか。 『ハレ晴れユカイ』
SOS団オリジナルメンバーがステージ中央に集まる。 榎本さんは中西さんの所に向かい、朝倉はEOSの前だ。 曲がスタート。 観客の手拍子。 ハルヒは笑顔、朝比奈さんも自然な笑み、長門は……普段通り、古泉は爽やかスマイルで踊る。
俺か? 知るか。 普通だ、普通。 ――踊る事に夢中で表情作るどころじゃねーよ。
あっと言う間の2分弱、バッチリ最後のポーズも決まった所で幕が降りる。
終わった
鳴り止まない拍手と歓声。 達成感がステージ上を占めようとした瞬間
「……コール、アンコール。 アンコール!」
最初は1、2人だったろう声が次第に膨れ上がり、会場全体を巻き込んだ。
「アンコール! アンコール! アンコール!」 もう、大合唱だ。
しかし、アンコールなんて想定外だ、考えて無かったな。 どうしよう?
『――し、つ~いていく~よ、ど~んなつら~い』 会場のどこからともなく発生した合唱
『GOD KNOWS...』 これしか無い!
「ハルヒ、行くぞ!」
「え、あ、ちょっと待ちなさいよキョン!!」
「ふう。 さて皆さん参りますか」
「そうね、行きましょ」
再び10人がステージに揃い、幕が上がる。 大歓声再び。 文化祭の最後を飾るのに相応しい、文句のつけようが無い環境だ。
ドラムス:岡島 キーボード:朝倉・キョン(但しキーボードのパート無しの為、立つだけ)
左に ギター:長門・中西&タンバリン:朝比奈 右にベース:財前&タンバリン:古泉(古泉は『GOD KNOWS...』のスコアを知らない為)
そしてセンターは ハルヒ・榎本
「アンコールありがとう! 最後まで盛り上がって行くわよ! 『GOD KNOWS...』!!」
予想だにしなかったアンコールだったが、『全く初めて』演奏する訳では無いので、スムーズに演奏が進む。
俺と朝倉は手拍子。 仕方あるまい。
「キョン君、楽しいね♪」
「まあな」
「……このまま、この瞬間がずっと続いたら良いのにね」
お前は元・急進派インターフェースだろ。 現状に対して強硬に変革を進める立場じゃ無かったのか?
――と言う突っ込みをしたかったが、そんな突っ込みを野暮の一言で片付ける事が出来る程、朝倉の意見に賛同して居た。
『時が止まればいい』
そう、高校2年生の、青春の1ページって奴だ。 この楽しい時間を止めてしまいたい、永遠に続いたらいい……。
「そうだよな、朝倉」
そうさ、誰でも思う事だよな、同じ事を。 しかし、こんな時に谷口の言った言葉が浮かんで来た
『来年になったら受験や就職活動で忙しくなる、恋愛するなら今しかねぇ』
これが現実か。 そう、それが現在(いま)なんだ。 過去でも未来でも無い。 過去は取り戻せないし、未来は知る事が出来ない。 だから、『現在を精一杯生きてく』……それがハルヒの原動力なのか、と改めて思った。 『自分の道は自分で切り開く』 そんな女に俺は惚れたんだ!
