今回は久々に本題からお話しします。
補足を楽しみにしていた方、ごめんなさい ! ・・・
「誰も気にしていないよ」と後ろから声がするが、気にせず進む事にします。
タイヤ編(4)で、ユニフォーミティ設備に付いて概要を説明していますので、
今回は、少し掘り下げてドラムに付いてのお話しです。
ドラムの外径寸法は、自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法(JIS D4233:2001)と、
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法(JASO C618-03)とで記載されていますが、
それぞれ諸元が異なります。
自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法の諸元では、JASO C607-87を継承し、
二輪、乗用車、軽トラック用タイヤ、
及びリム径の呼び14以下の小型トラックタイヤでは、φ854±2.5mm・・・タイプA
リム径の呼び15以上の小型トラック、トラック及びバス用タイヤでは、φ1600±2.5mm・・・タイプB
としています。
*注釈
他の外径寸法を使用する場合は、φ854±2.5mm、φ1600±2.5mmのドラムとの相関を確認する事が求められています。
ISO 13326では、タイプA:φ854mmとタイプB:φ1600mmを基本して、
タイプAに対してはφ 830~φ1000mmの範囲、
タイプBに対してはφ1520~φ1710mmの範囲で、ドラムの外径寸法が許容されています。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法の諸元では、
タイヤサイズに関係なくφ1.5m以上が望ましいとなっています。
*注釈
φ854±2.5mmのドラムを用いる場合はφ1.5m以上のドラムとの相関を確認する事が求められています。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法は、ISO規格になっておらず、
国内外のメーカーでドラム外径寸法がφ854~φ3000mmと異なるのが現状です。
よってJASOではφ1.5m以上と規定しています。
ユニフォーミティ測定機を開発していた頃、ドラムに付いては色々と苦労した記憶が有ります。
*私だけかも知れませんが ?
生産設備では、設置スペース、接地面強度や設備の小型・軽量化を考えるとドラムは小径寸法を選択したい。
又、駆動モータも出力を抑え省エネも考慮したい、タクト時間は間に合うのか等、悩みは尽きませんでした。
基本的に路面と同じ状態の平坦な面にタイヤを加圧すれば一番良いのですが、
ドラムの場合は円筒形状の為、ドラムの頂点付近では局部的にタイヤの応力が掛かり、
平坦な路面で測定したユニフォーミティの数値より若干高くなる傾向が有ります。
小径ドラム < 大径ドラム がより平坦な路面で測定したデータに近いと言う事になります。
よって、路面と同じ状態のタイヤ撓みで測定した数値に近づける為、
空気圧に対する負荷能力の割合が決められているのです。
*注釈
自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法での、タイヤの空気圧と荷重の関係に於いては、
二輪、乗用車タイヤの場合、空気圧200kPaで、荷重は空気圧に対する負荷能力の85%です。
その他のタイヤは下記の様に決められています。
軽トラック用タイヤ、及びリム径の呼び14以下の小型トラックタイヤでは、
タイヤ強度(プライレーティング)が4PRの場合、空気圧:200kPa、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の85%
タイヤ強度が6~8PRの場合、空気圧:200kPa、300kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の85%
リム径の呼び15以上の小型トラックでは、
タイヤ強度が6~8PR、又は最大負荷能力対応空気圧が450kPa以下の場合、
空気圧:300kPa(推奨)、350kPa、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
タイヤ強度が10~12PR、又は最大負荷能力対応空気圧が650kPa以下の場合、
