創作 「貨物列車」 林美沙希
紅に染まる空の下。私は何故か、貨物駅にいた。真っ黒なコンテナとそれを運ぶ大きな機械。思えば自分は誰なのか、どこに帰るべきなのかが分からなかった。
とにかくここは不気味な場所で、一刻も早く離れたかった。遠くに人影が見えたので、走った。冷たい向かい風が、体を包み込んだ。全身が真っ黒の男だった。思わず硬直してしまう。
「何をしているのですか?」そう聞くと、
「届く荷物を待っているんだ。君もそうじゃないのかい」
「何故ここにいるのか、分からないんです。でも違うと思います。」
他にも人影が見えたので、この男とはここでお別れすることにした。
2人目は、真っ黒の小さな女の子だった。
「何をしているの?」と聞くと、
「おしゃしんとおようふくと、くまちゃんをまってるの。」そう言った。
「ママとパパはどこにいるの?」
小さな女の子がこんなところで一人なのは、とても心配だ。すると女の子は突然泣き出してしまった。やはり迷子だったのだろうか。
「私と一緒にいる?」
女の子は走って逃げてしまった。捜しても見つからない。仕方なく歩いていると、向こうに二人組の影が見えた。
「すみません。小さな女の子が先程迷子になっていたのですが、お捜しですか?」
あの子の両親かもしれない。それなら伝えなければと思った。
「なんでここにいるの?」顔は見えないが、動揺した様子だ。
「××がどうしてここにいるんだ。」男は怒り気味だった。
××ってなんだ?よく聞き取れない。
「とにかく××。あなたはあっちの列車に乗りなさい。乗り遅れたら駄目だよ。」
私はその列車に、乗らないといけない。そうしなければならないと、不思議とそう思った。この二人の懐かしげな声をもっと長く聞いていたかった。列車の窓から、二人に手を振った。
やがて闇から現れて来た長い貨物列車が二人の姿を隠した。