「なあ、朝倉」
「なに?」
「お前は現状に満足か?」
「う~ん、そうね。 不満が無いとは言えないわね」
「そうか。 じゃあ『強硬に変革を進めて』みようかな」
「えっ?」
「……なんてな」
「んもう! 何言い出すの、キョン君ったら」
ちなみにライブの熱狂でかき消されてる筈のこの会話を長門はしっかり聞いていたらしく「……朝倉涼子を敵性と判断」と言っていたのを知るのは、また後の話だ。
曲が終わり、10人一列になってステージ前方に立つ。
「みんなー、聴いてくれてありがとー! 楽しかった?」 とハルヒ。
「私にとっても印象に残る時間でした。 最高でした。 サンキュ~!!」 榎本さん。
10人手を取り合って一礼。 再び降りてくる幕。
全てが終わってしまった。
突っ走った4ヶ月、1時間で完全燃焼。 後悔など無い、達成感が残っていた。
気が付くとハルヒ・朝比奈さん・ENOZメンバーが抱き合って泣いて居た。 感極まったって奴だ。 それを見守る長門・朝倉。
「終わりましたね。 お疲れ様でした」 もう顔は近づけるな、古泉。 ライブは終わったぞ。
「ああ、楽しい時間が過ぎるのは、あっと言う間だ」
「そうですね。 高校生活一番の思い出になりそうですね」
「本当か? 他にも色々あっただろ。 変な事件に巻き込まれたりとか」
「これからも起こるかも知れませんよ」
「止めてくれ。」
「貴方が現実に引き戻す事をおっしゃったからです」
「……すまん」
「ふっ、ははははははは……」
「笑うな、古泉。 俺も可笑しい、あはははは……」 男2人笑いあう、珍しい光景、と自分でも思う。
(その6<最終話>へ続く)
翌・日曜日、雲一つない快晴。 昨夜は余り眠れなかった。
「おはようハルヒ」
「おはようキョン、眠そうね」
「ああ、でも気分は悪くないぞ。 あと上着返せ」
「あ、ゴメン。 昨日着たままウチの中入ったからね、取って来る」
「……やっぱ良いや、今貰っても荷物になる。 それより行くぞ」
何時もの様に坂を登る。 ハルヒと登るのも今日で最後か、それとも……と頭の片隅で考えていると校門に着いていた。
「やあキョン」
「……佐々木か、どうした?」
「『どうした』とは心外だな、キミのステージを見に来たのさ」
「おはよう佐々木さん、ライブは午後からよ」
「こちらこそ、おはよう。 ありがとう涼宮さん、そう言えば怪我は大丈夫かしら」
「おかげ様で完治したわ。 ライブ楽しみにしててね!」
「それまでは文化祭を楽しむとするよ。 あ、キョン、案内は良いよ。 キミはこれから最後の練習でもするだろうから、僕の事は気にしないでくれたまえ、では失礼するよ」
「おう、わざわざアリガトな」 ひとまず部室に向かう。
「佐々木さん、呼んだの?」
「いいや、そもそも土日どっちでやるとも言ってない。 国木田から聞いたんだろ」
「そう」
「……気になるのか」
「……べ、別に」
部室に着く、他の4人は既に来ていた。 お、今日は『罰金』は無しだ。 今日のスケジュールは
~11:00 ダンス練習(部室)
~13:00 バンド練習(軽音部部室)
~14:00 自由時間
~15:00 合同練習(軽音部部室)
~16:00 本番 ってな具合だ。
セットリストは
<SOS団> ・Night Wave
・Only The Love Survive
・Virgin Emotion (全てaccessカバー)
ボーカル:キョン ベース:古泉 ギター:長門
ドラムス:朝倉 キーボード:ハルヒ タンバリン:朝比奈
<ENOZ> ・God Knows...
