久しぶりに映画を観てきました。
よっぽどでない限り、映画など観に行かないんですが、何だか気になったので。
その映画は、フカキョンのドロンジョで話題の『ヤッターマン』……ではなくて、
『SR サイタマノラッパー』
という、青春ヒップホップ・ムーヴィーでした。
“2009 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭”のオフシアターコンペティション部門でグランプリを受賞した作品で、当初は3/14~3/27までの限定上映だったのですが、好評により4/3まで上映期間延長。それならいかねば、いかNEVERということで、東京公開ラス前に滑り込んで観に行ってきた訳です。
監督: 入江悠
キャスト: 駒木根隆介/みひろ/水澤紳吾/奥野瑛太/杉山彦々/益成竜也/TEC/上鈴木伯周/ほか
単館ロードショウで、場所は池袋シネマ・ロサ。引っ越してからなかなか通り過ぎても降りることがなかった池袋に、遊びに行くために久々に降り立ちました。
21時からのレイトショウでしたが、この日は上映後にサイタマノラッパー“SHO-GUNG”の舞台挨拶&東京解散ライヴが行なわれることもあってか、公開最終日近くにもかかわらず、結構客席が埋まってました。
2009年公開劇場
3月14日(土)~4月03日(金) @池袋シネマ・ロサ
4月04日(土)~4月10日(金) @名古屋シネマスコーレ
4月12日(日)~5月16日(土) @深谷シネマ(埼玉県)
4月25日(土)~4月27日(月) @札幌ATTIC
舞台初日の3月14日や3月20日には、人気セクシー・アイドル(というかAV女優)のみひろも来るということで(?)かなり客が入ったらしいです(初日は満員札止め!)。
カワイイっすねぇ。こりゃ、男が好きになる顔だ。(笑)
◇◇◇
レコード屋もない田舎、サイタマ県フクヤ市(深谷市をモチーフにしている)に住むヒップホップ・グループ“SHO-GUNG”のメンバーたちの夢と現実の狭間に揺れる青春……というのがテーマ。ニートのラッパーIKKUを中心に物語は進む。初ライヴが決まった矢先、AV女優として活躍していたIKKUの高校の同級生の千夏が帰ってくるあたりから、メンバー間に亀裂が起こってしまう。挫折と葛藤、そして厳しい現実にぶつかりつつも、夢を諦めずに突き進む若者の姿をシニカルに、また、熱く描いている。
◇◇◇
全篇ほぼ1シーン1カットというスタイルで撮影されているのですが、 それが効果的なところ(IKKUが田舎道?を1人で歩いているところとか)と1カットのせいでダイレクトに伝わりづらかったところ(市の会議室でのメンバーと聴衆とのやり取りの場面など)があって、そのスタイルに拘った結果(拘った理由があったのだろうけど)ちょっと損をしちゃってるな、という感じも見受けられなくもなかったのはありました。
また、状況設定があまり知らされないまま話が展開していってしまうので、それぞれの立ち位置というかが、見えづらくなっているかもしれません。特に、みひろ演じる千夏と同級生であるIKKUの関係が微妙なので、なぜ帰って来ただけでメンバーとのすれ違いが起こるに至ったのかという経緯が不明瞭な感じもしました。
キーマンは、主役を除けば、千夏であることは確かです。この映画の肝は、一般人的な感覚での視線からラッパーたちへ痛烈なツッコミを入れる千夏と、それでもヒップホップは素晴らしいと冷たい視線を抗えるかどうか葛藤するIKKUら、という点に尽きると思います。つまり、認知され始めてきているとはいえ、ヒップホップ、あるいはラッパーというのは、おおよそ“痛い”ものと捉えられている現実があって、実際、“リアル、リアル”とか叫びながらちっともリアリティを感じない、謳ってることは金、車、女といった欲望まみれだったり、一方で無責任すぎるとも言える根拠のないポジティヴィティの押し売りだったりする訳です。売れたヤツが出てくると、ポップに魂売っただとかいって妬んだり、“口撃”したりして、結局自分の勢力が届く範囲のみで威勢を張るしかない、お山の大将的な価値観しか持ちえず、自分たちで自分たちの首を絞めているのが現状なのです。それは、外見ももちろん影響されますが、それは人間だから仕方ないところで、シーンでリアルを追求してやってきたと言っても、世間に受け入れられるかどうかの境界線は、その努力などとは関係なく、世間の視線で決められてしまうものなのです。
そんな状況であっても、自身を信じて夢へと進み、壁をぶちやぶっていけるのか、というのがこの映画の肝だと思うので、そういう意味では、千夏役のみひろがもう少し登場して、ヒップホップをやっている若者に毒舌ツッコミをもっと多く繰り広げていけば、より面白かったのかもしれません。そういった見せ方やディテールについてはやや不足なところもあるかなとは感じますが、それでも映画の全体としての評価としては悪くないと思います。むしろ、日本の多くのまだ知られていないラッパーたちの実際をかなり近いところまで描いていけてるんじゃないかと。青春映画はこうでなくっちゃ、という要素がしっかりと芯にあるのが解かるから、いいのではないかと。
