夜明けのダイナー(仮題)

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SS:Players<その1>

2011年01月22日 22時55分46秒 | ハルヒSS:長編
      <プロローグ>
 

高校三年の二学期。 残暑が相変わらず厳しい盛り。 そんな最中、頭の熱が上がりそうな懸案事項がやって来た。
いや別に宇宙的・未来的、ましてや閉鎖空間とか言うファンタスティックな事象では無く、もっと、こう現実的な意味で。
当然ながら、それは『ハルヒがらみ』ではある。 まあ、コイツに引っ張られるのは毎度の事で慣れてるし、何だかんだ言ってその都度、他のSOS団のメンバーの力があって解決していたのだが……今回は、俺自身が何とかしなくてはならない事、なんだがね。 やれやれ。

 
話は時を遡って二年生の修学旅行、俺とハルヒは付き合い始めた。 
それがきっかけかどうかは知らんが、兎に角、暫くしてハルヒの力は『ほぼ』封印されたらしい。 「精神が安定したから」とは、古泉の弁である。
しかし、不安定要素が完全に消去された訳では無かったのか宇宙人・未来人・機関の3勢力共にハルヒの監視から離れる事は出来なかった、との事だ。
朝比奈さんは「未来は確定しました」と言って、俺達の前から未来へ帰る予定だったが結局、この時代に残っている。 朝比奈さん卒業の日、ハルヒが
「みくるちゃん、卒業おめでとう! 二年間、無理言ってSOS団の活動に付き合ってくれてありがとう!!」 
と、元気良く言った後
「うえっ…み、みくるちゃん。 離れたくないよぉ、寂しいよぉ……」 
と泣き崩れ、朝比奈さんと共に涙を流し抱き合って――このショックがトリガーとなって時空改変が行われないとは限らない、との事で朝比奈さんは『名実共に』この時代に残り、鶴屋さんと同じ大学に進学。 となった訳だ。

「涼宮さんが大人になる為には必要だったんでしょうね。 わたしが一年先輩だったって事は……わたしとしても、この時代が好きだから帰りたく無かったので、良かったんですけどね」
朝比奈さんは俺だけに語ってくれたが……そこまで『既定事項』だったんですか?
結局、俺の慰めと言うか説得と言うか、それにハルヒは納得したらしく、時空改変はおろか閉鎖空間すら発生させなかった。 
良かったな古泉、バイトが減って。 あと長門の負担も減って良かったよ。
「それは彼氏である貴方が涼宮さんを説得し納得させたからでしょう。 それが無ければ今頃は――」
古泉、俺はハルヒと『二人きり』になった時に説得したのだが、何故それを知っている?
「……直接見ていなくても、貴方と涼宮ハルヒの態度を見れば明白」 そうか長門、そんなに解りやすいか俺とハルヒの行動は。

 
晴れて3年生になった俺達は平穏な日々を過ごしていた。 『平穏』と言っても奇天烈現象が無いってだけの話であって、当然ながら受験生である俺達3年生に心休まる時は無いのだがな。
放課後の団活は必然的に勉強会となり週末、土曜日の不思議探索は今となっては貴重な気分転換となって居た。 ……実質的に俺とハルヒのデートとなっていたからな。 わざわざ探索に参加して下さる朝比奈さん含め3人には申し訳ないが。
そして日曜は俺とハルヒ、交互の家で勉強会。 2年の3学期、クラス中段の位置まで上がっていた俺の成績は、このお陰で更に上昇。 上位5人の中に入るようになって居たのだ。
残る4人の内3人はハルヒ・朝倉・国木田に決まって居るがな。 流石にその3人を追い越してトップになるのは無理だろうよ。
 
 
 
夏休み。 高校生活最後となるであろう『自由な長期休暇』となる筈であったが(冬休みは受験直前でフリーダムには過ごせないだろ)
宿題の他に3年生は『特別補習』と言う物があり、実質強制参加の予定が
「そんな暑い教室で勉強やったって非効率よ! 大体、炎天下の中あの坂道を上下するだけ時間の無駄だわ!!」 
と言う団長閣下のありがた~い一言でSOS団団員プラス朝倉は、長門の部屋で勉強会となったのだ。
自主勉オッケーと言う許可が出たのはハルヒの一言もあったのだが、先生方への説得は朝倉も当たり最終的な決定打は『成績優秀者の集まり』であるSOS団のやる事だから、と言う理由であった。
つまりは俺の成績が何時ぞやみたく谷口と共に底辺を争っていたら許可されなかったと。 説得に当たったハルヒや朝倉には感謝せねばなるまい。
所で朝倉だが、この様にSOS団に対し積極的に関わりを持ち、対外交渉に於いて力を存分に発揮していたのでハルヒにその功績が認められ
SOS団のオブザーバーとして時折、団活に参加する様になっていた。 朝倉本人も何処と無くそれを楽しんでいる節もあったが。
ちなみに、朝倉と古泉にはこの頃『別の肩書き』があったが、それについては後に語るとしよう。

