概要
料理は、かなり前に
人類が誕生させた
革新的な技術である。
また、
料理は人類の生命と
発展に大きく関わり、
その結果、
火と共存する現代人に
必要不可欠な存在とも
なった。
転換
長い人類の歴史の
中で、
植物食から動物食
への移行が最初の
「食の革命」
と言われている。
そもそも、
ホモ・サピエンス
=(ラテン語で賢い
人間)
の祖先である最初の
人類は
「猿人」
と呼ばれ、
森の果物や木の実が
主食であった。
ところが、
気候や大陸変動で
森が壊され、
余儀なく、草原で
暮らすことを強い
られた。
これは、必然的に
今までとは別の物を
食する環境へ移行
させられたことを
意味する。
そこで、
目をつけたのが
「動物の肉」
であった。
猿人は、次第に
共存している肉食獣
が、食べ残した死骸
を探して、石器で
その死骸の肉を剥が
して、食べるように
なる。
その影響から、
約180万年前に
脳が
「猿人」
の約2倍に大型化し、
原人である
「ホモ・エレクトス」
=(直立するヒト)
が誕生した。
専門家のA氏による
と、
肉は植物と違って
弾力性があるため、
何度も強く噛まなく
ても食べられる。
肉食への転換で
頭の側面にある頭部
を強く締め付ける
顎を動かす筋肉が
縮小し、脳が拡大
する機会に恵まれ
たのである。
また、
肉は植物より
栄養価が高い上、
消化しやすい。
それ故、
腸の長さが短く
なり、消化に
費やすパワー
を縮小して、
残したパワーを
脳に回す事となる。
これらの効果が
相乗して人類の
脳が大型化する。
大型化すれば、
自ずと知性が発達
するため、
人類は
「人間らしさ」
の追求に向けて
進化する大きな
一歩を踏み出す
事となる。
そんな中、
もう一つの
「食の革命」
が起こるので
ある。
それは、
「料理の発明」
であった。
歴史を振り返ると
79万年前の
イスラエルの遺跡
で、火を使用した
最古の調理の痕跡
が残っている。
では、
この時代の人類は
「肉を焼いて
食べる」
という発想を
どのようにして
思いついたので
あろうか?
もしかすると
山火事で焼け
死んだ動物の
肉を偶然に
食した事が
原因かも
しれない。
A氏は
「50万年前以降の
遺跡からは、
多くの
[炉の遺跡]
が発見されて
おり、
人類は、約10万
年前までには、
火を制御して料理
をする技術を確立
していた」
と考えている。
言うまでもなく、
肉は生で食する
よりも加熱して
食した方が
合理的である。
その理由だが、
1つ目は
栄養学と解剖学に
ヒントがある。
聞き慣れた語句
だが、説明すると、
タンパク質が消化
しやすいように
変性するので確実
に栄養が摂取出来る、
という事である。
理由の2つ目だが、
加熱した肉は、
生肉と比べて
短時間で消化吸収
できるので、体の
負担が少ないので
ある。
このため、
肉食獣のように
食後に長時間休む
事なく、
即座に行動でき、
移動や狩りに充て
る時間が増える
など、
生存上の利点が
ある。
更に、
加熱料理は、
食材を柔らかく
して、
食べ物の幅を広げ、
食中毒のリスク
を減らした。
とは言え、
動物と同様に
火を恐れた人類が
この時代にも存在
したのではない
だろうか?
勿論、
存在したであろう
が、結果として、
恐れずに加熱料理
をした人類が生存
競争に打ち勝ち、
子孫を残せたため、
加熱料理をする
DNAが広がり、
人類の進化に
繋がったと言える。
初期の頃、
人類は男性が狩り
をして、女性は
子育てをする
という役割分担が
あった、
と考えられている。
その理由だが、
女性が乳幼児を
抱えて、
狩りに出れば、
子ども共々危険に
さらされ、生存率
が下がるからで
ある。
加えて、
人類が料理を開発
した事で
女性は洞窟などで
火を守る役目を
担った可能性が
高い。
言うまでもなく、
炉を囲む暮しは、
家族の絆を強く
したに違いない。
土器
もしかすると
現在認識されて
いるよりも、
さらに早い
時代に料理は
誕生していた
のかもしれない。
このように仮設を
立てた人物がいる。
それは、
米ハーバード大の
人類学者で
彼は、
180万年前に始ま
ったとする
「料理仮説」
を提唱した。
その仮設だが、
脳が大型化する
「ホモ・エレクトス」
=(直立するヒト)
への進化は、
生肉では説明でき
ないほど劇的で、
料理した肉により
達成された
とする主張である。
ところが、
火を使った痕跡は、
100万年前の
南アフリカ
の洞窟遺跡が最古で
料理に火を使用したか
どうかは不明である。
それ以前の明確な火の
使用痕跡が不明である
ため、
彼の「料理仮説」は、
考古学的には疑問が
残るのである。
一方で、
火の使用ではなく、
温泉など自然の
摂理で
肉などを煮たのが
加熱料理の発端
ではないか?