空気圧:350kPa、450kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
タイヤ強度が14PR、又は最大負荷能力対応空気圧が650kPa以下の場合、
空気圧:450kPa、600kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
トラック及びバス用タイヤでは、
空気圧:450kPa、600kPa、700kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
となっています。
又、タイヤ生産やホイール組付工場では、上記の内容で計算した数値に近い荷重が採用できるようになっていますが、
実際はタイヤサイズ、グレード毎に出荷時の空気圧が決まっているので、測定荷重もそれぞれ異なります。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法では、タイヤの空気圧と荷重の関係に於いて、
ドラム外径に応じて平板上と同じタイヤ撓みとなる様な荷重条件が望ましいとされ、
規格では空気圧が200kPaで、荷重は空気圧に対応する負荷能力の85~90%としています。
上記に挙げた内容を改善し、実際の走行に近い状態で測定できる様に開発されたのがフラットベルト式測定機です。
但し、ドラム式に比べ設計・製作及びメンテナンスに係る費用に付いて負担が大きいと思います。
*注釈
ここでは個人的な設計・製作に付いての感想で、フラットベルト式を否定するものでは有りません。
フラットベルト式は、タイヤを押さえつける定盤が有り、その両側にローラを配置してステンレスベルトを取付ます。
動作例としては、タイヤに徐々に荷重を加えベルトを介して定盤に押し付けます。
ベルトを低速回転させて慣らし運転の後、目標の速度へ徐々に近づけてタイヤ内の空気圧や回転速度が安定した処で、
タイヤ・ホイールを取付けるスピンドル側に設置した荷重センサでユニフォーミティを測定します。
この方式では構造上、定盤との摩擦やそれに伴う摩擦熱でベルトが著しく摩耗し、摩耗が更に進行すると破断に至る事が有ります。
その対策として、定盤の上面に小さな穴(絞り穴)と吹き溜まり(リセス)を等ピッチに幾つも設け、
ベルトと定盤の間に水圧を利用した膜を作り、摩擦や摩擦熱を軽減させています。
但し、安全上ベルトの動作中にセンサ等でベルト表面や両端部で亀裂の確認をする必要が有ります。
又、定盤には水が飛び出さない様にスクレーパーが設けられていますが完全では有りません。
*注釈
上記の防水に付いての内容は、過去に各資料で調査した結果で有り、 現在では完全に防げているかも知れません。
最近は、空圧を利用したタイプも研究開発されています。
以前は、水圧より回転速度や荷重条件等で性能が劣ると言われましたが、
定盤の吹き出し穴(絞り)のサイズ、空気溜め(リセス)形状や配置数、必要な空気圧に付いて研究された結果、
ベルト下での均一な圧力維持が達成され、商品化された測定機も有ります。
低速ユニフォーミティ測定機に限り、定盤の代わりに小径ローラを並べた設備も有りますが、
ローラを支える玉軸受やコロ軸受が小径タイプとなり焼き付き易くなります。
又、荷重によるローラ自体の撓みや、ローラとタイヤに挟まれたベルトのうねりが劣化に繋がります。
もう一つ重要な技術として、ベルトの蛇行制御が必要となります。
ベルトの蛇行制御は、二つのローラ近くに変位センサ等を配置して、
ベルトの厚みに焦点を合わせ軸方向の変位を測定します。
従動ローラの両軸端にサーボ制御が可能な電動ジャッキを配置して、
ローラ軸の一方をベルトのテンション方向に微調整させてベルトの蛇行を補正します。
別案として、ローラに0.1~0.2mm程のクラウニング加工を施し、
回転中にベルトがローラの中央に留まる様に調心機能を付ける方法も有りますが、
タイヤには車軸方向の力が作用するので、クラウニング程度の調心機能ではベルトの姿勢を保つのは難しいのです。
上記の事から、私はドラム式を選択しました。
一番の理由は、フラットベルト機構、蛇行制御を開発する時間と予算、導入後のメンテナンスと費用、
コンベヤからスピンドル軸へのタイヤ・ホイールの姿勢変換によるタクト時間等を考慮しました。
*注釈
正直に言えば、私の技術力が無かった事が一番の要因です。 はい !!
