昨日書いた『世界最悪の旅』と同様、県立図書館の新刊コーナーにあった本
『東アジア古代の車社会史』 岡村秀典

学術書に分類される本だと思いますが、車社会史ってなんだろうと思って中身をパラパラっと見たら、古代の東アジアでの牛や馬の家畜化やどのように車と関連しているのかということが書かれているようだったので、なんとなく関心を引かれて借りました。
1万円以上するこういう本を手にできるのが図書館のいいところだななんて思いながら。
すごく詳しく書かれている本なので、流石に全部詳細に読むことはできませんでしたが、最初の説明と最後のまとめを中心に、写真や図版などを参考に読みました。
それでも、とても興味深かったです。
紀元前3千年紀末に東アジアに家畜の牛が西方からもたらされて定着し、その頃に牛車が出現したそうな。
中国の新石器時代の農耕社会ではタンパク源として豚の飼育が始まっていたけれど、牛は西方からの伝搬。
前2千年紀には馬と馬車がユーラシアから伝来して、戦いの道具として重要なものになった。馬車は兵士が乗って戦い、牛車は荷物の運搬などに使われた。
その後、前千年紀になると馬車による戦車から騎馬へと戦術が変化したそうな。
馬車や牛車は後方の運搬などを担うように。
その頃は馬や牛は戦争の武器として諸侯や有力なものの集団保有だったので、支配者が独占していた。
その後、秦が統一王朝を形成し落ち着いた世の中になると、官吏も馬車を使うようになり車が普及。
秦の始皇帝が幹線道路網を作って交通インフラが整備されたので馬車や牛車での運搬も楽になった。
武帝初期には民間での馬や牛の飼育が盛んになった。
220年に後漢が滅びて戦国時代になると、再び馬車から騎馬に変わったが、軍馬による馬の不足からか儀礼用や乗り物としては牛車が使われるようになった。
このような経緯を詳しく調査しまとめたのがこの本なのですが、牛・馬・羊・豚などの家畜化の時期やその使用方法など非常に詳しく示されています。
すごい!
そして、その調査の多くは中国の墳墓によるもの。
使っている馬車や牛車を馬や牛も含めて埋葬品として埋めてあるので、その調査によって詳細に知ることができる。
何千年も前からのこの中国の埋葬方法により多くの資料が残されているのだった。
多くの写真や図式による検証を見ていると、なんでこんなにそのままの状態で一緒に埋葬するんだろう?という疑問が湧いてきました。
支配者の権威を示すものだったのだと思うけれど、中国の死後に対する考え方もあるのかしら。
そこのところを知りたいと思いました。
この本を書いた岡村先生だけでなく、その前に多くの研究者が先行研究を行った結果をこの本にまとめたとのことです。
大変な量の研究!
日本の平安時代に貴族が牛車に乗ってるのが何でだろうと思ったことがあったのですが、中国で氏族が漢末期に馬車から牛車に乗るようになったが貴族の乗り物として9世紀の平安時代の日本に定着したそうな。
騎馬の風習は5世紀に伝わっており、奈良時代までは豪族は馬に乗っていたけれど、平安時代には唐風の文化として女性が牛車に乗るようになり、次第に男性貴族も乗るようになったらしいです。
精読するには膨大な本でしたが、その要点だけでも十分面白い内容でした。
人間にとって農耕を始めたのと同じくらい、野生動物の家畜化をしたのが大きな文化的文明的な変化だったのだなと改めて考えさせられる本でもありました。
どの動物を家畜化できたかということも、それぞれの地域特性があるし、その伝搬の仕方も面白いと思いました。
何よりも、車輪の発見とそれを馬や牛に付けるという発想とその接続させる道具の発明をしたことが人類にとってとても重要だったんだなということも。
また、この本は専門書でありながら、わかりやすい文章で綴られていて難解な感じがせずに読むことができるのは、著者である岡村先生の筆力によるものだと思いました。