 
7月後半、全て宿題を済ませ8月頭の3日間、孤島での合宿でリフレッシュ。 SOS団オリジナル・メンバーと共に鶴屋さん・朝倉含め、実に楽しかった。 
何故か俺の妹も平然と付いて来たが、小さな事だ。 気にしない。
今回は特筆すべき出来事も無く純粋にリゾート気分を味わった。 目の保養も……ってハルヒ、ジト目で俺を睨むな。 浮気はしない! してないぞ!!
合宿の後、勉強会の日々を挟んで盆休み。 さすがに、それぞれの田舎へ帰省と言う事もあり勉強会は一時休止。 
付き合い始めてからハルヒとは毎日顔を合わせていたが、この一週間、離れる事になってしまい……古泉曰く
「久し振りに閉鎖空間発生の兆候が見られましたよ」 との事だったが、毎日電話やメールをしていたせいか閉鎖空間自体は発生しなかった、らしい。
「貴方と離れて寂しかったんですよ、涼宮さんは」 俺もだ、とは古泉の前では言わなかったがな。

 
さて、長いプロローグも此処までだ。 これでもかなり端折ったつもりではあるが、いい加減本題に移るとしよう。
 
 
 
      <Ticket To Live>
 

8月最後の週末。 SOS団恒例、不思議探索の日。
俺はハルヒと一緒に北口駅に来る様になって居たので自然と罰金制度は廃止になっていた。 つまりは俺とハルヒが一番、集合場所に遅くやって来るのだが、今日は違った。

「おっはよ~! って、あれ。 古泉君は?」  珍しいな、古泉の奴。 遅刻か?  何か知ってるか、長門?
「いやぁ、申し訳ありません。 来る途中で『忘れ物』に気付いて取りに戻っていたのですよ」  
お、来たか古泉。 しかし、探索に『忘れ物』とな。 別に探索するに当たって道具とか必要な訳ではあるまいに。 何だ、その『忘れ物』とやらは?
「まあ、暑い中お話するのも何ですし、早速喫茶店に入りましょう。 一番遅く来たので、僕が代金をお出ししましょう」
「あ、悪いわね古泉君」  こらハルヒ、俺の時は全く遠慮無かったくせに。 ああ忌々しい。
何時もの喫茶店に入る。 う~ん涼しい! 外とは違って天国だ。 古泉の奢りって言うのなら、このまま居座って注文しまくっても良いかな――
「勘弁して下さい。 で、本題なのですが、ここに2枚のチケットがあります」
「どれどれ……」
 
      『ENOZ LIVE TOUR <Over Japan First>』
 
「すっごいじゃない古泉君! ENOZのライブ・チケットなんて、よく取れたわね!!」
「はい、とあるルートで――」  はいはい、どうせ機関とやらがハルヒの為にチケットを取り寄せたんだろ? 全く白々しい。
 
……ENOZ、か。 2年前の文化祭、出れなくなったメンバーの代打でハルヒと長門が出て、その後ダビングしたMDが飛ぶ様な勢いで全校に広まり、北高で知らない人は居ない存在となり卒業した後、メジャー・デビュー。 本人達の努力と実力、そして事務所の力・上手く行ったタイアップ……とやらで、あっと言う間にスターダムの頂点へ。
デビュー1周年で出したファースト・アルバムは音楽業界久々のミリオン・ヒット、ライブチケットは全てSold・Out。 
これまでは小さなライブ・ハウスが活動のメインだったが、次のツアーからはアリーナツアーとなるのが決定――

「しかし古泉、チケットは2枚しか無いが。 誰と誰が行くんだ?」
「決まってるじゃ無いですか。 貴方と涼宮さんですよ」
「え、良いの!?」
「宜しいですよね? 朝比奈さん・長門さん」
「え、は、はいっ。 わたしは別に……」
「……構わない」
「申し訳ありません、朝比奈さん。 悪いな、長門」
「ありがとう古泉君。 しっかし流石副団長よね!  でもライブって何時なの?」
「これに記載されていますが、8月30日・18時からです」
「会場は、どれどれ? 『ZEPP大阪』か」
「ライブは2~3時間として、帰りは遅くなってしまうわね」
「涼宮さん、ご心配なく。 そう思いまして……」 
そう言いながら古泉が取り出した1枚の紙。 何やらクーポン券みたいだが
 
