夜明けのダイナー(仮題)

ごった煮ブログ(更新停止中)

SS:Waterland

2011年04月07日 05時59分45秒 | ハルヒSS:中短編

 夏、真っ盛り。 
 連日の猛暑で体が溶けかかっていた、夏休みのある日の朝の事。
 「ん?」 
 俺の携帯が着信を知らせる。
 『はろはろ~、あ・た・し!』 ハルヒか。
 「何の用だ?」
 『プール行くわよ!』
 「ほう、今からか」
 『そうよ』 
 やれやれ、他人の予定など、お構いなしですか。 まぁ、どうせ暇でしたけどね、俺は。
 「んで、他のメンバーは?」
 『古泉君はバイト』 
 ん、閉鎖空間か? ハルヒの機嫌は良さそうなのに。 
 『みくるちゃんは鶴屋さんと約束があって』 
 残念! 朝比奈さんの水着姿を拝めるチャンスが……
 『有希も何か用事があるって』 
 長門まで、どうしたんだ?
 「そうか」 
 つまりは俺とハルヒの2人きり、って事か。
 「んで、何時に集合なんだ?」
 そう質問した直後、ピンポ~ン と間髪入れず玄関のチャイムが鳴る
 「すまん、誰か来たようだ」 
 受話器の向こうのハルヒに告げ、玄関のドアを開けると
 「やっほ~キョン、迎えに来たわよ!」 
 来たよ、真夏の太陽が。
 「おっすハルヒ……って、俺が留守だったら、どうする気だったんだ」
 「留守にする用事、あるの?」
 「いや」
「ふっふ~ん♪」
やれやれ、この100Wの笑顔を見てしまうと小さい事なんぞ、どーでも良くなって何もかも許してしまいたくなるね――いや、何言ってるんだ、俺。 暑さで頭がやられたか?
 古泉、知り合いに脳外科医居るか? それも、とびっきり優秀な。 居たら直ぐに診てもらいたいのだが……
 「何ブツブツ言ってんの? ほら、さっさと自転車出して!」
 へいへい。 
 ハルヒを後ろに乗せ、自転車を漕ぎ出す。

 「ゼェ、ゼェ、ゼェ……つ、着いたぞ!」
 「だっらしないわね! これ位で息、上がるなんて」 
 おい、後ろに乗ってただけの奴が何を言ってる。

 水着に着替えてプールサイドに出る。 ハルヒは、まだか?
 「キョン!!」 
 のわっ、びっくりした!
 「どう、このビキニ! 似合ってる?」
 朝比奈さん程では無いが、相変わらずのスタイルの良さ。 その上、派手でなく、且つ地味でも無いシンプルなビキニ。
 「おう、似合ってるぞハルヒ」
 「……ばか」 
 何だこいつ、照れてるのか? 素直に褒めただけなのに。
 「うっさいエロキョン! さあ泳ぐわよ!!」
 やれやれ、って行き成り25メートルプールに飛び込みやがって! 
 自転車漕いで疲れた体を休めつつ、ハルヒの泳ぎを見学するとしますか。

 25m……50m……75m……100m……って、何時まで泳ぐ気なんだ?

 「ドーバー海峡単独横断可能な位」 
 どわっ! な、長門? 何時の間に!? 用事はどうした。
 「わたしの任務は涼宮ハルヒの観察」 
 そうだったな、偶に忘れそうになるぜ。
 「しかし、相変わらずの体力だよな。 ハルヒの奴」
 「……核動力搭載」 
 マジか!?
 「ジョーク」 
 ですよねー。
 「ヤッホ~、キョン君。 わたしも居るわよ♪」 
 朝倉もハルヒの監視か? 暑い中、2人共ご苦労なこった。 って
 「朝倉」
 「何? キョン君」
 「その水着……何だ、その。 高校生が着るにしては――」
 「ふふ、目のやり場に困る?」 
 こいつの水着が気になる奴は『超月刊・朝比奈みくる P35』を見てくれ
 「貴方を悩殺して、涼宮ハルヒの出方を「……朝倉涼子を敵性と判断」」
 「じ、冗談よ長門さん。 もう、キョン君の事となるとこれだから。 そんな事より長門さん、お昼ごはん食べに行きましょ♪」
 「カレーを所望する」
 やれやれ、行ってしまったか……ってハルヒは?
 「まだ泳いどったんかいっ!!」
 ドーバー海峡どころか、太平洋横断しそうな勢いだな。
 「おーいハルヒ、上がれよ! お昼にするぞ」
 プールサイドからハルヒに呼びかける。 しかし、当然ながら泳いでるハルヒには聞こえる筈は無い。
 「全く、しょーがねー奴だな。 っと!」
 俺も飛び込んでハルヒの泳ぐコースの横へ。 お、来た来た。
 「止・ま・れっ!」
 「ぶはっ! キ、キョン、どうしたの?」 
 やっと止まったか。
 「そろそろ上がれよ、お昼にしよう」
 「え、もうそんな時間?」 
 約2時間は泳いでたぞ。
 プールサイドに上がったハルヒに対し周囲から万雷の拍手が沸き上がる。 そりゃそうだろう、注目の的だったからな。 スタイル抜群の美少女が無心に25メートルプールを延々と泳いでりゃあ、嫌でも視線を集めるって。

