夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:さよなら夏の日 

2011年03月19日 19時37分24秒 | ハルヒSS:シリーズ物

  高校2年の夏休み、最後の日曜日
 
       
   <さよなら夏の日>  ~Sunset Beach Plus~
 
 
「キョン、明日は2人で海に行くわよ!!」
前日・土曜日の不思議探索後、キョンと2人きりになった時、伝えた。 
何時もみたいに一方的なんだけど、これは、あたしの精一杯……本当はドキドキしてた。
今回も返事を聞かなかったけど、キョンは来てくれると思った。
 
 
 
本日は快晴・絶好の海水浴日和。 何時もの駅前……やっぱり来てくれた。
「遅い!!」 
もちろん照れ隠し。 本当は待ちわびていた。
「さあ行くわよ!」 
手を差し伸べると繋いでくれる。 以前はあたしが引っ張っていた手、今は隣に居てくれる――この夏の進歩。 でも、それ以上は、未だ……

切符売り場に向かう
「あたしが誘ったんだから、今日は、あたしが払うわ」
「え、良いのか?」 
なんて言っても、キョンは自分の分を払っていた。 遠慮しなくて良いのに。
 ホームに降りるとタイミング良く特急がやって来た。 休日の朝、空いている車内。 2人掛けの席に腰掛ける。 ずっと手は離さないけど、満更でも無い表情よね、キョン。
三ノ宮に着き、マルーンカラーの電車からステンレスの電車に乗り換える。
あたし達を乗せた電車は住宅街を抜け、海沿いを西へ走る。 穏やかな海を眺めていると

『須磨~、須磨です。 お出口は――』
 
「着いたわ!」 
電車を降り、改札を抜け海水浴場へ歩く。 鼻歌まじりで腕を組んでみると、一瞬焦るキョン。 でも
「やれやれ」
なんて言いながらも、腕を解こうとしない。 って事は――
 
 
海の家で水着に着替える。 今日は、お気に入りのビキニ。
みくるちゃんには負けるけど気にしない! あたしは、あたしよ!!
 
デッキ・チェアとパラソルを借りて
「キョン!」
「何だハルヒ」
「サンオイル、塗りなさい!!」
「マジか!?」
「マジよ……って、い、嫌なの?」
「い、嫌じゃ無いが。 その、何だ……」
「は、はっきり言いなさいよ」
「い、良いのか。 俺が塗って」
「あ、あんたしか居ないでしょ? ほら、さっさと塗りなさいよ」
何恥ずかしがってるのよ、エロキョンのくせに。 あたしの方が何倍も恥ずかしいんだから、察しなさいよ!
 
 
「泳いでくる!!」
キョンはコーラ片手にデッキ・チェアに寝転ぶ。
「やれやれ」
って何よ、その台詞。 いくら口癖とは言え、聞き捨てならないわね。 どう言う意味かしら。
あたしが無邪気にはしゃいでるから? さっきのサンオイル塗らせた事に対して? それとも他に……?
――聞きたい。 でも聞けない。 何かモヤモヤするけど
      
泳ごう!
 
 
 
夏休みも終わりに近いせいか、何時もは人出の多いこの海水浴場も今日は、どちらかと言うと混雑してない方かしら。
それでも浜辺には家族連れやカップル等で賑わっている。
「夏休み最後の思い出作りよね」 
このあたしも、その一人なんだけど。
左手には水族館・右手には日本一長いつり橋、その先には大きな島が見える。 穏やかな波・雲が少し浮かぶ雲・刺す様な日差し。 そんな夏も、終わろうとしている……
 
 
 
この夏もSOS団全員で過ごした日が多かった。 みくるちゃんは今年、受験なんだけど団活には極力、参加してくれて嬉しかった。
宿題はさっさと片付けて……キョンも去年みたいに宿題を残さないように、一緒になって片付けて――合宿・花火・その他イベントを5人でやって、あっと言う間に過ぎて行った。
でも、7月・最後の日曜日。 キョンと2人でこの海に来た事……あの時、あたしの中に湧き上がっていた感情。
その時は一体何か解らなかったけど、今は嫌と言う程、理解している
 
 
 
  『あたしは、キョンが好き』 と言う事を
 
 
 
「やれやれ」と言いながらも、あたしと一緒に居てくれる。
普段はボーっとしてて、間抜け面で、ニブキョンで、エロキョンのくせに。 いざとなると頼りになって、時々優しくって。
今年になって佐々木さんが現れて、解った事もある

