夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Players<その3>

2011年01月24日 21時21分35秒 | ハルヒSS:長編

   (その2より)
 
      <ROCKESTRA>

 
10月中旬、中間テストがやって来た……来なくて良いのに。 ハルヒと付き合ってからと言うもの、授業中はもちろんの事、団活でも勉強していたせいで――結果から言うと、何とかトップ5から脱落せずに済んだ。
「すごいねキョン、バンド練習やりながらも成績キープするなんて。 まあ昔から『やれば出来るタイプ』だったからね」 
そんな事無いぞ国木田。 専属の家庭教師の教え方が良いせいだよ。 確かに今まで『やる気が無かった』と言うのは認めるが――
 
 
話は時を遡って10月最初の日曜日。 場所は北口駅近くのスタジオ。
我々SOSバンド(仮)とENOZメンバー・計9人、最初のセッションとなった……とは言うものの、今回は演奏は無し。 単なるミーティングだ。
「私達は4曲演奏する予定だけど、涼宮さん達は?」
「あたし達も4曲の予定です」
「ねえ、涼宮さん」
「何ですか?」
「その8曲とは別に、合同で2曲やりたいの」
「『God Knows...』と『Lost My Music』。 これを一緒にやりましょ!」
「この2曲には思い入れがあるの」
「もう1度、涼宮さんと長門さんと一緒にやりたいって思ってたから」
「ううん、性格に言うなら『ENOZフルメンバーと一緒に』だけどね!」
 
午前中はそんな感じでセットリスト等を決めて行った。 午後からENOZメンバーはツアーのリハーサルやらで帰って行った。
「所でハルヒ」
「何よキョン」
「バンド名、どうするんだ?」
「色々考えたんだけど、『放課後ティータイム』なんてどうかしら?」
……何だそのふざけたネーミングは。 しかも、それが採用されたら色々な意味で問題になりそうだ。
「なあ、ハルヒよ」
「な、何よキョン」
「お前は放課後の団活をティータイムと思っているのか?」
「そ、そんな事無いわよ」
「涼宮さん、ストレートに『SOSバンド』で宜しいんじゃ無いでしょうか?」
「良いんじゃない? 涼宮さんが中心になって盛り上がってるバンド、なんだし」
「だそうだ、文句無いよな」
「良いネーミングだと思ったのに……良いわ、『シンプル・イズ・ベスト』だもんね」 
何処がシンプルなのか解らんが。 時々お前のセンスを疑う時があるよ、ハルヒ。
「……ENOZとのジョイントのバンド名が無い」
「そうよね有希。 さっきの打ち合わせでも出なかったし」
「何か有りませんかね?」
「「「「「…………」」」」」 暫しの沈黙。
「なあ、古泉」
「何でしょう」
「9人編成のロック・バンドか。 何か、ちょっとした『ロックのオーケストラ』みたいだよな」
「ロックのオーケストラですか。 成程、良いですね」
「何がだ?」
「ロックのオーケストラ、『ROCKESTRA(ロケストラ)』ですよ」  良いのか、そんなんで。
「良いわね、古泉君! キョンも良い事、言うじゃない!! ENOZのメンバーには又、会った時に言うわ」
――そうなのか。 良いのか、本当にこれで!?
 
  
その日、残った時間はバンド練習に費やす事となった。
「ねえキョン」
「何だ、ハルヒ」
「あんたって左利きだっけ?」
「いや。 生まれてから、ずっと右利きだが?」
「何で左利き用のベース、持ってるのよ」
「右利き用のベースだと、コードが押さえ難くてな、左手が思う様に動かなくて。 そしたら古泉が『左利き用のベースを使ってみたらどうです?』って言ってくれて。 実際使ってみたら案外、しっくり来てな」
「ふ~ん。 しっかし、そのベース地味よね」 
あやまれ! このベースを使ってるポールと永ちゃんにあやまれ!!
「左利き用のベースがこれしか無くてな。 少ない小遣いでベース買う訳にも行かないし」
「良いんじゃない……渋くて、あんたに似合ってるわよ」
「ん、何か言ったかハルヒ?」
「な、何でも無いわよ。 さっさと練習しなさい! あたしも付き合ってあげるから」 
へいへい、解りましたよ。

