楽園づくり ~わが家のチェンマイ移住日記~

日本とタイで別々に生活してきた私たち家族は、チェンマイに家を建てて一緒に暮らし始めました。日常の出来事を綴っていきます。

5日目の退院

2012-03-05 09:17:52 | タイの暮らし

(昨日からのつづき)

結局妻は2月29日の夕方から3月4日の夕方まで、チェンマイラム病院で治療を受けました。2~3日と言われていたにもかかわらず、入院は思ったよりも長引きました。でも入院のおかげで抗がん剤の副作用に起因する危機は去りました。日曜日の夜、妻の妹はバスでカンペンペットへ、妻はかろうじで夕方確保できた航空券でバンコクに一人で帰りました。

入院してからの3日間は、私も多くの時間を病室で妻と一緒に過ごすことになりました。それでも、2日目の3月1日は午後まで忙しいスケジュールをこなしました。まず、家を作ってくれている会社を訪ねて建築の一部修正の打ち合わせを綿密に行いました。そのあとサラピーの現場へ行きました。次に、娘が入ろうとしている高校の入試申し込みをするために公立学校を訪ねました。最後に、家が完成するまで住むことになるノンホイの借家へ立ち寄り、家主さんを呼んで鍵を受け取りました。

家のことはあとで詳しく書くことにしますが、今回の目的のひとつが建築現場訪問だっただけに、妻を連れて行けないことが残念でなりませんでした。

さて、その間妻は一人病室にいて発熱と闘っていました。前日に続き2日目も抗生物質の点滴と白血球を増やす薬の注射を受けました。解熱剤が効いている間は熱が下がるのですが、数時間するとまた39度くらいまで上がってしまうのです。前日のX線写真によると、肺はクリアーで、幸い肺炎の兆候は見られませんでした。でも激しい顎の痛みと高熱は、体内のどこかで感染症を起こしていることを思わせました。食欲もほとんどありません。

午後3時ごろ病院に戻ると、病室に初めて見る女性医師が来ていました。私は、バンコクに帰る予定だった3日目の夕方までに退院できないものかと尋ねてみました。でも女医さんは首を縦には振らず、「熱が下がらないうちに退院させるわけにはいかない」とおっしゃるのです。「明日の朝には下がっているかもしれないでしょ」と希望的観測で挑発しても、まったく動じることもなく、「仮に熱が下がっても、白血球数がある程度まで回復するのに4~5日はかかるでしょう」ときっぱりと言い切りました。

そうなれば、今持っているバンコク帰りの航空券は単なる紙屑になってしまうし、入院費用もどんどん高くなっていきそうで、私は思わずその不安を口にしてしまいました。「くだらないことを言ってしまった」と瞬間的に反省はしたのですが、言葉は正直です。女医さんは私を睨みつけながら眉をひそめています。ひょっとして私を軽蔑したのでしょうか。そして妻を見ると、今にも泣き出しそうな悲しい顔つきになっています。「私とお金と、どっちが大事なの?」妻の目は、そう私に問いかけているように見えました。

女医さんが出て行ったあと、「ごめん、ごめん。お金のことなんか口にして。」と謝ると、妻は堪えきれなくなって泣き崩れました。そばにいた娘は日本語が理解できないので、「どうしてママは泣いてるの?」と不思議そうに私に訊きました。

出て行った女医さんが再び現れ、2日目までの医療費がだいたい4万バーツであることを告げました。妻はその金額を聞いて、「スアンドーク病院に移る」と言いました。公立病院なら確かに安いからです。でも、まだ回復していない妻を、お金を節約するために転院させる気にはさすがになれませんでした。公立病院は個室ではなく大部屋です。どんな病原菌が跋扈しているか分かったものではありません。

夜、妹と娘をホテルに送り届けて、私たちは再び2人きりになりました。昼間、入院の出費を気にしてしまった自分が、妻に対してとても申し訳なく思えました。妻がポツリと言いました。

「ママが病気ばっかりだから、お父さん面白くないでしょ。ごめんね。」

「いや、ちがうよ。ママはつらいだろうけど、お父さんは、ずっと幸せだよ。」

3日目、3月2日の朝を迎えました。今度はほとんど一睡もできなかった私でしたが、何とかがんばらなくっちゃと老骨に鞭打ってレンタカーを運転し、妹と娘を迎えにホテルに向かいました。2泊目のホテルは、前日のナイトバザール近くではなく、サラピーの建築現場のすぐそばにあるリゾートホテルでした。妻の妹と娘の2人だけで泊まったのです。文字通り2人だけで、ほかのお客さんは一組もいませんでした。睡眠不足で時々目が霞むような感覚と闘いながら車を運転しなければならなかったので、「なんでまた病院から遠いホテルを予約してしまったんだろう」と、ボヤキのひとつも言いたくなる心境でした。

