受験勉強の息抜きに、と言ってキョンと出掛けたENOZのライブ。
そう、今は高校3年の夏休み。 みくるちゃんは卒業して大学に行ったけど、SOS団は解散せず続いていた。
古泉君からライブ・チケットを貰ってキョンと2人、大阪にあるライブハウスに出掛ける。
夕方からのライブは盛り上がってアンコールが3回。
更にENOZの4人と目が合って言われるがままに、あたしはステージに上がった。
……ちょっと恥ずかしかったけど、キョンも居てくれたから――
気が付けば楽屋にまで、お邪魔して
「「間に合わなかった~!!」」
終電に乗り遅れた。
「どうしよう、キョン」
「どうしよう、って言ったってハルヒ。 歩くには遠いし、ホテル代もタクシー代も無いぞ」
「甲斐性なし!!」
「関係無いだろ!? 仕方無いじゃないか」
近くにファミレスを見つけたので、入店する。
ライブ前に食べた早い夕食から、時間が過ぎていたから始めは食事に。
でも、胃袋の限界は早くに訪れた。 後はドリンク・バーで始発の時間まで粘らないと。
向かいに座るあいつは満腹感と疲労で半分、舟を漕いでいる。
「駄目よ、寝ないで!!」
今日も朝から大阪市内を色々回ったせい、かな。 キョンが疲れているのは。
昔は、あたしの思いつきで、こいつを振り回していた。 今は違う。
実は緊張している、少しだけど。
高校に入って、他の誰より。 当然、自分の両親よりも一緒の時間を過ごして来た。
一緒に居ると落ち着く反面、話をすると舞い上がってしまう。 特に最近……そう、原因は分かっている。
精神病、『恋』ってやつだ。
今はただ、あたしから一方的に話を振っている。
一緒にいる時間は無駄にしたくない。 一分、ううん一秒でさえ。
相変わらずの間抜け面で舟を漕ぐ、目の前のあいつ。
「エアコンが寒いから」 とドリンク・バーで注いだホット・レモンティーは冷め切っていて、もう飲みたくはない。
そろそろ東の空が白ずんで来る頃ね。
実はタクシー代位は持っていたけど、黙って居た。 2人で居たかったから。
でも「ホテルに泊まる」なんて、言える訳無いでしょ、あたしの口から!
勿論、あいつからそんな事を言ってくれる訳も無く――昼間、お金を出させ過ぎた所為よね。 少し反省。
早く此処を出て眠りたい、布団の中で。 出来れば2人一緒に、夢の世界へ。
『あの夢の続き』を見たいと願い、指を唇につけてみる。
キョンは完全に落ちていた。 やれやれよね、あたしを置いて自分だけ寝てしまうなんて。
顔を横にしてうつ伏せている、あいつの唇に、さっきの指を触れてみる。
「……ハルヒ」
どんな夢を見ているのかしら? あたしの名前を呼んで。
夜が明ける。 そして、また一日が始まる。
この想いを打ち明けられないままに、太陽はまた地上を照らし始めた。
<ファミレス午前3時> ~Fin~
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