俺はヘフナー500-1を持って、その向かいにハルヒはリッケンバッカー4001を抱え、練習開始。
ハルヒの教え方が良いのか、面と向かって練習する事自体がコード進行を覚えやすくするのか、自分でも驚く程にベースのテクニックが上達して行った。
一方の古泉は長門と朝倉に教えて貰っているようだ。 流石はヒューマノイド・インターフェース、万能選手だな。
 

こうして中間テストが終わるまで
   月~金 団活:テスト勉強(主に俺の為)
    土日 午前:勉強・午後:バンド練習   となった。 そして、テスト終了後は
   月~金 団活:バンド練習(スタジオ)
    土日 バンド練習(日曜午後はENOZとの合同練習)

……ENOZも多忙な中、良いのか? と思っていたら
「ツアーリハーサルも兼ねてるし」
「別に遊んでる訳じゃ無いし」
「涼宮さん達とやるの楽しいし」
「こうして地元に理由つけて帰って来れるし」
「「「「ね~っ!!」」」」  だそうである。 それは良かった、のか?
 
 ――この多忙な中、10月8日・ハルヒの誕生日……俺とハルヒは2人だけで、ささやかなパーティをした。
付き合って初めての誕生日、誰にも邪魔をされたく無かったからな。 よって、詳細は省かせて頂く。
 
 
 
      <Save Me>
 
文化祭まで、あと1ヶ月を切った中間テスト終わりの次の週。
「なあハルヒ、頼みがあるのだが」
「何よキョン、改まって」
「ベースの練習、手伝ってくれないか?」
「何言ってるの、放課後や土日にやってるでしょ」
「いや、それだけじゃ無くて、休憩の度、なんだが」
「あんたにしては良い心掛けね、解ったわ」
授業の間の短い休憩時間を使って……移動教室が無ければだが、向かい合わせでベースの練習をする事となった。
「悪いな、付き合わせて」
「遠慮する事無いわよ、キョン。 あたしにとっても練習になるし」
「ベースの練習なのにか?」
「歌のよ!」 確かに俺がベースの練習してる時、一緒に歌ってるからな。
 
休憩時間の練習。 始めは単に生暖かい目でそれを見てたクラスメート達であったが、徐々に俺とハルヒを囲む輪が出来、しまいには一緒に歌う奴も出て来た。 何か、ギャラリーが居ると少し恥ずかしい反面、やる気も起きるってもんだ。
所で、俺達のクラスは文化祭の出し物で何をやるかと言うと、語るまでも無い常設展示を行う事となった。 そもそも受験シーズンなんだし、あまり他の事に力を使いたくないって奴も居るだろう。
元々、纏まりのあるクラスとは言い難いからな。 俺が言うのも何だが……。
 
 
そして気付けば11月、文化祭を翌週に控えた週末。 ENOZとの最後の合同練習が行われた。
約2ヶ月と言う短期間ではあったが、俺も古泉も演奏テクニックを上達させ、ENOZメンバーの『お墨付き』を戴いた。
「凄いわね、この短期間で」
「やるじゃない!」
「これなら来週の本番はバッチリね!!」
「楽しみにしてるわよ♪」
クラスの方も
「別に大した事やる訳じゃね~し」
「キョン君や涼宮さん・朝倉さんはバンドに専念すれば良いのね」 と気を使ってくれたおかげで、練習に集中する事が出来た。
 
 
ついに文化祭当日がやって来た。 一緒に登校してゆく5人のバンド・メンバー
「そう言えば衣装はどうするんだ?」
「あ、忘れてた!」
「そう思いまして、こちらで用意させて頂きました」
「さすが副団長、伊達じゃ無いわね!」
「そう言うが古泉、何処にあるんだ」
「下校の際に付いて来て下さい。 サイズが解りませんので衣装合わせをしたいと思います」 成程ね

 
文化祭は土日で開催される。 ライブは日曜の午後3時から行われるので、今日が最後の本格的なバンド練習になるであろう。 嫌でも緊張して来た。
 
 
登校して、先ずは機材搬入。 昨夜、トラックに積み込んだ機材一式を体育館ステージに搬入する。 今日は体育館を使用しないと言うので、ついでにステージを借りて練習してしまおう、と言う算段だ。
機材の量が多く、思ったより搬入に時間が掛かってしまい練習を始めたのが10時を少し回ってしまったのは予想外であった。 トラックを運転してくれた新川さんが手伝ってくれたにも関わらず、だ。
それからはサウンドチェックから入り、昼休憩を兼ねた文化祭展示見学を挟み、午後から本番同様のリハーサルを行う。
ENOZが出るのは未だシークレットなので、『あの2曲』を練習で演奏するのは「単なるウォーミング・アップ」と周囲には説明してある。 サプライズは本番になるまで取って置く物だよな、ハルヒ。
「何か言った? キョン」
「いや別に、何も」
……こいつは口が軽くは無いと思うが、知りたがりだからな。 逆の立場だったら「シークレットって何よ!?」って言って来そうだよな。
 
