夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:ROCKSHOW <その1>

2010年10月05日 22時17分56秒 | ハルヒSS:シリーズ物


  <何故、俺はここに居るんだ? 体育館のステージの上に――赤いライト、緑のライト、混ざり合う……そして仲間達が居て、今日も女神様はゴキゲンさ。
 
          さあROCKSHOWの始まりだ!>
 
 
 
所謂『佐々木団』との騒動の余韻が冷めやらぬ、ある日の事
「キョン!文化祭はライブをやるわよ!!」
……何をまた突然、と今に始まった事では無いが。 しかも文化祭って何ヶ月も先の話だ?
「ライブって、去年のENOZみたいにか?」


ハルヒと長門が飛び入り参加したENOZのライブ、その後ハルヒがENOZメンバーに感謝された後、「来年はSOS団でライブやるわ!」と言ってたのを思い出した。

「そうよ、ENOZのこのメンバーでやるのは今年までだし、『恩返し』の意味も込めてね」
「しかし何故、今なんだ?」
「物事には準備って物が必要でしょ?」
 確かに、直前で言われるよりは筋が通っている。 ふとハルヒの手元を見ると…… 

          『DVD  涼○ハルヒの激奏』
  
なんじゃそりゃ?
「あ、これ?タイトル見て面白そうだから買っちゃった」 ジャケ買いですか。
「面白そうですね、パソコンで見ますか?」 相変わらずのイエスマンだな、古泉。
それはさておき、再生っと。 ん、何やら聞きなじみのある声ばかり聞こえるのは気のせいかな?
「わたし達の声に似てませんかぁ」 朝比奈さんもそう思いますか?
「……ユニーク」

しばらくして寸劇みたいなのが始まる。 しかし、この杉○ってのは声が俺に似てるな。
 
   杉○『顔が近い。 あ、アクセスのライブみたいだ』
   小○『エアーキーボードですね』
   ○田『こんなバージンエモーションは要らん』

「これよっ!」  どわっ。 何だ、藪から棒に。
「今年のSOS団のライブは『access』よ!!」 あ、accessですか!?
「……access。貴水博之と浅倉大介による音楽ユニット(以下略)」
親切な解説有り難う長門。 しかしアサクラですか、何か古傷が痛み出したのは気のせいですかね。
「……アサクラ違い」  長門、突っ込み覚えたのか?
「男2人居るし、キョンはともかく古泉君はビジュアル的にイケてるし、舞台に立っても文句無いわよね」 大きなお世話だ。 好きで平凡に生まれた訳では無い。
「古泉、お前楽器出来るのか?」
「ええ、まあ。 ベースを少々ですが」
古泉がベースねぇ。 ジャズバーか何かでタキシードでも着て演奏したら似合いそうだな、って野郎で何想像してるんだ、気色悪い。  
「そう言う貴方はどうなんですか」
俺か? 楽器なんて学校で習う物しか出来ない上、それすらも満足に演奏出来ないがな。
「古泉君はベースで決まりね、じゃあボーカルはキョンね!」 なんですと? 
「じゃあ他に何が出来るの?」……ゴメンナサイ。
「しかし、俺の歌なんて大した事無いぞ」
「その為の準備期間でしょ」 そりゃそうだ、正論ゆえに反論出来ない。
「キョンがボーカル、古泉君がベース、有希がギターで、みくるちゃんが――」
「おい、朝比奈さんは受験シーズンだぞ! 無理させるな」
「そうよね。 でもSOS団のマスコットキャラクターなんだから、ステージには立ってもらうわよ!」
「ハルヒは何をやるんだ?」
「あたし? accessってからにはキーボードが要るわね。 今回は男2人を前に出すから、バックアップに回るわ」
バックアップですか。 何かまた脇腹が、気のせいですかね?
「……多分、気のせい」 
「でも、あたしがキーボードやるとドラムが居ないわね。 誰か出来る人居ないかしら」
普段ならここで古泉が「僕の知り合いに~」と言う場面なのだろうが、さすがに文化祭に機関のメンツは使えまい。  学内に協力者は生徒会長含め居るだろうが、そう都合良くは……。
「……大丈夫、任せて」  
「有希、心当たりあるの?」
あら珍しい、長門の知り合いが出て来るとは。 喜緑さんか? でもあの人も建前上受験生だし、そう簡単に行くまい。
「……そのうち来るから」
「まあ、有希が良いって言うなら任せるわ。 それじゃ解散!」
 
