*** june typhoon tokyo ***

Ledisi@Billboard Live TOKYO

■ レデシー・ワールド、爆裂

Ledisi2010

 烈手示威(レデシィ)、獅子奮迅。

 レデシーの東京公演最終日@ビルボードライブ東京を観賞。2ndステージ。
 もう何というか、圧巻、そして脱帽である。思わず“烈手示威”などヤンキー風な表現もしてみたくなるほどのド迫力だ。チャカ・カーンが認めた……うんぬんの枕詞なんて、もう要らないんじゃないか。そう思わせてくれる豪儀さだ。こういう圧倒的な魂のヴォーカルを体感してしまうと、身体的資質の差というものをまざまざと実感してしまう。これぞシンガーといった威風堂々とした歌唱が、計り知れない熱量で空間を照らしていく。もしシンガーを自称するのならば、レデシーのライヴは体験していないとダメだ。気持ちはこう伝えあげるんだという気概が十二分にあるステージに圧倒されるべきなのだ。

 メンバーはレデシーを含んで10人編成。左からキーボード(アンソニー・ウォーカー)、トランペット(クラレンス・ウォード3世)、サックス(セルジョン・アラン)、ギター(スティーヴン・ウォーカー)、ドラム(ジェイソン・ホルト)、ベース(ケン・フレンド)、バックヴォーカル(ニコル・コールドウェル、サラ・ウィリアムズ)、キーボード(ロレンゾ・ジョンソン)。キーボードはほぼ横向きで、キーボード同士が向かい合わせとなっている形。
 呼び込まれたレデシーは、トレードマークともいえるトサカのような髪型、黒のタイトなワンピース・ミニ、網タイツといったいでたち。目をキョロキョロさせながら止まることを知らずにリズムに乗って手を上下左右、あらゆる方向へ動かして歌い、常に動いていないとパワーが半減するとでもいいたげな感じさえするほど、エネルギッシュ。

 今回は“My Band!”といってレデシーが一旦舞台から下がってバンド・メンバーだけでの演奏があったのだが、タイプの違うバック・ヴォーカルをそれぞれフィーチャーしながら、決して粗雑ではなくタイトで派手やかで熱量と躍動感のある演奏を披露してくれた。レデシーがいなくても充分なのだが、ここに圧倒的な歌唱力を誇る彼女が加わるのだからたまらない。しかも、お茶目に身震いしたりして観客を煽ったりする愛嬌ある部分もあり、歌唱力、演奏力、一体感、エンタテインメント性……と、ライヴとはこういうものなんだということを再認識させてくれるステージだ。

 構成は最新作『ターン・ミー・ルース』を中心に、陽気で大らかな楽曲が展開されていく。アルバム・タイトル曲「ターン・ミー・ルース」からはライトも赤紫系統へと変わり、レデシーも肩を左右交互に突き出しながら歩くなど、妖艶なムードも醸し出すが、すぐに情感がはちきれそうな歌唱となるので、その艶やかな空間に浸っている時間はあまりない。(笑) 続く「シンク・オブ・ユー」ではマウス・スクラッチで“レ、レ、レ、レデシー”とターンテーブルをこする仕草をしながらスタート。中盤「トゥデイ」以降はほぼオールスタンディング状態で、そのノリに気分を良くしたのか、後半になればなるほどスキャットなどのアドリブも増えて、レデシー・ワールドを全開させていた。
 後半では、メイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリーの「ハッピー・フィーリンズ」を披露。これはメイズのトリビュート・アルバム『AN ALL-STAR TRIBUTE TO MAZE FEATURING FRANKIE BEBERLY』に収録されているが、そのメロウでスムースなアレンジとはもちろん違って、パンチの効いたアレンジだ。“トゥルールールー……”“カモン!”というも、会場全体がこのスキャットで覆われるということはなかったが、非常に心地よいグルーヴが生まれていた。このあたりは、日本人的なシャイさに決して高いとはいえないメイズの日本での認知度も影響しているのかもしれない。

 本編ラストこそ(比較的)しっくり締めたが、アンコールでの「ゼム・チェンジズ」ではアッパー度満開。レデシーの歌唱に合わせて絶妙に強弱を叩き分けるドラム、艶やかでゴージャスな色付けをするホーンズ、レデシーのせいで目立たないが(笑)圧倒的な迫力と抜群の調律を保つバック・コーラス、レデシーのパワーを最大限に引き出すために巧みなグルーヴを牽引するキーボード……などなど、バンドのスペシャリティが凝縮したパフォーマンスには、身体を動かさずにいられない、圧巻、そして脱帽の一言だ。威圧的、ぶっきらぼう、指揮者風、無邪気な少女、お転婆娘と目まぐるしく表情を変えるお茶目な彼女も、最後は四方に深々と礼、手を振り、投げキスをし、シェイク&ハグ、そしていつものように“アリギャドゴジャマシターッ!”と言い放ってステージ・アウト。“また会いましょう”という言葉に、歓喜の念が満ちてきたのだった。

