スティーヴィー・ワンダーを彷彿とさせる……などという形容はもう幾度となくされ食傷気味ですらあるが、そういうキャッチコピーをつけざるを得ない質の高さが、今作にもギッシリと詰め込まれている。ソフトかつメロウな耳あたりで、揺りかごで揺られるかのような居心地のよさといったらないのだから。
オープナーとなった「バディ」(b.u.d.d.y.)は、デ・ラ・ソウル「Buddy」で使用したネタ、ターナ・ガードナー「Heartbeat」をサンプリングしたベタだがフットワークの軽妙な良質ヒップホップ・ソウル。盟友であるカルヴァン・ハギンズ(Carvin"Ransum"Haggins)との作だ。カルヴァンは「ララバイ」(Lullaby)のプロデュースも手掛けているが、こちらはブルー・マジック「Stop To Start」を引用した優しく抱きしめられるような温もりで満たされる美メロ・チューン。
ミュージックとカルヴァンにアイヴァン・バリアス(Ivan"Orthodox"Barias)が加わったトリオ制作曲としては、とろけるような美メロに包まれる「ティーチミー」(Teachme)に、ボーナス・トラックとして収録された「リワインド」(Rewind)と「ライドスルー」(Ridethrough)がある。どれも耳あたりが素晴らしいミッドだが、特に「ライドスルー」はボーナス・トラックにしておくのがもったいないほどの出来で、スピナーズ(The Spinners)の名曲「イッツ・ア・シェイム」(It’s a shame)風(クレジットにないので断言できないが)のフレーズをアクセントにした好作だ。考えてみれば、「イッツ・ア・シェイム」は作者の1人がスティーヴィー・ワンダーな訳で、“スティーヴィー”ライクなミュージック・サウンドにはもってこいのトラックといえる。
これらの盟友との制作による楽曲は、もはやその安定感はいわずもがなで、今作のトピックスといえば、新たに起用したクリエイターとの邂逅である。
オープナーに続く「ミス・フィラデルフィア」(Ms.Philadelphia)は、ニーヨ(Ne-yo)による作。同郷のよしみでフィラデルフィアから来た女性を口説くというニーヨらしい(笑)ナンパ曲だが、そのスムースなグルーヴの気持ちよさといったら。
「ベターマン」(Betterman)はラファエル・サディーク(Raphael Saadiq)との共作で、軽快さと多彩さが織り込まれた佳作。ブルージーでノスタルジックな表情を時折挟みながら開放的なリズムを刻んでいたかと思うと、終盤でしっとりと湿度を携えた泣きのメロディへと流れ込む展開は、ラファエルの面目躍如といったところ。
そして、メイン・トピックスといえば、ウォーリン・キャンベル(Warryn"Baby Dubb"Campbell)の参加だろう。ファンクネスをたたえたアップ・ビート・トラック「メイクユーハッピー」(Makeyouhappy)、揺動的なホーンとタイトなビートでクールに演出するヒップホップ・ソウル「リディキュラス」(Ridiculous)のアップ系2曲と、スウィート&メロウな「テイクユーゼア」(Takeyouther)と「グレイテストラヴ」(Greatestlove)のスロー系2曲を手掛けている。特に「グレイテストラヴ」は、ミュージックがプリンス「Adore」にインスパイアされて書いたとのことで、確かにイントロのホーンといい、バック・ヴォーカルやメロディ・ラインといい、ちょっぴり粘着性を持った艶やかな楽曲に仕上がっている。アルバム本編のクローザーとしては、余韻を残すのに絶妙な作品であるといえよう。
意外だったのが、アンダードッグス(The Underdogs)との「トゥデイ」(Today)。ゆったりとした浮遊感のあるマイナー調のメロディに溶け込むミュージックのヴォーカルが出色。スペーシーなアクセントを施したこの曲は、満天の星空の下で聴くのにピッタリのムーディな雰囲気だ。
さらに、物静かなピアノとストリングスがしっとりとした憂いの表情を醸し出す「ザクエスチョンズ」(Thequestions)はハロルド・リリー(Harold Lilly)、ファンタジックでドリーミーなサウンドに品格のあるビート・トラック絡む「ミリオネア」(Millionaire)はハロルドとネフュー(Theron"NEFF-U"Feemster)、マーク・ゴードン(Marc Gordon)との作となっている。
これらを聴いていえることは、新たな制作陣が加わっても、ナイーヴでソフィスティケイトな音楽を変わらずに真摯に追い求めているということだ。サウンドの上質感はいうまでもなく、楽曲を通して提示される“愛”がどの曲からも感じられるのが素晴らしい。気品さえ薫るグルーヴ、ナイス・アンド・メロウなメロディ、そして沁み込むヴォーカル……。じっくりと優雅な時間を味わえる珠玉の一品だ。
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