3時に練習を切り上げ、森さんの運転するワンボックスカーで、やって来たのは北口駅前に建つ『鶴屋北口ガーデンス』。
「此処で衣装調達しようって訳か」
「メンズ・フロアとレディース・フロアが別れてるから、男女2手に分かれましょ」
そして小一時間掛けて選んだ衣装は……『超月刊キョン&古泉』のP41を見てくれ――って、何処かで言った台詞だが、気にしないでくれ。
 
「それじゃあ今日は少し早いけど、解散! 皆、明日に備えて頂戴!!」
「ハルヒ」
「何?」
「一緒に帰るぞ」
「解ったわ」 光陽園駅前まで森さんに送って貰った俺達は、解散後ハルヒの家に向かっていた。
「ついに明日、だな」
「緊張してる?」
「あぁ。 まさか、この俺がステージに立つなんて思わなかったからな」
「……ゴメンね」
「何を謝る事がある?」
「だって……」
「気にする事は無いぞハルヒ――俺はお前が好きだ、ありとあらゆるハルヒが好きだ! 強気で俺達を引っ張ってるハルヒ、少し弱気になってるハルヒ。 全てひっくるめて……俺はお前と一緒に居るのが幸せなんだよ。 お前が居なかったらつまらない高校生活を過ごしてただろう。 勿論、ハルヒみたいな彼女も出来ずに」
「……キョン」
「だからな、ハルヒ……」
 
そう言えば、此処は東中の校区内だっけ、確か。 だったら奴が出現してもおかしくは無いのだが……このタイミングで現れるとは。 俺は、こいつとの付き合いを見直すべきかも知れんな。
 
「WAWAWA渡る世間は鬼口ぃ~っ♪……ぬおわっ!?」
「「…………」」
「すまん……ごゆっくり~っ!!」 
『ゴーヤープリン』って聞こえるな、空耳か?
「……キョン」
「……」何だ?」
「……夕飯、食べてく?」
「あぁ、口直しが必要だな。 色んな意味で」
 
 
 
     <Sound Of Music>
 
ついに来ました文化祭ライブ当日。 天気は絶好の秋晴れ、まさに『文化祭日和』だ。
「みんな~、おっはよ~!!」
「おはようございます、涼宮さん」
「おはよう、涼宮さん♪」
「……おはよう」
「さあ、今日が本番ね。 張り切って行くわよ!!」
今から張り切ってどうするんだよ、やれやれ。 光陽園駅前で合流して、何時もの様に学校に向かう。
ハルヒと付き合う様になって、何時も話をしながら坂を登っているせいか、登校が苦にならなくなって居た。
 
……地獄のハイキング・コースだの、強制ダイエットだの悪態をついていたが、気がつけば後実質3ヶ月少々で終了だ。
この文化祭が過ぎれば本格的な受験シーズンに入り、そして卒業を迎える。 振り返ってる暇も無く1日1日が過ぎ、この北高での生活も色褪せたアルバムの1ページへと――
 
「お、来た来た。 おっはよ~諸君!!」
「あ、おはようございますぅ」 北高の正門前で待って居たのは鶴屋さんと、と、特盛!?
「鶴屋さん・みくるちゃん。 久し振り~!!」 鶴屋さんと朝比奈さん(大)が一緒に居るわけ無いか。 って事は
「朝比奈さん(小)!?」
「キョン君、久し振り♪」 少し見ない間に随分と……その、何と言うか
「……エロキョン」 うわ、ハルヒ。 ジト目で見るな!
「ほんっと、あんたって、みくるちゃん好きよねぇ」
やれやれ、別に鼻の下を伸ばしてるつもりはないのだがね。 大体、今、俺が誰を好きか知ってるだろハルヒ。
「まあまあ、夫婦喧嘩は後にするっさ。 ライブは午後からだっけ?」
「はい、鶴屋さん。 3時からです」
「楽しみにしてますぅ。 皆さん、頑張って下さい!」
「大学の学祭は来週でしたっけ」
「そうにょろ! 来てくれるのかい?
「「「「「はいっ!!」」」」」
 