一般的に1m以下のドラム式は生産用、1.5m以上の大型ドラムやフラットベルト式は試験・研究用に多く採用されています。
又、上記に挙げた機構に付いては一例の検討案で有り、各メーカー毎で特色ある機構で開発されています。
ドラムの製作としては、直径1m以下ではアルミ合金鋳物、1.5m以上では鉄鋼製が多く見受けられます。
アルミ合金鋳物の材質としは、市場の流通性が高いAL-Si-Mg系でAC4A、AC4CやAC4CHが挙げられると思います。
特徴としては、
AC4Aは鋳造性が良く、靭性が優れ、強度が要求される大型鋳物に用いられる
AC4Cは鋳造性が優れ、耐圧性、耐食性も良い
AC4CHは鋳造性が優れ、不純物の含有が規制され機械的性質が優れ安全性が必要な部品に用いられる
機械的性質(室温)としては、
AC4A-T6(砂型) 引張強さ : 265N/mm^2 0.2%耐力 : 225N/mm^2 伸び : 2% 硬さ : 約86HB
AC4C-T6(砂型) 引張強さ : 230N/mm^2 0.2%耐力 : 190N/mm^2 伸び : 3% 硬さ : 約81HB
AC4CH-T6(砂型) 引張強さ : 230N/mm^2 0.2%耐力 : 165N/mm^2 伸び : 5% 硬さ : 約80HB
AC4A-T6(金型) 引張強さ : 300N/mm^2 0.2%耐力 : 250N/mm^2 伸び : 3% 硬さ : 約94HB
AC4C-T6(金型) 引張強さ : 285N/mm^2 0.2%耐力 : 225N/mm^2 伸び : 7% 硬さ : 約95HB
AC4CH-T6(金型) 引張強さ : 260N/mm^2 0.2%耐力 : 260N/mm^2 伸び : 16% 硬さ : 約80HB
*注記
T6:溶体化処理後、人工時効硬化処理したもの、
溶体化処理後、積極的な冷間加工を行わず、人工時効硬化処理したもので、
強度や硬さが増大する一方で、伸びや衝撃値は低下する傾向があります。
簡単に言えばアルミの焼入れ・焼戻し処理
*注記
機械的性質のデータは、日本アルミニウム協会材料データベースより引用
ドラムをアルミ鋳物で製作する場合の注意点としては、
アルミ鋳物によるドラムやローラを得意とする鋳物メーカーを選ぶ事が重要となります。
特に、ガス抜き位置が不適切でブローホールや、溶融状態から凝固する際、体積変化(凝固収縮)を補完できずに空洞が発生する現象、
ひけ巣等の鋳物欠陥に対する知見が高い事が重要で、設計段階から製造担当者や鋳型担当者と綿密な打合せが必要となります。
鋳物の製造方法としては、年間の生産台数が有る程度見込める場合には、金型鋳造が望ましいと思います。
低圧鋳造も可能となり鋳肌面が綺麗で機械的性質の向上や、ピンホール発生の低減対策も立て易くなります。
生産台数が見込めない場合には、砂型鋳造となります。
鋳肌面の凹凸が目立ちますが、精度が必要な部分は機械加工を行うので、
ドラムの両端に蓋を設ければ、加工が不要なリブやボス本体は隠れるので気にならないと思います。
但し、機械加工で表面に鋳物欠陥が現れる場合が有るので、鋳造の試作段階での対策が重要となります。
寸法精度が高く鋳肌面が綺麗な石膏鋳造と言う方法も有りますが、
500mm以上のサイズでは実績の有る鋳造メーカーが少なく、
試作実験からスタートしたいと言われる場合が殆どです。
どの方法を選択しても、一度の製作で完了する事は無いと思います。
最低でも3~5本程度試作して、鋳物欠陥の調査、強度及び耐久性試験を経て完成となるかと思います。
*注記
上記に挙げた材料や鋳造方法は、ドラムを製作する上での一案に過ぎず、
生産台数が見込めなくても、強度的、美観的に金型鋳造で作られているメーカーも有ります。
タイヤと接触するドラム表面は、タイヤ成分のカーボンブラックにより摩耗します。
対策としては、貼り換えが可能なセーフティウォーク(滑止めシート)が良く使われています。
セーフティウォークは、平行四辺形にカットしてドラムに貼り付けます。
何故、長方形にカットしないかと言うと、タイヤがカット位置を乗り継ぐ時の段差による測定値への影響を抑えるためです。
平行四辺形にカットした場合、タイヤ幅により端から徐々に乗り継ぐ為、段差による影響は少なくなります。
低速ユニフォーミティでは、測定値への影響は殆ど有りません。