・Lost My Music
・First Good-Bye
ボーカル:榎本 ベース:財前 ギター:中西 ドラムス:岡島
<S-ENOZ> ・見つけてHAPPY LIFE
ボーカル:朝比奈 ウクレレ:ハルヒ・長門 ベース:古泉・財前
ギター:榎本・中西 キーボード:朝倉 ドラムス:岡島 タンバリン:キョン
・パラレルDAYS
ボーカル&ギター:ハルヒ・榎本 ベース:古泉・財前 ギター:長門・中西
ドラムス:岡島 キーボード:朝倉 タンバリン:キョン・朝比奈
・ハレ晴れユカイ(EDバージョン)
ダンス&ボーカル:ハルヒ・朝比奈・長門 ダンス:キョン・古泉
ギター:榎本・中西 ベース:財前 ドラムス:岡島 キーボード:朝倉
全9曲・約1時間のライブだ。
昨日と同様、部室でダンス練習を始める。 俺や古泉は踊るだけだからまだ良いが、ハルヒを中心に長門や朝比奈さんは歌いながら踊るのだから大変だ。 その次のバンド練習、本番前だけあって緊張感溢れる。 最後に一通り演奏、後は俺さえミスしなければ大丈夫だろう。
あっと言う間に昼休憩に。 昼食は6人揃って鶴屋さんのクラスがやっている『焼きそば屋』へ。 去年の入れ喰いに味をしめたのか、朝比奈さんを欠いても長い列が出来るのは鶴屋さんの力か。
「おっ、いらっしゃい! 本番前の腹ごしらえかいっ。 めがっさサービスするにょろよ!」と言って特盛りにしてくれた。 重ね重ね、お世話になります。
「ライブ前には閉店するにょろ、全員でみくるの応援っさ!」
最後は軽音部部室で全体練習。 9曲、本番同様に演奏する。
やはりENOZの方が長く活動してるだけあって上手いと、改めて思う。
――ついに本番。 ステージ上では吹奏楽部の演奏が終了。 幕が下がり片付けが始まっていた。 舞台袖で最後の円陣。 さあ行くぞ! 文化祭のラストを盛り上げて行こうぜ!!
ステージ後方、客席から向かって左にドラムセット・右に体育館備品のピアノ、客席に向けたEOS(キーボード)をL字配置。
その横にKX-5(ショルダーキーボード)を置く。 ステージの前方には左からギター・センターマイク・ベースと並ぶ。
……会場が暗くなる。 幕が降りている間にそれぞれの立ち位置に向かう。
照明が落ち幕が上がる。 そしてスポットライトの光だけがキーボードのハルヒに当たり、静寂が会場を支配する――
演奏開始!!
と同時に眩暈がする程に彩られた照明がステージ上を交差し、オーディエンスの歓声が沸きあがる。 舞台照明は鶴屋さんに任せたのだが、やってくれましたね。 流石です。
朝倉アレンジの『NIGHT WAVE』は原曲より若干スピードを速め、ダンサフルに仕上げている。
ハルヒと朝比奈さんは曲に合わせ左手を左右に振ってオーディエンスを煽る。 長門のギターも動きが激しい気がする。 そして古泉が中央のマイクスタンドに近寄って来る――今日は『顔が近い』とは言わないぞ、肩に腕を回してやれ。
しかし、クールな筈の古泉にしては激しく動いている。 練習では大人しく演奏してると思っていたが……仮面の下は『熱い奴』だったのか、こいつは? 朝倉のドラムもリズミカルさはそのままにパワフルさを増している。 『委員長キャラ』の面影は無いな。 それにつられるかの様にオーディエンスも盛り上がって居るみたいだ。
初めは照明の眩しさに幻惑していた俺の目も慣れてきて、観客の反応が手に取る位解って来た――なのに不思議と緊張しない、歌詞もスムーズに出て来る。 これもハルヒパワー? それとも昨夜の『おまじない』が効いているのか。