要するに「お前ら宇宙人かよ」と罵声を浴びせる千夏、これがラッパーたちに対して痛いんだよと冷ややかに見る世間体で、「サイタマから世界に魂発信してるんだよ」と熱いラッパーの気持ちを説くIKKU、これが痛い視線を浴びながらも自分を信じて夢に向かって死ぬ気で生きて行けるかという表われとなる訳です。好きな女にそっぽ向かれても、自分の信念を貫き通せるか……そのあたりに、本当のリアルかそうじゃないかがあるのではないかと。だいたい、女性は変わり気です。その態度に気持ち揺らされることなく精魂込められるかどうか。モテようとするとダメで、媚びようとせず信念を貫く姿が、カッコいいと思わせるんじゃないかと。
最初に「お前は高校の時から何も変わってねぇダメ男」だと東京から帰って来た千夏に言われたIKKUが、時を経てふたたび東京へ行く千夏に対してポータブルCDとヘッドフォン一式を「道中で俺らの曲を聴けよ」と言って無理矢理手渡したところ、それを突き返さず、とりあえずではあるが、千夏が受け取る場面なんかは、千夏がIKKUの成長や真剣さを僅かながらでも実感した瞬間なのじゃないでしょうか。そして、街の居酒屋に作業員の一団として飲みに来たTOMと居酒屋でバイトを始めたばかりのIKKUが再会するクライマックスへと繋がる訳です。
エンディングの仕方を見ると、何だか続編も作られそうな意味深な終わり方だったので、是非“その後”も期待したいところですが、それから先はあなたがたがそれぞれにストーリーを描いていく番というメッセージにも取れなくもないので、続編がなければないでいいのかもしれません。
上映後は、入江監督とSHO-GUNGのメンバーでIKKU役の駒木根、TOM役の水澤、MIGHTY役の奥野の3人と病弱な伝説のトラックメイカーT.K.D.役の上鈴木伯周、ヒップホップ・アドバイザーで上鈴木伯周の双子の兄の上鈴木タカヒロ、作曲担当の岩崎太整、スペシャルゲストでMIGHTYのブロッコリー畑で働く中国人・李役の杉山らのスタッフ&キャストが登場。トークやミニ・ライヴを披露してくれました。他のSHO-GUNGのメンバー2人は所用で来られず、まさに劇中での市役所の会議室でのドタキャンと同様だなぁ、と笑いも起こりました。
メンバー3人のなかでは、MIGHTY役の奥野がかなり安定したラップを披露していて、昔ヒップホップしていたんだろ?と思わせるほど。IKKU役の駒木根はハンチングと首にヘッドフォンといういでたちに風格さえ出てきてました。TOM役の水澤は相当に謙虚な姿勢なのでラッパーとは違うかなと思いがちなのですが、「いやぁ、こういうヤツも絶対いるって」という感じがあって、3人のバランスが何ともちょうどよかったり。ラストの上鈴木兄弟らが加わっての一曲「俺らSHO-GUNG」では、駒木根が上鈴木弟から「ヒップホップやめないで~」と突っ込まれたりと、アットホームな雰囲気もあったり。
東京の上映が翌日でラスト、上映での挨拶は本日がラストということで、SHO-GUNGは解散を宣言。そして、歌い終わったあと、3人がステージ中央に身を寄せ、ステージ床にマイクやネックレス、サングラスなどを置き、「ラッパーから普通の(俳優)人に戻ります」という、どこかで見たような光景を演出して退場していきました。(笑)
YOU THE ROCK★にラッパーは詞を書かなきゃダメだと言われたり、YOU THE ROCK★の伝手で電話でZEEBRAと話したり、ライムスターの宇多丸から絶賛されたりしたそうです。1800円出してよかった映画を久々に観た感じがしました。
勢いで劇中にも登場する楽曲が収録されたサントラも作ったそうなんですが、勢いで購入して帰ってきました。(受付で上鈴木兄弟から直接買いました…笑) でも、予想以上にいい出来ですよ、これ。のびるグンググーン! ですよ。(爆)
出演者たちでごった返す受付を後にし、階段を上るとTOM役の水澤から深々とお辞儀をされ「ありがとうございました。こんなに遅い時間までわざわざすみません」と物凄く謙虚な礼を受けてしまいました。仙台育英の野球部に所属していたそうなんですが、人柄なんでしょうかね。同じ野球部でも自分とは大違いですね。あ、でも、その時の自分の格好って、ワイシャツは着ていたとはいえ、ジャージの上にジャンパーを羽織り、首にはヘッドフォンをかけ、目深くニット帽を被っていたので、その姿格好がそうさせたのかも??(イヤイヤ、そんなことはない、はず…苦笑)
4月12日から5月16日まで、“地元”深谷で上映するのかー。もう一回観に行ってみようかな。(笑)