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日本刀であるための条件 軍刀をどう見るか3

2015年01月04日 | 日本刀に関する虚偽を正す 軍刀HP批判

 古い刀を軍装拵に入れた物のように、軍刀でも実質的には日本刀である物もある。一方、満鉄刀(興亜一心刀)のように日本刀とは呼べない刃物もある。ここで、ある刃物が日本刀であるための条件を挙げてみよう。難しい理念や制作方法は抜きにして、何をもって日本刀と呼ばれるかの基準は外見である。

 日本刀とは、片刃の刃物で、反りがあり、刀身にマルテンサイトによる働きを有する刃物である。一般的には鎬造りであり、無反りや平造りの形態も日本刀の条件を満たす刃物の副え物である限りにおいて日本刀に含まれる。平造りの脇差や短刀がそうだ。
 古代の剣や直刀は、いくら見事に作られ刀身にマルテンサイトの働きを有していても、日本刀には分類されない。槍や薙刀も日本刀ではない。現代刀匠が剣や直刀や槍を作っても日本刀とは呼ばない。
 一方、昭和刀や満鉄刀は、いくら反りがあり鎬があり切先があり日本刀の外見を模していても、刀身にマルテンサイトの働きがないので日本刀には分類されない。

 よく業者が「有名な鑑定家が満鉄刀を近江大掾忠広と見誤った」と言うが、初心者時代の私でさえ満鉄刀と近江大掾を間違える事はなかった。読者諸兄も満鉄刀に関するかかる逸話を聞いたらすかさず「有名な鑑定家って誰ですか?」と問い質してみると良い。絶対に答えてくれないだろう。典型的な都市伝説なのである。私はこの都市伝説の出所が知りたくなり、無数の文献を漁ってみた。すると、骨董品や刀剣の買い方のハウツー物に「満鉄刀に肥前刀の銘を入れた粗悪な偽物があるので注意しましょう」とか、日刀保の機関紙に「初心の頃、満鉄刀を近江大掾忠広と間違えた事がありました。恥ずかしい思い出です」といった会員の投稿や座談会記事が散見された。いずれも満鉄刀が近江大掾忠広と見紛う外観をしているという話ではなかった。
 業者が商売に都合良く話を盛り、それが一人歩きしているのである。

 もっとも世の中、軍装マニア氏のように戦前の南満州鉄道株式会社の宣伝を真に受けて満鉄刀を礼賛している人もいる。業者だけを責めても詮無いかもしれない。客が賢くならねばならない。
 満鉄刀も鋼だから焼入れによってマルテンサイトの組織が生じ、その模様を見て取る事はできる。しかしその模様はステンレス製のカスタムナイフに見られるものと同じで、単なるマルテンサイトの組織でしかない。日本刀の景色とは違うのである。従って満鉄刀は日本刀ではない。ニンジャ刀とかコールドスチールといった海外の大型ナイフと同じ類である。
 とは言え近年の刀剣不況にも関わらず、満鉄刀は値上がりしているようである。軍装マニア氏のお陰か。彼も儲けたのだろうか。
 今の刀価なら満鉄刀は保存状態の良い物で7~8万円が妥当だと思われる。満鉄刀は外国製の日本刀を模した刃物よりは高品質なので、その値段なら文句はない。保存状態によっては2~3万円。その場合は研ぎの練習用に良いだろう。満鉄刀なら素人が研いでも私は反対しない。

 次回は日本刀の条件たる外見について、当ブログらしくもっとハードに論じたい。