      『ホテル大阪ベイタワー(弁天町):8月30日より大人2名・ツイン  一泊朝食付き』
 
「……って、何だこれは! 古泉!!」
「はい、ライブのアンコールが長引いたりして終電に間に合わなくなる事を考えまして。 大阪市内のホテルを手配させて頂きました」
至れり尽くせりだな。 って、そうじゃねぇ!! 何を考えているんだ、全く。 当社比50%増しのニヤケスマイルが忌々しい、殴って良いか?
「ふえぇ~、お泊りデートですかぁ」 朝比奈さん、あなたが顔を赤くしてどうするんですか。
「……ひと夏の経験」 百恵か? 古いぞ、長門。
 
あぁ頭痛い。 アイスコーヒーを一気飲みしたせいじゃ無いよな、この頭痛。

 
8月30日、本日も晴天なり。 あぁ暑い! 朝9時前だって言うのに30度を超える気温とは……これでは昼には40度、夕方には50度に――
「バカキョン! 何言ってるの? ボケてないで、さっさと行くわよ!!」
やれやれ、今日も100wの笑顔の女神様は元気だこと。 こいつはソーラーパワーで動いてるのかね? 自転車の後ろにハルヒを乗せて北口駅に向かう。
ライブは夕方からだが、夏休み最後の思い出作りって事で午前中からデートをしようと決めて行動しているのだ。 とりあえず大阪・梅田に出て午前中はキタ(梅田)を中心にウインドーショッピング。 昼食後はミナミ(なんば)付近を散策。 夕方4時頃、荷物を置く為ホテルにチェックイン。 軽くシャワーを浴びて汗を流す。 昼間は暑い中、歩きっぱなしだったからな。
……って、そこ。 変な想像しない! 何故シャワーを浴びるイコール『アレ』になるのか――夜はこれからだぞ、全く。
 
5時過ぎ、ホテルを出て地下鉄に乗りZEPP大阪へ向かう。 
こんな時間なので夕飯は本格的に食べず、コンビニで購入したサンドイッチを車内で食べる。 行儀が悪いが仕方無いって事にしてくれ。
現地へは30分弱で到着したが……
 
   「「うわ~っ」」
 
会場入り口には長蛇の列。 人気あるな、ENOZ。  2000人収容の会場は満員だな、これは。
「もっと早く来るべきだったわね」
「ああ、これじゃあ会場の後ろの方だな。 仕方無い」
列の最後尾に並ぶと同時に開場。 人並みが吸い込まれる様に入り口に流れる。 案の定、俺達が入れたのは会場の1階(スタンディング)、入り口に近い方だった。 
空調が入っている筈なのに熱気のせいか暑い。
 
18時、会場の照明が落とされる。 ライブ開始の合図だ。 一瞬静まり返る会場に……ステージ上のENOZメンバーの姿がスポット・ライトに照らされて
 
      「One,Two,Three,Four!」  カウントで始まったオープニング・ナンバー 『God Knows...』
 
一気に会場のテンションは最高潮に。 俺の隣に居るハルヒも歓声と共に手拍子を始める。 俺も柄にも無く乗せられて……。
ライブ構成はロック有り、バラード有り、アコースティック・セットを挟んでラストは『Lost My Music』 ―― あっと言う間の3時間弱だった。
時間の経つのを忘れさせる、とは在り来たりな表現ではあるが、この会場に居る全員がそう思っているだろう。 当然の様に湧き上がる「アンコール」の大合唱。
そして再びENOZメンバーがステージに立つと一斉に歓喜の声。 アンコールが始まる前にMCがあった。 

 
――まさか、このMCが更なる頭痛の始まりになるとは思ってもみなかったさ。

 
「今日は来てくれてありがとー! 全国ツアーのラスト、それを出身地に近い大阪でやれて最高でーす!!」   
『うお~っ』と大歓声
「私達の出身地から来てくれた人、手を挙げて!」   ざっと10人位は居るだろうか、そして
「北高在校生、手を挙げて!!」  え、マジか!? ハルヒと顔を見合わせ…手を挙げる
「あっ、居た居た!」
何やらENOZメンバー間で話し合ってるみたいだ。 しかも、俺達の方を見たりしながら。
「私達が高校生だった2年前・最後の文化祭、病気や怪我でステージに立てなくなったメンバーの代わりに演奏してくれて」
「そのお陰で中止になりかけてたライブは成功。 その上、ENOZの名前を母校じゃあ知らない人が居ない位に広めてくれて……」
「今、こうしてメジャーになったのは彼女のお陰と言っても良い位です!」
「その『恩人』と言うべき人が今日、此処に来ています――」   あの~、それって、まさか
 