高速ユニフォーミティでは、1次~4次成分で若干のバラツキが認められますが、
測定値への影響が小さい事から、ドラム式やフラットベルト式での使用が認められています。
*注釈
代表的なセーフティウォークは、3M社製の滑り止め用シートです。
その他には、タイヤが接触するドラム表面に炭化物材料を溶射する方法、硬質クロムめっき(硬度 : Hv900以上)や、
カニゼンメッキ(硬度 : Hv900以上)を施す方法が有ります。
溶射に付いては、大型ドラムを扱う事が出来るメーカーを選択すること、
又、アルミ合金鋳物に対するカニゼンメッキ処理では、脱脂、エッチング、脱スマット、ジンケート工程での作業は重要で、
特にエッチング工程を安易に行うと、鋳肌表面が有れて巣穴の拡大が発生し易くなります。
各工程での薬剤濃度が管理でき、アルミ合金鋳物を得意とする知見の高いメーカーの選択が必要です。
1.5m以上の鋼製ドラムの材質としては、安価材料としSS400(一般構造用圧延鋼材)、溶接性ではSM400A(溶接構造用圧延鋼材)です。
価格と溶接性はSS、SM材に比べ劣りますが、流通性が良く焼入れが可能なS45C(機械構造用炭素鋼)が挙げられます。
特徴としては、
SS400は一般構造用圧延鋼材と言い低炭素鋼に分類され、板厚が25mm以下(開先有)で有れば溶接性に支障は無く、
流通性も良く、大型機械部品に使用されます。
但し、加工量が多い場合に内部応力の変化に伴い反りが発生する場合が有り、
応力除去焼きなましを行って加工します。
SM400Aは溶接構造用圧延鋼材と言い造船用として開発された鋼材で、
今では産業機械や工場プラントの建設資材としても使用されています。
溶接性を考慮して炭素含有量を0.2~0.23%と低く抑えた鋼材です。
又、SS材(リムド鋼)とは違いキルド鋼で、脱酸(溶鋼に含まれている酸素を抜く作業)を行う事で、
低温下でも強度を保つ事が出来る様にした鋼材です。
流通性も悪く有りません。
*注釈
SS材=リムド鋼では無い?
日本では連続鋳造が殆どで、鋳造過程で低酸素化(20~30ppm程度以下)にする必要が有り、
結果的に全ての鋼材がキルド鋼ではないかと言われています。
S45Cは機械構造用炭素鋼鋼材と言い、炭素含有量が0.42~0.48%と比較的高く中炭素鋼に分類され、
熱処理を行う事で、表面から比較的浅い範囲での機械的性質の向上が期待出来ます。
3x6、4x8、5x10尺サイズの鋼板の流通性も良く、強度が必要な機械部品に使用されます。
但し、溶接する場合には、熱影響部が著しく硬化し低温割れが発生し易くなり注意が必要です。
S45C鋼材の入手が難しい場合には、溶接に関しては同じ様に注意が必要ですが、S48CやS50Cも挙げられます。
機械的性質(室温)としては、
SS400 ( 16 < t ≦ 40 ) 引張強さ : 400~510N/mm^2 降伏点又は耐力 : 235N/mm^2以上 伸び : 21%以上 硬さ :
SS400A ( 16 < t ≦ 40 ) 引張強さ : 400~510N/mm^2 降伏点又は耐力 : 235N/mm^2以上 伸び : 22%以上 硬さ :
S45C ( 焼ならし) 引張強さ : 570N/mm^2 降伏点又は耐力 : 345N/mm^2以上 伸び : 20%以上 硬さ : 167~229HB
S48C ( 焼ならし) 引張強さ : 610N/mm^2 降伏点又は耐力 : 365N/mm^2以上 伸び : 18%以上 硬さ : 179~235HB
S50C ( 焼ならし) 引張強さ : 610N/mm^2 降伏点又は耐力 : 365N/mm^2以上 伸び : 18%以上 硬さ : 179~235HB
*注記
機械的性質のデータは、JISハンドブック「鉄鋼」より引用
タイヤが接触するドラム表面には、前記した表面処理の内容と同じですが、S-C材は熱処理を行う事が出来ます。
但し、S45C、S50Cは全体焼入れ(ズブ焼入れ)で、硬度はHRC30~36(ブリネル換算値 : 286~336HB)程度ですが、
焼入れ表面から4~5mmの硬化層が確保でき、前記の表面処理と合わせる事で耐摩耗性が向上します。
今回はここまでとします。
尚、話の内容は測定機開発当時の記憶を基に書いています。
間違い等ございましたら、申し訳ございませんがご教示をお願い致します。
