真衣歌の心~蛸壺の中で

生きているとあれやこれやあるわねえ

ホワイトディー

2021-01-18 10:56:00 | ショートストーリ~
ホワイトディー

バレンタインデーが終わったのに
チョコレートを1個も貰えなかった男がおりました。
本命どころか義理チョコすらありませんでした。
「俺はどうして運がないんだろう」
と、友人達の自慢話を尻目に
男は悔し涙にかきくれていました。
「これじゃあ、ホワイトデーもあったもんじゃないや」
また、嫌な日がやってくる・・・
「お返しのしようもないや」
男は自分がもてない運命をのろいました。
「どうしてだろう?
他の男から比べても負けているとは思えないのに」
いくら考えても分かりませんでした。

デーとの申し込みはことごとく断られ
寂しい毎日を送っていた男でした。
アパートと会社を行き来するだけの毎日で
窓の外の道を行くアベックを尻目に
ひっそりと喫茶店の片隅で
コーヒーを飲むだけが男の寛ぎの時間でした。
2月は未だ寒くて
雪がチラホラと降っていました。

「ホワイトデーかあ・・」

ため息が出ては消え出ては消え
人並みにバレンタインデーのお返しが出来ないなら
自分で自分にプレゼントでもするしかないな。

そうだ、それに決めた!!

男はデパートに急ぎました。
何をあげたら俺は嬉しがるだろうか?
デパートで贈り物を選んでいて
なかなか決断がつきませんでした。

「お客さん、ええ加減に決めてくださいよ」

ごうを煮やした店員が男に食って掛りました。
何しろ半日以上たち続けて、贈り物を考え込んでいたものですから。
「君なら何を送られたら喜ぶんだね」
男は店員に逆に聞いてみました。
店員は女性でした。
「香水かしら、スカーフかしら、お食事券かしら」
店員も決断がつきません。
考慮の末、店員は言いました。
「真心が通じれば何でもいいわね」
「そうだね」
男も繰り返しました。
「問題は真心だ」

「僕には真心はあるけど、肝心の相手がいない」
男は不用心に涙を流し
店員に贈り物の送り先が自分だとバラシてしまいました。
店員は考え込んだ末
「じゃあ、贈り物は私が貰ってあげるから、
私の喜びそうな品物を選んでね」
男は大喜びで店員宛に、品物ではなく可愛いカードを作りました。
「お金で買えない貴方の心、身代わりを有り難う」
そんな文句を書き込みました。

それから幾日かが経ちました。
男がアパートに帰ってみると贈り物が届いていました。
中を開けてみると
大きいチョコレートと共に
あの店員さんのメッセージが添えられていました。

「バレンタインデー遅れてしまって御免なさいね」

それから二人がどうなったかって?
野暮なことは聞かないでね。