その勢いのまま2曲目『ONLY THE LOVE SURVIVE』へ移る。 こちらは原曲に沿ったアレンジのまま。 ハルヒはKX-5を持ってステージ上を駆け回る。
曲の途中、ハルヒ・俺・古泉とセンターマイクに寄る。 3人顔が近い。
……ハルヒと目が合う、今までに無い笑顔だ。 あの閉鎖空間での憂いなど微塵も無い笑顔~神様、いや『天使の笑顔』か。
ナチュラル・ハイだな、俺。
でもステージ上の俺達が、この会場を盛り上げているのは間違いない。 ENOZのメンバーには失礼かも知れないが、観客の盛り上がりは去年と同等、いや、それ以上かも知れない。 会場が一体となっているのは空気で感じ取れる。
そこで、ふと冷静になる。
本当に良かったのか? ボーカル、俺で(苦笑)
いつの間にか曲が終わり、MC・メンバー紹介になる。 曲が終わっても歓声が止まない。 いかん、急に緊張して来た。
「あ~、その~、何て言うか……すまん!」
シーン
静まり返る体育館。 やっちまったか、俺。
「こら、バカキョン! 何言ってるの!?」 会場大爆笑。
「うるさいハルヒ。 頭が真っ白になっちまったんだ。 大体、今更だが何で俺がボーカルなんだ。 古泉で良かっただろ、ビジュアル的にも。 なあ古泉」
キャー!! 古泉のファン連中の歓声。 やっぱ奴は人気あるな、忌々しい。
「え、いや、貴方のボーカルも中々でしたよ」
「黙れ、お世辞はいらん。 つー訳で、メンバー紹介。 ベース:古泉一樹!」 (10秒程のベースソロ)
「正直、クールな奴だと思って居たが、中々楽しそうだったな」
「ええ、会場の熱気に押され柄にも無く盛り上がってしまいましたよ」
「たまには良いんじゃないか? 続いてギター:長門有希!」
「…………」
「長門、お前も楽しそうだったな」
「……それなりに」 おおーっ! と会場から野郎共の歓声。 そりゃそうだ、滅多に聞けない長門の肉声だ。 有難く聞けよ。
「そうか、良かったな。 続いて北高のアイドル・朝比奈みくる先輩!」
「ふぇ、は、はいっ!」 返事はいいです。
「今年は受験なので、あまり一緒に練習出来ませんでしたが、今日は一緒にここに立てて嬉しいです」
「あ、ありがとうキョン君。 良い思い出になりますぅ」
『みっくる~!』と一斉に歓声。 野郎だけかと思ったら鶴屋さん、貴方の声が一番聞こえましたよ。
「さてお次はドラムス:朝倉涼子!」 (約10秒間のドラムソロ)
「やっほ~♪ キョン君、楽しいわよ!」
「……まだ何も聞いてないぞ」
「あーキョン君、相変わらず私に冷たいのね」
ブ~ブ~! 会場からブーイングの嵐。 ええい、五月蝿い。
「あ、でもな朝倉、感謝してるんだぞ、こう見えても。 カナダから帰って来たばかりなのに急にバンドに引きずりこんで。 しかも2学期から委員長を任され大変だって言うのに。 まあ、その、ありがとよ」
「うふ。 良いわよ、キョン君♪」 AAランク+の笑顔に観客も一斉に盛り上がる。
「そして我らがSOS団団長・キーボード:涼宮ハルヒ!」 (10秒程のキーボードソロ)
「……聞いてくれ、実はな、ハルヒは元々ドラムスのパートだったんだ。 でも練習に力入り過ぎてしまって左腕骨折してしまった。 でも、朝倉が声を掛けてくれてキーボードと交代して貰ったんだ」
「…………」
「なあ、ハルヒ。 一人で突っ走って無茶するな。 SOS団はお前だけじゃない。 俺も居る……全員揃ってこそのSOS団だ。 どうせ突っ走るなら全員引っ張ってくれよ、団長!」
お~! ヒュ~ヒュ~! 一斉に歓声が上がる。 しかし『ヒュ~ヒュ~』って何だ。 何か変な事言ったか、俺?