Ledisi 陽明なバンド・サウンドは出生地であるニューオリンズ、爽快さは育ちの西海岸、独創的なスキャットはナイジェリア人の両親という出自が色濃く表われているのだろう。それをゴスペルとジャズの要素を強調したソウル・ミュージックとして昇華させたのが、レデシー・ワールドだ。そこで豪快であっけらかんとした性格(そのあたりが、アレサ・フランクリンやチャカ・カーンといった枕詞が使われるゆえんだろうか)があいまって、密度の濃いライヴ・ステージが創り上げられていく。身をギュッと縮ませてから身体をブルンブルン震わせ、自身の情感と会場の熱気のシンクロを体感すると、彼女の体内ヴォルテージは針を振り切れんばかりとなり、それがヴォーカルとなって観客へと返される。ノッソノッソと歩いたかと思えば、小刻みなステップを踏みながら“スシ! スシ!”と叫んで、豪快にガハハハと笑う。全身が感情の固まりというか、“ALL BDDY IS FUNKY”といった感じだ。

 それにしても、レデシーのヴォーカル・スキルといったらない。うなるような低音から、まるでスティーヴィー・ワンダーのように顔を左右に振りながら、マイクに近づいたり離れたりしつつ歌ったり、鳥のさえずりというより集団での地鳴きといったようなペチャクチャいう高速スキャットなど、表現方法のアイディアには枯渇するところがない。ヴォーカリスト、シンガーというようり“表現者”といった方がしっくりとくる。
 昨年の第60回『紅白歌合戦』のテーマが“歌の力 ∞(無限大)”だったが、レデシーのようなとてつもない迫力の歌唱をまざまざと見せ付けられると、これこそが歌の力だと、シンガーを自称するものは少なくともレデシーのステージを観ておかないと、と言いたくなってしまう。

 新年早々から2010年のベスト・ライヴ候補のステージを体験してしまった。前回のコットンクラブ公演の時よりはバンド(特にコーラス)自体の状態も良く、音楽で勝負出来ることに特化したステージの精度は年々高まってくるような気がする。あとは、日本において彼女の知名度が高まって、オーディエンスの熱気がさらに彼女を奮わせるような環境が出来たら……今回も二階サイドの指定席は空席が目立っていた。それが解消されたら、これ以上の興奮の坩堝はないのでは、というステージが期待出来るかも。そうなったら、予約(チケット)が取れないということにも繋がるので、一長一短ではあるのだけれど。(笑)

 自身が期待していた「セイ・ノー」や「ジョイ」は演奏されなかったが、そんな小さなことはどうでもよくなってしまった。そんな満足度の高いライヴだった。


◇◇◇

<SET LIST>

00 INTRO
01 Get To Know You
02 Everything Changes
03 Turn Me Loose
04 Think of You
05 Higher Than This
06 Today~Get Outta My Kitchen
07 Love Never Changes
08 Alone
09 Happy Feelin's (Original by MAZE feat. Frankie Beverly)
10 BAND SOLO
11 Goin' Thru Changes
12 Someday(?)
13 Alright
≪ENCORE≫
14 Them Changes


<MEMBER>

Ledisi(Vocals)

Nicole Caldwell(Background Vocals)
Sara Williams(Background Vocals)
Lorenzo Johnson(Keyboards)
Anthony Walker(Keyboards)
Steven Walker(Guitar)
Clarence Ward III(Trumpet)
Theljon Allen(Saxophone)
Ken Friend(Bass)
Jason Holt(Drums)


◇◇◇

 あらためて、新作『ターン・ミー・ルース』を聴き、その参加プロデューサーの豪華さに感嘆。ジャム&ルイス、ラファエル・サディーク……2008年のグラミーノミニーズがダイナミックなレコーディングで帰ってきた! という煽り文句も頷ける出来である。

『TURN ME LOOSE』
Ledisi_turnmeloose

 このアルバムには“CHANGE”というタイトルの曲が(ボーナス・トラックを含めると)4曲ある。「EVERYTHING CHANGES」「LOVE NEVER CHANGES」「GOIN' THRU CHANGES」「THEM CHANGES」がそれだ。バラク・オバマの“CHANGE”という時流を採り入れた……という側面はゼロではないだろう。だが、そのほとんどは、彼女自身が変わるんだということと、すべてにおいては変えられることと変えられないこと(変わらないこと)の二つ、その中でどう行動していくか、という強い信念に因るものだろう。そこには彼女の強く揺るぎないメッセージが込められていて、歌唱からもそれはヒシヒシと伝わってくるのだ。

『LOST & FOUND』
Ledisi_lostfound

 こちらは、クリスマス・ミニ・アルバム『イッツ・クリスマス』を挟んだ一つ前の4thアルバム『ロスト&ファウンド』。


 レデシーって、ライヴ・スタイルもそうだけれど、そのアティテュードとか、リーラ・ジェイムスと似ているような気がした。信念的な妥協を許さないところ、分厚い声量、決してスマートではないルックス(笑)……いやぁ、素晴らしいなぁ。(爆)
 次回も、必ず観賞します。

 

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