お昼前に娘をカンペンペットに帰るバスターミナルまで送り、その足で妻の妹と2人、初日の駐車違反の件で、ワロロット市場の傍にある交通警察署へ出頭しました。交通警察は違反した人がいっぱいで、かなり待たされるのではないかと按じていました。実際は拍子抜けでした。10代と思われる女の子が2人先客としていただけで、すぐに妻の免許証を返してもらうことができました。ちなみに駐車違反の罰金(反則金?)は400バーツでした。違反の現場で警官に500バーツほど渡して放免される人もいるのかもしれませんが、妻はそのようなことは考えもしなかったのです。

そして3日目の夕方、私は医師と看護婦さんと、妻の妹に妻を託して、一足先にバンコクに戻ることにしました。妻は一緒にいて欲しいと思っていたはずです。でも2晩ほとんど眠れなかった私は、自分が限界に達して倒れでもしたら、それこそ状況が最悪になることを恐れました。そして妻は、私がそう口にせずとも、「先に帰りなさい。私は大丈夫。あなたのほうが心配。」といたわりの言葉をかけて私を病室から送り出しました。マスクをはさんで口づけをする私たちのすぐ傍には、目のやり場に困った妹が立っていました。

またしても妻の病気という、本来は好まざる事態を通じて、お互いへの思いが強くなったように感じました。人間の愛情には、どうやら限界というものがないみたいですね。

結局妻は5日間入院しました。そして熱は下がり白血球は順調に回復し、3月4日の午後3時半に退院しました。私が日本の家に帰りついたのは同じ日の午後5時半。丁度同じ時刻の退院でした。

 ブログランキングに参加しています。大変お手数ですが、クリックしていただくと、ブログ更新の励みになりますので、よろしくお願いします。

にほんブログ村 海外生活ブログ タイ情報へ    タイ・ブログランキング   人気ブログランキングへ 


最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大変でしたね。 (teru)
2012-03-07 01:47:28
今回の訪タイは大変でしたね。
奥さん、ちょっと無理し過ぎたのでしょう。
猛暑が続いていますし、退院されたばかりですから無理をせず、家で安静にしていることです。
4月にはうさぎさん家族が笑顔で引っ越し出来ることを願っています。
因みに、引っ越し準備は予定通り進んでいますか。
返信する
teruさんへ (うさぎ)
2012-03-07 19:26:02
コメントありがとうございます。
妻は高熱があっても寝込んでしまうような性格ではなく、本来はものすごく元気な女性です。今も37度台の熱がまだあるようですが、安静にはできないでしょうね(笑)。
ただ、感心したのは、入院したチェンマイの病院の医師が毎日電話してきて様子を聞いていることです。なかなか良い病院を選んだような気もしています・・・・!?
私のタイ移住準備はすべて順調、バンコクからチェンマイへの引っ越しは、未知数ですね。
返信する
初めてまして (poron)
2012-03-11 10:42:28
管理人さんと同じ様に妻子はタイのパーイに在住、私は日本で単身赴任しています。
チェンマイ・ラム病院に関しては嫁が交通事故で重態の時に大変お世話になり何とか生還できました。他の公立病院だったらかなり危なかったと思います。現在も重い病に関しては同病院に行っています信頼して良い病院です。
返信する
poronさんへ (うさぎ)
2012-03-11 12:05:02
はじめまして。チェンマイラム病院についての情報ありがとうございます。
確かに公立病院は、たとえ優秀な医師がいるチュラロンコーン大学やチェンマイ大学の付属病院でも、あの混みようでは緊急対応について不安がありますね。急病には使えないと思ったほうがよさそうです。
ラム病院の医師は妻の乳がんのこれまでの経過について、たまたま持っていた資料を熱心に調べていました。もちろん「勉強させてくれ」と断ってから。いろいろな面で好感のもてる病院でした。
返信する
主治医 (poron)
2012-03-13 00:13:00
嫁の主治医(外科)はチェンマイ大学病院の医師で勤務終了後ラム病院に来ている様でした。
担当医はもう少し若い医師で常駐している様です。
医長クラスは海外留学していて主治医もアメリカや日本に留学経験があると言っていました。

すでにご存知だとは思いますが奥さんが配偶者として日本の健康保険に入っていれば手間と経費はかかりますが日本の保険点数に換算して払い戻しができます。
チェンマイ・ラム病院は外国人が多いのでこの辺の手続きには慣れています。ラム病院の日本人担当スタッフは日本の健康保険事情もしっていますから今後も含めて相談されてはいかがでしょうか。

余談ですがラム病院入院時、ベットのマットだけも貸してくれます、私もソファーは苦手なもので。
返信する
poronさんへ (うさぎ)
2012-03-13 00:44:17
有益な情報ありがとうございます。
妻の病気のフォローは基本的にはスアンドーク病院にお願いするつもりですが、現在バンコクでやっているように、2つの病院を使い分けることも選択肢にしようと思っています。どこでやっても基本的には同じ抗がん剤などは公立病院で、高度な検査や手術は、専門医がいる病院なら私立も選択肢と考えています。ただ、病気の種類によっては、チェンマイではスワンドーク病院以外は専門医が少ないかもしれません。ただし、私立を掛け持ちしている専門医が多いのかもしれません。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。