  文化祭まであと4ヶ月。  暑くなるな、今年の夏も。   

    

さてその週末、土曜は何時もの如く不思議を求めて何も発見出来ず過ぎ去り、平和な日曜がやって来た。

「ん、電話?」 時間は朝8時、こんな時間に掛けて来るのはハルヒしか居ないと思いきや
「……」 
「長門か?」 珍しいな、何だ。
「……話がある、ウチへ来て」
「急用か?」
「……おそらく」 
「支度出来たら行く、待ってくれ」
「了解した」 切ると同時に妹が来た。 残念だったな、フライングボディーアタックは本日休業だ。
「キョン君お出かけ~? あたしも行「来るな!」」
つまんないの~。 と拗ねる妹を置いて軽く朝食し出掛ける。 日差しが暑い。 自転車を漕ぐ度、汗が滲み出る。 途中コンビニに寄りアイスを買い長門のマンションに。
「おっす、長門」
「……入って」 差し入れだ、とアイスを差し出すと嬉しそうに頷く。
「用件は何だ?」
「……天蓋領域の活動状況が活発化する現在の状況に於いて、わたし個人での対応に限界を感じた情報統合思念体は各派閥を一体化させ、対応策を執る事にした」
ふむ、長門一人に負担を掛けるのは得策では無いな。 確かに。
「……そして」  ピンポーン♪  ん?誰か来た様だ。
「……お出まし」  か、カマドウマか!? な訳無く、やって来た人物は俺の想像の斜め上を行っていた。
「ヤッホー! キョン君、お久し振り♪」

――驚きと恐怖で声も出やしないかった。

「……わたしの負担軽減の為、パーソナルネーム朝倉涼子の再構成を申請、受理された」 
「そーゆー事。 明日から学校にも行くからヨロシクね♪」 マジか。
「いきなり戻って来るのは事情が事情だから仕方ないが、俺の身が」
「大丈夫よ、もう急進派は存在しないし、今あなたを殺害したら私の情報連結解除や情報爆発の観測どころじゃなく、世界の破滅もありうるんだから、そんな事しないわ。 安心して」 さいですか。
「しかし、何で朝倉なんだ?」
「あら、涼宮さんが不思議に思わない為でしょ?」
急にカナダへ行ったかと思えば、また急に戻って来るのも充分不思議と思いますがね。
「……あと、あなたの願った事」 はい?
「……涼宮ハルヒとの閉鎖空間」

   『~そこに、消えちまった朝倉を含めてもいい~』
                               
はい、過去の俺、死刑決定!

「……そして彼女は優秀なバックアップ」
「もしかしてライブ要員って?」
「……そう」 確かに長門レベルのスペックがあるなら朝倉も楽器を持った時点で手足の様に操れるんだろうな。
「朝倉、楽器出来るのか?」
「大丈夫よ、情報操作は特「わかりました」」 

    

月曜日
「おはよう、キョン」 お、坂の途中で会うのは珍しいな、国木田。
「よう、珍しく遅いじゃないか?」
「まあね、昨夜、寝るの遅かったから、少し寝坊したんだ」 
「お前の事だから勉強だろ?どうせ」
「確かに塾があったからね。  でも寝るの遅くなったのは他の理由だよ」
「ほう、テレビでも見てたのか」
「違うよ」
「うーん、見当つかんな。 何だ?」
「長電話さ、佐々木さんと」 珍しいな、政治討論でもしたのか?
「さすがにそんな話はしないよ。キミについてさ、キョン」 ほう、当事者である俺を置いて、そんなに話す事があるのかね。
「まあ、そのうち佐々木さんからも連絡があると思うよ」 

