安定と充溢のエンタテインメント。
アシッド・ジャズ/ジャズ・ファンク・シーンの中核として長年に渡って存在感を発揮してきたブルーイを中心とした音楽集団、インコグニート……という肩書きはもう要らないのかもしれない。グルーヴの下では肌の色も信教の違いも関係ないと言い伝え続けてきた彼らが、オーディエンスと一体化する……というよりも、音楽で“共鳴する”空間を世界で構築し続けてきたことは、多くのファンやリスナーが解かっていること。ファンキーなグルーヴを軸に鳴らしてはいるが、あくまでもグッド・ミュージックで楽しむことを最大限のテーマに、ジャンルなど堅いことを抜きにしたジョイフルなステージでオーディエンスの心を躍動させてくれる。それゆえ、毎回彼らのライヴに足を運んでしまうのだ。
そのインコグニートのこれまでの観賞記録は次のとおり(初期の方はただのダダ漏れ感想文でしかありませんが)。
・2005/12/21 INCOGNITO@BLUENOTE
・2007/03/25 INCOGNITO@BLUENOTE
・2008/03/03 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2008/12/25 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2010/01/03 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2010/11/21 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2011/04/01 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2011/08/31 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2012/08/09 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2013/12/27 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2014/08/16 INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO
・2015/07/09 Bluey presents CITRUS SUN@BLUENOTE TOKYO
手狭なステージに12名。左奥にはアンディ・ロス、シド・ゴウルド、アリステア・ホワイトのホーン・セクション、中央奥にはパーカッションのジョアン・カエタノとドラムスのフランチェスコ・メンドリアが並び、その前にギターのフランシスコ・サレス。やや右手奥にベースのフランシス・ヒルトンが位置し、右端にはマット・クーパーが手ぐすね引いて構える。そして、前方にヴォーカル隊なのだが、今回はブルーイもその列に加わり、左からブルーイ、ヴァネッサ・ヘインズ、トニー・モムレル、ケイティ・レオーネの隊列でグッド・ヴァイブスを創り上げていく。
彼らが魅力的なのは、演奏技術に妥協はないなかでも常に“エンジョイ”が溢れていること。いい音楽を奏でて、伝えて、感動を分かち合いたいという思いに満ちていることだろう。サーヴィス精神旺盛というビジネスライクなものではなく、“音楽を介する全ての人たちがブラザー”といったような繋がりを心根に抱いていて、共感こそが最高のグルーヴとでもいうような信念が漲っている。
スティーヴィー・ワンダーの「アズ」からギアを上げるトニー・モムレルは、その歌唱はもちろんのこと、オーディエンスの熱量を高める術を知っているし、代表曲の一つ「スティル・ア・フレンド・オブ・マイン」でのトニー・モムレルとヴァネッサ・ヘインズのヴォーカル二人が顔を寄せながら歌う場面では、ヴァネッサがで“見ちゃダメ”とでも言わんばかりに赤いセンスで顔を隠すような仕草をして微笑ましい演出をしたり、ヴォーカル隊がステージアウトしてからのバンダ・ブラック・リオのカヴァー「エスプレッソ・マドゥレイラ」は、インストゥルメンタルとは思えないほどのヴァイブスが高波のように押し寄せるなど、どの部分を切り取っても熱度が高いものばかり。
ホーン隊の演奏の合間に見せるノリノリのダンスにパーカッションのジョアン・カエタノが加わったり、マット・クーパーが変態的な(褒め言葉)キーボード・ソロを繰り広げている時にヴァネッサ・ヘインズもマットのもう一つのキーボードで加担したり、ブルーイもマラカスを乱れ振りながら客席に入り込むなど、“魅せる”ヴァリエーションも豊富に。その一方で、ジョアン・カエタノとフランチェスコ・メンドリアによるパーカッションとドラムスの約5分間にわたるコンビネーション・ソロでは激しく点滅する照明の演出も興奮に拍車をかけて、一瞬にして打楽器の醍醐味に触れさせたかと思うと、「エヴリデイ」ではヴァネッサが圧巻のロングトーンでオーディエンスもバンド・メンバーたちも驚かせるなど、彼らの持つスキルの凄さを存分に体感してもらうパートもふんだんに。
アンコールではブルーイの楽しい“パフォーマンス指導”を経てからの「モーニング・サン」。オーディエンスのほとんどが手振りのパフォーマンスをする絵は“エンジョイな空間”そのもの。ヴァネッサが持つセンスは朝日のように赤く、ブリッジでの“モーニング・サン”の歌詞を“ライジング・サン”と替えて歌っていたのは、震災からの復興にいち早く思いを馳せたブルーイの思いを代弁しているかのようでも。
セット・リストに斬新な変化はないが、鉄壁の演奏と今そこでしか生まれ得ないライヴ感を創出することで、新鮮と興奮を保ち続けてきた彼ら。メンバーも流動的に移り変わるなかで、35年も第一線を張っていられるのは、表現し得る限りのエンタテインメント性と本番までに培うストイックさゆえ。ステージングと人間性の両面でプロフェッショナルな集団には、まだ当分“老い”などは現れることはなさそうだ。
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<SET LIST>
01 TALKIN' LOUD
02 PIECES OF A DREAM
03 GOODBYE TO YESTERDAY
04 I LOVE WHAT YOU DO FOR ME
05 I SEE THE SUN
06 AS(Original by Stevie Wonder)
07 STILL A FRIEND OF MINE
08 GOOD LOVE
09 EXPRESSO MADUREIRA(Original by Banda Black Rio)
10 PERCUSSION & DRUM SOLO
11 STEP ASIDE
12 EVERYDAY
13 HATS (MAKE ME WANNA HOLLER)
≪ENCORE≫
14 MORNING SUN
<MEMBER>
Jean-Paul“Bluey”Maunick(g)
Tony Momrelle(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Katie Leone(vo)
Matt Cooper(key)
Francis Hylton(b)
Francesco Mendolia(ds)
Joao Caetano(per)
Sid Gauld(tp)
Alistair White(tb)
Andy Ross(sax)
Francisco Sales(g)
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□ INCOGNITO - Hats(Make Me Wanna Holler)
□ INCOGNITO - Morning Sun