「ば、バッカじゃないの? 何言ってるのよ!」 何故ハルヒの顔が赤いのか、誰か教えてくれ。
「うっさいわね。 そうよ、全員揃ってこそのSOS団よ。 皆、あたしにこれかもついて来なさい! そして、この演奏を聴いてくれている皆、どうもありがと。 最後まで飛ばして行くわよ! それではラストナンバー、『VIRGIN EMOTION』!!」
――俺の紹介してねーよ。 まあ良いか、どうせ『全校生徒の認識』じゃあ俺は「キョン」以外の何者でも無いだろうからな。
やれやれ。
おっと、前奏が終わってしまう、歌わねば。
ハルヒはKX-5を置きEOSの前に戻って演奏している。
途中のピアノソロでは体育館備品のグランドピアノを奏でる……思わず息を呑んだ。
スポットライトを浴びてグランドピアノを奏でるハルヒに見とれてしまった――そんな俺を察した古泉が肘で俺に合図する
「「VIRGIN EMOTION!!」」
それから演奏終了までは、まさに『突っ走った』感じ。 今までの成果の全てを吐き出す、そんな言葉が当てはまるようだ。
「皆、聴いてくれて有り難う! 続いてはENOZのライブです!!」
ふ~っ、疲れが一気にでたよ。 舞台袖でENOZメンバーとすれ違う。
「お疲れさん、凄く良かったよ」
「これなら『S-ENOZ』も成功間違い無しね」
「キョン君、とっても良かったよ」
「あ、ありがとうございます。 頑張って下さい、では後程」
始めは舞台袖からENOZの演奏を見るつもりだった俺だが
「いかん、トイレ行ってくる。 ついでに何か飲んで来る」
「早く戻って来なさいよ。 あ、後あたしにも何か買ってきて!」 へいへい、ここでもパシリですか。
緊張の糸を一気に解いて、さて、何を買ってやるかな……スポーツドリンクでも買ってやるか。 演奏の後だし。
急いで舞台袖に戻る。 お、もう『LOST MY MUSIC』まで終わってるぞ。
「おいハルヒ、これで良いか」
「ん、ありがとキョン」 汗もかいてるしスポーツドリンクで正解か。
「あんたも同じのね」
「ああ、そうだが。 それがどうした?」
「別に、だったらあたしの分買ってこなくても、あんたの分少し貰うだけで良かったわね」 そうかい。
今年のENOZの演奏は、さすがオリジナルメンバーだけあって息もぴったり。
レベルの高い演奏でオーディエンスも盛り上がる。 ENOZのメンバー紹介が終わり『FIRST GOOD-BYE』が始まる。
この曲が終わったら『S-ENOZ』始動だ。 まあ今度は俺がボーカルじゃないから気楽だな……最後のダンス以外は、な。
ENOZの演奏が終わり、榎本さんのMCが始まる。
「これで私達のステージは終わりです。 聴いてくれてありがとう!! 去年、この4人でステージに立てなかったのは残念だったけど、今年は完全燃焼出来ました……でも、今年このステージに立てたのは、去年私や(中西)貴子が出れなかった代わりにステージに立ってくれて、『ENOZ』を全校に広めてくれた涼宮さん・長門さんのおかげ。 だから、その恩返しがしたかった。 一緒にステージに立ちたかった。 その夢が、今、叶います――」
「「「「『SOS団』と『ENOZ』のジョイント『S-ENOZ』!!」」」」
うお~っ! 体育館に響き渡る大歓声。
「さあ、行くわよ!!」 ハルヒの号令で舞台袖から出る。
ステージ後方、客席から見て左から ドラムス:岡島 キーボード:朝倉、その隣に俺。
前方、同じく左から ギター:榎本・中西 右にベース:古泉・財前 センターマイクには『SOS団・3人娘』
ウクレレを持った長門が左・ハルヒが右 そして中央に朝比奈さん
「すり~、つ~、わん、はいっ!」
朝比奈さんのカウントで始まり、ハルヒと長門のコーラスが続く。
『見つけてHAPPY LIFE』の演奏だ。 俺は何故かKX-5を持たされている。
「ホーミングモード♪ キョン君それ持って。 あとは手を添えてれば勝手に演奏するから」
マジか、朝倉。 言う通り鍵盤に手を添えると、あら不思議、手が動いてくれる。
「すまんな、朝倉」
「ステージを盛り上げる為よ」
朝比奈さんの歌声は舌っ足らずだが、それが可愛らしさを生んでいると言うか……まあ、何だあれ『萌え』って奴か。
――ルックスのレベルの高い3人娘が1つのマイクで歌っているのは正面から見たかったな。 羨ましいぞ、オーディエンスの野郎共。 ベースを弾きながら時折、古泉と財前さんが互いに何やら耳打ちしてるのが見える。 『同じ楽器を操る』仲間の絆でも生まれたか? 楽しそうにみえるな。
しかしながら、10人編成のロック・バンドとは、これはちょっとしたロックのオーケストラと言うべきか。 これを創り出したのも、ハルヒ、お前なんだよな……ハルヒの力でSOS団が生まれ、ハルヒの努力でENOZが去年、文化祭のステージに立て、そして今ここに10人でステージに居るのは
ハルヒ、お前が居るからこそ、なんだよな。
お前が居るから、ここに皆居るんだ。 俺もだがな。
「あ、あ、あのぅ~、みなさ~ん、聴いてくれてありがとうございましたぁ~」
エンジェル・ヴォイスがマイク越に会場に響く。 『みっくるー!』 これまた野郎共の声援。 朝比奈さん、俺も一緒に叫んでいいですか?