気がつけば学校に着いていた。
「よう、ハルヒ」
「おはよ」 相変わらず窓の外を眺め、メランコリックな世界を彷徨っていらっしゃるのかね。
「しかし、有希の知り合いって誰かしらね。 アンタ知ってる?」
「さあな。 そのうち紹介されるんだから楽しみにしておけば良いだろ?」
「そうね。 でも早めに音合わせとかしたいし……」

言い終らないうちにチャイムがなり、HRが始まった。
「おはよう皆、喜べ男子! 転入生を紹介する」と岡部教諭が言い、入ってきた人物はやはり
「元1年5組の人はお久し振り。 カナダから戻ってきた朝倉涼子です。 皆さん宜しくお願いします」
谷口いわく『AAランク+』の笑顔で……って、何故こっち見て手を振るんだ? ざわつく教室、そして
「キョン!知ってたの? 何でアンタに手振ってるの!? 朝倉とデキてたの?」って何でそうなる!
「だってアンタ、朝倉がカナダに行った時も今日も驚いてないし。 突然の出来事なのに、って事は事前に知ってたって……」
いやハルヒさん、突然過ぎる現象って人間リアクション取れなくなる事もあるんですよ? って言い訳にしか聞こえないか。 
  これ、なんか『浮気がバレて戸惑う夫の心境』に近く――いやいや浮気はおろか交際すらした事が。 あら?クラス中の視線が冷たいのは気のせいじゃないですよね、ハイ。
 
そして「朝倉の席が無いから、ついでに席替えするぞ」との号令で席替えとなった。
俺とハルヒの位置関係は変化なし。 だったのだがハルヒの力か、はたまた情報操作のせいなのか、俺の横に朝倉が来た。 季節は真夏なのに、俺はクラスメイトの視線で凍死できそうだ。
 

昼休み、谷口・国木田と弁当食べている時も「何でキョンばかり」とか「佐々木さん含め四角関係(略)」とか、針のムシロ状態で弁当の味も判りやしない。
トドメに朝倉が「放課後、部室にお邪魔するから♪」と相変わらずのスマイルで言って来るものだから……早く家に帰りたい。 お、食堂からハルヒが戻って来た。
「おいハルヒ、朝倉が放課後部室に来るそうだ」
「は? 朝倉が何の用かしら」
「さあな、本人に聞いてみたらどうだ」
「まあいいわ、後で解る事だから」
珍しく引き下がったか。 以前なら直ぐに餌に喰らいついて行ったのに。
 
放課後、ハルヒと共に部室に向かう。 
「ヤッホー! 皆居る?」 こら、勢い良くドアを開けるな、そしてノックしろ! 朝比奈さんが着替えてたらどうする。
「あ、はぁ~い」
「どうも、こんにちは涼宮さん」
「……」 今日は全員居るな。
「そう言えば有希、朝倉涼子って知ってる? 確か同じマンションに住んでたわよね」
「……認識している」
「まさか有希に言ってた知り合いって」
「……そう」
「ふーん。 朝倉って楽器弾けるの?」
「……多分」
「それはともかくハルヒ、曲目は決まってるのか」
「ん~accessってあまり聞いた事無いのよね」イメージ先行ですか。
「でもピックアップして3曲きめたわ」
ふーん、どれどれ――   
   