という
斬新な新仮設を
米マサチューセッツ
工科大などが最近
提唱した。
その内容だが、
アフリカ東部の
大地溝帯にある
170万年前の人類
遺跡の周辺で、
当時の地層から
温泉に宿る特殊な
微生物の痕跡の
発見が根拠、
という事である。
ただ、煮炊きした
証拠は見つからず、
加熱料理の起源を
巡る議論は
今後も続きそうで
ある。
そんな中、
30万~20万年前に
誕生した
ホモ・サピエンス
=(ラテン語で賢い
人間)
は、火の使用を進化
させる技術を生み出
した。
では、その技術とは
何であろうか?
答えは、
土器の発明
である。
土器により
「焼く」
以外に
「煮炊き」
という本格的な
料理が出来る
ように進化した。
その土器だが、
最初に生産された
のは、
人類の誕生を促す
アフリカ
や
文明発祥地の
西アジア
ではなく、
意外にも
東アジア
であった。
土器の歴史だが、
中国南部の
2万年前の土器が
世界最古で、
青森県で出土した
1万6千年前の
縄文土器が
次いで古い。
そもそも、
土器がどのような
料理に使用された
のかは長い間、
謎であったが、
内側に付着した
「焦げ」
などに含まれる
有機物を分析する
手法が開発され、
科学的な解明が
進んでいる。
例として、
最初の縄文土器は
「ドングリの灰汁
を抜くための
煮炊き用に
使用した」
と
推定されていたが
英ヨーク大などの
分析の結果、
主として
「海の魚を煮る
ために使用した」
ことが判明した。
加えて、
朝鮮半島の最古
の土器も同様の
傾向がみられた。
そんな中、
奈良文化財研究所
のB氏は
「海産物を利用
する頻度が
増えたとき、
それを加工する
道具が必要と
なり、土器が
誕生したの
ではないか」
と推定した。
一方で、
パンを焼く文化が
ある西アジアでは、
煮炊きをする意識
が小さかった、
と考えられる。
それ故、
この地域では
土器は9000年前に
ようやく現れた
のである。
そんな土器だが、
加熱料理とのコラボ
で、
栄養価の高いもの、
体に悪影響を及ぼす
類いのもの
を生かすことが可能
である。
例えば、
家畜の乳は生で飲む
と、お腹を壊すが、
土器を使って加熱
または発酵させると、
チーズやバターを
生産できるので
問題なく食せる。
B氏は
「食せない栄養豊富
な資源が土器に
よって食せるよう
になったことは
大きな革新であ
った」
と指摘する。
加熱
食は、700万年前の
人類誕生にも深く
関わっている。
先ずは、
人類が直立二足歩行
を始めた理由だが、
男性が女性に
食べ物を運ぶ事が
目的であった
との仮説が有力視
されている。
と言うのも、
二足歩行すると
手で多くの食べ物
を持ち運べるため、
女性の選択や交渉
に有利だった
と考えられる。
次に
農耕が1万1千年
程前に始まり、
穀物が主食に
なると
加熱料理が
決定的に重要
となった。
その理由だが、
小麦や稲に
含まれる栄養素
である
デンプンは、
肉と違って、
生では栄養
として摂取
できない
のである。
この事は
料理をしなければ
生存できない時代
の始まりであった。
時が流れて
現代の食生活は
その延長線上に
あり、
我々はご飯やパン、
焼いた肉や魚など
加熱料理した食事
に大きく依存して
いる。
専門家のA氏は
「人類は火の力が
無ければ、
食事ができない
上、
木や石油、天然
ガスなどを燃や
してきた。
火は、
地球や生態系を
考えると、
厄介な存在だが、
宿命的に、火を
使用せざるを
得ない進化の
歴史が背景に
ある」
と話す。
言うまでもなく、
料理は人類だけに
許された技術であ
り、生活や栄養面
を豊かにした半面、
環境やエネルギー
問題など、現代が
直面する地球規模
の課題と本質的に
関わりがある。
良くも悪くも他の
動物とは、一線を
画した社会的動物
である人類の所作
と言っても過言
ではない。
<データと資料>