補足を楽しみにしていた方、ごめんなさい ! ・・・
「誰も気にしていないよ」と後ろから声がするが、気にせず進む事にします。
タイヤ編(4)で、ユニフォーミティ設備に付いて概要を説明していますので、
今回は、少し掘り下げてドラムに付いてのお話しです。
ドラムの外径寸法は、自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法(JIS D4233:2001)と、
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法(JASO C618-03)とで記載されていますが、
それぞれ諸元が異なります。
自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法の諸元では、JASO C607-87を継承し、
二輪、乗用車、軽トラック用タイヤ、
及びリム径の呼び14以下の小型トラックタイヤでは、φ854±2.5mm・・・タイプA
リム径の呼び15以上の小型トラック、トラック及びバス用タイヤでは、φ1600±2.5mm・・・タイプB
としています。
*注釈
他の外径寸法を使用する場合は、φ854±2.5mm、φ1600±2.5mmのドラムとの相関を確認する事が求められています。
ISO 13326では、タイプA:φ854mmとタイプB:φ1600mmを基本して、
タイプAに対してはφ 830~φ1000mmの範囲、
タイプBに対してはφ1520~φ1710mmの範囲で、ドラムの外径寸法が許容されています。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法の諸元では、
タイヤサイズに関係なくφ1.5m以上が望ましいとなっています。
*注釈
φ854±2.5mmのドラムを用いる場合はφ1.5m以上のドラムとの相関を確認する事が求められています。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法は、ISO規格になっておらず、
国内外のメーカーでドラム外径寸法がφ854~φ3000mmと異なるのが現状です。
よってJASOではφ1.5m以上と規定しています。
ユニフォーミティ測定機を開発していた頃、ドラムに付いては色々と苦労した記憶が有ります。
*私だけかも知れませんが ?
生産設備では、設置スペース、接地面強度や設備の小型・軽量化を考えるとドラムは小径寸法を選択したい。
又、駆動モータも出力を抑え省エネも考慮したい、タクト時間は間に合うのか等、悩みは尽きませんでした。
基本的に路面と同じ状態の平坦な面にタイヤを加圧すれば一番良いのですが、
ドラムの場合は円筒形状の為、ドラムの頂点付近では局部的にタイヤの応力が掛かり、
平坦な路面で測定したユニフォーミティの数値より若干高くなる傾向が有ります。
小径ドラム < 大径ドラム がより平坦な路面で測定したデータに近いと言う事になります。
よって、路面と同じ状態のタイヤ撓みで測定した数値に近づける為、
空気圧に対する負荷能力の割合が決められているのです。
*注釈
自動車用タイヤのユニフォーミティ試験方法での、タイヤの空気圧と荷重の関係に於いては、
二輪、乗用車タイヤの場合、空気圧200kPaで、荷重は空気圧に対する負荷能力の85%です。
その他のタイヤは下記の様に決められています。
軽トラック用タイヤ、及びリム径の呼び14以下の小型トラックタイヤでは、
タイヤ強度(プライレーティング)が4PRの場合、空気圧:200kPa、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の85%
タイヤ強度が6~8PRの場合、空気圧:200kPa、300kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の85%
リム径の呼び15以上の小型トラックでは、
タイヤ強度が6~8PR、又は最大負荷能力対応空気圧が450kPa以下の場合、
空気圧:300kPa(推奨)、350kPa、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
