9月は色々とあってあまり本を読めなかったのですが、その中でこの2冊を続けて読みました。
どちらも小林武彦さんの本
『生命はなぜ死ぬのか』
『なぜ人だけが老いるのか』
小林さんは基礎生物学の生命科学、遺伝学、分子生物学の研究者で日本の第一人者の方のようです。
『生命はなぜ死ぬのか』では、地球で生命の初めのRNAの誕生から現在の生態系と人間に至るまでの進化の過程から始まっています。
その中で、生命とは何かということ、生きているものは単細胞の生物から私たち哺乳類まで、次世代を残し進化するためには世代交代のために死ぬということが必要であるということを説明しています。
帯に書いてある、「現代人を救う新たな生死観」というのは、このことを言っているのだと思います。
多くの生物は自分の子孫をいかに多く残せるかという点でより有利になるように進化してきています。
植物、動物ともそれぞれの進化の過程でより子孫を多く残したものが勝ち残ってきているわけで、そのためには画一的な遺伝子では全て絶滅ということになるため、多様性が可能な遺伝子を持つのが大切ということ。
そして、新しい多様性を持つ次世代のためには、世代交代のために死と生を繰り返す必要があるわけ。
長生きに関する遺伝子的な説明もなかなか面白いですが、2冊目の『なぜヒトだけが老いるのか』はさらにヒトの特殊性について書いていて、興味深かったです。
前から言われていたのですが、ヒトのように妊娠可能な年齢を超えて生きている哺乳類は特殊で、類人猿と言われるチンパンジーやゴリラでさえ死ぬまで繁殖可能です。
反対に言えば、繁殖できなくなったら死ぬ時期になるということ。
ヒトが今のように他の哺乳類にない進化をして世界全体を支配するほどに進化し増えたのは、それが原因の一つと言われています。
繁殖できなくなった女性は妊娠したり子育てしたりする若いヒトを助けることができ、多くの知恵を伝授することができるので、そういう女性がいる集団が多くの子供を作ることができたという。
それは知っていたのですが、今回一番驚いたのは、人間とシャチとゴンドウ鯨以外の動物には老いた個体というのは存在しないというのです。
これは野生の状態では老いたらすぐに死を意味するってこともあるし、繁殖できない年齢に達したら死んでしまうのが普通ということ。
ヒトも相当長い間平均寿命は短かっただろうけれど、その中でも長生きする人間がいるグループの方が長年の知恵や手助けができることによってより有利になったために、繁殖年齢をすぎても(老いても)生きている個体が増えたのではと。
閉経しても生きているってことは、新しい世代の役に立つためだったのか〜。
この本でも言っていますが、生物は繁殖により子孫をいかに残すかという方向で進化してきているわけで、現在の少子化というのは生物としては逆方向に行ってしまっているわけです。
今の時代は長生きしても子孫を残す方向には行ってないってことか。
まあ、ここまでの文明化の方向がこの結果であったら、ヒトの進む方向は生物としては終わっているとも言えるかな。
私はそれはそれでしょうがないかなとも思いますが。
ということで、ちょっと詳しい遺伝子的なお話もありますが、比較的わかりやすく書かれていて、さらに老いや死ということを感覚的では無くきちんと必然的にそうなっているという事を説明してくれています。
私は老いはヒトだけっていうのが一番興味深かったけれど、老化を防ぐ遺伝子の話などもあるので、それぞれの興味にしたがって面白く読める本だと思いました。