   ・Night Wave
   ・Only The Love Survive
   ・Virgin Emotion

「どんな感じの曲ですか?」
パソコンを起動させYou Tubeで検索~っと。 割とアップテンポな曲だな。 しかもボーカルが高音、きついな正直。
コンコン。 ノックの音がする、朝倉が来たか。
「はぁ~い」エンジェルボイスで朝比奈さんが答える。
「お邪魔するわよ」 やはり朝倉か。 
「どうぞ、よく来たわね。 ようこそSOS団部室へ!」
「初めて来るわね」 
「失礼ですが、どちら様で?」 お、古泉は初対面か。
「いらっしゃいませ、初めまして、お茶如何ですか?」
「そちらのお2方は初めてお会いしますね。 2年5組の朝倉涼子です、よろしくね」
「初めまして、3年の朝比奈みくるです」
「初めまして、2年9組の古泉一樹です。 こちらこそ宜しく」
「去年、急に親の都合でカナダに行くことになったから、約1年振りなの、北高は」
「へぇ~そうなんですかぁ~」
お前が行ってたのはカナダじゃなく宇宙の彼方だろう? とくだらない事を考えていると。
「朝倉、あんた楽器出来るの?」
「何でも出来るわよ♪」 何とアバウトな。
「有希から聞いてると思うけど、バンドやるのよ。 大体パート決まってて残りはドラムスかキーボードなんだけど、どっちが良い?」
「それならキーボードにするわ」 アサクラだけにか。
「決まりね!」
「ハルヒ、お前ドラムも出来るのか」 本当に何でも出来る奴だな。
「まあね」
一応、清楚な委員長キャラの朝倉よりは、活発なハルヒの方がドラムスは似合いそうではあるな。
「さて、パートも決まった事だし、行くわよ!」
「何処へだ」
「決まってるでしょ、軽音部部室よ!!」  成程ね。
6人揃って……SOS団プラス朝倉か、新鮮だな、何となく――部室棟を離れ軽音部部室に向かう。 コンコン 
「失礼します」 お、ハルヒ。  ちゃんと『よそ行き』スタイルになってるな。
「あら涼宮さん、久し振り。 彼氏と一緒にどうしたの?」 と榎本さん。
あの~、誰が彼氏なんですか? しかもあと4人、他に人が居ますが。
「今年の文化祭バンドやる事にしたの。 ここに来たのは楽器の調達よ」 結局敬語使ったのは入室の挨拶のみかい。
「そう、それは楽しみね」 岡島さんが言う。
「パートとかは決まってるの?」
「決まってるわ」
「備品の楽器は使って構わないけど。 あ、空いてる時はこの部室使っても構わないわよ」
「ホント? ありがと!」
「涼宮さん、長門さんの実力は去年分かったから、楽しみにしてるわ」
「折角なら自分達の楽器を揃えたら?」
「考えとくわ」

しばらく会話が続いた後、中西さんが
「もし良かったらジョイントしない?」 と言ってきた。
「え、ENOZとあたし達が?」
「うん、どうかしら? 涼宮さんには去年の恩があるし、わたし達の勝手な願いなんだけど」
ハルヒが少し戸惑い俺を見つめる。 おい上目使いで見るな……不覚にもドキっとしてしまった。 少しな、少しだけだ。
「いいんじゃないか。 向こうからの提案なんだし」
「う、うん」
「一緒に文化祭を大いに盛り上げようぜ、団長!」
な、何を言ってるんだ俺!? ハルヒ以外の人物は生温かい目でこっち見てるし。 あ、長門、何故拗ねる?
「そうよね、その為のSOS団よね!!」 100wの笑顔に変わったハルヒ。 こうなったらもう止められない。 導火線に点火してしまったか。
「決まりね。 あ、今日は時間無いから詳しくは明日決めましょ!」
と言う訳で解散となり下駄箱に向かう。 ちなみにENOZメンバーは偶然、軽音部室に遊びに来ていただけらしい。 途中、朝倉は何か用事があると言って何処かに行ってしまった。 あれ、靴の上に手紙が

  『元1年5組の教室に来て』 

何時ぞやみたくノートの切れ端に書かれた文字。 既定事項ですかな、これは。

「あーすまん、教室に忘れ物した、皆先に帰ってくれ」
「何やってるのよ、じゃあ先に帰るわね」
「……さよなら」
「キョン君バイバイ」
「では失礼します」 下駄箱で見送り呼び出された先に向かう。 夕日に照らされた教室で待っていたのは