タイヤ強度が10~12PR、又は最大負荷能力対応空気圧が650kPa以下の場合、
空気圧:350kPa、450kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
タイヤ強度が14PR、又は最大負荷能力対応空気圧が650kPa以下の場合、
空気圧:450kPa、600kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
トラック及びバス用タイヤでは、
空気圧:450kPa、600kPa、700kPa(推奨)、荷重:空気圧に対する単輪負荷能力の88%
となっています。
又、タイヤ生産やホイール組付工場では、上記の内容で計算した数値に近い荷重が採用できるようになっていますが、
実際はタイヤサイズ、グレード毎に出荷時の空気圧が決まっているので、測定荷重もそれぞれ異なります。
高速時のタイヤ・ホイールのユニフォーミティ試験方法では、タイヤの空気圧と荷重の関係に於いて、
ドラム外径に応じて平板上と同じタイヤ撓みとなる様な荷重条件が望ましいとされ、
規格では空気圧が200kPaで、荷重は空気圧に対応する負荷能力の85~90%としています。
上記に挙げた内容を改善し、実際の走行に近い状態で測定できる様に開発されたのがフラットベルト式測定機です。
但し、ドラム式に比べ設計・製作及びメンテナンスに係る費用に付いて負担が大きいと思います。
*注釈
ここでは個人的な設計・製作に付いての感想で、フラットベルト式を否定するものでは有りません。
フラットベルト式は、タイヤを押さえつける定盤が有り、その両側にローラを配置してステンレスベルトを取付ます。
動作例としては、タイヤに徐々に荷重を加えベルトを介して定盤に押し付けます。
ベルトを低速回転させて慣らし運転の後、目標の速度へ徐々に近づけてタイヤ内の空気圧や回転速度が安定した処で、
タイヤ・ホイールを取付けるスピンドル側に設置した荷重センサでユニフォーミティを測定します。
この方式では構造上、定盤との摩擦やそれに伴う摩擦熱でベルトが著しく摩耗し、摩耗が更に進行すると破断に至る事が有ります。
その対策として、定盤の上面に小さな穴(絞り穴)と吹き溜まり(リセス)を等ピッチに幾つも設け、
ベルトと定盤の間に水圧を利用した膜を作り、摩擦や摩擦熱を軽減させています。
但し、安全上ベルトの動作中にセンサ等でベルト表面や両端部で亀裂の確認をする必要が有ります。
又、定盤には水が飛び出さない様にスクレーパーが設けられていますが完全では有りません。
*注釈
上記の防水に付いての内容は、過去に各資料で調査した結果で有り、 現在では完全に防げているかも知れません。
最近は、空圧を利用したタイプも研究開発されています。
以前は、水圧より回転速度や荷重条件等で性能が劣ると言われましたが、
定盤の吹き出し穴(絞り)のサイズ、空気溜め(リセス)形状や配置数、必要な空気圧に付いて研究された結果、
ベルト下での均一な圧力維持が達成され、商品化された測定機も有ります。
低速ユニフォーミティ測定機に限り、定盤の代わりに小径ローラを並べた設備も有りますが、
ローラを支える玉軸受やコロ軸受が小径タイプとなり焼き付き易くなります。
又、荷重によるローラ自体の撓みや、ローラとタイヤに挟まれたベルトのうねりが劣化に繋がります。
もう一つ重要な技術として、ベルトの蛇行制御が必要となります。
ベルトの蛇行制御は、二つのローラ近くに変位センサ等を配置して、
ベルトの厚みに焦点を合わせ軸方向の変位を測定します。
従動ローラの両軸端にサーボ制御が可能な電動ジャッキを配置して、
ローラ軸の一方をベルトのテンション方向に微調整させてベルトの蛇行を補正します。
別案として、ローラに0.1~0.2mm程のクラウニング加工を施し、
回転中にベルトがローラの中央に留まる様に調心機能を付ける方法も有りますが、
タイヤには車軸方向の力が作用するので、クラウニング程度の調心機能ではベルトの姿勢を保つのは難しいのです。
上記の事から、私はドラム式を選択しました。
一番の理由は、フラットベルト機構、蛇行制御を開発する時間と予算、導入後のメンテナンスと費用、
コンベヤからスピンドル軸へのタイヤ・ホイールの姿勢変換によるタクト時間等を考慮しました。
*注釈
正直に言えば、私の技術力が無かった事が一番の要因です。 はい !!