「ひゃ~、つ、次は『パラレルDAYS』ですぅ~」
立ち位置変更、後方は変わらず。 朝倉がグランドピアノに向かい、俺は是また何故かEOSの前。
「ホーミングモード、これにもやっておいたから、任せたわよ♪」 はいよ、朝倉。
ステージ前方は左から ギター:長門・中西&タンバリン:朝比奈 右のベースは変わらず、センターにハルヒ・榎本さんのツインボーカル&ギター
『パラレルDAYS』 演奏開始!
1曲目とはガラっと変わって激しいロック・ナンバー。 観客のテンションもMAXまで達した感じだ。
これぞライブの一体感なんだろう
と思いつつ、客席を見る。 明らかに客数多いよな……全校生徒が見に来たとしても、それより多いだろうか。 学外からも来ているからな。 この中に佐々木も居るのだろうか? 探した所で見つかる筈無いが。
気が付いたら間奏になっていた。 朝倉がグランドピアノから振り向いて来た。 そして耳打ち
「キョン君、それ(KX-5)に持ち替えて」
「何故だ?」
「ラストのコーラスの時、センターに行くのよ」成程ね、
「了解!」 このタイミングで来るとは、考えたな、朝倉。
KX-5に持ち替え演奏を続ける。 そして歌が全て終わる直前・コーラスが始まる前、俺はキーボードステージからセンターマイクに向けて走り――ハルヒと榎本さんの間に割って入る。 お~、驚いてるなハルヒ。 まだコーラス続いてるぞ。
コーラス終了と同時にハルヒを見る。 今度は100Wの笑顔になっている。 最後にハイタッチ!
グランドピアノの朝倉に、お礼代わりに親指を立て合図してやる。 それに対して朝倉は……ウインクに加え『投げキッス』して来やがった!! それは誰に向けてだ!? オーディエンスに向けてだよな、多分。 そう願いたい。
さて、ラスト、参りますか。 『ハレ晴れユカイ』
SOS団オリジナルメンバーがステージ中央に集まる。 榎本さんは中西さんの所に向かい、朝倉はEOSの前だ。 曲がスタート。 観客の手拍子。 ハルヒは笑顔、朝比奈さんも自然な笑み、長門は……普段通り、古泉は爽やかスマイルで踊る。
俺か? 知るか。 普通だ、普通。 ――踊る事に夢中で表情作るどころじゃねーよ。
あっと言う間の2分弱、バッチリ最後のポーズも決まった所で幕が降りる。
終わった
鳴り止まない拍手と歓声。 達成感がステージ上を占めようとした瞬間
「……コール、アンコール。 アンコール!」
最初は1、2人だったろう声が次第に膨れ上がり、会場全体を巻き込んだ。
「アンコール! アンコール! アンコール!」 もう、大合唱だ。
しかし、アンコールなんて想定外だ、考えて無かったな。 どうしよう?
『――し、つ~いていく~よ、ど~んなつら~い』 会場のどこからともなく発生した合唱
『GOD KNOWS...』 これしか無い!