「来たわね」
「やっぱりお前か、何の用だ朝倉?」
前回と違うのは教卓の前でなく窓際の一番後ろの席。 それは元・ハルヒの席であり、そして
「どうしてこの席で待って居たか解る?」
「何となくな。  思い出したく無いが」
「トラウマって奴かしら?」
そう、改変された世界での朝倉の席でもあった訳だ。 
「ごめんなさいね、意地悪言って。 それより座ったら?」 俺は以前の自分の席に座る。
「楽しみね、文化祭」
「不安の方が大きいがな」
「あら、その割には顔に出てないわよ」
「本題に入ろうか」
「いつから『ハルヒ』って名前で呼ぶようになったの?」 そんなんで呼び出したのかコイツは。
「知ってて言ってるだろ」 性格悪いのか、見た目と違って。
「ふふっ、キョン君面白い♪」
「ほっとけ」
「本当はね、2人でお話したかったの。 以前の事もあるから2人きりで話出来ないと思ったけど」
「正直まだお前に対して不信感が残っている。 でも長門が大丈夫って言ってるからな」
「信頼してるのね、長門さんの事。 羨ましいな」
「でも、お前も命令で動いてただけなんだろ」
「うん、でも最後は私の独断だったけどね。 再構成されたのは奇跡ね」
「長門といいお前といい、優秀であるがゆえにエラーも出たりするんじゃないか? 人間で言うストレスって奴だ。 長門は抑えてるっぽいし、お前は優等生を演じてる。 仕方ないのかもな」
「ふふっ」
「何が可笑しい?」
「ゴメンね、笑ったりして。 冷静な分析ね、そして人間と本当に同様に見てくれる、優しいのね」
「そうか?」
「あ、あまり遅くなるといけないから、帰りながら話しましょうか」
「なら何でここに呼んだ?」
「思い出、って奴かな」 俺の目の前で消えた場所でもあるからな、色々思い入れがあるのかな。
「ここに呼んだ目的はあなたと打ち解ける為だったんだけど、割とあっさり済んだみたいね」
「うーん、少し疑問が残るが、まあ良いだろう。 以前の俺なら受け入れられなかっただろうが、この1年色々あり過ぎて耐性が出来たみたいだ」
「さすが涼宮さんが選んだだけあるわね。 あ~あ、独断で動かずに監視に徹していれば色々面白い物が見れたんだろうなぁ」
「いいんじゃないか、これから見つければ」
「えっ!?」 おっ、戸惑う朝倉とは珍しい。
「過ぎた事を気にしても仕方ないさ。 観察ってのはつまらないかも知れんが『やらなくて後悔するよりは~』だろ? これから何か見つけるなり、たまにアクション起こしたりして楽しめればいいんじゃないか、朝倉。 あ、暴走するなよ。 その前に俺に相談しろ、役に立つかどうか知らんが……って、何笑ってるんだ」
「あははははっ。 ごめんなさい、キョン君が必死に語ってるから可笑しくって」
「笑うな。 真剣に人が話してると思えば」
「あ、早速相談なんだけど」  何だ?
「夕飯の買い物付き合って、お願い♪」  そんな事かよ! 上目使いで両手合わせるな。 実は呼んだ目的はそれか?


さて、買い物を済ませマンションまで送る。 朝倉は片手、俺は両手に荷物が一杯、重い。 仕方ないので玄関まで持っていってやるか。
「一人分にしては多いよな」
「長門さんの分もあるの。 あのコ放っておくとレトルトカレーで済ませようとするから……あ、ありがとね」
「重かったぞ、何処に降ろす?」
「ちょっと待って!」
玄関で待ってると一足先に台所に荷物を置きに行った朝倉が戻ってくる。 荷物で両手がふさがれた俺に近づいてきて―― 
 
     キスされた
 
「うばっちゃった♪」   な、何しやがる!
「あら、何驚いてるの? お礼よ、お・れ・い。 ほら向こうじゃ挨拶みたいな物でしょ?」
「本当に行ってた訳じゃないだろ!」
「えへっ、あ、ついでに夕飯「いらん」」
「そっか残念ね。 またご馳走するわ。 ありがとね♪」
 
――そこから家に帰って朝起きるまでの記憶が無い。 あきらかに動揺してるな、俺。
 

次の日、つつがなく登校。 ハルヒの機嫌はすこぶる良いみたいだ。 人間、目標があるのは良い事だ。
最近は以前ほど無茶しなくなり比例して閉鎖空間の発生も減少してるみたいだ。 良かったな、古泉。