  『嫉妬』 と言う感情を

これは有希や、みくるちゃんに対しても感じた事だ。
 
  『あたしだけを見て欲しい』
 
でも『好き』の一言が言えず、もう夏の終わりを迎えていた。 あたしから言えないのは『気付いて欲しい』とか、格好付けた理由じゃ無く
 
  『この関係が壊れるのが怖かった』 から。

あたしはSOS団団長、あいつは雑用係……なんて上下関係。 じゃなくって、単なるクラスメート。 でも無く、一緒に居て心地よい関係。 『オトモダチ』 と言うのだろうか――在り来たりな表現を使うなら『友達以上・恋人未満』?
素直に言うなら、さっさと告白して恋人になりたかった。 逆に、あいつから告白されたら、即O,K,するだろう……でも、ニブキョンから告白する事は無いわよね。
 
     「やれやれ」
 
あ、口癖、うつってるわ!? あたしったら何言ってるのかしら? 少し泳ぎ疲れたせいかしらね。
 
 
 
キョンは、あたしの事、どう思ってるのかしら? 
何時も振り回してばかり居る我が儘女? SOS団団長? 単なる『オトモダチ』?
 
 
 
今日も一緒に来てくれてる、って事は少なくとも嫌いじゃ無いとは思う。 手を繋いでも拒絶はされない。 ううん、満更でも無い顔してる!?……あたしの自惚れ、じゃ無いわよね? これって。

何か泳いでばかりいたら、お腹空いたわ。
「キョン、お昼にしましょ!」
「へいへい」
ずっと寝転んでて、楽しいの? もしかして、ずっと他の女の水着姿を見てたとか!?
 
美味しくない海の家のラーメンを食べて
「昼からデッキ・チェア、あたしが使うから!」 
寝転がった途端、睡魔に襲われる。
 
――実は昨夜、一睡も出来なかったのよね。 キョンを誘って、何時もの様に返事を聞かず……これが駄目だったみたい。
以前なら気にならなかったのに、ひょっとしたら来てくれないんじゃないかしら? なんて思ってたりしていたら、気がつけば朝が来ていた。 確かめる勇気も無いままに。
はぁ、あたしって、こんなにヘタレだったかしら? 言い寄られるのは慣れてたけど、いざ自分から、ってなると駄目みたい。
 
 
 
「……ろ、……きろハルヒ。 起きろよ!」
「ぉが?」
「もう4時だぞ」
「ほぇ?」
「寝惚けてるのか?」
「熟睡だったわ。 う~ん!」 背伸びする
「暑いだろ。 カキ氷買って来るから、待ってろ」
「うん。 キョン……」
「何だ?」
「何してたの、今まで? つまんなかったでしょ」
「ボーっとしてた。 俺の事は心配するな。 じゃ、行ってくる」 
行ってしまった。 寝惚け眼をこすり、海を眺める。
 
キョンが戻って来るまでの間、何人かの男に声を掛けられたけど無視してやったわ。 お呼びじゃ無いのよ!!
こんな事ならキョンと一緒にカキ氷、買いに行けば良かった。
 
「お待たせ」
「遅い!!」
「やれやれ……これでも急いで来たのだがな。 いちごとブルーハワイ、どっちにする?」
「ブルーハワイ!」 別に、どっちでも良いのに。
たった5分。 それでも今のあたしにとって、その5分ですら長く感じてしまう。
 
 
 
デッキ・チェアとパラソルを返却して着替える。 夕方とは言え、まだ日差しもある。 近くの店で早い夕食を済ませたけど
 

   まだ、帰りたくない
 

海へ戻る。 もう泳ぐ人は居ない。 波打ち際を2人、手を繋いで歩く。
そして、あたしは歌う。 最近覚えた、お気に入りの『ラブ・ソング』を、少し照れながら……焼けた肌・白いシャツ。 横に並ぶあいつの顔は、優しくあたしを見てる。
陽は沈みかけ、街の灯りは1つ1つ増えてゆく。

「帰ろうか、ハルヒ」
 
「嫌!!」
なんて言える筈も無く、黙って頷く。
 
 
 
帰りの電車、ドアにもたれ窓の外を流れる景色を2人で見ている。 互いに会話も無く、手は繋いだまま……
 
 
 
気付いて欲しい、この気持ち。 でも、この距離も心地良いのかも知れない。
そして何も変わる事の無いまま――夏はもう、終わるのに……
 
 
 
気付けば見慣れた風景、あたしの家の前。
「楽しかったか?」
「……まあね。 キョンは?」
「楽しかったよ」
「本当に?」
「あぁ」
「…………」
「…………」
「夏休み、終わっちゃうね」
「そうだな。 もう2学期か」
 
 
 
……嫌だ、帰らないで!! このまま一緒に居て――
 
 
 
「じゃあ、そろそろ帰るわ」
「……おやすみ」
「おう、おやすみハルヒ」
 
手は離れ、キョンは行ってしまう。 その背中は闇に紛れ……
 
 
 
 
 
   さよなら夏の日。 玄関のドアは、何時もより重かった。
 
 
 
 
     <さよなら夏の日 『Sunset Beach Plus』>   ~Fin~

 


コメントを投稿