 
      「「「「涼宮ハルヒさんです!!」」」」
 
 
「え!?」 何を驚いてるハルヒ、お前だよ、お前。 って、会場全員こっち見てるし……そりゃあ当然か、ピンポイントで御指名ですからね。
「さあ、こっち来て!」
「ほら、その隣の彼氏さんも、早く!」   
か、カレシさんって、俺の事か!? 俺も来いってか? 来いって事はステージの上に登れって事ですかい!!
「ど、どうしようキョン」
「ど、どうしよう。 って、行くしか無いだろ?」
……『モーゼの十戒』の如く、俺達の居る場所からステージに向けて一直線に人波が別れ道が出来上がる。 
その間を抜けて俺達2人は歩いて行く。  ああ、こっぱずかしい。 何故だ、何故俺まで…。
「来てくれてありがとうね、涼宮さん。 お久し振りね」
「あ、はいっ。 お久し振りです!」  ハルヒ、珍しく緊張してるな。
「ギター持って!」
「え、榎本さん。 あたしが弾くの!?」
「そうよ、アンコール…みんな~行くわよ! 『God Knows...』!!」
 
アンコールは『God Knows...』と『Lost My Music』をハルヒと榎本さんのツイン・ボーカルでやり……俺? 俺はベースの財前さんの隣でタンバリンを叩いているしか無かったよ。
そして、何故か俺とハルヒはENOZと共にステージを降り――。
 

「なあ、ハルヒ」
「な、何よキョン」
「どうして俺達、此処に居るのかな」
「し、知らないわよ!」
ENOZメンバーに連れられて、やって来ました竜宮j……じゃ無かった、控室。
「ごめんね、お2人さん」
「アンコール、ありがとね! お陰で盛り上がったよ」 いや、そうでなくても盛り上がりましたよ。
「所で、聞いてるかなぁ」
「何をですか?」
「今年の北高の文化祭、私達がゲストで行く事」
「「え!?」」 初耳ですよ。 初耳だよな、ハルヒ。
「秋の終わりから冬に掛けてアリーナツアーやるんだけど、その前に北高でライブやるの」
「この前、事務所の方に生徒会の会長と副会長が来て『文化祭でライブやりませんか』って来て」
「その話聞いたら『行く行く!』って言うよね」
「「「ね~っ!!」」」
「即O.K.出したわよ。 マネージャーにスケジュール確認したら、その日は空いてたし」 
会長と副会長って朝倉と古泉じゃね~か。
 
そう、去年秋。 前会長含め生徒会役員が引退して行われた選挙で会長となったのが朝倉。 そして副会長に古泉が選ばれたのだ。
「これでSOS団が北高を牛耳ったも同然よね!」 とか言ってた奴が居たが、気のせいだろう。 しかし、あの2人、何時の間にそんな事を……まさか、このチケットは?
「ねえ、涼宮さん」
「は、はいっ」 まだ緊張してるのか。 何時もと違って、これはこれで可愛いな――って、何を言ってるんだ、俺は!
「良かったら一緒にステージに立たない?」
「「はいぃ!?」」 そら驚くぞ、普通なら。 しかも相手は今や有名人となったENOZだぞ。
「す、少し考えさせて下さい」 戸惑ってるなハルヒ。 仕方無いよな、突然言われて即オッケーなんて言えないよなぁ。
 

宿に戻る、気がつけば23時近い。 終電には間に合っただろうが、帰れば確実に午前様だろう。 一泊して正解だな。 小腹が空いたので近くのコンビニで夜食を購入、そして部屋に入る。

「さっきの話、やるのか?」
「……一昨年の文化祭の後『バンドやるわよ』って言ったけど、結局映画第2段作って去年は終わったから、今年は未だ文化祭で何をやるか決めて無かったし」

そう、去年の文化祭。 我等がSOS団は『長門ユキの逆襲』を製作、加えて朝比奈さんの卒業が控えていたので新団員募集の為のプロモーション・ビデオを撮ったり――
古泉の奴がロクでも無い脚本を書きやがったので赤面モノのプロモが出来たがな、あれは黒歴史だ、忌々しい……まあ、今となっては良い思い出か? 俺とハルヒにとってはな。
結局、俺もハルヒも『SOS団はこの5人』と言う結論で一致し、新団員希望者も居なかったので、そのまま現在に至る訳だ。 

おっと、話が逸れたか。
「大体バンドやるって言ったって、ハルヒ・長門はギター弾けるが、俺は何も出来んぞ。 古泉は……どうか知らんが」
「そうよね、文化祭まで2ヶ月ちょっとだし。 でも、何かしたいし…」
「もう少し考えてみるか。 それよりシャワー浴びないか? 汗で体がベトつくし」
「……エロキョン」
おい、こら。 何でシャワー浴びるイコール、エロなんだ? 全く――
 


   (その2へ続く)



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