(その3より)
「で、そいつは今、何をやってるんですか?」
どうせ仕事中や家族サービス中なんて答えが返って来ると思い、個人的な好奇心を持って軽い気持ちで朝比奈さんに質問してみたが、想定外の返答に俺は己の軽率さをまたしても恥じる事になった。
「……今頃、わたしの処女を奪ってる頃かしら」
「え!?」
「ふふっ、まぁ、これでおあいこよね。 わたしも彼の童貞を奪った訳だし、わたしの処女を奪ってみたくなるのも当然よね。 だから今、彼を未来から連れて来て――」
「ちょ」
ちょっと待って下さいよ、それは違うでしょ朝比奈さん(大)! 処女喪失と童貞卒業を同列に語って良いのですか。 いや、駄目でしょ? 第一、自分が先程言ってたじゃないですか、処女を失った痛みがどうのこうの、と。
「この時代に来てるわたしと未来から来た彼が、想い出の詰まった文芸部室で結ばれる……いいじゃない。 北高を卒業すると共に処女も卒業なんて」
何を嬉しそうに親父臭く語ってるんですか!
「尤も、わたしも嫌がって無かった。 ううん、寧ろ嬉しかった。 だって、心の中では好きだったけど告白すら許されなかった彼と結ばれたんだもの。 勿論、初めてだったから凄く痛かったし、他の人たちにバレない様に声を殺してたけど段々と気持ち良くなっちゃって、結局日が暮れるまでエッチしちゃったっけ」
「他の団員は?」
そう、長門に古泉はどうした。 勿論、俺とハルヒは下校した後だから校内に居なかったのは既定事項の筈だが
「あなたは此処に居るじゃない」
はい、それは解ります。
「涼宮さんは家に居るわよね」
途中で別れましたけど、家に帰ると言ってましたし。
「古泉君と長門さんも校内に居なかったわ。 だって涼宮さんのチカラが無くなってSOS団は解散したんだし、北高に居ても仕方無いもんね」
そうだったな。 古泉も長門も、それぞれの道を歩み始めたんだよな。
うむ、これで部室でセックスしても問題無いよな。 じゃなくって
「何で、そいつの為にそこまでするんですか。 朝比奈さんは」
「好きだから、に決まってるでしょ。 それ以外に何があるって言うの? ルールやモラルより、わたしがわたしらしくある為に必要だったのよ。 確かに世間一般では悪い事よね、不倫は。 だけど、それに対して今の貴方がとやかく言えるのかしら?」
「うっ」
完全に痛い所を突かれた、もう何も言えねえ。
しかし朝比奈さんは容赦無く俺にダメージを与え続ける。
「うふふっ、ゴメンね。 わたしから誘って言うのも何だけど、抜け出せなくなりそうだって思ってるでしょ? だって、身体は正直だもんね」
朝比奈さんの右手から与えられる刺激によって、完全に血液が充填され勃起してる愚息が俺の総意を物語って居るかの様だった。
「……この甘い果実の味を知ったからには、そう簡単には抜け出せないわよ?」
寝転んだ身体を起こしベッドの淵に腰掛けて居た俺を背中から抱きしめつつ、俺の耳元に甘い息を吹きかけつつ朝比奈さん(大)は囁く。
背中に当たる二つの大きな温もりと共に俺を包む色香に、またしても負けそうだ。
「所で朝比奈さん」
そんな誘惑を半ば打ち消そうと、空気を変えるべく質問してみた。
「なぁにぃ?」
猫撫で声で答える朝比奈さんに対し少し躊躇したが、此処で一歩踏み出さないと駄目な気がした。
「……セックスしてる時、俺の本名を言ってましたよね。 それって何故なんですか」
――その質問が、とてつもない破壊力を持った地雷であった事を思い知るまで、実に数分と掛からなかった。 自分で蒔いた種とは言え『一寸先は闇』である筈の未来を知ってしまった事に対する代償にしては、かなり耳の痛い話。 では済まされない事象だった。
「えっ。 貴方の名前、叫んでた?」
「はい」
快楽の余り、無意識に発したのだろうか。 よもや気付いていなかったとは。
「……そろそろ言っても良いかもね」
「何をですか」
「わたしって今まで一人の相手しかエッチして無いの」
「はぁ」
「処女を奪われてから、今までね」
「そうなんですか」
おや、なんだろう。 この違和感は。
今まで一人の相手しかカラダを許してない? それは不倫相手の事だよな。 じゃあ今、俺とセックスしたのは体験人数としてカウントされないのか。 あ、そうか。 俺で二人目って事か? そうだよな、うん、そうに違いない。
「……まだ気付かないかなぁ?」
「な、何がですか」
「わたしの処女を奪ったんだから、責任取ってよね」
「だから、それって……」
え、まさか。 この違和感の正体って、もしかして
「だって、貴方が望んだんじゃない」
右手で陰茎を弄ったまま、左手で俺の左胸にある乳首の先端を撫で始めた朝比奈さん(大)、もとい、堕天使は呟く。
「これからも、末永く宜しくね。 マイ・ダーリン」
<PERFECT FUTURE? ~Fin~>
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