一般的に1m以下のドラム式は生産用、1.5m以上の大型ドラムやフラットベルト式は試験・研究用に多く採用されています。
又、上記に挙げた機構に付いては一例の検討案で有り、各メーカー毎で特色ある機構で開発されています。
ドラムの製作としては、直径1m以下ではアルミ合金鋳物、1.5m以上では鉄鋼製が多く見受けられます。
アルミ合金鋳物の材質としは、市場の流通性が高いAL-Si-Mg系でAC4A、AC4CやAC4CHが挙げられると思います。
特徴としては、
AC4Aは鋳造性が良く、靭性が優れ、強度が要求される大型鋳物に用いられる
AC4Cは鋳造性が優れ、耐圧性、耐食性も良い
AC4CHは鋳造性が優れ、不純物の含有が規制され機械的性質が優れ安全性が必要な部品に用いられる
機械的性質(室温)としては、
AC4A-T6(砂型) 引張強さ : 265N/mm^2 0.2%耐力 : 225N/mm^2 伸び : 2% 硬さ : 約86HB
AC4C-T6(砂型) 引張強さ : 230N/mm^2 0.2%耐力 : 190N/mm^2 伸び : 3% 硬さ : 約81HB
AC4CH-T6(砂型) 引張強さ : 230N/mm^2 0.2%耐力 : 165N/mm^2 伸び : 5% 硬さ : 約80HB
AC4A-T6(金型) 引張強さ : 300N/mm^2 0.2%耐力 : 250N/mm^2 伸び : 3% 硬さ : 約94HB
AC4C-T6(金型) 引張強さ : 285N/mm^2 0.2%耐力 : 225N/mm^2 伸び : 7% 硬さ : 約95HB
AC4CH-T6(金型) 引張強さ : 260N/mm^2 0.2%耐力 : 260N/mm^2 伸び : 16% 硬さ : 約80HB
*注記
T6:溶体化処理後、人工時効硬化処理したもの、
溶体化処理後、積極的な冷間加工を行わず、人工時効硬化処理したもので、
強度や硬さが増大する一方で、伸びや衝撃値は低下する傾向があります。
簡単に言えばアルミの焼入れ・焼戻し処理
*注記
機械的性質のデータは、日本アルミニウム協会材料データベースより引用
ドラムをアルミ鋳物で製作する場合の注意点としては、
アルミ鋳物によるドラムやローラを得意とする鋳物メーカーを選ぶ事が重要となります。
特に、ガス抜き位置が不適切でブローホールや、溶融状態から凝固する際、体積変化(凝固収縮)を補完できずに空洞が発生する現象、
ひけ巣等の鋳物欠陥に対する知見が高い事が重要で、設計段階から製造担当者や鋳型担当者と綿密な打合せが必要となります。
鋳物の製造方法としては、年間の生産台数が有る程度見込める場合には、金型鋳造が望ましいと思います。
低圧鋳造も可能となり鋳肌面が綺麗で機械的性質の向上や、ピンホール発生の低減対策も立て易くなります。
生産台数が見込めない場合には、砂型鋳造となります。
鋳肌面の凹凸が目立ちますが、精度が必要な部分は機械加工を行うので、
ドラムの両端に蓋を設ければ、加工が不要なリブやボス本体は隠れるので気にならないと思います。
但し、機械加工で表面に鋳物欠陥が現れる場合が有るので、鋳造の試作段階での対策が重要となります。
寸法精度が高く鋳肌面が綺麗な石膏鋳造と言う方法も有りますが、
500mm以上のサイズでは実績の有る鋳造メーカーが少なく、
試作実験からスタートしたいと言われる場合が殆どです。
どの方法を選択しても、一度の製作で完了する事は無いと思います。
最低でも3~5本程度試作して、鋳物欠陥の調査、強度及び耐久性試験を経て完成となるかと思います。
*注記
上記に挙げた材料や鋳造方法は、ドラムを製作する上での一案に過ぎず、
生産台数が見込めなくても、強度的、美観的に金型鋳造で作られているメーカーも有ります。
タイヤと接触するドラム表面は、タイヤ成分のカーボンブラックにより摩耗します。
対策としては、貼り換えが可能なセーフティウォーク(滑止めシート)が良く使われています。
セーフティウォークは、平行四辺形にカットしてドラムに貼り付けます。
何故、長方形にカットしないかと言うと、タイヤがカット位置を乗り継ぐ時の段差による測定値への影響を抑えるためです。
平行四辺形にカットした場合、タイヤ幅により端から徐々に乗り継ぐ為、段差による影響は少なくなります。
低速ユニフォーミティでは、測定値への影響は殆ど有りません。