「ハルヒ、行くぞ!」
「え、あ、ちょっと待ちなさいよキョン!!」
「ふう。 さて皆さん参りますか」
「そうね、行きましょ」
再び10人がステージに揃い、幕が上がる。 大歓声再び。 文化祭の最後を飾るのに相応しい、文句のつけようが無い環境だ。
ドラムス:岡島 キーボード:朝倉・キョン(但しキーボードのパート無しの為、立つだけ)
左に ギター:長門・中西&タンバリン:朝比奈 右にベース:財前&タンバリン:古泉(古泉は『GOD KNOWS...』のスコアを知らない為)
そしてセンターは ハルヒ・榎本
「アンコールありがとう! 最後まで盛り上がって行くわよ! 『GOD KNOWS...』!!」
予想だにしなかったアンコールだったが、『全く初めて』演奏する訳では無いので、スムーズに演奏が進む。
俺と朝倉は手拍子。 仕方あるまい。
「キョン君、楽しいね♪」
「まあな」
「……このまま、この瞬間がずっと続いたら良いのにね」
お前は元・急進派インターフェースだろ。 現状に対して強硬に変革を進める立場じゃ無かったのか?
――と言う突っ込みをしたかったが、そんな突っ込みを野暮の一言で片付ける事が出来る程、朝倉の意見に賛同して居た。
『時が止まればいい』
そう、高校2年生の、青春の1ページって奴だ。 この楽しい時間を止めてしまいたい、永遠に続いたらいい……。
「そうだよな、朝倉」
そうさ、誰でも思う事だよな、同じ事を。 しかし、こんな時に谷口の言った言葉が浮かんで来た
『来年になったら受験や就職活動で忙しくなる、恋愛するなら今しかねぇ』
これが現実か。 そう、それが現在(いま)なんだ。 過去でも未来でも無い。 過去は取り戻せないし、未来は知る事が出来ない。 だから、『現在を精一杯生きてく』……それがハルヒの原動力なのか、と改めて思った。 『自分の道は自分で切り開く』 そんな女に俺は惚れたんだ!
「なあ、朝倉」
「なに?」
「お前は現状に満足か?」
「う~ん、そうね。 不満が無いとは言えないわね」
「そうか。 じゃあ『強硬に変革を進めて』みようかな」
「えっ?」
「……なんてな」
「んもう! 何言い出すの、キョン君ったら」
ちなみにライブの熱狂でかき消されてる筈のこの会話を長門はしっかり聞いていたらしく「……朝倉涼子を敵性と判断」と言っていたのを知るのは、また後の話だ。
曲が終わり、10人一列になってステージ前方に立つ。
「みんなー、聴いてくれてありがとー! 楽しかった?」 とハルヒ。
「私にとっても印象に残る時間でした。 最高でした。 サンキュ~!!」 榎本さん。
10人手を取り合って一礼。 再び降りてくる幕。
全てが終わってしまった。
突っ走った4ヶ月、1時間で完全燃焼。 後悔など無い、達成感が残っていた。
気が付くとハルヒ・朝比奈さん・ENOZメンバーが抱き合って泣いて居た。 感極まったって奴だ。 それを見守る長門・朝倉。
「終わりましたね。 お疲れ様でした」 もう顔は近づけるな、古泉。 ライブは終わったぞ。
「ああ、楽しい時間が過ぎるのは、あっと言う間だ」
「そうですね。 高校生活一番の思い出になりそうですね」
「本当か? 他にも色々あっただろ。 変な事件に巻き込まれたりとか」
「これからも起こるかも知れませんよ」
「止めてくれ。」
「貴方が現実に引き戻す事をおっしゃったからです」
「……すまん」
「ふっ、ははははははは……」
「笑うな、古泉。 俺も可笑しい、あはははは……」 男2人笑いあう、珍しい光景、と自分でも思う。
(その6<最終話>へ続く)
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