そしてお昼、いつもの様に谷口・国木田と弁当を食べ、しばらくすると
「やあやあ、キョン君居るかい?」
「おや、鶴屋さんですか。 1人で珍しいですね、何か用ですか?」
「キョン君、スモークチーズ「ありません」」
「……にょろ~ん」
「冗談はともかく何かありましたか? スモークチーズはありませんがジュース位ならお出ししますよ」
「いや、気を使わなくっていいっさ! みくるから聞いたよ。 バンドやるんだって? しかもキョン君がボーカルって言うじゃないか。 お姉さん、めがっさ楽しみにょろよ」 ど、どうも。
「そこでステージ衣装や機材などをちょろ~んとだしてあげよっかなと思った訳さ」
「本当ですか! って言うか良いんですか? 申し訳ありません」
「気にしない気にしない。 あたしもみくるも卒業だし、思い出作りってやつかな」
「鶴屋さんも進学なんですよね、受験頑張って下さい」
「おや、励ましに来たつもりが逆に励まされちゃったね、ありがとさん!」 そこで思った疑問があった
「鶴屋さんは何で北高に入ったんですか?」
「へっ!?」
「だって鶴屋さんレベルの頭の良さで、しかもお嬢様とくれば、もっとレベルの高い高校に行ってても――」
「おや、キョン君はあたしと一緒の学校は嫌だったのかい?」
「と、とんでもない。 お陰様で楽しい学校生活が送れる上に鶴屋さん程の才色兼備な方と……あ、すみません」
「いやぁ、嬉しい事言ってくれるねぇ」 さわやか笑顔で答えた後真剣な顔で
「レールの上に乗るだけの人生は嫌だったからね。 親には確かに、もっと上の所行けと言われたけど、あたしだって一度きりの人生を楽しみたいのよ……って、あ、ガラにも無い事言っちまったね。 今のオフレコだよん。 おかげでキョン君やみくる、ハルにゃんやみんなにも会えて、楽しい青春を送れてる訳っさ。 だから感謝してるのさ! 所で、今週の土曜はまたSOS団集まるのかい?」
「ええ、不思議探索は毎週ありますので」
「じゃあ衣装合わせ・機材調達、ちょろ~んとその日にやってしまおうじゃないかっ!」
それではハルヒに連絡します、と言ったら鶴屋さんは帰って行った。 俺も自分の席に戻る。 
「ねぇ、今の誰?」 そっか、朝倉は知らないのか……あ、昨日の事思い出してしまった。 コイツは平然としてるな、何とも思って無いのか。
「3年の鶴屋さん。 鶴屋グループのお嬢様でSOS団の名誉顧問でもある人だ」
「ふ~ん、美人よね。 ってキョン君、顔赤いよ。 どうしたの?」
お前のせいだ、お前の。 いらん事聞くな。  あ、ハルヒが食堂から戻って来た。
「ハルヒ、土曜は鶴屋さん直々に衣装合わせ・楽器調達一緒に行ってくれるそうだ。 あ、朝倉、お前もだぞ」
「わかったわ、さすが鶴屋さんね。 後でみんなに伝えとくわ!」
 

放課後SOS団+朝倉は一度部室に集まり土曜の予定を全員に伝えた後、軽音部部室へ。 昨日言った通りミーティングだ。
簡単に言うと、今年のENOZの演奏リストは
   
   ・God Knows...
   ・Lost My Music
   ・First Good-Bye  の3曲だ。

去年の2曲と新作か。 どんな曲なんだろう。
「それでジョイントするに当たって、何かやりたい曲あるかしら?」 と榎本さん。
「持って来たわ。 去年の文化祭終わってから色々作ってみた中で3曲選んで来たんだけど」
選んだ、ってハルヒ、何曲作ったんだ? しかも何時の間に。
  
   ・見つけてHAPPY LIFE
   ・パラレルDAYS
   ・ハレ晴レユカイ(EDバージョン)



   
     (その2へ続く)


コメントを投稿