高速ユニフォーミティでは、1次~4次成分で若干のバラツキが認められますが、
測定値への影響が小さい事から、ドラム式やフラットベルト式での使用が認められています。
*注釈
代表的なセーフティウォークは、3M社製の滑り止め用シートです。
その他には、タイヤが接触するドラム表面に炭化物材料を溶射する方法、硬質クロムめっき(硬度 : Hv900以上)や、
カニゼンメッキ(硬度 : Hv900以上)を施す方法が有ります。
溶射に付いては、大型ドラムを扱う事が出来るメーカーを選択すること、
又、アルミ合金鋳物に対するカニゼンメッキ処理では、脱脂、エッチング、脱スマット、ジンケート工程での作業は重要で、
特にエッチング工程を安易に行うと、鋳肌表面が有れて巣穴の拡大が発生し易くなります。
各工程での薬剤濃度が管理でき、アルミ合金鋳物を得意とする知見の高いメーカーの選択が必要です。
1.5m以上の鋼製ドラムの材質としては、安価材料としSS400(一般構造用圧延鋼材)、溶接性ではSM400A(溶接構造用圧延鋼材)です。
価格と溶接性はSS、SM材に比べ劣りますが、流通性が良く焼入れが可能なS45C(機械構造用炭素鋼)が挙げられます。
特徴としては、
SS400は一般構造用圧延鋼材と言い低炭素鋼に分類され、板厚が25mm以下(開先有)で有れば溶接性に支障は無く、
流通性も良く、大型機械部品に使用されます。
但し、加工量が多い場合に内部応力の変化に伴い反りが発生する場合が有り、
応力除去焼きなましを行って加工します。
SM400Aは溶接構造用圧延鋼材と言い造船用として開発された鋼材で、
今では産業機械や工場プラントの建設資材としても使用されています。
溶接性を考慮して炭素含有量を0.2~0.23%と低く抑えた鋼材です。
又、SS材(リムド鋼)とは違いキルド鋼で、脱酸(溶鋼に含まれている酸素を抜く作業)を行う事で、
低温下でも強度を保つ事が出来る様にした鋼材です。
流通性も悪く有りません。
*注釈
SS材=リムド鋼では無い?
日本では連続鋳造が殆どで、鋳造過程で低酸素化(20~30ppm程度以下)にする必要が有り、
結果的に全ての鋼材がキルド鋼ではないかと言われています。
S45Cは機械構造用炭素鋼鋼材と言い、炭素含有量が0.42~0.48%と比較的高く中炭素鋼に分類され、
熱処理を行う事で、表面から比較的浅い範囲での機械的性質の向上が期待出来ます。
3x6、4x8、5x10尺サイズの鋼板の流通性も良く、強度が必要な機械部品に使用されます。
但し、溶接する場合には、熱影響部が著しく硬化し低温割れが発生し易くなり注意が必要です。
S45C鋼材の入手が難しい場合には、溶接に関しては同じ様に注意が必要ですが、S48CやS50Cも挙げられます。
機械的性質(室温)としては、
SS400 ( 16 < t ≦ 40 ) 引張強さ : 400~510N/mm^2 降伏点又は耐力 : 235N/mm^2以上 伸び : 21%以上 硬さ :
SS400A ( 16 < t ≦ 40 ) 引張強さ : 400~510N/mm^2 降伏点又は耐力 : 235N/mm^2以上 伸び : 22%以上 硬さ :
S45C ( 焼ならし) 引張強さ : 570N/mm^2 降伏点又は耐力 : 345N/mm^2以上 伸び : 20%以上 硬さ : 167~229HB
S48C ( 焼ならし) 引張強さ : 610N/mm^2 降伏点又は耐力 : 365N/mm^2以上 伸び : 18%以上 硬さ : 179~235HB
S50C ( 焼ならし) 引張強さ : 610N/mm^2 降伏点又は耐力 : 365N/mm^2以上 伸び : 18%以上 硬さ : 179~235HB
*注記
機械的性質のデータは、JISハンドブック「鉄鋼」より引用
タイヤが接触するドラム表面には、前記した表面処理の内容と同じですが、S-C材は熱処理を行う事が出来ます。
但し、S45C、S50Cは全体焼入れ(ズブ焼入れ)で、硬度はHRC30~36(ブリネル換算値 : 286~336HB)程度ですが、
焼入れ表面から4~5mmの硬化層が確保でき、前記の表面処理と合わせる事で耐摩耗性が向上します。
今回はここまでとします。
尚、話の内容は測定機開発当時の記憶を基に書いています。
間違い等ございましたら、申し訳ございませんがご教示をお願い致します。