 「大した物は無いが、タコ焼きで良いか?」
 「うんっ!!」 
 さて、買いに行くとしますか。
 「いらっしゃいませぇ~」
 って。 あ、朝比奈さん!? こんな所で何やってるんですか?
 「おっ、キョン君じゃないかっ!」 
 鶴屋さんまで。
 「アルバイトですぅ」
 「人手が足りなくってね、みくるに頼んだ訳さっ!」 
 さいですか
 「あ、タコ焼き2人前下さい」
 「はい、2人分って涼宮さんとですね」
 「えぇ、まあ」
 「青春っさね~。 羨ましいよ、少年っ!」
 「はぁ」 
 代金と引き換えにタコ焼きを貰う。
 「「ありがとうございましたぁ」」 
 まさか、此処でこの2人に会うとは思わなかったな。

 「ハルヒ、お待たせ」
 「あ、ありがと。 飲み物、買っておいたから」
 「サンキュ、ハルヒ」 
 ビーチパラソルの下でハルヒと2人、タコ焼きを食べる。
 鶴屋堂のタコ焼きは大ぶりのタコが入っていて美味かった。 店によっては行列すら出来る一品だからな……って
 「さあ、食べたから泳ぐわよ!!」
 早いよハルヒ! 熱いんだから、ゆっくり食べさせてくれ。

 タコ焼きを食べ終え、やって来たのは波の出るプール。 常時、波を発生させている訳で無く
 「お、来た来た」
 こうして定期的に波を発生させたり、止めたりを繰り返してるのだが――
 「でぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
 ……何やってるんだハルヒ? 波に向かって蹴りを入れて
 「タイガーショットの練習よ!」 
 やれやれ、小次郎ですか。 

 しばし波と戯れて
 「次はアレよ!!」
 「ほう」 
 ウォータースライダーですか。 
 階段をひたすら上がり周囲を見渡せば、眼下に広がるプール、周辺の住宅街、そして
 「あれ、古泉君?」
 「おや、涼宮さん。 彼も一緒ですね」
 「何やってるんだ、こんな所で?」
 「プール監視の『アルバイト』ですよ」 
 マジか。 普通のアルバイトじゃねーか!?
 「そう、頑張ってね! キョン、先に行くわよ!!」
 おいハルヒ、勢い良く行くとビキニが取れるぞ……って聞いちゃいねー。
 「『バイト』ってハルヒから聞いた時は、てっきり閉鎖空間でも発生したのかと思ったぞ」
 「ふふっ、最近の涼宮さんの精神は安定してますよ。 力が弱くなった以上に……貴方のお陰ですね」
 「俺?」
 「はい、貴方と一緒に居る涼宮さんは、それはもう楽しそうで」
 「さっぱり意味が解らんな。 今年の夏もSOS団全員で居る事が多かったから、それが良かったんだろうよ、きっと」
 「……そう言う事にしておきましょうか」

 「キョ~ン! 早く来なさ~い!!」 
 おっ、下でハルヒが呼んでるな。 滑るとするか。
 「ちなみに流水プールの監視は森さん、あそこでカレーを煮込んでるのは新川さんです」
 機関も暇なのか? まあ、平和なのは良い事だ。


 「キョン、楽しかったわ!!」
 「そりゃ良かった。 また行こうか」
 「うんっ!!」
 夕方とは言え、まだ日差しは強く暑さも残っている。
 そんな中、ハルヒと2人。 コンビニ寄って、アイスを買い自転車に乗り帰路に着く。
 「なあハルヒ」
 「何?」
 「今度は海に行くか」
 「団員みんなで?」


 「いや、お前と2人で」


     <Waterland>  ~Fin~


 

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