午後からは体育館のステージを吹奏楽部やら他の出し物で使用すると言うので実質、午前中しかバンド練習する時間が無い。
嫌でも気合が入る、空回りしなければ良いが……。
 
 
ライブのセットリストは
  
<SOSバンド>   (全て  キョン:ベース  古泉:ドラムス)
   ・Punkish Regular
ハルヒ:ボーカル&ギター  長門:ギター  朝倉:バックコーラス&キーボード
   ・Under Mebius Full
長門:ボーカル&キーボード  ハルヒ:バックコーラス&ギター  朝倉:バックコーラス&キーボード
   ・小指でぎゅっ!
朝倉:ボーカル&グランドピアノ  ハルヒ:バックコーラス&キーボード  長門:バックコーラス(ハーモニー)&ギター
   ・ハレ晴レユカイ
ハルヒ:ボーカル&ギター  長門:ボーカル&ギター  朝倉:ボーカル&キーボード
(※ハレ晴レユカイ『3人バージョン』の、みくるボーカル部分を朝倉で)
 
<ENOZ>
   ・Starway To Heaven
   ・Secret Of Sensation
   ・When I Was In Love
   ・First Good-Bye
榎本:ボーカル&ギター  中西:バックコーラス&ギター  財前:ベース  岡島:ドラムス
 
<ROCKESTRA>  (SOSバンド&ENOZ)
   ・Lost My Music
   ・God Knows...
ハルヒ・榎本:ボーカル&ギター  長門・朝倉・中西:ギター  キョン・財前:ベース  古泉・岡島:ドラムス
 
全10曲・MC含めて約1時間のライブ予定だ。 ちなみに対外的には『SOSバンドで1時間ライブ』となっている。 あくまでもENOZが出るのは『サプライズ』だからな。
  
ステージ衣装に着替えるのは本番直前にして、早速練習に取り掛かる。 この2ヶ月の積み重ねの成果か、俺も古泉も素人レベルにしては上達したのでは無いかと思える。
尤も女性3人と比較したら一般人なんだよな、俺達。 古泉だって閉鎖空間以外では普通の人間なんだし。
午後の部が始まる時間ギリギリまで練習を行う。 ここまで来たら後は野となれ山となれ、本番を迎えるのみだ。
さて、ENOZメンバーだが、俺達がライブを始める時間に北高に来る予定となっている。 直前まで全校生徒に知られない為、このスケジュールとなっているのだ。
 
我等がSOSバンドのメンバーは一緒に昼食後、2時半までは自由行動となった。
とは言うものの、考える事は一緒なのか、はたまた単にする事が無いのか、5人共部室に居たのだ。
「古泉」
「何でしょう」
「何だ……その、久し振りにボードゲームしないか?」
「そうですね、気分転換にもなりますしね」 ここ数ヶ月出していなかったので、少し埃の積もった箱を取り出しゲームを始める。 ハルヒも久々にパソコンの電源を立ち上げネットサーフィン、長門は何時もの様に窓際で読書。 朝倉は俺達にお茶を淹れてくれた後、俺と古泉の勝負を観戦していた。
「古泉、そろそろボードゲーム、持って帰っても良いんじゃ無いか?」
最近の団活は勉強会……ここ2ヶ月はバンド練習もだが、この先、古泉とボードゲームを広げるって機会は無さそうだし。
「そうですね。 いや、卒業式まで待って貰えますか?」
「何故だ」
「卒業式の後、記念に一戦、交えたいと思いまして」
「ふむ、良いだろう。 無粋な事言って悪かったな」
 
気がつけば2時半。 男女交代で部室を使い、ステージ衣装に着替える。
「キョン!」
「何だハルヒ」
「この衣装、どう?」
「似合ってるが……露出、多くないか?」
「ふっふ~ん♪ 目のやり場に困る?」
「あほか……他の奴に見せたく無いだけだ」
「何か言った?」
「何でもない!」
「全く、素直じゃ無いんだから。 ホラ、行くわよ!!」   
やれやれ、こっちの気も知らんと――独占欲強いのか、俺って?



   (その4<最終話>へ続く)



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